COLUMN

YMB 作品ガイド 2014~2020

3rdアルバム『トンネルの向こう』をリリースしたYMB。宅録、アコースティック・ユニット、バンドと紆余曲折を経ながら、関西を中心に活動を続けてきた彼らの足跡を、これまでにリリースしてきた音源作品から振り返ります。

MUSIC 2021.06.08 Written By アンテナ編集部

3rdアルバム『トンネルの向こう』のレビューはこちら

YMB – トンネルの向こう

『遊覧船』(2016年)

1. 遊覧船
2. やりきれない
3. 揺れる電車
4. seaside

yoshinao miyamoto(Gt / Vo)・いとっち(Ba / Vo)に加え、サポートにアフターアワーズの上野エルキュール鉄平(Dr)とタミハル(Gt)という布陣で結成されたYMB=yoshinao miyamoto bandとしての初音源。“遊覧船”でのアコースティック・ギターのアルペジオ中心の落ち着いたアンサンブルからアウトロでドライブがかかりセカンド・ライン風味になる場面や、くるり“ハイウェイ”を思わせるYMB流トラベル・ソング“揺れる電車”では途中トーンを絞って曇らせる。宮本の思い描く音像を再現するような作り方とあってか、思い切りのいいアイデアが随所に散りばめられている。また宮本の宅録ソロ音源の表題曲だった“seaside”もトロピカルなボサノヴァ調がファンキーなギターロック・サウンドにリアレンジされており、タミハルのカラッとしたギターカッティングも聴きどころだ。

 

録音技術や演奏にはまだ拙い部分もあり、現在のYMBサウンドの肝でもあるいとっちのメロディアスなベースラインも少し控えめ。(当時kojipullのライブサポートやCANDYとしても活動しており、今よりストレートなプレイスタイルだった記憶がある)。しかし洗練された宮本のソングライティングの素養と幅広さはたった4曲でも恐ろしいくらいに感じられる。(峯 大貴)

『CITY』(2019年)

1.city
2.flashback
3.できない約束
4.遊園地
5.思い出の庭
6.きのうのこと
7.人生は

 

発売日:2019年1月9日

1stミニアルバム『CITY』は音楽家・宮本佳直の人間性が色濃く反映された作品だ。華やかなポップ・ソングを作りながら、「~らしい」という何かに影響された跡をあまり感じさせない。なぜなら宮本は音楽を作り続けることが日常の一部と化しており、常にいろんなバンドを聴き、その楽曲のエッセンスをミクスチャーして取り込み曲作りへ反映させているからである。ここにはバンドの楽曲もあれば、“遊園地”のような宮本の宅録作品もあり、サポートメンバーの顔ぶれも統一されてはいない。

 

そういう意味では本作はYMBというバンドの作品というよりも、宮本の頭の中を具現化した楽曲集という立ち位置に近い。詞には自らの悩みや葛藤がうかがえ、“city”や“人生は”には「悩みの中から抜け出したい」という宮本の思いが反映されている。本作以降、ポジティブな楽曲が増えるが、『CITY』に関して言えば華やかながらも、宮本のナイーブな心の内を聴かせてくれる。(マーガレット安井)

『ラララ』(2020年)

1.君が一番
2.夏の螺旋
3.crossfade
4.とけない魔法
5.若いふたり
6.ネバーランド
7.ラララ

 

発売日:2020年3月29日

前年の2019年にヤマグチヒロキ(Dr)、今井涼平(Gt)が加入、また宮本といとっちが結婚というグッドニュースを経た作品であり、いつになく幸福な空気が満たしている2ndミニアルバム。

 

宮本の音楽の世界を具現化するプロジェクトから、バンドとしての一体感を求めることに舵を切り、サウンドは4人のアンサンブルで魅せるシンプルなものとなった。柔らかくもジャジーな今井のギターフレーズは楽曲の根幹を担い、“夏の螺旋” “crossfade” “若いふたり”では宮本とツインでフレーズを絡ませるアプローチも楽しめる。また“ラララ”のリズムには明確にELO(Electric Light Orchestra)の“Mr.Blue Sky”を感じさせるなどリファレンスが以前よりも明確になったことも、具体の参照点をあげながら意思疎通を図っていった新たな可能性の模索を感じさせる。

 

一方で宮本らしさはソングライティングにより注力して表れていく。特に詞には独白的でポジティブな心情が表出するようになった。表題曲“ラララ”では〈音に任せた埋め合わせの為の言葉を省いて 言い切れ本当のことだけ〉と自身をエンパワーするように曲作りのスタンスをそっと宣言している。

 

2020年3月25日のリリース後まもなく1回目の緊急事態宣言が発令。リリース・ツアーも中止となったという意味では不遇な運命を辿った作品ではあるが、新たな環境を整えて完成した本作にしかない勢いを感じる秀作だ。(峯 大貴)

ゲストボーカル作品

潮風にのせて feat.ちーかま(from Easycome)

リリース:2020年11月25日

Nick & Renee feat.盆丸一生

リリース:2021年1月13日

YMBは歌い手の力を引きだたせるアレンジを得意とする。ベルマインツの盆丸一生を迎えた“Nick & Renee”(2021年)では盆丸のキザで、伊達男的な側面をよく理解し、あえて隙間の多い音作りで彼の歌声を堪能できるような曲作りを行っている。またEasycomeのちーかまとコラボした“潮風にのせて”(2020年)では、ルーツロック的なサウンドに乗せてEasycomeにはない男性コーラスとちーかまとの見事なハーモニーを実現。彼女の新しい魅力を引き出している。

 

なぜアーティストの良さを引きだたせるアレンジができるのか。私が思いだしたのは数年前に観た、さとうもかの対バン。アンコールに、さとうもかは“最低な日曜日”を宮本の編曲でYMBとコラボレーションして歌っていた。バンドサウンドとして生まれ変わった同曲はさとうもかの可愛らしく、イノセントな歌声を壊さずに、しかしYMBが持つ華やかなポップスも見事に体現していた。

 

そしてこのライブで感じたのは宮本はバンドマンでありながらも、コンポーザー的な立ち位置も担っているということだ。そのうえでYMBの楽曲を聴くと、例えば今井涼平(Gt)のギターソロやヤマグチヒロキ(Dr)のトリッキーな変拍子など、メンバーそれぞれの個性を発揮させるアレンジを徹底しており、自分以外の相手をどう見せるかというコンポーザー的な視点も持ち合わせていたことに気がつく。そしてその視点があるからこそ、フィーチャリングアーティストの良さを活かせる曲が作れるのではないだろうか。(マーガレット安井)

 

yoshinao miyamotoソロ作品

『seaside』

1.seaside

2.nightwalker

3.morning call

4.なんていそがしい

リリース:2014年11月1日

 

“SHOCK!!!”

公開:2021年2月5日

Ano(t)raksから2014年にリリースされた miyamoto のソロ音源『seaside』はYMB結成前に発表された原点というべき作品である。宅録で制作され、ビート・トラックなどは打ち込みも多いが、表題曲である“seaside”はそのコード進行や、淡くトロピカルな曲調にYMBの1stアルバム『CITY』の“flashback”の片鱗を感じさせる。また楽曲で多用している和音や、音の入れるタイミング、心地の良いコーラスワークなどは現状のYMBと地続きになっているものばかりだ。

 

『seaside』から7年後、カセットシングル『little escape / think』(2021年)にはyoshinao久々のソロ曲“SHOCK!!!”が収録されている 。3rdアルバム『トンネルを抜けて』で、ラップの手法を取り入れているが、“SHOCK!!!”におけるブレイクビートの入れ方、韻の踏み方、言葉の詰め方もまさにラップ的だ。

 

『seaside』と“SHOCK!!!”ではかなり音楽性が違う。インタビューでいとっちが宮本について「作るための引き出しを毎日増やそうと曲を聴いている感じ」と語っていたが、それは自分自身に満足せず「何ができるのか」を常に試行錯誤しているといってもいい。ラップの導入も試行錯誤の果てに生まれた新しい引き出しの1つだろうし、そのことでYMBの音楽は変化し、豊かなサウンドが生まれる。積み重なりの果てに宮本の音楽は生まれる。『seaside』を聴いた後で“SHOCK!!!”を聴くとそんなことを思わずにはいられない。(マーガレット安井)

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