REVIEW
Loop with DENIMS
さとうもかとDENIMS

岡山出身のシンガーソングライターさとうもかと大阪の4人組バンド・DENIMSが昨年より始動したチャンネル・レーベル「LIFE OF MUSIC」でコラボレーション!「さとうもかとDENIMS」名義で4月~5月にかけて3曲を配信リリースした。その中から“Loop With DENIMS”を編集部員5名で総力合評します。

MUSIC 2021.06.01 Written By アンテナ編集部


Apple Musicはこちら

互いのクセが発揮された、これぞコラボ曲(峯 大貴)

今回のコラボで発表された中で、さとうもかの“Lukewarm”はDENIMSがカバーする形(さとうはシンセとコーラスで参加)であり、DENIMSの“Crybaby”はさとうをボーカルに迎えている。一方この“Loop”はDENIMSがさとうをプロデュースするようにリアレンジを施して演奏され、お互いの資質やメソッドを折衷させた3曲中、最もコラボとしての醍醐味が楽しめる楽曲となっている。

 

原曲のTomgggが手掛けたキュートなチェンバー・ポップ風味からはガラリと印象を変え、冒頭重たくビートをスウィングさせるところから、ファンク・ソウルの軽快なリズムに移行し、サビではサンバ・ボサノヴァに発展。ルーツに根差したアンサンブルはDENIMS印といえるものだが、さとうからもジャズやシャンソンからの影響を引き出すような狙いも感じさせる。一方でほぼコード進行が定型ながら、目まぐるしくグルーヴが転換していく構成は、メロディにバンド演奏が翻弄されているようにも聴こえる。さとうの彩り豊かで奔放なソングライティングの才覚にも改めて気づかされた。

 

シンガーソングライターを一つのバンドが自身の色を加えながら支えるこの構図。かつて活動休止中のCoccoをくるりたちが引き戻したバンド・SINGER SONGERのような相性の良さを感じた。この度、さとうはメジャーデビュー、DENIMSは土井徳人(Ba)が加わった新体制が始動。コラボ企画ではあるものの、確かな二組の変わり目を刻むような楽曲だ。(峯 大貴)

ひとりの永遠が、ふたりの触れられる今になる(小倉 陽子)

原曲“Loop with Tomggg”(2019)は、鍵盤打楽器や管弦楽器の色とりどりの音がキラキラと鳴る、キュートなシンセポップ。ひとり心の中に閉じこもり、過去にぐるぐると翻弄され続けるような恋する気持ちを、ファンタジックな音と繊細ながら抽象的なワードで表現し、共感を呼び起こす非常にさとうもからしい楽曲だ。

 

本作では、2拍子のスウィングからボサノバを取り入れたようなバンドアレンジなど、DENIMSと作り上げたことで、原曲よりも歌詞が客観性を帯びて聴こえてくるから不思議だ。それは特に、Cメロの釜中健伍(Vo/Gt)とさとうのハーモニーで顕著になる。原曲ではさとうの声を重ねていたひとりの世界だったものが、釜中に主旋律を渡しさとうがコーラスを重ねることで、<もうずっと前を>歩いていた二人がそこに立ち現れて、過去を越えていく痛みと強さが現実感を得る。

 

さとうはこれまでも自身の楽曲に他者のアレンジを多く取り入れていたが、それはシンガーソングライターとしてひとりで活動する「さとうもか」を拡張するようなアプローチであった。「さとうもかとDENIMS」では、さとうがDENIMSという他者と出会い、<美しくなるばかり>の過去をここで自らに折り合いをつけるように描き直した楽曲になった。(小倉 陽子)

世界はヴィヴィッドに色彩を帯びる。あなたの捉え方ひとつで(阿部 仁知)

こう言えば伝わるのかな?でも……。恋がスタートした頃のキラキラが色褪せたあなたの心には、伝えたくても伝わらないもどかしさが延々と駆け巡り、“左胸は熱を持って泣いて”しまう。そんなぐるぐるする感情を映したようなトラックメイカー Tomggg のサウンドがさとうもか(Vo)の屈折した心象を取り巻いていた原曲でも、確かに混迷の出口は見えていた。だが、DENIMSと邂逅した本曲では、その過程がより鮮烈に描き出されている。

 

そのことが最も顕著なのが、“過去の日々 変えられない”と受け入れるブリッジだ。ここにきて自らの心模様を俯瞰するようなさとうのコーラス、主旋律を譲り受けた釜中健伍(Gt / Vo)も、あくまで彼女の歌声に寄り添う姿勢。そこに岡本悠亮(Gt)のギターも合流した三重のハーモニーは、まるで終幕に向けて加速するようにドラスティックに物語を掻き立てていく。そう思うと、それまでは甘酸っぱく響いていたリズム隊のジャジーなサウンドも、視界がひらけた喜びの音色に変わったようにも聞こえてくる。

 

タイトルのようにブリッジを前後して似たパートが繰り返される本曲だが、毎日はそれほど変わらなくても、捉え方一つで世界はヴィヴィッドに色彩を帯びる。そしてそれは他者がいるからこそ気づくことができるのだろう。最後に“左胸は熱をもって泣いてる”のは、終わりの見えなかった混迷が明けて、世界が明るく照らされた喜びからなのだ。(阿部 仁知)

両者の色が重なったコラボレーションの真骨頂(柴田 真希)

昨年始動したレーベル「LIFE OF MUSIC」から配信リリースされた本楽曲は“さとうもかとDENIMS”名義での3曲目となり、客演に止まらない予感を孕む作品だった。さとうもかの元楽曲“Loop with Tomggg”をDENIMSがバンドサウンドにアレンジした上でゆったりとしたボーカルに空気を合わせることで、DENIMSとしても新しい柔らかく甘美なサウンドに仕上がっている。一方でさとうもかの歌声が元楽曲より伸びているのは4人の演奏の上に乗せることを意識したライブ収録ならではの効果だ。

 

1曲目“Lukewarm”、2曲目“Crybaby”の淡いブルーとピンクの写真にロゴが乗ったジャケットは、DENIMS/さとうもかそれぞれのイメージカラーだろう。そして3枚目、2色を混ぜたような薄い紫色のジャケットは、“さとうもかとDENIMS”を名乗る中で曲名から「with DENIMS」と改め、一緒に着想した新しい作品だということを表している。

 

DENIMS『more local』などでファンにはおなじみの岩本美里が今回のジャケットデザインも担当しており、「LIFE OF MUSIC」自体のロゴデザイン、そして“さとうもかとDENIMS”のロゴも手掛けている。先日“スチャとネバヤン”の結成が一部を賑わせたばかりだが、ロゴが出るということはただのコラボレーションに止まらないことを暗に示しており、彼らにも本楽曲を起点とした今後を期待せずにはいられない。(柴田 真希)

永遠のループとの、切なくも伸びやかな離別(出原 真子)

もう戻れないと分かりつつも、あなたと過ごした日々をループする切なさ。自分でも気づかないうちに、現実を受け入れ始めた切なさ。さとうもかがそんな切ない恋心をキラキラとはじけるようなサウンドに合わせて、軽やかに歌い上げた原曲“Loop with Tomggg”。対照的に本作は DENIMS のリアレンジによって切なさを一層際立たせつつ、甘美で艶っぽい一曲に仕上がった。

 

本作における切なさは原曲とは異なり、メジャーデビューを機に故郷・岡山を離れたさとうの心情とも重なっているのではないだろうか。愛しい人たちに別れを告げるような寂しさと、新天地への期待。さとうは色んな感情を綯交ぜにして、2回目のサビが終わった後の“ラララ~”を切なくも伸びやかに響かせている。さらに“過去の日々”から入る釜中健伍(Gt / Vo)のハモリが、新しい一歩を踏み出した彼女の背中をそっと押しているようだ。

 

ループしたくなる思い出は誰しも持っているはずだ。でも、ちゃんと時間は流れて、自分でも気づかないうちに“多分もう ずっと前を歩いている”。それを自覚してしまった時が、永遠のループとの離別になるのかもしれない。(出原 真子)

WRITER

RECENT POST

COLUMN
お歳暮企画 | ANTENNAとつくる、2023年なんでもベスト1 Part.2
COLUMN
お歳暮企画 | ANTENNAとつくる、2023年なんでもベスト1 Part.1
INTERVIEW
激しい音像で奏でる包み込むサウンドと蒼く優しい世界線 – とがるインタビュー
COLUMN
ANTENNA Writer’s Voice #6
COLUMN
お歳暮企画 | ANTENNAとつくる2022年の5曲 Part.2
COLUMN
お歳暮企画 | ANTENNAとつくる2022年の5曲 Part.1
COLUMN
ANTENNA Writer’s Voice #5
COLUMN
ANTENNA Writer’s Voice #4
COLUMN
ANTENNA Writer’s Voice #3
COLUMN
ANTENNA Writer’s Voice #2
COLUMN
ANTENNA Writer’s Voice #1
INTERVIEW
MCUはどこへ向かう?ミュージシャン・アーティストが語るフェーズ4の今とこれから
REVIEW
折坂悠太 – 心理
REVIEW
STUTS & 松たか子 with 3exes – Presence
REVIEW
中村佳穂 – アイミル
COLUMN
YMB 作品ガイド 2014~2020
REVIEW
YMB – トンネルの向こう
REVIEW
Homecomings – Herge
REVIEW
Easycome – Easycome
REVIEW
pont – ぽ
REVIEW
Curtis Mayfield – Something to Believe in
REVIEW
Bill LaBounty – Bill LaBounty
REVIEW
Norman Connors – Take It to the Limit
REVIEW
Leroy Hutson – Closer to the Source
REVIEW
Zac Apollo – Loveset
REVIEW
シュガー・ベイブ – SONGS
REVIEW
Ginger Root – Mahjong Room
REVIEW
大貫妙子 – MIGNONNE
COLUMN
【SXSW2020私ならこれを見る:下飼 凌太】THE TOMBOYS:多様な音楽を飲み込んだ四人組…
COLUMN
【SXSW2020私ならこれを見る:小川 あかね】Alice Longyu gao:セーラームーンか…
COLUMN
【SXSW2020私ならこれを見る:キドウシンペイ】Emma Jean Thackray:UKジャズ…
COLUMN
【SXSW2020私ならこれを見る:高田 和行】Shygirl:UKでも最もホットなスポットとされて…
COLUMN
【SXSW2020私ならこれを見る:今岡 陽菜】Pom Poko:ノルウェー出身、北欧のジャズ名門校…
COLUMN
【まとめ】編集部員が選ぶ2019年ベスト記事
REVIEW
jizue – Book shelf
REVIEW
Any Luck To You – ベランダ
REVIEW
中村佳穂 – リピー塔がたつ
REVIEW
DENIMS − DENIMS
REVIEW
Creepy Nuts – たりないふたり
REVIEW
Soft Laws – Easy Yoke
REVIEW
ナードマグネット – 透明になったあなたへ
REPORT
『言志の学校』第一回レポート – 作ったからには読んで欲しい!読み手に届くフリーペーパー…
REPORT
映画『明日にかける橋 1989年の想い出』舞台挨拶レポート
REVIEW
King of Gold / Amia Calva
COLUMN
「働きながら音楽活動をする」トークイベント② -小川保幸(DEEPSLAUTER)-
REPORT
「働きながら音楽活動をする」トークイベント① -上杉隆史(Endzweck)-
INTERVIEW
音楽レーベル 「セイカレコード」の活動を追う vol.1 対談レポート -京都のいち芸術大学がレーベ…
INTERVIEW
「MVは誰のもの?」インストバンドsowの企画、”1song,2videos”…
REPORT
コンクリートバー 15周年祭 @KYOTO MUSE 2016.11.11
REPORT
【稲本百合香の見たボロフェスタ2016 / Day2】生ハムと焼うどん / 愛はズボーン / man…
REPORT
【則松弘二の見たボロフェスタ2016 / Day2】ミノウラヒロキマジックショー / POLYSIC…
REPORT
【稲本百合香の見たボロフェスタ2016 / Day1】never young beach / 空きっ…
REPORT
【則松弘二の見たボロフェスタ2016 / Day1】And Summer Club / 岡崎体育 …
REPORT
【則松弘二の見たボロフェスタ2016 / 前夜祭】はちみつぱい / cero / Homecomin…
REPORT
color chord × ベランダ × Amia Calva『時計じかけのオレたち』ツアー @Ur…
REPORT
これからミュージックFESTA 2016 @ Live House nano 16.06.26
REPORT
【ボロフェスタ2015 Day2 / 1st stage】OGRE YOU ASSHOLE / フラ…
REPORT
【ボロフェスタ2015 Day2 / 1st stage】キュウソネコカミ / 清竜人25 / I …
REPORT
【ボロフェスタ2015 Day2 / 2nd stage】Amia Calva / NATURE D…
REPORT
【ボロフェスタ2015 Day2 / 2nd stage】BiSH / メシアと人人 / 夜の本気ダ…
REPORT
【ボロフェスタ2015 Day2 / Beelow stage】ボギー / 中村佳穂 / ONIGA…
REPORT
【ボロフェスタ2015 Day2 / Underground stage】eastern youth…
REPORT
【ボロフェスタ2015 Day2 / Underground stage】NOT WONK / FL…
REPORT
【ボロフェスタ2015 Day2 / Underground stage】THE FULL TEEN…
REPORT
【ボロフェスタ2015 / 夜露死苦】@ Club Metro
REPORT
【ボロフェスタ2015 Day1 / 1st stage】パスピエ / フレデリック / 在日ファン…
REPORT
【ボロフェスタ2015Day1 / 1st stage】Homecomings / Brian th…
REPORT
【ボロフェスタ2015 Day1 / 2nd stage】ミライスカート / 黒猫チェルシー / ト…
REPORT
【ボロフェスタ2015 Day1 / 2nd stage】neco眠る / Baa Baa Blac…
REPORT
【ボロフェスタ2015 / Beelow stage】DOTAMA / ミノウラヒロキマジックショー…
REPORT
【ボロフェスタ2015 Day1 / Underground stage】Pygtant!! / S…
REPORT
【ボロフェスタ2015 Day1 / Underground stage】ヤングパーソンクラブ / …
REPORT
【ボロフェスタ2015 Day1 / Underground stage】Seuss / Noise…
REPORT
【ボロフェスタ2015 / 前夜祭】Nabowa / ゆるめるモ! / 渋さ知らズオーケストラ
REPORT
【ナノボロフェスタ2015 / DAY2】後編
REPORT
【ナノボロフェスタ2015 / DAY2】前編
REPORT
【ナノボロフェスタ2015 / DAY1】花泥棒 / my letter / never young…
REPORT
【ナノボロフェスタ2015 / DAY1】渚のベートーベンズ / ナードマグネット / Seuss …
REPORT
【ナノボロフェスタ2015 / DAY1 】Baa Baa Blacksheeps / ONIGAW…
REPORT
【ナノボロフェスタ2015 / DAY1 】カトキット / Spacetime And Stream…
REPORT
ボロフェスタ2014 day2-10m stage編-
REPORT
ボロフェスタ2014 day2-9m stage編-
REPORT
ボロフェスタ2014 day2-Underground Stage,Bee-low stage編-
REPORT
ボロフェスタ2014 夜露死苦 @ CLUB METRO
REPORT
ボロフェスタ2014 day1-10m stage編-
REPORT
ボロフェスタ2014 day.1-9m stage,Center stage編- @KBSホール 2…
REPORT
ボロフェスタ2014 day1-Underground Stage,Bee-low Stage編-
REPORT
ボロフェスタ2014 大前夜祭-9m stage編- ライブレポート
REPORT
ボロフェスタ2014 大前夜祭-Underground Stage,Bee-low stage編- …
REPORT
ボロフェスタ2014 大前夜祭-10m stage編- ライブレポート
REPORT
マドナシ(キツネの嫁入り)@ 京都GROWLY
REPORT
Amia Calva @ 京都GROWLY ライブレポート
REPORT
wave of mutilation(波)@ 京都GROWLY ライブレポート

LATEST POSTS

COLUMN
【2024年4月】今、東京のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「東京のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」京都、大阪の音楽シーンを追っ…

COLUMN
【2024年4月】今、京都のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「現在の京都のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」「今」の京都の音楽シー…

REVIEW
「キテレツで王様になる」SuperBack『Pwave』のキュートなダンディズムに震撼せよ

2017年に結成、京都に現れた異形の二人組ニューウェーブ・ダンスバンドSuperBack。1st ア…

REPORT
台湾インディーバンド3組に聞く、オリジナリティの育み方『浮現祭 Emerge Fest 2024』レポート(後編)

2019年から台湾・台中市で開催され、今年5回目を迎えた『浮現祭 Emerge Fest』。本稿では…

REPORT
観音廟の真向かいで最先端のジャズを。音楽と台中の生活が肩を寄せ合う『浮現祭 Emerge Fest 2024』レポート(前編)

2019年から台湾・台中市で開催され、今年5回目を迎えた『浮現祭 Emerge Fest』。イベント…