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帝国喫茶
帝国喫茶
MUSIC 2022.09.22 Written By マーガレット 安井

三者三様の作家性が融合した、帝国喫茶の青春

2020年に関西大学軽音学部で結成された帝国喫茶。メンバーは、杉浦祐輝(Gt / Vo)、疋田 耀(Ba)、杉崎拓斗(Dr)、アクリ(Gt)の4人。メンバーであるアクリが描いた可愛らしくノスタルジーを誘うイラストが印象的な彼・彼女たちの1stアルバム『帝国喫茶』だが、本作の見どころは各ソングライターの個性が作品になった瞬間、帝国喫茶というバンドの個性になる点だ。

帝国喫茶には3人のソングライターがいる。本作では主に疋田が楽曲制作しているが、杉浦は“部屋の中で”と“星のマーチ”を、杉崎は“貴方日和”と“恋する惑星”をそれぞれ担当しているのだ。そして各楽曲を聴いてみると、それぞれの特性が浮かび上がってくる。

 

ボーカルの杉浦が担当した2曲は弾き語りからスタートし、そこからバンドとしての音を重ねていく。彼はshampooの名義でYouTubeチャンネルにて弾き語りのカバー動画を投稿しており、そこからも弾き語りが彼の音楽の軸であり、それを発展させてバンドとしての楽曲を制作しているように感じる。

ベースの疋田は固有名詞が楽曲内に多く登場する。例えば〈履き潰したコンバースだけが僕らの行先を決めるんだ〉(M‐2“じゃない”)や〈宮崎駿が描き残したような静かな4月の午後〉(M‐5“春風往来”)のように。さらにM‐1“夜に叶えて”ではYogee New Wavesの“Climax Night”からのメロディや歌詞のサンプリングが見られる。自分の考えや好きなもを曖昧ではなくクリアに提示している点から考えると、リスナーに対して自分自身を開示したい思いが強い作家なのかもしれない。

ドラムの杉崎は他の2人と比べると、歌詞には甘くロマンチックな言葉が並ぶ。また映画好きらしく、 Wong Kar Wai(ウォン・カーウァイ)の代表作と同名の楽曲“恋する惑星”ではタイタニックの引用が登場する。

と、それぞれのソングライターの違いを述べたのだが、その違いよりも重要なのは3人それぞれ違う思想でありながらも、帝国喫茶というというフィルターを通して音楽になった瞬間、青春の一幕を切り取ったかのようなYou&Iの恋の物語になるという点だ。ソングライターの3人はそれぞれ個性がありながら、実際に曲を聴くと違和感はない。むしろ1人のソングライターが書いたのではとすら思えてくる。その理由は歌詞の人称が君と僕で統一されていたり、楽曲の世界観はどれも青春期の幸福な瞬間をモチーフにしているなど、楽曲の幹となる部分が3人の中で共通しているからだ。また杉浦の爽やかさとエモーショナルを遊泳する歌は青春をテーマとする歌との相性が非常によく、どのメンバーの楽曲も彼の色に染めてしまう。結果、三者三様の価値観を出しつつ、バンドとしての色も出た作品となっているのだ。

 

作家の個性とバンドの個性を存分に出した帝国喫茶。そういう意味では名刺代わりとなる1stアルバムにおいて、本作はまさに理想的な1枚だといえるだろう。

 

 

配信リンク:https://teikokukissa.lnk.to/artist_top

帝国喫茶

 

アーティスト:帝国喫茶

仕様:CD / デジタル

リリース:2022年9月21日(水)

価格:¥2,750(税込)

 

収録曲

1.夜に叶えて

2.じゃなくて

3.and i

4.カレンダー

5.春風往来

6.貴方日和

7.心の窓辺

8.恋する惑星

9.部屋の中で

10.ガソリンタンク

11.星のマーチ

12.あいをのせて

帝国喫茶

 

2020年夏、大学の学園祭に出る為だけに、関西大学軽音楽部で一緒だった杉浦祐輝(Vo / Gt)・疋田 耀(Ba)・杉崎拓斗(Dr)を中心に結成。コロナ禍で学園祭は中止になったものの、バンドに手応えを感じた杉浦はバンドを存続させる。

 

2020年10月“夜に叶えて”・2021年6月“カレンダー”・2021年8月“貴方日和”とYouTubeにMVを続々とアップしていく。2021年8月には遂に初ライブを行ない、同年10月に4曲入り初音源『開店』を自主リリース。タワーレコード店内の人気コーナー『タワクル』の東京名古屋大阪で1位を獲得した。また、バンド周りのデザイン全てを担当していたアクリが正式ギタリストとして加入してからは、2022年6月1日に1st EP『まちあわせ』をリリース。

 

そして、東京名古屋大阪等 各地のクラブサーキットイベントにも精力的に出演して、エモーショナルなライブで入場規制を記録している。今年7月には初のシングル“ガソリンタンク”、9月には遂に1stアルバム『帝国喫茶』をリリース。若者特有の初期衝動と疾走感を持ち合わせたポップなロックンロールを鳴らしながら、新曲制作とライブに励む日々。その勢いは止まらない。

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