ANTENNA Writer’s Voice #4
ANTENNAライター陣の近頃おもしろかったもの・ことを週替わりでざっくばらんに紹介する、『ANTENNA Writer’s Voice』。音楽、映画、アート、演劇、小説、漫画などなど、それぞれの興味関心は千差万別で、それを語り分け合うことで緩やかな広がりになっていけばいいなと思っています。今回も3人のライターのおもしろかったもの・ことを紹介。編集部でも「みんな何を選ぶんだろう?」とそわそわしていますが、そんな気持ちで気ままにお楽しみあれ!
『higurashi in FALL』
今年最後の催しは「a thing for someone. それは誰かのためのもの。」をテーマに、海外のめずらしいアンティークや雑貨などを買い付けされている「higurashi」さんによる展示販売会。ぜひ遊びにきてください。◎2022年12月14日→25日(13時-19時、月火定休)◎FALL(西荻窪)⛄️https://t.co/ltcjMgh4kv pic.twitter.com/1571VKr8JI
— TERUOKI MISHINA (@gallery_FALL) December 9, 2022
食器はシリーズで揃えなくても、欲しくなったものを少しずつ集めるのが良い。あなたが好きというだけで、統一感は自然と生まれる。器を集めているお店を営んでいる方に以前言われて、妙にしっくりきたことを覚えている。似たことを、最近「higurashi」のおじさまにも言われた。
〈西荻窪FALL〉は、CDやレコード、器、雑貨などを扱う、ギャラリーも併設するお店。そこで今週末12月25日(日)まで、アンティークのお皿や雑貨を扱う「higurashi」さんの展示販売『higurashi in FALL』が行われている。散歩をしているとガラス越しに見えたお皿に目を奪われて、思わず立ち寄った。私が気になったお皿はフランスのアンティーク皿らしい。自分が持っているお皿と同じブランドかもしれない。
実は一人暮らしを始める前、家具を何も持ってない自分が絶対に新居に持っていく、と心に決めていたのは旅先で手に入れたペルシャ絨毯と、蚤の市で購入したそのお皿だった。素敵なお皿があったから、自炊するようになったと言っても過言ではないくらい、お気に入りのお皿。ひとり暮らし3年目を経て、今度はお皿の方からこの街まで会いに来てくれた、というのは大袈裟かもしれない。でも「この出合いは偶然ではないはず!」と理由をつけて、少々お値段が張るお皿を自分のクリスマスプレゼントに、とお迎えした。おじさまは「気に入るお皿を1つずつ集めるのがいいよ」と言っていた。シリーズで揃えるにはお財布が少しさみしかったので、これでいいんだ、と思うと少しほっとした。
「higurashi」さんは大江戸骨董市にも出店されているそう。先日〈昭和記念公園〉で開催されていた手紙社さんの『東京蚤の市』に遊びに行ってから、最近は骨董系イベントが気になっている。先週末は横浜の『ジャンクショー』に遊びに行ったら、とても楽しかった。少し緊張するけど、年明けの『有明骨董ワールド』も覗いてみたい。色んな場所に足を運んで、少しずつ、自分のときめき帯を震わせるものを集めていきたい。(柴田真希)
『オモロ川フィルムブラック』
大阪の漫才コンビである黒帯のYouTubeチャンネルで公開されている『オモロ川フィルムブラック』。これがめっぽう面白い。内容としては「2年前に消息を絶ったお笑い芸人オモロ川だいすけの消息を黒帯が追う」といった内容。「黒帯が追う」とは書いたが、黒帯がやっていることといえば、オモロ川と仲の良かった芸人へLINE電話をかけて、オモロ川との近況や噂を聴くといったもの。なので、YouTubeの画面には、会議室内で男2人が芸人仲間とLINEする姿しか映し出されない。
だが、これがとんでもなく面白い。そして何が面白いのかといえば、「芸人へ話を聞く」ことが壮大なネタフリとなっている点だ。途中で黒帯も言及するが、実は彼らはオモロ川だいすけの妻である元ぺんぎんダービー・左近の連絡先を知っている。だから正直な話、その人物にオモロ川だいすけの近況を聴けばすぐに解決してしまう。だがそういう最短ルートを目指すのではなく、彼らは「空白の2年」を1つの謎とし、そこに芸人たちによるオモロ川だいすけの近況や噂話を経由することで、伏線とミスリードが混在する1本のミステリーを作り上げていく。だからこそ終盤の「オモロ川だいすけの2年間消息を絶っていた理由」というオチの部分は直接話を聴くよりも、何百倍も面白く聴けてしまう。
黒帯の漫才といえば強烈な一撃必殺のボケを繰り出すことに定評のあるコンビであるが、それも丁寧なネタフリがあってからこそなせる技。まさにこの『オモロ川フィルムブラック』はその丁寧なフリがあったからこそ、最高に面白く仕上がった作品だ。(マーガレット安井)
『しあわせな望年会』@木屋町DEWEY
「普通の幸せ」ってなんだろう。
少なくともここ10年くらいで日々確かめているのは、自分のそれは大多数の人とは同じではない部分が多いということ。それと同時に、大多数の人と同じではなくても大丈夫ということも、最近しみじみ感じている。そして「同じじゃなくてもいい」の源流にあるのがこの7〜8年の間にライブハウスで出会ったインディーバンドたちの存在。
先日、3ピースバンド「ふつうのしあわせ」主催で行われたイベント『しあわせな望年会』には、ひとクセもふたクセもありながら己の標榜する音楽に誠実で実直な出演バンドが揃いに揃った。聴きながら行ったこともない〈ウィンドミル〉にいるかのように錯覚したZOOZ、からの知りもしない〈ハシエンダ〉気分に誘うBEETHOVEN FRIEZE。雄大な電子音の波に飲まれながらごく自然に踊らされるANYO、変拍子に刺さりまくる歌詞が忘れられないふつうのしあわせ、ダンスパンクやニューウェイヴへの敬意に溢れたSuperBack。そしてトリはジャリジャリのオルタナギターにポップな歌メロで、笑いながら泣くような人生哀歌が唯一無二のウサギバニーボーイ。
取りまとめて言えば「オルタナティブロック」、だけどまとめられない多様なバンドカラーに共通しているのは、自分たちの普通の幸せに向かって突き進み、多くはなくても確かに誰かを幸せにしているということだろう。(小倉陽子)
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地域に根ざした世界中のインディペンデントな「人・もの・こと・場所」をおもしろがり、文化が持つ可能性を模索するためのメディアANTENNAです。
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