COLUMN

【SXSW2020私ならこれを見る:キドウシンペイ】Emma Jean Thackray:UKジャズシーンのライジングスター

MUSIC 2020.03.11 Written By アンテナ編集部

コロナウィルスの影響でキャンセルが決定したSouth by Southwest 2020(以下:SXSW)。彼らが掲げる「The show must go on」の精神にのっとり、ライティングワークショップ(音楽編)の受講生が注目していたアーティストのレコメンド記事を掲載します。

今、アメリカ西海岸やサウス・ロンドンを中心に、ヒップホップやR&Bなどとクロスオーバーしながら多様な民族性が交錯して最も面白い音楽の一つとなっている新たなジャズ・シーン。多くの新しい世代の音楽を紹介するショウケース的存在の今のSXSWではどんなアーティストが出演するのだろうか。そんな好奇心からランダムに公式WEBサイトやSpotifyをザッピングしているとEmma Jean ThackrayというUK出身の女性トランペッター・マルチプレイヤーを発見して指が止まった。アーティスト写真がかなり強烈だったからだ。パンクなのかアングラなのかアバンギャルドなのか、不満たっぷりの視線でこちらを見つめる立ち姿、横で写る不思議な如来の仏像。ステレオタイプに描いていたジャズミュージシャンのイメージとはかけ離れた挑戦的な佇まいが最高にカッコよくて、どんな音楽をやるのか興味を惹かれた。

ジャイルス・ピーターソンや、セオ・パリッシュに支持され、UKジャズシーンのライジングスターとも評されいるらしいので、すでに一定のフォロワーは存在しているのだろう。その音楽は、確かにEzra CollectiveやSONS OF KEMETなどの現在のジャズシーンを牽引するサウス・ロンドン界隈のバンドとも呼応していて、アフロビート、ヒップホップ、クラブミュージックまで横断するサウンドが気持ちよく、洗練さと衝動性を同時に感じることができる。とりわけ、SXSWのアーティストページでも試聴できる”Ley Lines”は、チューバのぶっといベースラインが独特の人力グルーヴを生成し、そこにトランペットと彼女の歌とエレピが交わっていくという、クラブでも大いに盛り上がれそうな一曲。それだけでなく、彼女を幾分アイコニックな存在として位置づけているのは、大きな体を使って全身でブロウする女性トランペッターという新鮮さと、ジャズというジャンルの中にありながら、すべてのレコーデイングを彼女一人だけで創りあげる、個としてのユニークさだろう。

 

昨年のSXSWでは、そのEzra Collectiveや、SONS OF KEMETのリーダーであるシャバカ・ハッチングスがThe Comet Is Coming名義で出演していてるし、今年の出演アーティストでは、そのSONS OF KEMETのメンバーであるTheron Crossというチューバ奏者が出演する予定だ。こうした状況からも、プログレッシヴな現況のUKジャズシーンが、テキサスという地でも既に相当支持を集めているのだろう。それが、カリフォルニアやニューヨークではなく、南部・共和党最強地盤という、トランプ政権を象徴する保守的な場所=テキサスだということが興味深いし、何だかここから今までにない新しい音楽が生まれてきそうな期待が膨らんでくる。

Emma Jean Thackrayの”Ley Lines”と、Theron Crossに共通する楽器はチューバだ。そういういば、テキサスと隣接するルイジアナは、ディキシーランドジャズやマーチングバンドのルーツで、古くからチューバが用いられることが多いという共通点がある。どちらかといえばチューバは古い楽器というイメージがあったが、こうして、SXSWを通じてコンテンポラリージャズとオーセンティックジャズとが絡み合って互いに影響を受けながら、ザウス・ロンドンジャズ・シーンに対するアメリカ南部からの回答のような刺激的なジャズがでてきたら最高に面白いシーンになりそうだ。そんな現場に立ち会える機会がSXSWという場の意味の一つなのだと思う。

寄稿者:キドウシンペイ

 

 

プロフィール

もともと書籍業界、今は飲み物業界で働いています。みちのく岩手生まれの埼玉育ちで今京都。カニより美味しいカニカマみたいになりたいなと、いつも思ってます。60’s〜70’sロック、シンガーソングライターが好きです。

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