自発性とカオスが育む祭 – 22年続く音楽フェス『ボロフェスタ』の独自性とは?
今年で22年目となる京都の音楽フェス『ボロフェスタ』。毎年、ボランティアスタッフが中心となりDIYで会場の設備が作られ、ステージではメジャー・インディーを問わずアーティストたちが熱演を繰り広げる。また予定調和では起こらない面白さを求めて、綱引きや餅つきといった仕掛けをゲリラ的に行うなど、他の音楽フェスとは一味も二味も違った魅力を放ってきた。
そんな同フェスを運営する人物はどのような考えをもって、今まで取り組んできたのか。今回は〈livehouse nano〉の店長であり、『ボロフェスタ』ではパーティーナビゲーターとして場を取り仕切る土龍。関西のライブハウスを中心に活動するインストゥルメンタル・バンド、TOKIMEKI☆JAMBOJAMBOのメンバーでもあるオカムラヒロコ。そして同じく運営スタッフで〈livehouse nano〉の2階にあるイベントスペース&居酒屋〈□□□ん家(ダレカンチ)〉の店長であるミノウラヒロキ。長年ボロフェスタに関わってきた3人のスタッフに「ボロフェスタの独自性」をテーマとして話を伺った。
対談の中で語られたのは、ボランティアスタッフが『ボロフェスタ』の運営メンバーの一人として自発的に取り組める仕組みや、アンダーグラウンドが持つ面白さを体現する出演者を組み込む意義。そして世代交代は行いたくないという強い思いなど、同フェスが「独自性」を育むためのイデオロギーが見えてきた。出演者・スタッフ・観客、そのすべての思いが交わり形となる『ボロフェスタ』。そのフェスにかける思いを、ぜひ受け取っていただきたい。
地下・ロビーこそ『ボロフェスタ』の両翼
今年で22年目となる『ボロフェスタ』。だが一度だけ開催を中止したことがある。2020年、コロナウィルスの感染拡大はその歩みを止めざるをえなかった。だが20周年となった2021年は検温、お酒の販売禁止、マスク着用の義務などの制限はありながらも『ボロフェスタ』は「BOROFESTA NEVER DIE」という言葉を掲げて、例年より倍の計6日間、フェスを開催。くるり、BiSH、サニーデイ・サービスなどそうそうたる出演者が集い、熱演を繰り広げた。そして会場には行けない音楽ファンのために、ライブ配信も実施。この時、配信を見ているお客さんも同フェスに参加している気分になれるよう、いろいろと試行錯誤したと語る。
〈KBSホール〉内の一室を使って、ニュースキャスターがアーティストにインタビューするみたいなことをしたり、地下やロビーのステージに出演してくれるはずだったアーティストが演奏する映像を流したりしました。ホール内のアーティストだけだと、他のフェスとの差別化が難しいと思って「どうしたら『ボロフェスタ』になるんやろ」と試行錯誤しましたね。
例年ボロフェスタではホール内の2ステージだけでなく、エントランス部のロビーと、地下の小さな一室にステージを設け、若手バンドから何十年も地元で活動するインディーバンドや、アンダーグラウンドを中心に活動するアーティストがライブを行ってきた。だが2021年は感染対策上、密になること、さらに地下ステージは換気もできないことを理由に中止していた。そして2022年8月『ボロフェスタ』のキック・オフ・イベントである『ナノボロ2022』が〈KBSホール〉で開催。ここからホール内での2ステージだけでなく、ロビーのステージは復活したが、地下のステージに関しては換気の問題もあり再開を見送っていた。しかし土龍はこの時1つの決断を下す。
『ナノボロ2022』では地元のアンダーグラウンドなバンドにも出演してもらいました。それを観たときに「やっぱり『ボロフェスタ』は地下やロビーのライブがないといけない」と思った。それがないとブッキングのレンジが狭くなり、『ボロフェスタ』の両翼がもがれていると感じましたね。だから『ナノボロ2022』が始まる前までは、「地下は今年も無理かな」という雰囲気でしたが、「何とかやれる方法を模索しよう」という方向になり、急遽やることとなりましたね。
土龍さんや、同じく主宰の一人である飯田仁一郎※さんが「今年は地下やるで」と言ったときは、さすがに震えました。その時はいろいろ規制が緩和され、『ボロフェスタ』をどこまで戻せるのかという瀬戸際だった。先頭を切って走っている人たちが地下・ロビーのステージを復活すると言ってくれたのは、うれしかったですね。
※現在の『ボロフェスタ』代表であり、音楽情報・音源配信サイト『OTOTOY(オトトイ)』と株式会社 SCRAP の取締役。また、Limited Express (has gone?) のギタリストJJとしても活動している。
それで、地下ステージにちょっと立派な空気清浄機を置いたので、おかげで空気がとても良くなりました(笑)
ボロフェスタの地下・ロビーに出る出演者はオーバーグラウンドではないかもしれないが、ライブに関してはメジャーで活動するアーティストたちに引けを取らない、いやそれ以上のアクトをする。そんなアーティストをブッキングするからこそ『ボロフェスタ』の出演アーティストは他のフェスにはない独自性を保つ。そしてこの地下ステージに出演するアーティストの存在は、ホールに出演するアーティストの演奏にも影響を与えていると土龍は語る。
『ボロフェスタ』が20周年記念の時に作ったZINEの中で、僕とクリープハイプの尾崎世界観が対談をしたんです。その中で尾崎が「ヘッドライナーとして呼ばれるが、ライブをやっている時に『今、もしかすると地下で自分が全く知らない地元のインディーのバンドが、めちゃくちゃかっこいいライブをしているのかもしれない』と思うと、負けられないという気持ちが強くなり、力が入りすぎて、ボロであまり良いライブができない」と言っていて。「そこはちゃんとやれよ(笑)」という話ですが、でもこのフェスのブッキングの広さを、尾崎世界観というメジャーのトップを走っているアーティストまでちゃんと伝わっていると感じて、めちゃくちゃうれしかったですね。
ボランティアも、プロもスタッフの一員
『ボロフェスタ』というと100人以上のボランティアスタッフと主催者が一緒になり、会場設営からイベント運営までを行う。土龍にとってはそんなボランティアこそ、同フェスを作るうえでの最大のモチベーションに繋がるのだと話す。
最初の3、4年ぐらいまでは一緒にフェスを作るのを手伝ってくれる人という感覚でしたが、スタッフの話を聴くと「私のボロフェスタ」みたいなものを胸の中に抱えていて。その1つ1つの思いに触れた時に、自分たちが作ってきた『ボロフェスタ』が肯定されている気持ちになったし、いろんな思いが集まってこのフェスが作られているという感覚があった。
だから毎年、「大好きなミュージシャンが出るから」という理由で初めてボランティアに来た人でも、このフェスを通して今まで味わったことのない体験をしてもらい、その人たちの中にある「ボロフェスタ像」をしっかり更新して、「来年もまたこの場所に帰りたい」と思ってもらえるように頑張っています。
『ボロフェスタ』のボランティアは「スタッフの手伝いをしている」というよりも「一緒にフェスを作っている」という感覚が強い。それが実感してもらえているからこそ、来年もまたボランティアとして参加してくれているのかなと感じます。
実際に同フェスに行くと、どのスタッフも生き生きとしており、率先的に行動している印象を持つ。さらに毎年手作り感のあふれる巨大な立て看板など、有志のスタッフが制作したものからは一人ひとりの個性がにじみ出ている。なぜスタッフたちは『ボロフェスタ』に愛着を持つのか。
他のフェスではどうなのかわかりませんが、1、2年目のスタッフのアイデアが採用される確率がとても高い。
そうですね。初年度参加したボランティアの意見も聞きますし、採用もする。あとボランティアスタッフも交えて打ち上げの場で、お酒を飲みながら話もする。スタッフをやってくれた人からは「それが自分らにとってはすごく嬉しい」と言われたことがありますね。
あとエンドロールかな。スタッフとして初めて働いた人たちが、疲れもピークの中で「エンドロールを観に行け」と言われて観たら、そこには作業している自分たちの写真がモニターに映し出されている。『ボロフェスタ』は作っている人間全員の顔を会場にいる皆さんに見せたいと思って、毎年エンドロールでスタッフが働いているところを流しています。それを目の当たりにすることで、「お手伝いで行ったのではなく、フェスを作ったんだ」という実感を与えることができているのではないかと思いますね。
この主体的なボランティアスタッフたちの存在はアーティストにも伝わっていると土龍は言う。
2018年にMOROHAのAFROがライブ中に観客に向かって「一番美しい顔をしている人を知っているか?表にある立て看板を書いている人だよ」と言ったことがあって。それを聴いた時は「アーティストにも全部伝わっているな」と思って、すごく嬉しかった。そういうフェスは他にはないと思いますし、『ボロフェスタ』の独自性だと思います。
思いを無下にしないよう、80歳になっても『ボロフェスタ』をやり続けたい
前述の尾崎世界観と土龍の対談も掲載されている2021年に発売された『ボロフェスタ20周年記念ZINE』。その中で土龍は『ボロフェスタ』に対して「なくなってしまうのが怖い」「やらないならやらない覚悟が必要」と語っていた。なぜそこまでの使命感をもって同フェスの運営を続けるのであろうか。
ライフワークになっているので、それが無くなったら淋しいというのがあります。フェスをやることはとても大変だけど1年に1度の楽しみでもありますので。それに、スタッフ、お客さん、ミュージシャン、それぞれの中の『ボロフェスタ』というのがあり、それをなくすのは無責任すぎる。livehouse nanoに出演する若いミュージシャンたちから「『ボロフェスタ』に出演することを目標にしている」という声をよく聞くし、全国のお客さんから「今年もやるんですね!」「去年行ってめっちゃ楽しかったです!」「今年も行きたいと思います!」という声も聞く。そういう人々の感情に向き合うと、その想いは無下にはできないですね。
そもそも『ボロフェスタ』は2002年に土龍、飯田、ロボピッチャーの加藤隆生(現・SCRAP代表取締役社長)、シンガーソングライターのゆーきゃんの4人が「何かでっかいことを京都でやりたい!」ということで始まったフェスだ。しかし20年以上がたち、その頃のメンバーで残っているのは土龍と飯田の二人だけである。以前、飯田はLOSTAGE・五味岳久との対談(2015年)で「今は俺らがいなくなっても続いてほしいなあと思っている。もし、そんなフェスが出来たら、本当にかっこいいと思ってます」と自分の進退について語っていた。だが土龍は現時点では、世代交代はしたくないと語る。
世代交代に関しては、昔からその話は出てきますが、僕は断固として断ってきました。なぜなら、僕がやりたい『ボロフェスタ』があるし、他人に渡したくないという気持ちがあるから。健康面に関しても、自分が元気であればいいと思っています。それに京都でライブハウスを構え、京都でアクションを起こし続けている自分だからこそ、このフェスを主宰しているという自負もあるので。
土龍さんなら、80歳になっても『ボロフェスタ』やってそうですけどね。
やりたいな。めっちゃ元気なジジイとババアがやっているみたいな(笑)
ただそれまでに、あと3、40年ある。それまでに私たちも成長というか、一人ひとりが進化もしていくし、考え方も変わると思う。そのときにすごい人が現れて「『ボロフェスタ』の代表をやってみたい」と言われたら、渡してもいいのかなと感じます。ただ土龍さん、飯田さんが元気なうちは無理に世代交代をしなくてもいい。80歳のおじいちゃんがずっとやりたいと言っていて、そこにみんながついて来るならば、それはそれでカッコいいことだと思います。
またこのフェスに帰りたい、来年もスタッフをやりたい、遊びに行きたい、いつか必ず出演したい。そう思わせ続けられるフェスであるために、今後もトップの一人として丁寧に人と接していけたらと思います。もしかしたら今後インディーに偏った、またはアンダーグラウンドに偏ったフェスになるかもしれません。ただそれは僕たちが「これが今、最も素晴らしいと思える『ボロフェスタ』なんだと」と思ってのことなので。今後もいろんな人をどんどん巻き込みながら作っていきたいです。
スルーは損!どのアーティストも自信もってブッキングしている
最後に運営スタッフ3人の中で、今年注目しているアーティストを聞いた。
一つに絞るのは難しいですが、THE BAWDIESですかね。今年初出演なのですが、実は10年ぐらい前にオファーをして、その時は海外遠征と被っていて無理だったんです。以降、ものすごく売れたこともあり『ボロフェスタ』なんて相手してもらえないと思っていました。しかし今年ブッキングしてみたところ、すごく早いレスポンスで「ぜひ!」と快諾してくださって。それがとてもうれしくて「ああ、お願いして良かった」と感じました。むちゃくちゃ楽しみです。
私は世代的なものもありますが、Base Ball Bearと神聖かまってちゃんかな。高校のころにわくわくしながらライブを観ていたバンドが、私たちのフェスに出てくれるので、すごく楽しみ。運営だけど、純粋にお客さんの目線で観てしまいそうです。あとは毎年、出演してくれてはいますがおとぼけビ〜バ〜も楽しみ。毎年更新しているという感じがすごくて、今年も目が離せないですね。
音楽的な好みも含めて個人的に思い入れの強いバンドがたくさん出ます。例えば怒髪天、People In The Box、LOSTAGE、思い出野郎Aチーム、ZAZEN BOYSなど。でも梅田サイファー、AFJBが出るというのが、やはり僕の中ではこのフェスがちゃんと変わろうとしているポイントだと思っていて。ヒップホップのカルチャーはここ数年勢いがあるので、そこは絶対に落としたくなかった。また夜の本気ダンスや、今は東京に住んでいるけどHomecomingsは京都出身のバンドとしてどんどん知名度を伸ばしているし、地元のバンドが大きくなり『ボロフェスタ』に出演する時にどんなステージを見せてくれるのか、すごく楽しみです。
あとは地下・ロビーに出演するアーティストにも注目しています。ラインアップを見て「これ、誰?」みたいな名前がいっぱいあると思いますが、信じられないくらいカッコいいライブをするバンドを選んでいます。もちろん2日目の夜の〈CLUB METRO〉に出演するアーティストも。だから、どこも見落としてほしくない。「知らない名前だからといって、スルーするのは損をするよ!」とは言っておきたいです。
実は『ボロフェスタ』で嫌なところが1個だけあって。それは私、お客さんじゃないんですよ。本当は全部観たいんです。誰一人として取りこぼしたくない。でも作業や仕事があるので、観れないんです。今SNSでアーティストを一組ずつ紹介していますが、それをやるたびに「うわっ!観たい!」と思うので。まだSNSを見たことない人はそちらもチェックして、ライブを観たい気持ちを上げてもらえたらと思います。
ボロフェスタ 2023
日時 | 2022年11月3日(金・祝)~5日(日)
KBSホール 11月3日(金・祝)open 11:30 / start 11:55 11月4日(土)open 11:30 / start 11:55 11月5日(日)open 11:30 / start 11:55
CLUB METRO 11月4日(土) open 22:00 / start 22:00 |
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会場 | |
出演 | ※2023年10月10日時点
11月3日 怒髪天 / Base Ball Bear / 水曜日のカンパネラ / People In The Box / LOSTAGE / yonawo / NOT WONK / 夜の本気ダンス / BREIMEN / ズーカラデル / フリージアン / アマイワナ / 豊田道倫 & New Session / 浪漫革命 / ANORAK! / The Slumbers / KENT VALLEY / Superfriends / ラッキーセベン / 幽体コミュニケーションズ / NaNoMoRaL / nayuta / MOTHERCOAT / mess/age / Hwyl / モラトリアム
11月4日 【KBSホール】
TALK SEESION:「ウクライナを支援する意思表示の大切さ」
【CLUB METRO】 パソコン音楽クラブ / Summer Eye / Stones Taro / T.M.P / BODIL / 激 / 5364 / seaketa / mogran’BAR / Shunpuri
11月5日 ZAZEN BOYS / Homecomings / 神聖かまってちゃん / 思い出野郎Aチーム / バンドじゃないもん!MAXX NAKAYOSHI / Limited Express (has gone?) / Have a Nice Day! / Dos Monos / PK shampoo / AFJB / w.o.d. / 鈴木実貴子ズ / the McFaddin / ボギー / Le Makeup / and more / HARD CORE DUDE / SIBAFÜ / びわ湖くん / FATE BOX / MaNaMaNa / PINKBLESS / 村島洋一 / TOKIMEKI☆JAMBOJAMBO / PULASEI / ZOOZ / ミノウラヒロキ・マジックショー
Party navigator:MC土龍 |
料金 | 一般チケット 全通し券:¥19,000(+1ドリンク代別途) ※前売りのみ KBSホール1日券:前売り ¥6,700 / 当日 ¥7,200(+1ドリンク代別途) METRO券:前売り ¥3,000 / 当日 ¥3,500(+1ドリンク代別途)
学生割引チケット 全通し券:¥17,000(+1ドリンク代別途) ※前売りのみ KBSホール1日券:前売り ¥5,900 / 当日 ¥6,400(+1ドリンク代別途) METRO券:前売り ¥2,500 / 当日 ¥3,000(+1ドリンク代別途)
小中学生チケット(小人) KBSホール1日券:前売り ¥1,500 / 当日 ¥2,000(+1ドリンク代別途) ※小学生、中学生は、保護者同伴に限り有効 |
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関西インディーズの水先案内人。音楽ライターとして関西のインディーズバンドを中心にレビューやインタビュー、コラムを書いたりしてます。
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