Ribet townsは12人組プロジェクトチーム!? 現代社会を楽しく生き抜く処世術を歌う、新作に至った意識の変化
つくづくRibet townsはタフなバンドだと思う。2016年に京都で活動開始した当初から、12人組バンドという驚きと興味から度々ライブを観てきたが、ライブメンバーである10人(作詞作曲、バンド運営に携わるメンバーもいる)がステージに立った時の壮観たるや。机にズラッと並ぶトイ楽器をパワフルに鳴らし、Asayo Miyachi(Vo)がJ-POP育ちのキャッチーな歌唱で観客の心をつかみにかかっていく猛々しさたるや。あまりにおあつらえ向きな言葉すぎて恥ずかしくなるが、これほど「祝祭感」や「多幸感」という形容が似合うバンドもいない。
ただでさえフルメンバーが集まりにくいのに、コロナ禍でライブができなくなった期間もリリースが途絶えることはなかった。むしろ全員リモートの録音環境を整えたり、曲作りの進め方を見直したり、実にしぶとくしたたかにPDCAサイクルを回し続けている。そもそもこの人数で今まで休止はもちろんメンバーの脱退や交代もないことは奇特だ。
この度、約5年半ぶりとなる2ndアルバム『ism』が完成。この顔ぶれで活動を続けていくことや、「私たちの音楽って何?」という問いと向き合い続けた思考の轍がうかがえる。端的にいえばこのバンドのサウンドアイコンであるトイ楽器を改めて最大の武器として据えた、迷いなきRibet townsの本寸法と言える全8曲が詰まっている。
今回のインタビューはドラム担当であり、作曲や録音エンジニアも兼ねる中心人物のGen Asaiと、ボーカルのAsayo Miyachi、そして“リベットタウンズのテーマ”で初めて作曲を担当したHiroto Tsuji(マンドリン / E.Gt)の3人に参加してもらった。ANTENNAは2017年作『フラッシュフィクション』のレビューから取り上げてきたのに、意外にも単独インタビューは初。たっぷりとお届けしよう。
※撮影は2023年1月6日に開催された『Ribet towns NEW ALBUM Release Party at livehouse nano』(共演:ナードマグネット)で行なった。
全員のコミットを求めて臨んだ5年半ぶりのアルバム
『ショーケース』以来、約5年半ぶりのアルバムとなりましたが、いつ頃から着手したんですか?
メンバー全員で毎年振り返り会議をやっているんですけど、2022年末に「来年はアルバムを作ろう」と目標を立てて動き始めました。そこからまず夏にかけて必死に曲作りをしまして。
アルバムとしてどういう作品にするか考え出したのは2023年8月くらいから。2024年の夏~秋のイベントやフェスのシーズンに呼んでもらうために、その年の2月くらいまでにリリースした方がいいだろう。であれば逆算してこの夏から具体的に動き出さないとってことで。
いろんな音楽フェスに出たいって前からずっと言っていたんですけど、あまり成果が出ていなくて。そこに向けた動き方をしていこうとなったのも、背景としてありましたね。
アルバムとしては久々ですけど、yuleとコラボした“I like your music”(2019年)や、“メリーゴーランド”、“CRUSH”、“みまちがい”の3ヶ月連続配信リリース(2019年)、コロナ禍に入ってもリモートで制作された『HOME e.p.』(2020年)など、常にずっとリリースはしていましたよね。
特にコロナ禍に入ってからは、ライブがなくなったから、みんなのモチベーション的にも対外的にも活動を止めずに、毎年何かしらリリースすることを優先していました。フィジカルに取り組むとどうしても集中する期間が必要なので。
その間のシングル曲には、今までとは違うアプローチをしようという試行錯誤も感じられました。これまでは人数が多いから音も詰まっていて、カラフルに盛り上がる曲が多かったけど、2020年に2週連続でリリースした“クジラ”、“クラゲ”は音数も少なくて、引き算して作ったような印象があります。
その通りで、今まで積み上げてきたRibet townsのフォーマットからは外れてみよう、意識的に印象を変えてみようとは思っていました。
それはなぜ?
それまではライブで演奏することが前提にあった曲作りだったから、その制約がなくなって「じゃあどうしよう?」となったんです。そのあたりからゲンさん以外のメンバーも作曲に関わり始めた。
今まで曲作りはゲンさんと、ライブメンバーではない作詞作曲担当のアイコさん(Aiko Horie)が中心に行なっていましたよね。
そこにゆうきさん(Yuki Ishida / A.Gt)としんじさん(Shinji Suzuki / Ba)も加えて、作曲チームとして最初のテーマ部分を持ちよる体制になりました。“クラゲ”もゆうきさんが元を作ってきた曲。これによって曲の幅も広がったし作り方も変わっていきましたね。
『ism』に入っている曲の中でも“リベットタウンズのテーマ”を持ってきたのは辻くんだし、“odoraba dance”の原型を作ったのはいのこ(Nana Inoko / メロディカ&アンデス&コーラス)。作曲チームを中心に全員が曲作りにコミットするようになった。
それもコロナ禍に作った“new × ○”(2021年)で、全員の宅録環境を整えて、それぞれのパートのフレーズを考えて録音までしてもらってデータを僕に投げてもらって、そこから全体のアレンジとして取りまとめていくというやり方がうまくいきまして。ここからみんなも曲をつくるようになったり、作りたい曲のアイデアとか、リズムパターンだけとかも共有していくようになったんですよね。
“new × ○”だったら「ギターはJamiroquaiの“Virtual Insanity”っぽいのがいいのでは?」とか、みんなでアイデアとかリファレンスを持ち寄ってNotion(プロジェクト管理ツール)にペタペタ貼ってた。
その結果、辻さんが作った“リベットタウンズのテーマ”なんて曲も生まれたということですね。
みんながそれぞれ新しいことにチャレンジし始めている中で自分も何か始めたいなと思って、提案した曲です。まさかこんなタイトルになるとは思っていなかったんですけど。
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ちょうど新しいアプローチの曲が揃ってきた中で、当初のアイリッシュな要素のある新しい曲も少しは欲しいよねってムードが来た時に、辻くんが持ってきた。
自分としては、好きなブルーグラスやカントリーの要素を持ちこみたいなと思ってつくりました。だからレコーディングではいつも弾いているマンドリンに加えて、初めてバンジョーの爪弾きを練習して入れています。自分が共有したデモから、コードやベースライン、ドラムフレーズとか、みんなの意見が反映されて完成していく過程を初めて味わったので、今までゲンちゃんはこんな感覚やったのかと学びになりました。
結果的にアイリッシュやカントリーを取り入れながら、J-POPとしてアウトプットする、Ribet townsの原点回帰みたいな曲になりましたね。
The Poguesが大好きなんですけど、2ndアルバム『Rum Sodomy & the Lash』(1985年)までのアイリッシュ・トラッドとパンクを掛け合わせたサウンドから、3枚目の『If I Should Fall from Grace with God(堕ちた天使)』(1988年)でさらにワールドワイドに音楽性を広げていくんですよ。この変化をRibet townsでも出せたらいいなとこっそり思っていました。
音楽性の幅としては最後の“カーテンコール”なんて大きく3部構成に分かれた壮大な楽曲で。もはやプログレと言ってもいいところまで来ている。
この曲と“ism”は私の歌としても史上最高難易度で、限界突破しています。もうどんな音楽性の曲もこのバンドでできるようになってきた。
「北欧」「渋谷系」から解き放たれ、「トイポップ」だけが残った
今の「どんな音楽性でもできるようになった」って発言に、これまでとは違うフェーズに進んだんだなと思いますね。そもそもRibet townsってバンドのフォーマットやコンセプトがすごくかっちりしているじゃないですか。「12人組」「北欧からの影響」「渋谷系への憧れ」みたいな。活動歴が長くなる中で、自身を象徴するそれらのキーワードに縛られてしまう時がくるんじゃないかという心配があったんです。
その心配は仰る通り。結成当初はメンバーが多いから全員で目線を合わせるために意識的に、いろんなキャッチコピーや縛りを設けていたんです。でももうこのメンバーでやっていることがRibet townsということでええやんと思えてきた。そこにコロナ禍が来てライブもなくなったから、いろんなルールを外してみたら、みんなから新しいアイデアが出てきて。すごくいい流れになってきたんです。
「北欧」や「渋谷系」という言葉はバンドのイメージをわかりやすく伝えるためにすごく役立ってきたんですけど、数年前からはもう使わなくなっていて。ルールを外してみようとなった時に「何があったらRibet townsと呼べるものなのか?」を話し合ったんですけど、結局自分たちが使っているトイ楽器の音色が入っていれば大丈夫だねって結論になりました。だから今は「なんでもない日常を”ハレの日”にするトイポップバンド」と名乗っています。
逆に「トイポップ」は意識的に名乗るようになったんですね。
使っている楽器を表しているだけなので。
音楽性やジャンルを表す言葉を外して、事実としての「トイポップ」が残った。
ちなみに「ハレの日」はどこから来たんですか?
これまで峯くんに書いてもらった記事とかも読み返して、他の人は私たちをどう言い表してくれているのか確認したら、祝祭感とか多幸感みたいなハッピーなものと、日常に即した歌詞について触れていることが多くて。だからそれらのニュアンスを含むワードとして「ハレとケ」の概念から「日常を”ハレの日”にする」がいいんじゃないかなと。北欧から日本っぽいコピーになりました(笑)
リベタンは現代社会を楽しく生き抜く「処世術」を歌う
作曲部分はメンバーのコミットが増えたということですが、歌詞の作り方にも変化はありましたか?
今まではアイコが一人で書いてきましたけど、段々とアサヨや他のメンバーから出た意見も踏まえて数往復しながら仕上げることが増えましたね。
“odoraba dance”は「ああ酔った 酔っ払った~」のパートの数行をアイコが書いて、それ以外の部分は私が書いた初めての曲です。ダンスチューンにしたいという作曲チームの意向と、私たちのナードな部分との折り合いをつけるイメージで作りました。日々の社会生活での嫌なことにちょっと中指を立てながら、あくどくならない程度に風刺を効かせています。
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以前の歌詞は綿密にシチュエーションが設定された恋愛模様や、ちょっと捻くれた思考を持った若者の生活について描かれることが多かったですが、本作の歌詞は聴いている人をエンパワーするものが多いように感じました。
歌詞のメッセージ性も、それに伴って私の歌のパワーもついてきた気がします。なんでなんやろうな……大人になって説得力が出てきたんでしょうか。“1990”なんかみんなアラサーになったからこそ、さまになっている曲ですし。
今回のタイトル曲“ism”なんて「ああ世界は変わらない」としつつ、それでも自分の道を進むというとても力強い曲です。
ついに世界を歌い出しましたよ。大きく出たけど、ここには私たちなりの処世術が込められているんだと思う。のらりくらり生きているように見えて、大変な思いもしながら日々働いているし、好きなこともちゃんとやるで!って。そんな生き方を肯定している曲。
世界を歌っていても大きな物語ではなく、この世の中を必死に楽しく生きようとしている小市民の歌なんですよね。「処世術」というのは言い得て妙です。
ここも背負ってたいろんなキャッチコピーや縛りを意識しなくてよくなったことで、自然と素の自分たちに直結したメッセージが出てくるようになったんだと思います。
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モダンな聴き心地を目指した現時点での集大成『ism』
本作を聴いていると音がクリアで立体的なことに驚きました。Ribet townsはミックス・マスタリングもゲンさんが担当していますが、これだけの音数を心地よく聴かせるための創意工夫は大変なものではないかとお察しします。
そこを言っていただけるのはありがたい。トイ楽器は出せる音の帯域がみんな近しくて、ボーカルともバッティングするので、そのバランスが一番難しいんです。逆に低音がないから、音源で聴くと音圧を出しにくくて、軽い印象になりがち。今まではそれもRibet townsのサウンドアイコンだと捉えていたんですけど、本作では改めて最近のJ-POPや海外のチャートに上がっている曲と並べても遜色のない、モダンな聴き心地にすることがテーマにありました。
最近のチャートに上がっている音楽の中ではどんなものを参考にしましたか?
ミックスする時はKing Gnu、君島大空さんのような、音数が多くて変化が激しくてもスッと入ってくる、整理されたバンドサウンドをイメージしました。海外だとTaylor SwiftやJacob Collierとか。モダンという言葉が適切かわかりませんが、今の人に届いている音楽がどうなっているのかを確認しながらの作業でしたね。
具体的にはどういうポイントを意識、反映しましたか?
いっぱい音が鳴っている中で存在感や音量が同じだったら、人によってそのパートのメロディの認識が異なってしまうし、複雑な印象を与えてしまう。だからちゃんと誰もが主のメロディはこれだと、同じものを認識できる状態を目指しました。そこまで整理できていれば、キャッチーに感じてもらえることもわかったので、今回はミックス部分も手ごたえがあります。
トイ楽器がたくさん入っているという色が強くて扱いが大変なサウンドを、今の時代にどうアジャストして聴かせていくかも、常について回るバンドの命題ですよね。
「アジャストしていく」という言葉は確かにしっくりきますね。でも聴き心地に特色を付けるような処理はしないようにしていて、あくまでRibet townsにおけるミックス・マスタリング作業はそれぞれの楽器のおいしいところがはっきり伝わるようにバランスをとっていくことが重要だと思います。
あと、これまで発表してきたシングルからは“new × ○”、“Night and Day”、“1990”、そして“I like your music”の再録が収録されています。一方で入っていない曲もありますが、どのように選曲しましたか?
現時点におけるRibet townsのド直球を示したかったので、今もライブでよく演奏して、全員の音がしっかり入っている曲という基準ですね。だから音数が少なくてあまりライブでやっていない“クジラ”や“クラゲ”、エレクトロの打ち込みを使っている“moonstep”などは少しカラーが違うかなと。
『ショーケース』以降リリースしてきた全曲を詰め込むのもありだったかもしれませんが、30分くらいに収めたかった。このくらいの長さで全部聴き通してもらえたら、わかりやすくRibet townsを伝えられるんじゃないかと思ったんです。
離脱率0%!居心地のいいバンド環境で目指す、それぞれの自己実現
どの部分を取っても、この5年半の成長が表れた作品だと思います。
そうですね。これを前作と変わらず同じメンバーで完成できたことがうれしい。
でもできることは確実に増えています。ここまで話してきた曲作りもそうだし、“new × ○”から“moonstep”までのシングル4曲はMVとアートワークも私がアニメーションで作っていて。いろんなことが自分たちで完結できるようになって、動きやすくなりました。
バンドというか、もはやプロジェクトチームですね。
クリエイター集団になりたいね。いずれは他のバンドからの委託も受けます!みたいな(笑)
この人数で結成時からメンバーが変わっていないのはすごいことですよね。それぞれ仕事もあるし、生活環境も変わっていくでしょうし。
実際、今京都在住は4人だけです。ノズさん(Takahiro Nozue / E.Gt)は浜松だし。
マドカ(Madoka Kikuchi / メロディカ)は世界旅行中で今モロッコらしい。
30代に差し掛かって、周りにはバンドを解散したり辞める人も多い中で、なぜメンバーが誰も辞めずに続いているんだと思います?
みんなのやりたいことが一緒でもないし、モチベーションも違う。なんでですかね?
人数多いからカバーできているのかもしれない。私のモチベーションが落ちている時期でも、誰かがやる気あったらライブを決めたり、曲作りも進んでいくし。そこにひっぱられて私もまた復活してくる。
3ピースだと、全員の方向性ややる気が常に一致していないと空中分解してしまうけど、この人数だとそもそも一致するはずがない。
続けるとか、誰かが辞めるとかの話もしたことないんです。それぞれの環境は常に変わっていくし、バンドがどうなるかなんて、いくら想定しても仕方ないと組んだ当初に思った気がする。
いい意味で責任や負荷が分散されていて、自分の状況に関わらずバンドが稼働し続けている運営体制が、いいのかもしれないですね。
でもやっぱりそれぞれの自己実現の場所になっているからずっとやれている気がします。最初に話した年末の振り返り会議のアジェンダに「Ribet townsを通しての自己実現がそれぞれ違うのでは?」というのがあって。みんなで付箋に書き出したんですけど、僕であればステージに立って楽器を弾けることと、音楽に携わり続けるための場所。ゆうきさんとかは「この12人組バンドでどこまでいけるかの社会実験として興味がある」と書いてました。
ライブができること、楽器が弾けることに喜びを感じている人は多いよね。
やりたいことができるし、逆にできないことや苦手なところは他の誰かが補ってくれる。なんやかんやで居心地がいいから続いてきたのかも。
ism
アーティスト:Ribet towns
仕様:CD / デジタル
発売:2024年2月7日
価格:¥2,750(税込)
配信リンク:https://big-up.style/BIoyQ4X8mX
収録曲
1. odoraba dance
2. ism
3. リベットタウンズのテーマ
4. new × ○
5. Night & Day
6. I like your music (alt)
7. 1990
8. カーテンコール
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WRITER
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1991年生まれ。大阪北摂出身、東京高円寺→世田谷線に引っ越しました。
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ANTENNAに在籍しつつミュージックマガジン、Mikikiなどにも寄稿。
過去執筆履歴はnoteにまとめております。
min.kochi@gmail.com