アフターアワーズのBa/Voによる、自分の拠り所に想いを寄せたソロ作品
大阪のスリーピースバンド、アフターアワーズのショーウエムラ(Vo / Ba)によるソロ・アルバムが2021年1月28日にリリースされた。弾き語りはアフターアワーズを結成する2016年以前から活動してきた彼の原点であり、『ヒキガタル』(2015年)以来の単独名義作品となる。2020年当初は観客を入れたライブ録音ソロ・アルバムの制作を計画していたが、コロナウイルスの影響で断念。満足にライブをすることも、一時はバンドでスタジオに入ることも出来なかったこの状況は、関西のライブハウスシーンを中心に頭角を示しつつあったアフターアワーズとしても、やきもきした悔しさがあっただろう。
そんな彼の歌はいつも、とっ散らかった感情や沸々した熱量をそのままメロディに流し込んで底の方に沈殿しているようなのだ。大木温之(Theピーズ)だったり、石塚淳(台風クラブ)にも通じる、あのシャイな負けず嫌いで、めんどくさがり、感傷的……みたいな自分の弱さを重々承知しながら、でもそのままさらけ出すのは野暮だとカラッと吐き捨てるように歌うところが粋である。ここではいつまで経っても終わらない自粛生活の中で、ぼんやりすることに身体が馴染んでしまっている自分を察知し、沈んだエモーションを攪拌することを目的としたような、「こんな状況だから作ってみた」というギターと歌のみの宅録作品に仕上がっている。
彼が最近感銘受けたのであろう映像作品に出てくる固有名詞をドカーン!と立て板に水を流すようにまくしたてていく“速度制限”や、映画みたいな現実をどうにか飲み込もうとしていく“ノンフィクション”など直接的に時流が反映されている曲もある。しかしあくまで大阪の街で生きる彼の生活がにじみ出た全8曲だ。またアフターアワーズではベースに徹している彼のギターテクニックも重要な聴きどころ。“速度制限”などに登場するボトルネックを交えたギターリフや、“トワイライト”や“明日の月”でのスリーフィンガーはお手の物で、“コーヒー&ウイスキー”なんかは有山じゅんじばりのラグタイムなアレンジで軽快に弾きこなすゴキゲンっぷりである。
しかし全体で通底しているのは「ぼーっとしていても時間は過ぎ、世界は着々と変わってしまう」という、じわじわとした焦燥だ。2020年はアフターアワーズが初めてライブを行った関大前<TH HALL>の閉店や、何度か出演歴のある名古屋・新栄<きてみてや>の火事焼失と、彼が大切にしていた場所や人を失うこととなった。彼の中を通り過ぎ去っていく事柄やそこで受けた心象を忘れないように刻み込む、本作にはそんな意図も感じられるのだ。そうなるとタイトルにも冠した“大阪の犬”は、ワイルドな任侠心を称したものでも、大阪維新の会を揶揄したものでもなく、ジャケットにも描かれている彼が足しげく通っていた上新庄の<Bar犬>を掲げることで、自分の拠り所に想いを寄せた作品とも言えるだろう。
今じゃ見る機会が減ったざら半紙の歌詞カードには1曲1曲、丁寧にショーの筆によるコラムが綴られている。曲を自分で解説するなんて普段は野暮だと彼は言うだろう。それでも空白の2020年をサブスクリプションも流通もしない自主制作の作品として、そっと残しておこうとする計らいもまたニヒルな彼らしいのだ(それをこうやって私が読み解いていることもまた野暮なことに違いない)。パーソナルな気持ちに折り合いをつけて、内省がちなメンタルをリセットして、アフターアワーズが次に進むためのソロ作品。まだまだ後には引けない。だって「あの頃はよかったなんて 俺は絶対に歌わないね」(“16”/アフターアワーズ)と彼は何度もライブハウスで歌っているのだから。
大阪の犬
アーティスト名:ショーウエムラ
フォーマット:CD(ライブ会場、通販限定)
発売:2021年1月28日
価格:¥1,300(税込)
収録曲
1.速度制限
2.ノンフィクション
3.トワイライト
4.大阪の犬
5.君のこと
6.コーヒー&ウイスキー
7.明日の月
8.じゃあ
購入リンク:https://afterhours3.thebase.in/items/39118173
Twitter:https://twitter.com/sho__show
You May Also Like
WRITER
- 峯 大貴
-
1991年生まれ。大阪北摂出身、東京高円寺→世田谷線に引っ越しました。
OTHER POSTS
ANTENNAに在籍しつつミュージックマガジン、Mikikiなどにも寄稿。
過去執筆履歴はnoteにまとめております。
min.kochi@gmail.com
RECENT POST
EDITOR
- 乾 和代
-
奈良県出身。京都在住。この街で流れる音楽のことなどを書き留めたい。
OTHER POSTS