本作は(夜と)SAMPOというバンドを紹介した一作であり、突き落とされた絶望の底から希望の光をみいだすONCE AGAIN的な作品だ。(夜と)SAMPOは元、加速するラブズやソロアーティストしても活動していた、なかのいくみ(vo)と、ハンブレッダーズのオリジナルメンバーであった吉野エクスプロージョン(Gt)を中心として結成された5人組インディーズバンドである。
加速するラブズ時代からいくみは力強くハリのある歌声と滑らかに伸びるファルセットが特徴であり、1st EPとなる本作でもそのしなやかな歌唱が十分に楽しめる。吉野のギターもハンブレッターズの頃を思わせる、エモーショナルでスピード感のあるリフを刻む。その2人に加藤秋人(Ba)のボトムの効いたベースライン、清水昂太朗(Key)の浮遊感のあるシンセ、寺岡純二(Dr)の力強いビートが加わり、直球ながらもウィットに富んだ楽曲へと仕上がった。特にMVにもなっている“革命前夜”は彼らを象徴するトラックである。
本作を聴くと「失意の状態から、再び何かを始めよう」という気持ちの変化を捉えている楽曲が多い。本作唯一のアコースティック・ナンバーである“リスタート”は失意を持ちながら楽曲が進むにつれて「またやり直そう」とする楽曲だ。先日行われた1stライブのタイトルにこの楽曲を使ったことからも、重要性が垣間見える。
吉野はハンブレッターズの正式メンバーからサポートに移る際にこんなコメントを残している。
人生には色々な選択肢があって、時に大切なことのうち、どちらかを選ばなければならない場面があります。しかし私、吉野エクスプロージョンは音楽も仕事もどちらも大切で、これからの自分の人生をどう生きるべきか、問い続けました。(http://humbreaders.com/2019/05/08/y/)
吉野は音楽への一本化ができず、サポートになった。しかしそもそも「音楽」と「仕事」どちらかを選ぶ必要があるのか。両立できることは可能ではないか。そこでできたのが(夜の)SAMPOである。つまりこのバンドは吉野エクスプロージョンの生きざまなのだ。加速するラブズが活動休止になり、表現の場を探していたなかのいくみが、同バンドに入ったのも、吉野のONCE AGAIN魂に惹かれたからだと想像ができる。風はまた吹く、陽はまた昇る。(夜と)SAMPOの物語は今ここから始まる。
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関西インディーズの水先案内人。音楽ライターとして関西のインディーズバンドを中心にレビューやインタビュー、コラムを書いたりしてます。
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