千変万化でありながら、それを感じさせない強靭なポップネス
関西を拠点に活動中の4人組ニュースクール・ポップバンド、ステエションズ。活動歴3年程度でありながら、『ワン!チャン!!〜ビクターロック祭り2020への挑戦~ 』で審査員特別賞を受賞し、『eo music try 20/21』ではグランプリ決定ライブに進出するなど、バンドとしての評価だけでなくパフォーマンスや楽曲のクオリティは折り紙付き。ではなぜ彼・彼女たちはこれまで評価されているのかと言われれば、僕は「多変的でありながらポップ」の一言に尽きると思う。
ステエションズの楽曲は情報量が多い。2ndアルバム『ST-2』を聴くと、例えば“SEPARETE”はBPMや拍子の違う2つのパートを1つに接続させ、さらに中盤ではボーカルを歪ませたり、演奏を止めてボーカルのみにさせたりと、曲中で何か所もフックを作っている。バンドとして初の4つ打ちダンスナンバーである“OX”ではCHAN(Vo / Gt)の歌声にボコーダーがかかっているが、中盤でボコーダーを外したり、録音状況を変えて呼吸音も聞こえるようにしたりと1曲の中で何度も変化をする。重要なのはこの2曲が特別にそうであるというわけではなく、アルバム全曲を通して、いろいろな試行錯誤を行っているのだ。
しかしステエションズの音楽に1度でも触れた人なら、僕の書いていることに違和感を持つ人もいるかもしれない。なぜなら彼・彼女たちの音楽は「情報量が多い」と感じさせないからだ。分析的な視点で観れば確かに情報量が多いが、普通に聴くと心地の良いポップスとして機能している。その理由の一つはメロディがしっかりとしている点だ。これだけ変拍子を加えたり、フックを多種多様に入れるなどして変化させているのだが、どの楽曲にも耳に残るメロディがしっかりと配置されている。そのため最終的に「変化」よりも「耳なじみに残るメロディ」のほうが記憶に残り、あまり情報量の多さを気にさせない。
次に「無駄な情報が無く、ちゃんと理由がある」という点だ。例えば“PHEW”では「つらなるすずめ なおらぬ寝癖」「見て見ぬふり 空いた缶チューハイ シルクに染めた なんちゅう愛」というように押韻する部分があるが、それが曲調を変える展開部への布石、またはその展開部をより鮮やかに変化させたことを強調するために使われている。先ほど例に出した“OX”もなぜ声にボコーダーをかけたのかといえば、感情を極力排したいからではないだろうか。この曲の歌詞は「いつも首に当たっているナイフ」「いつだって脇にあるナイフ それが良いというお前に この恐怖がわかるか」と憂鬱と緊張感が入り混じる。それを普通に歌ってしまうとこの曲が持つディスコ的な楽しさよりも感情面が強く出てしまう。そのため感情を消すことで、感情要素とディスコ要素をイーブンにさせ、暗と明、それぞれが拮抗したインパクトのある曲に仕上げているのだ。
さまざまなことを語ったが、改めて言いたいのは本作において難しいことを考える必要性は何もないということだ。実際、このレビューを書いているのが無意味なくらいに、本作はポップソングとして優れている。どれだけ複雑であっても、それを複雑に思わせない技術とセンスを持ち合わせたバンド、それがステエションズであり、その証明した作品こそが『ST-2』である。
ST-2
アーティスト:ステエションズ
発売:2023年5月10日
価格:¥2,500(税込)
フォーマット:CD / デジタル
収録曲
1.YOUTH
2.SEPARATE
3.MINUS
4.OX
5.LOVE
6.PHEW
7.QUPE
8.LUCK
販売・配信サイト
ステエションズ
関西を拠点に活動中の4人組ニュースクール・ポップバンド。
2019年2月に結成。
メンバーそれぞれがROCK, POPS, HIP HOP, R&B, JAZZ など独自のルーツを持ち、楽曲に幅広いジャンルの音楽を取り入れている。純文学に影響を受けた世界観のあるリリックと他に類を見ない型破りな楽曲にポップなメロディが混ざり、「ステエションズ」という新しいジャンルを作り出す。
次世代の音楽と新たなムーブメントを起こすべく、日々活動中。
Webサイト:https://stations.jimdosite.com/
Twitter:https://twitter.com/STATIONS_JP
Instagram:https://www.instagram.com/stations_jp/
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関西インディーズの水先案内人。音楽ライターとして関西のインディーズバンドを中心にレビューやインタビュー、コラムを書いたりしてます。
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