ANTENNA Writer’s Voice #3
ANTENNAライター陣の近頃おもしろかったもの・ことを週替わりでざっくばらんに紹介する、『ANTENNA Writer’s Voice』。音楽、映画、アート、演劇、小説、漫画などなど、それぞれの興味関心は千差万別で、それを語り分け合うことで緩やかな広がりになっていけばいいなと思っています。今回も3人のライターのおもしろかったもの・ことを紹介。編集部でも「みんな何を選ぶんだろう?」とそわそわしていますが、そんな気持ちで気ままにお楽しみあれ!
『borderless vol.16 FINAL』@Club Daphnia
先日大阪北加賀屋の〈Club Daphnia〉で開催された『borderless vol.16 FINAL』に足を運んだ。誘ってくれた友人の「役者でない」くんのライブパフォーマンスをはじめ、フロアを囲むライブペインティングやアート展示、服の販売やDJなど、さまざまな表現が交錯するパーティーを大いに楽しんだ。はじめて訪れた〈Club Daphnia〉は、DIY感が溢れるとてもクリエイティブでアーティスティックな空間。(そのイメージだけで想像するなら)ともすれば気後れしてしまいそうなほど洗練されているにも関わらず、とても居心地良く過ごせたことがとても印象的だった。オーディエンスもアートや演劇関係の人が多いのかノリもとても解放的で、何も無理をせず過ごしていられるまさにボーダレスな空間。今後は東京に拠点を移し開催していくという『borderless』にも注目するところだが、ベニューとの化学反応が存分にあらわれた大阪最終回に居合わせられたことをとても幸運に感じる。出会いはいつだって偶然の巡り合わせだ。中心地からは若干遠いが、わざわざ足を運びたい魅力があふれる北加賀屋の〈Club Daphnia〉で、次はどんな出会いが待っているだろうか。(阿部仁知)
Spotifyオリジナル番組『聴漫才』
音楽ストリーミングサービスにおけるお笑いのコンテンツといえばTBSやニッポン放送などのラジオ局が配信しているポッドキャスト番組が隆盛を誇っていますが、吉本興業も続々とオリジナル番組の制作に乗り出しています。Spotifyでは6月から「一発録り約30分のノンストップ漫才」をコンセプトとした『聴漫才』の配信がスタート。1stシーズンでは22組の漫才が配信、11月には2ndシーズンとしてさらに22組の漫才が追加されました。
この番組の面白さは「耳だけで楽しむ漫才」というのももちろんありますが、劇場やライブでは長くても15分という持ち時間で普段漫才をしている芸人たちが、どのように未体験である30分の尺を使うかの方にむしろある気がします。10分ネタを2本つなぎ合わせて普段より余裕をもってやることで時間を満たすようなコンビもいるのですが、既定路線からはみ出している回は醍醐味たっぷり。前振りがあまりに盛り上がってしまったため本ネタに入らず30分経ってしまったプラス・マイナス。アドリブをふんだんに散りばめた結果47分にも達していた銀シャリ。そして途中から何を聴かされているのかわからなくなり笑いより恐怖が勝ってくる天竺鼠……と、コンビならではのインプロビゼーションが存分発揮された回が特に見ものです。つまり4分で披露されるM-1などの競技漫才とは対極にある漫才がここにあると言えるのではないでしょうか?
今後も更新されそうな気配を感じますが、毎年100分漫才単独ライブ『百式』を開催している2丁拳銃とかが出るとしたら、この30分をどうやって使うのだろうなどと妄想が広がります。(峯大貴)
(ポッドキャスト紹介は次回も続きます)
『フジタユウスケ15周年記念公演 花街ろまん 心をどり〜夢舞台ノスタルジィ〜』@先斗町歌舞練場
京都の春の風物詩『鴨川をどり』で舞妓さんや芸妓さんたちが華やかな舞踊を披露する場として知られる先斗町〈歌舞練場〉。ここをライブ会場へと変えたのは、京都出身のアーティスト フジタユウスケだ。管弦も交えた特別編成のライブは素晴らしいもので、とても限られた文字数では伝えきれないので今回はハイライトのみ。
彼は、10周年となる5年前もこの場所でライブをしていて、今回は2度目。前回と同様に、ライブの幕間で舞妓さんと芸妓さんが舞を披露したのだが、前回も出演していた舞妓さんが今回は芸妓さんとなって登場したのが感慨深い瞬間だった。私が彼を知ったのは、5年前にリリースされた“京はいつも通り”という楽曲にくるりのベーシストである佐藤さんが参加していたことなのだが、この曲は現代版“まるたけえびす”ともいえる京都の通り名をテーマにつくられていて、歌の最後に出てくる通りが〈歌舞練場〉がある先斗町通りなのである。この日、アンコールとして最後に演奏されたのが先斗町をモチーフとした新曲“Once uPonto Time”。5年越しにこの場所で、この町のことを歌う姿に、先斗町という街とのつながりを深めてきたのだろうなと思わずにはいられなかった。
さて今回、個人的に特別な気分になったのは、このライブのサポートメンバーである。ベースにはくるりの佐藤さん、ドラムには元くるりの森さんという、2008年からくるりのライブに行きはじめた私にとってはまたとない組み合わせ。佐藤さんのくるりのライブとは違う音へのアプローチに酔いしれながらも、森さんとの息のあったグルーヴはくるり的な質感があるような気がして、ちょっと過去に触れられたような気がする瞬間もあった。いろいろなつながりが交差して思いがけない瞬間が生み出される、そう、京都にはそんな土壌があるのかもと改めて感じた一日だった。(乾和代)
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地域に根ざした世界中のインディペンデントな「人・もの・こと・場所」をおもしろがり、文化が持つ可能性を模索するためのメディアANTENNAです。
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