REVIEW
ぼちぼちいこか
上田正樹と有山淳司
MUSIC 2020.09.21 Written By 峯 大貴

京都拠点のローカルな視点からインディペンデントな活動を行っているバンドマンやシンガーたちにスポットを当ててきたANTENNAの音楽記事。REVIEWでも主に関西のライブハウス・シーンで活動しているアーティストの新作を論じてきました。

 

そんな「今」を捉えてきたレビュー記事に新たな軸が加わります。題して『Greatest Albums in 関西』。ANTENNAが拠点を構える京都、ひいては関西から生まれた数ある名盤の中でも現在の音楽シーンにも影響を与え続けているアルバム作品を、2020年代に突入した現在の視点から取り上げていきます。

 

関西の音楽には全国的なムーヴメントに発展した音楽も数多あります。1960年代末の関西フォークから、70年代のソウル・ブルース、関西NO WAVE、ゼロ世代……『Greatest Albums in 関西』はこの地域の音楽文化史を作品を通して徐々に編んでいこうとする壮大なプロジェクトです。どうぞ長い目でお楽しみください。

 

企画概要:https://note.com/kyoto_antenna/n/nebb1fa9e3cde

70年代の大阪だから生まれた奇跡の名盤

70年代の浪花ブルース、ソウルの代表バンド、上田正樹とサウス・トゥ・サウスのライブスタイルは、第一部が本作で聴ける上田と有山淳司の2人によるアコースティック・ステージ、第二部が同年リリースの『この熱い魂を伝えたいんや』(1975年)に収められたようなOtis Redding(オーティス・レディング)やJames Brown(ジェームス・ブラウン)直系のパワフルなR&Bステージで構成されていた。

まったくここまで大阪で生きる人のアイデンティティをギトギトにして真空パックにした音楽作品は、この後にも先にもないだろう。幕開けに入る、客に理詰めする商売人のジリジリとした啖呵。曲中にありありと浮かんでくる、キタからミナミへと移ろう街並み。梅田から歩き出しては、北新地に目移りしつつ桜ノ宮、松屋町、船場。道頓堀をそぞろ歩いて、戎橋でおネェちゃんを引っかけながら、法善寺横丁へ飲みに消えていく。このお調子者だがどこかやさぐれた男のセンチメンタルったら。そしてなにより象徴的なジャケットで上田・有山が立つ今亡き<大阪名物くいだおれ>……。

 

しかし本作は決して<大阪ご当地ソング>という表現にはなっていない。今から見ればステレオタイプな大阪の景色だが、二人はただユーモアを交えながら素朴に自分たちを歌っただけなのだ。上田は“大阪へ出てきてから”で生粋の大阪人ではない立場から居場所のなさと希望のなさを歌っているし、三上寛が詞を提供した“俺の借金全部でなんぼや”みたいにツレは誰もが金にルーズだったんだろうし、有山の代表曲“梅田からナンバまで”もデートのウキウキを描いたナンバーだが、そもそも梅田~難波なんて約4kmもあるのだ。実情は地下鉄御堂筋線に乗れないほどに金がなく、歩くしかなかったという自虐も有山にはあったと思う。

だからここで描かれた大阪は<ご当地ソング>というより、当時アンダーグラウンドにいた自分の姿を率直に歌にした現在で言えばレペゼン精神。ステレオタイプというのも確かで、井筒和幸監督が『ガキ帝国』『岸和田少年愚連隊』で描いたような当時の不良たちによる青春グラフィティ、という見方がしっくりくる。

 

とはいえ何より本作を名盤足らしめているのは上田の目指すリズム&ブルースと、有山が愛好するBlind Blake(ブラインド・ブレイク)らラグタイムのギター・プレイが見事に融合を果たしたサウンド面の功績だ。そこに普段の会話と地続きな大阪弁イントネーションによる節回しを乗せる手法には、外来の音楽を丁寧に咀嚼し取り入れるというよりも、「お前らから俺んとこ来い」とねじ伏せるような、がめついパワーが感じられる。

 

上田と有山は<くいだおれ>が閉店した2008年にリメイク作を発表。現在の上田のバンドR&B Bandにも有山は在籍し、ゴールデン・コンビとして定期的に共演をしている。単に大阪弁をリズム&ブルースに乗せたというだけではなく、1970年代の時代背景とその当時の大阪という場所が奇跡的に生み出した作品……であるにも関わらず、まるでよしもと新喜劇と同じように、現在まで音楽における<大阪らしさ>の象徴として鎮座し続けてしまっている部分もある(それは“悲しい色やね”に代表されるその後の上田正樹の功績ともいえるが)。ウルフルズだって、関ジャニ∞だって、言ってしまえば彼ら直系の子どもたち。関西名盤の金字塔でありながら、実は呪縛のような罪深い作品でもあるのだ。

 

ぼちぼちいこか

 

アーティスト:上田正樹と有山淳司

発売:1972年6月1日

 

収録曲

1. 大阪へ出て来てから

2. 可愛い女と呼ばれたい

3. あこがれの北新地

4. Come on おばはん

5. みんなの願いはただひとつ

6. 雨の降る夜に

7. 梅田からナンバまで

8. とったらあかん

9. 俺の借金全部でなんぼや

10. 俺の家には朝がない

11. 買い物にでも行きまへんか

12. なつかしの道頓堀

WRITER

RECENT POST

INTERVIEW
音楽のアーキビスト、金野篤が体現する「売りたいモノは自分で作る」という生き方
REVIEW
kiss the gambler “台風のあとで” – 折り合いのつかない喪失感を歌う素直さに胸が打…
INTERVIEW
大石晴子が探る、これからの生きていく道とは ー『脈光』インタビュー&全曲解説
REVIEW
伏見◎Project “Dawn-town” – 京都伏見を冠するニュー・コンボによるムーディーな楽…
REVIEW
みらん『Ducky』 – 22歳の今しか表現できないことを歌っている、理想的なデビュー作
REVIEW
徳永憲『今バリアしてたもん』何重にもねじれたユーモアが満載、歌とアコギが主体の12作目
REVIEW
国でも建てるつもりなのか – グッナイ小形
REVIEW
NEKOSOGI – NEKOSOGI
REVIEW
たまき – 門脇沢庵
REVIEW
夢の日々 – ミチノヒ
COLUMN
お歳暮企画 | ANTENNAとつくる2021年の5曲 Part.2
COLUMN
お歳暮企画 | ANTENNAとつくる2021年の5曲 Part.1
INTERVIEW
年鑑 石指拓朗 2021-武蔵野散歩編
REVIEW
FALL ASLEEP#2 全曲レビュー
INTERVIEW
ぶっちゃけ上京ってどう?-ベランダ×ギリシャラブ×Crispy Camera Club 京都発・東京…
INTERVIEW
いちやなぎとひらまつ-平成6年生まれ、ウマが合う歌い手の2人
COLUMN
「シーン」から「モード」に移ろいゆく – 京都音楽私的大全
REPORT
峯大貴が見たボロフェスタ2021 Day3 – 2021.10.31
REPORT
峯大貴が見たボロフェスタ2021 Day2 – 2021.10.30
COLUMN
“ニュー・ニート”ゆうやけしはすが目論む、ローカルから興すロック・ルネッサンス
INTERVIEW
グローバルな視野を持って、ローカルから発信するーリクオが『リクオ&ピアノ2』で打ち出す連帯の姿勢
REVIEW
ズカイ – たくさん願い溢れて
INTERVIEW
みらんと話した日ー兵庫在住シンガー・ソングライターによる互いの気持ちを尊重する歌を探る
INTERVIEW
つくるひとが二人、はみ出す創作を語る-井戸健人×畠山健嗣 対談
REVIEW
秘密のミーニーズ – down in the valley
REVIEW
ラッキーオールドサン – うすらい
COLUMN
ご当地ソングからはみ出る方言詞|テーマで読み解く現代の歌詞
REVIEW
ベルマインツ – MOUNTAIN
INTERVIEW
もどかしくもシンプルを求めトガっていく。シャンモニカが語る『トゲトゲぽっぷ』
INTERVIEW
シンガーソングライターという自覚の芽生え – ぎがもえかインタビュー
REVIEW
たけとんぼ – 春はまだか / 旅の前
REVIEW
いちやなぎ – album
REVIEW
ショーウエムラ – 大阪の犬
INTERVIEW
2020年をポジティブに転化するために - 中川敬(ソウル・フラワー・ユニオン)が語る新作『ハビタブ…
REVIEW
かさねぎリストバンド – 踊れる
COLUMN
従来のイメージを跳ね返す、日本のフォークの変革 - 『#JAPANESE NEWEST FOLK』前…
INTERVIEW
年鑑 石指拓朗 2020
COLUMN
編集部員が選ぶ2020年ベスト記事
COLUMN
〈NEWFOLK〉作品ガイド
INTERVIEW
音楽のすそ野を広げる、影の歌の送り手 - 〈NEWFOLK〉主宰 須藤朋寿インタビュー
INTERVIEW
自分の言葉を持つ人の歌が、心に入ってくる - 浮(BUOY) インタビュー
REVIEW
クララズ – 台風18号
INTERVIEW
“2023”で次の扉を開いた3人のハイライト – ベルマインツ インタビュー
REVIEW
岡林信康 – 岡林信康アルバム第二集 見るまえに跳べ
REVIEW
田中ヤコブ – おさきにどうぞ
REVIEW
ザ・ディランⅡ – きのうの思い出に別れをつげるんだもの
REVIEW
Bagus! – 恋はうたかた
REVIEW
ベルマインツ – ハイライトシーン
REVIEW
ヤユヨ – ヤユヨ
INTERVIEW
清水煩悩との雑談(後編)– 天川村から新たな船出『IN,I’M PRAY SUN』
REVIEW
小野雄大 – 素粒子たち
INTERVIEW
覚悟が決まった第二章 – Easycome『レイドバック』インタビュー
INTERVIEW
生きている日が歌になる – ダイバーキリン『その美しさに涙が出る』インタビュー
REVIEW
のろしレコード – のろし
REVIEW
松井文 – ひっこし
REVIEW
gnkosaiBAND – 吸いきれない
REVIEW
イハラカンタロウ – C
REVIEW
折坂悠太 – トーチ
REVIEW
西洋彦 – fragments
REVIEW
クララズ – アメリカン
REVIEW
阿佐ヶ谷ロマンティクス – 独り言
REVIEW
平賀さち枝とホームカミングス – かがやき / New Song
REVIEW
TATEANAS-縄文人に相談だ/君と土偶と海岸で
REVIEW
ズカイ – 毎日が長すぎて
INTERVIEW
30代になった酩酊シンガーてらがRibet townsと鳴らす家族の歌
INTERVIEW
年鑑 石指拓朗 2019-『ナイトサークル』リリースインタビュー
INTERVIEW
年鑑 石指拓朗 2018
REPORT
峯大貴が見たボロフェスタ2019 3日目
INTERVIEW
キタが語る、オルタナティヴ・バンドthanの正史ー2ndアルバム『LINES』リリース・インタビュー
REPORT
峯大貴が見たボロフェスタ2019 2日目
REPORT
峯大貴が見たボロフェスタ2019 1日目
INTERVIEW
はちゃめちゃなエンタテインメントがやりたいーチャンポンタウン“Giant step”リリース・インタ…
INTERVIEW
3人で歌の本質を確かめる場所―のろしレコード(松井文、夜久一、折坂悠太)『OOPTH』リリース・イン…
INTERVIEW
清水煩悩との雑談(前編)-新MV“まほう”・“リリィ”を公開&クラウドファンディング始動
REVIEW
アフターアワーズ – ヘラヘラep / ガタガタep
REVIEW
河内宙夢&イマジナリーフレンズ – 河内宙夢&イマジナリーフレンズ
INTERVIEW
休日に音楽を続ける人たちのドキュメント-松ノ葉楽団3rdアルバム『Holiday』リリースインタビュ…
INTERVIEW
日常に散らばった、ささやかな幸せを愛でるー大石晴子 1st EP『賛美』インタビュー
REVIEW
THE HillAndon – 意図はない
REPORT
リクオ『Gradation World』スペシャル・ライヴat 代々木・Zher the ZOO レ…
REVIEW
Ribet towns – メリーゴーランド / CRUSH / みまちがい
REPORT
峯大貴が見た祝春一番2019
INTERVIEW
今また初期衝動に戻ってきた – リクオ『Gradation World』リリースインタビュー–
REVIEW
HoSoVoSo – 春を待つ2人
REPORT
峯大貴が見た第2回うたのゆくえ
INTERVIEW
ここから踏み出す、ギリシャラブの“イントロダクション” – 2nd Album『悪夢へようこそ!』リ…
INTERVIEW
その時見たもの、感じたことを記録していく – ダイバーキリン『忘れてしまうようなこと』リリースインタ…
REVIEW
チャンポンタウン – ごきげんよう
REVIEW
宵待 – NAGAME
SPOT
cafe,bar & music アトリ
REVIEW
てら – 歌葬
REPORT
【峯大貴の見たボロフェスタ2018 / Day3】ULTRA CUB / Gateballers /…
REPORT
【峯大貴の見たボロフェスタ2018 / Day2】Homecomings / Moccobond /…
REPORT
【峯大貴の見たボロフェスタ2018 / Day1】ベランダ / Crispy Camera Club…
INTERVIEW
KONCOS:古川太一 × ボロフェスタ主催 / Livehouse nano店長:土龍対談 - 音…
REVIEW
ローホー – ASIA MEDIA
REVIEW
影野若葉 – 涙の謝肉祭
REVIEW
Pale Fruit – 世田谷エトセトラ
REVIEW
原田知世 – music & me
REVIEW
Traveller – Chris Stapleton

LATEST POSTS

INTERVIEW
僕の音楽から誰かのための音楽へ – YMBが語る最新作『Tender』とバンドとしての成長

大阪を中心に活動している4人組バンド・YMB。彼らを初めてANTENNAでインタビューしたのは201…

COLUMN
【2022年6月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「大阪のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」「今」の京都の音楽シーンを追…

INTERVIEW
対等な協力者たちが歴史をつむぐ。 ーー京都国際ダンスワークショップフェスティバルと京都芸術センターが行き着いたイベントを続けるための最適解

組織が何かを続けていくために必要なものはなんなのか。改めてそんなことをダンサー / 振付家の野村香子…

INTERVIEW
失意の底から「最高の人生にしようぜ」と言えるまで – ナードマグネット須田亮太インタビュー

『アイム・スティル・ヒア』を最初に聴いた時に、筆者が真っ先に思ったキーワードは「失意からの再生」であ…

INTERVIEW
音楽のアーキビスト、金野篤が体現する「売りたいモノは自分で作る」という生き方

外資系レコード店のバイヤーからキャリアをスタートし、インディーズ系流通会社を経て、2006年にディス…