折坂悠太が4月1日(水)に新曲“トーチ”を発表した。ソロとしてはドラマ主題歌となった“朝顔”以来の新曲。松井文、夜久一との<のろしレコード>の活動も経て迎えた、2020年初リリースとなる。シンガー・ソングライターbutajiとの共作曲であり、2019年10~11月に開催された折坂の弾き語りライブツアーにbutajiがゲスト出演した際に披露されて以降、TBSラジオ「アフター6ジャンクション」での演奏や、それぞれのライブでもセットリストに度々入っており、待望の音源化と言えるだろう(本作でもbutajiはコーラスとして参加しており、また2曲目には二人だけで演奏された弾き語りverが収録されている)。また山内弘太(Gt)、宮田あずみ(コントラバス)、yatchi(P)、senoo ricky(Dr)といった京都拠点の音楽家たちによる「折坂悠太(重奏)」編成による初録音である点も注目だ。
折坂が作詞、butajiが作曲を担当しており、台風19号など昨年の自然災害が題材となっている。トーチ(Torch)=「松明(たいまつ)、灯り、懐中電灯、発炎筒」。転じて失恋や片思いを歌った楽曲を総称した「Torch song」としても用いられる。そして今頃、日本全国を駆け巡っているはずだった「聖火」という意味も持つ。
冒頭「街はもう変わり果てて 光も暮らしもない夜に」と歌い始める。「壊されたドア 流れ込む空気に 肺が満たされてく」とも綴られる。甚大な被害をもたらして過ぎ去っていった台風による混沌へのレクイエム(鎮魂歌)だったはずが、偶発的に、運命的に。今まさにウィルスによって暗闇覆う世の中に寄り添う、祈りの歌になってしまった。
3月27日(金)、自身の単独公演中止に伴って無観客で執り行われた『折坂悠太 単独配信 2020 (((どうぞ)))』。筆者は一人、ノートPCで鑑賞していたが4曲目に演奏された本曲で、久しぶりに泣けたのだ。開店前から長蛇の列をなすドラッグストア、棚ががらんどうのスーパーマーケット、不信が募る記者会見と危機感を煽るワイドショー、自粛で窮地に立たされるライブハウス・ミュージシャン、緊迫するSNS、笑えるほどに悲しくなるドリフターズ、そしてなくなっていく仕事……。日常が揺らいで非常事態を日々として受け入れ、出来ることを気丈とこなす中で、知らず知らずのうちに蓄積されていた不安がこの曲で決壊した。(重奏)の演奏に感動したせいにして、やっと泣けたんだ。
この曲は“満月の夕”のような役割を背負ってしまうかもしれない。1995年の阪神淡路大震災の窮状を現地で経験した中川敬(ソウル・フラワー・ユニオン)と、東京から祈りを捧げていた山口洋(HEATWAVE)による共作曲で、東日本大震災の際も度々取り上げられた。これを「2020年代の~」みたいな位置づけなんて今は出来ない。嗚呼、またそんな曲が生まれてしまったんだ。でもこの曲は確かに、私の中で拠り所、一筋の灯(=Torch)となって力をみなぎらせている。
「お前だけだ あの夜に あんなに笑っていた奴は / 私だけだ この街で こんな思いをしてる奴は」
※4月3日(金)追記
また4月2日(木)SoundCloudで突如“Wadachi2020”を公開。『たむけ』(2016年)に収録されていた“轍”の改題であるが、不穏に繰り返されるガットギターのフレーズに、キーを落とし、いつになくく暗くふさぎ込んだ声色で朗々と折坂が歌い上げており、以前の仕上がりとはまるで異するものだ。アートワークは名盤『平成』(2018年)を思わせるイラストだが、折坂には布マスク二枚が貼りついている。そして「命あるものの その命一つ / 守る気ないなら お上など辞めろ」と安倍政権の新型コロナウィルスへの対応に向けられた明確に怒りがこもった歌詞。「もう我慢できない もう我慢しない」という反抗を掲げたプロテスト・フォークだ。
折坂悠太
平成元年、鳥取県生まれのシンガーソングライター。
幼少期をロシアやイランで過ごし、帰国後は千葉県に移る。
2013年よりギター弾き語りでライヴ活動を開始。
2018年10月にリリースした2ndアルバム『平成』がCDショップ大賞を受賞するなど各所で高い評価を得る。
2019年3月29日に、シングル『抱擁』を発表。
2019年7月クールのフジテレビ系月曜9時枠ドラマ「監察医 朝顔」主題歌としてシングル『朝顔』を発表。
2019年10月より弾き語りツーマンツアー“折坂悠太のツーと言えばカー2019”を開催。
2020年3月ワンマンライブ中止に伴い、配信ライブ“折坂悠太 単独配信 2020 (((どうぞ)))”を開催。
2020年4月1日に新曲“トーチ”をリリースする。
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WRITER
- 峯 大貴
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1991年生まれ。大阪北摂出身、東京高円寺→世田谷線に引っ越しました。
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ANTENNAに在籍しつつミュージックマガジン、Mikikiなどにも寄稿。
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- 堤 大樹
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26歳で自我が芽生え、とうとう10歳に。「関西にこんなメディアがあればいいのに」でANTENNAをスタート。2021年からはPORTLA/OUT OF SIGHT!!!の編集長を務める。最近ようやく自分が持てる荷物の量を自覚した。自身のバンドAmia CalvaではGt/Voを担当。
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