坩堝ではなく、共生する園苑(そのその) – 『KOBE SONO SONO’23』ライブレポート
2023年4月8日(土)に神戸市北区にある〈神戸フルーツ・フラワーパーク大沢〉で初開催された、音楽フェス『KOBE SONO SONO’23』。同フェスにはさまざまな要点がある。ファミリー向け、神戸カルチャーへの敬愛、新人バンドのショーケース、さらにポップとオルタナティブが交錯したライブの数々。だが重要なのはそれら多くの要素が坩堝のように入り交るのではなく、お互いがバランスを取りながら共生をしている点である。うだるような暑さが続く毎日ではあるが、少しばかり心地よい春風がそよいだ同フェスの模様を振り返ってみたい。
ファミリーと神戸カルチャーが交差する園苑
“北神戸の豊かな自然の中、美しい建物や庭園を背景に、音楽とともに神戸の魅力的な食・モノなど様々なカルチャーを詰め込んだ園苑が、新たに誕生します。” そんなふれこみで開催された『KOBE SONO SONO’23』。神戸の三ノ宮から約一時間、遊園地があり普段は道の駅として利用されているというロケーションもあってか会場に入り真っ先に感じたのは子連れ客の多さだ。私も20年以上、全国各地の音楽フェスに行ってきたが、初年度開催でここまで家族連れが多いフェスはあまりお目にかかったことがない。駐車場を見渡してみたが、やはりファミリーカーが散見された。
なぜファミリー層が多くなったのか。要因の一つは今回の会場だ。例えば一時期の『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』や『MONSTER baSH』など広大な敷地を持つ国営公園や『VIVA LA ROCK』のようなアリーナ会場ではなく、〈神戸フルーツ・フラワーパーク大沢〉という遊園地、果樹園、さらには〈アムステルダム国立美術館〉を模したホテルなどが点在するもともと観光地としての機能がある道の駅で開催したという点だ。またラインナップに関しても同じことがいえる。子どもたちも安全に過ごせるようにダイブやモッシュといった行為が極力起こらず、家族全員で音楽に触れあうことができるような出演者であったのは、主催者側の判断であったのであろう。
photo:渡邊一生(@nabespg)
同時に同フェスは神戸カルチャーにも敬愛を感じる作りであった。例えばフード。出展していた25店舗ほどのほぼすべてのフードが神戸またはその近隣の市を拠点に活動している店で構成されていた。さらには古本屋〈本の栞〉やレストランだけでなくアート教室も開催する〈汀 -migiwa-〉がシルクスクリーンのワークショップを行ったり、さらに〈神戸フルーツ・フラワーパーク大沢〉内にある神戸モンキーズのモンキーパフォーマンスショーがあったりと、神戸カルチャーを推し出し、来場するお客さんに神戸の魅力を再発見してもらいたいという気概を感じた。そういう意味では神戸をレペゼンするフェスとしてその役割を果たしていたように感じる。
photo:渡邊一生(@nabespg)
「だが」ファミリー向けではない人選
と、ここまでいろいろと語ったが『KOBE SONO SONO’23』のラインナップを眺めるとこのフェスの狙いはほかにもあることに気づく。
今回、同フェスを企画した人物の一人がキョードー大阪の神戸直人さんだ。彼は関西のライブハウスで定期的に開催されるイベント『YOUNG POP CLUB』を主催する人物であり、同イベントはこれからブレイクが期待されるアーティストをピックアップをしている。そして『KOBE SONO SONO’23』に登場した、Mega Shinnosuke、Chilli Beans.、Bialystocksなどはその『YOUNG POP CLUB』に出演したアーティストである。
また『YOUNG POP CLUB』では普段、東京を中心に活動しているアーティストを関西に招待するケースが多い。例えば先ほど挙げたMega Shinnosuke、Bialystocksは関西初ライブが同イベントであったりする。今回でいうと、浦上想起・バンド・ソサエティはバンドとして関西初のライブであった。これからブレイクが期待されるアーティストという点において『YOUNG POP CLUB』の文脈を組んだアーティストだといえよう。すなわち『KOBE SONO SONO’23』は集客としてファミリー層を狙いながらも「今後注目すべきアーティストのショーケース」としての役割も兼ね備えていたのだ。
ポップとオルタナティブが交錯した、ライブの数々
『KOBE SONO SONO’23』では〈FLOWER STAGE〉〈FRUIT STAGE〉〈MONKEY STAGE〉の3ステージでライブが繰り広げられた。当日は風が強く、にわか雨が降りだすこともあったのだが、出演したアーティストは参加した観客を温かく出迎えてくれた。同時にアーティストが「ファミリー向け」というのを意識していたかのか、ポップさを全面に出していた印象であった。
photo:渡邊一生(@nabespg)
その思いを強く感じたのが〈FLOWER STAGE〉に登場したサニーデイ・サービス。この時間帯、雨が降ったりやんだりしていたのだが、サニーデイが始まると晴れ間がさした。曽我部恵一が「あ、晴れた」と言い、演奏されたのは“恋におちたら”。「晴れた日の朝にはきみを誘って何処かへ」と、まさにこの状況を見越していたかのような歌詞に、会場からは大きな声援があがっていた。曽我部恵一といえば、2016年に自身全キャリアの楽曲の中から「春」をテーマに選出したベスト盤『スプリング・コレクション』(2016年)をリリースしたくらい、春の曲が多いアーティストである。今回は“桜 super love”、“セツナ”、“春の風”といった春ナンバーを披露。最後には代表曲である“青春狂走曲”まで演奏し、『KOBE SONO SONO’23』を盛り上げた。
photo:渡邊一生(@nabespg)
〈FLOWER STAGE〉のトリを飾ったくるりも印象に残ったアクトの一つだ。なんといっても驚いたのがセットリスト。今まで20年近く、フェスで彼らを観てきたが「全部PVが作られた楽曲」で構成されていたのは、僕が観た中では今回が初である。“琥珀色の街、上海蟹の朝”や“ばらの花”、“Superstar”など代表曲を惜しげもなく披露するくるりに会場からも歓声が飛び交っていた。
そのほかにも1曲目に荒井由実の”翳りゆく部屋”をカバーした安藤裕子や、フジテレビ系列で放送されている『ちいかわ』のテーマを演奏したトクマルシューゴなど、大衆に向けて各々が工夫をしながらライブをしている印象を受けた。もちろんそれだけでなく、コアな客層にも通じるオルタナティブな部分も出して観客を沸かせていたバンドもいた。その代表が折坂悠太だ。
photo:渡邊一生(@nabespg)
この日、これまで3年に渡り共に演奏してきた重奏メンバーとのライブをしばらく休止にすると発表した折坂。1曲目には“さびしさ”を披露。CMの主題歌としても使用された同ナンバーであり、“朝顔”と並び、彼の存在を世間に広めた曲である。だがこれ以降、“心”では軽快なビートでありながら中盤の間奏部分では音を歪ませてサイケデリアな空間を演出し、“鯱”ではアフロビートと変拍子が有機的に絡みつく演奏を披露。まさに「今の折坂悠太と重奏」を全面に押し出すステージであった。その演奏は決して、わかりやすくはないし、大衆的かといえばそうではない。しかし、そんなことはお構いなしで現在のモードを打ち出し、わかりやすさを超越するオルタナティブを提示するその姿勢にしびれた。ラストには『ざわめき』(2018年)から”芍薬”を披露。重奏のキレのある濃密なアンサンブルは観客を完全に圧倒していた。
photo:オイケカオリ(@kaorin6009)
「オルタナティブの提示」という意味では〈FRUIT STAGE〉のドミコも忘れられない。”びりびりしびれる”からスタートし、”なんて日々だっけ?”、“あしたぐらいは”を立て続けに演奏。ラストは“ペーパーロールスター”。間奏部でのセッションはルーパーの音が一つひとつ重なるたびに、エモーショナルな空気が増していき、会場がどんどん熱を帯びてゆく。ドミコといえばこのルーパーを使用し、リアルタイムで音楽を制作するのが特長ではあるが、その様は彼らのライブでしか体験できないスリリングさと新鮮味を味わえる。普通に考えればそのような困難さをともなう行動をすっ飛ばして、人数を増やせば効率よく同じような演奏をすることは可能であろう。しかしそういう「普通」をあえてせず、二人でルーパーを使用してこの音楽をやり遂げる所に彼らの「オルタナティブ」がある。演奏終了後に会場にいた子どもたちが親に「何かわからなかったけど、すごかった」と言っている姿を見て、オルタナティブが受け入れられた瞬間を感じた。
さまざまな要素が共生する集合体
このようにレポートを振り返ると『KOBE SONO SONO』というフェスにはさまざまな要素があることに気がつく。だが重要なのはそのどれもがちゃんと各々の役割を理解して、フェスという1つの集合体として居心地の良い空間を作っていた点だ。ファミリー向けという前提、神戸カルチャーへの敬愛、新人バンドのショーケース、アーティストのライブ。どれが強くてもこのフェスは成立はしなかったように感じる。そういう意味では坩堝のように入り交りながらカオスを作るのではなく、バランスを取り合いながら共生する場として理想的なフェス空間が広がっていたのではないだろうか。
そういえばトクマルシューゴがライブ終了間際に「このフェスが素晴らしいと思った人は演奏終了したら大きな拍手をください」と自分がもらうはずの拍手をフェスに譲るという場面があった。その後、大勢の拍手があったことは言うまでもない。ぜひ関西を代表する春フェスとして、今後も続いてほしいと切に願う。
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関西インディーズの水先案内人。音楽ライターとして関西のインディーズバンドを中心にレビューやインタビュー、コラムを書いたりしてます。
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