
レコード屋でも本屋でもない、「アナログメディア」ショップ・Staghorn Records
Clairoのレコード、『MOTHER2のひみつ。』、あいみょんのカセットーー。原稿を書いている今日時点での〈Staghorn Records〉のランキング上位にはこんなタイトルが並ぶ。ストレートなレコード屋や、独立系書店でもなかなかこの並びのランキングは見かけることはできないのではないだろうか。それがこのお店の面白いところだ。
宮城県にある無店舗型のアナログメディアショップ〈Staghorn Records〉では本・レコード・カセットテープなどを取り扱い、ZINEに関しては写真、イラスト、音楽、食などさまざまなジャンルが揃えられ、400点以上の商品が登録されている。オープンして2年、店主である西嶋 陸(以下、西嶋)さんに、お店をオープンしたきっかけや、商品のこだわりなどを伺った。
同店はANTENNA / PORTLA編集部が事務所をかまえる〈A HAMLET〉(京都・亀岡)で3月1日(土)、2日(日)に開催される『次の電車がくるまで』に出店が予定。気になった方は、ぜひチェックしてみてほしい。
Staghorn Records(スタグホーンレコード)
取扱商品 | 本・レコード・カセットテープ |
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発送日 | 月〜金曜日 |
Webサイト | |
SNS | Instagram:@staghorn_records X(旧Twitter):@stghn_records |
「会社務めでは死ねない」私がアナログメディアショップをスタートした理由

アナログメディアを取り扱うオンラインショップの店主であり、養蜂家として働く側面も公表している西嶋さん。彼が働きながらオンラインショップを始めたのはどのようなきっかけがあったのだろうか?
「大学卒業後に車の営業マンとして働いていました。コロナ禍中にふと『このまま車の会社に勤めたままでは死ねない』と思ったんです。自分が納得できる生き方をしたい。だから今までやれてなかったことをやるフェーズに進もう!と腹をくくりました。そこから昔からの夢だった『自分の店を持つ』ことを真剣に考えはじめたんですよね。当時は流通も出版のことも何も知らなかったけど、とりあえず気になるZINEの著者には連絡を取り始めました」

〈Staghorn Records〉をのぞくと、レコード、カセットテープ、ZINEといった西嶋さんの目利きが利いたさまざまな作品が並ぶ。自店のことをレコード屋や本屋という言葉ではなく、「アナログメディアショップ」であることを標榜している西嶋さんに、そこに込められた想いを聞いてみた。
「もともとはレコードを取り扱うお店を作ろうと思っていたんです。でも日本には優れたインディー系のレコードショップはたくさんある。私は店舗も持っていないし、海外のマニアックな作品も揃いにくい。『レコードだけではお店の特徴を持たせづらい』と考えた時に、好きだったZINEやカセットなども取り扱えば他店とも差別化できると思ったんです。
くわえてレコード・ZINE・カセットなどを『アナログメディア』というキーワードでくくれば、自分の好きなものをすべて表現できると思いこの言葉でまとめました」
中でもZINEのラインナップは豊富で、商品画像を見るだけでも「どんな内容なんだろう?」とワクワクしてくる。音楽好きな西嶋さんは自身とZINEとの出会いについてこう振り返る。
「実は私、本を読むのが苦手なんです。周りが『この本、良かったよ』と会話をしていても自分は話題に入れない。それが人生におけるコンプレックスの一つでした。
そんな中で大好きなミュージシャン・mei eharaさんの『文藝誌 園』に出会ったのが衝撃でした。eharaさんのZINEを読むと、文章には気軽さを、ZINEの見た目には自由さを感じて。それまで本を読む時に抱いていた『読み切らなきゃ』という使命感を感じずに読み進めることができたんです。自分でもこういう形なら本を楽しめるかも、と思いました」

商品ページを見るとフォトブックやイラスト集などが特に豊富であることに気がつく。またカセットテープに関してはあいみょんなどのJ-POPから、ヒップホップ、即興音楽など固定のジャンルに縛られない自由さが特徴だ。
「ZINEの仕入れテーマは『本が苦手でも来たくなる本屋』です。だから基本的にはアートブックとか写真集、雑誌でもイメージ画像が多いものを中心にそろえていて。もし文章が多くても、アートワークのポップさや内容などを考慮しながら、読みやすい作品を選ぶようには意識しています。
レコードは自分が普段から聴いている音楽、例えば海外のオルタナロックや、日本のインディーポップなどを中心にセレクトしている感じです。またカセットはレコードとは違って自分があまり詳しくないジャンル、例えばヒップホップや実験的なものなどを中心に集めています。もともとリリースが少ないため、自分が聴きたいものだけをそろえようとすると、なかなか見つからなかったんです。だから、視野を広げてみて今の形になりました」
出店で感じた福島県のカルチャーのつながり

〈Staghorn Records〉は無店舗型での運営を行っているが、東北を中心にポップアップイベントなどでの出店営業も行っている。なかでも福島県のイベントに出た時は刺激を受けたと語る。
「〈コトウ〉という本屋さんに出店した時に、さまざまな年齢層のお客さんがたくさん見に来てくれてました。自分の想像よりもはるかに多い人数で。『何でこんなに見に来てくれるのだろう?』と思ったんです。聞いてみると、「福島は待っていても情報が入ってこないから、みんなで情報をシェアしている」と話をしてくれました。面白い情報をキャッチしたら、近隣の個人商店、例えばカフェの人、バーを営んでいる人……そういった人たちにどんどん情報が伝わっていくらしいんです。
だから私が出店した日には、『レコード屋が出店する』という情報をキャッチしたDJの方がイベントに足を運んでくれて、〈Staghorn Records〉でレコードを買って、その日の夜にバーのDJブースで音楽を流してくれたそうです。福島市で実際に目の当たりにしたカルチャーや個人商店、そしてお客さんのつながりや、その貪欲さが素敵だなと思ったんです」
カルチャーが人によってリンクしていく面白さを目の当たりにした西嶋さん。実際にお客さんと対面でコミュニケーションを取ることにやりがいなどを感じているお店を構える構想があるかを伺った。
「仙台は東北の中ではカルチャーにアクセスしやすい土地だと思います。中堅のバンドもツアーでやってきてくれたり、展示会なども開催されている。情報をセレクトしてまとめている人が多くはないので、〈Staghorn Records〉のセレクトを見せれたらと思うと、実店舗はいつか構えたいなと考えています」

〈Staghorn Records〉は〈A HAMLET〉(京都・亀岡)で3月1日(土)、2日(日)に開催される『次の電車がくるまで』に出店が予定されている。最後にどんな商品を持っていくのかを教えてもらった。
「レコードは何を持っていくかまだ悩んでいますが、ZINEはほぼ決まっていて。中でも『LIMEN vol.1』は必ず販売しようと思っています。東京とアムステルダムを拠点に活動するクリエイティブスタジオ《mimoid》の作品です。アニメーションを2コマだけ取り出して、1コマ目と2コマ目の間で世界がどのように変わって見えるのかを楽しむ実験的なZINE。レターパックとかクリックポストに入らないため送料が割高になるので、イベントで買うのがおすすめです(笑)」
次の電車がくるまで Vol.4
日時 | 2025年3月1日(土)、3月2日(日) |
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場所 | A HAMLET |
出店 | 【レコードショップ】 Staghorn Records(仙台) @staghorn_records cuune(福井) @cuune_fukui
【書店】 ANTENNA / PORTLA編集部 @antenna__mag Sands
【フード】 VINOGRAD(ナチュラルワイン / 亀岡)※3/1のみ @vinogradjp comenaka haus(「循環」をテーマにしたオーガニックレストラン / 亀岡) ※3/1のみ @comenaka_haus Camphora (自家培養天然酵母(サワドー)のみで発酵させたパンと厳選された材料で作られた焼き菓子 / 京都)※3/1のみ @camphora_kitchen パルメラ(酒に寄り添う料理と菓子 / 京都)※3/2のみ @palmela_kyoto フレく(カクテルバー / 京都)※3/2のみ @cocktail_stand_furek 星の球 (羊肉や羊乳テーズを使ったおつまみ)※3/2のみ mucho coffee (コーヒー / 京都)※3/2のみ
【アパレル】 SOME(古着 / 名古屋) @some_nagoya
【音楽】 🎧両日 丹波音響(DJ / 亀岡) @tamba_audio 🎤3/1出演 いちやなぎ @ichiyanagi_info 地球から2ミリ浮いてる人たち @from2earth 🎤3/2出演 高山燦基 @cha_cha_819 中村響太郎(モラトリアム) @kyotarock @moratorium_band 船木翔(ロブスター) @lobster0725 北里有(Akane Streaking Crowd) @tyhfbv @streakingcrowd
【映画】 unknown cinema ※3/1のみ @unknowncinema_kyotobase
【その他】 民具BANK(民具の展示やワークショップ / 亀岡)※3/1のみ @mingu.bank MISENOMA(ヴィンテージインテリア雑貨や民窯の器 / 亀岡) @misenoma にしだ道具展(竹細工 / 亀岡) @nishidadouguten 小西景子(シルクルクシーン / 亀岡) @konishi_keiko ALICE OZAWA (.A) (似顔絵・ZINE / 亀岡) @dot_a_art リバー!リバー!リバー! souvenirs & BnB(街案内 / 亀岡)※3/2のみ @rrr_souvenirs_bnb
【A HAMLET振興会】 |
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関西インディーズの水先案内人。音楽ライターとして関西のインディーズバンドを中心にレビューやインタビュー、コラムを書いたりしてます。
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