思考の図解がクリアになった、初期傑作の風格まとう一枚
大阪の5人組バンド・ズカイについて、筆者は前作ミニアルバム『毎日が長すぎて』のレビューで「ニヒルなピーターパン」、「キープ・ジュブナイルな精神」、「ぐるぐる蠢く思考の図解」という言葉で評した。その時点でギターが3人に増え、またサポートのキーボードも加わり、気だるさを伴った煌びやかでドリーミーな音像になったこと。「この世にね、本当の大人なんていないんだよ。と歌うインディーロックバンド」と称するバンド・コンセプト。そして歌詞に通底する皮肉さ、卑屈さ、満たされなさといったモラトリアムな部分に焦点を当てて彼らに期待していた。
そこから約1年半ぶりとなる4作目のミニアルバム『たくさん願い溢れて』でも、上記にあげた要素は変わらない。しかし聴き心地は前作とは少し違う。鬱屈とした気持ちを痛快に吹き飛ばしてくれる、飛び切りに突き抜けたポップな作品だ。3本のギターとキーボードのフレーズは重なりを避けるように整理され、抜けの良さが際立つ。M1“さぁおいで(平凡に)”の執拗に繰り返すシンコペーションを押し通す力強さや、M4“みるみる”でのやけにシンプルなアンサンブルのギターロック・チューンには一つバンドのステージが上がったような風格が見て取れる。そしてどこか伏し目がちで所在無げだったまんくも(Gt / Vo)の歌唱もここでは晴れやか。甘酸っぱくセンチメンタルな叙情を醸すようになった。
そんな成長は、彼が書く歌詞にも通じている。
「あいつらと違って僕ら深く考えこんじゃうもんね」M2“ムーンライト”
「あーもう苛立たしい ルールにはめ込まれた」M3“音信不通”
「ろくでもなしのあいつが出てる よくあるノリがうらやましくなる」M7“とおせんぼう”
こうやって一部を切り取ると、相変わらず妬み嫉みの宝石箱だ。しかし単に内省的な皮肉が散りばめられているのではない。“さぁおいで(平凡に)”は、カッコつきの平凡(=社会的な普通)に対する違和とそこには乗らないことについて歌われているし、M6“僕にしか見えない丘”でもありがちな正論から逃れて自分の目指す先を示している。自分と社会の関係性についてこれまでウダウダと思考してきた蓄積が迫力と説得力を伴うようになっているのだ。彼らの掲げていた「本当の大人なんていないんだよ」がモラトリアムな状態から、他者から普通や一般といった概念を規定されることの拒否という確かな主張に昇華されている。
2017年の1stミニアルバム『スポットライトの裏側から』から本格的にバンドが始動し、編成やサウンド、そして描くメッセージもぐるぐる蠢いてきた。その思考の図解がグッとクリアとなって結実した。スピッツの2nd『名前をつけてやる』(1991年)や、サカナクションの2nd『NIGHT FISHING』(2008年)のような初期の傑作といずれ言われるのではないだろうか。
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たくさん願い溢れて
アーティスト:ズカイ
仕様:CD
発売:2021年9月29日
価格:¥1,650(税込)
収録曲
1.さぁおいで(平凡に)
2.ムーンライト
3.音信不通
4.みるみる
5.僕にしか見えない丘
6.とおせんぼう
7.さあおいで(平凡に) – Nature remix
8.とおせんぼう – Room ver.
※M7,8はCDのみ収録
ズカイ
ひとみ(Ba)
ワダ・ジョン(Gt/Cho)
こにし(Gt)
まんくも(Gt/Vo)
いぐち(Dr/Cho)
2019年9月 新メンバーを2人迎え入れ、5人編成になる
2019年12月 6曲入り3枚目のミニアルバム『毎日が長すぎて』を自主制作でリリース。リリースイベントも行う
2020年 3曲の楽曲を、ストリーミング配信リリース
2021年9年29日 4thミニアルバム『たくさん願い溢れて』をリリース
Webサイト:https://zukaino.wixsite.com/home
Twitter:https://twitter.com/zu_ka_i
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCXaF_t7sB0IILAVcKgDz_rQ
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1991年生まれ。大阪北摂出身、東京高円寺→世田谷線に引っ越しました。
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ANTENNAに在籍しつつミュージックマガジン、Mikikiなどにも寄稿。
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