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ボロフェスタ2022 Day2(11/4 KBS+METRO)- 変わらず全力が似合う21年目の第一歩

今年21年目の開催を迎えた、京都のフェスティバル『ボロフェスタ』。今年は11月3日~11月6日の4日間に渡って〈KBSホール〉で、また4日の夜には〈CLUB METRO〉で開催されました。2014年から毎年ライブレポートを掲載してきたANTENNAでは今年も編集部あげての総力取材!各日1名のライターによる独自の目線でボロフェスタを綴っていく、全4記事のクロスレポートをお届けします。本記事では11月4日の模様をハイライト。

MUSIC 2022.11.14 Written By 阿部 仁知

今年のボロフェスタは3年ぶりに実現できたことがたくさんあった。〈KBSホール〉の動線ど真ん中のロビーで思わぬ出会いが待ち受ける〈どすこいステージ〉に、地下の小さな一室で熱気が渦巻く〈街の底ステージ〉の復活。そして〈CLUB METRO〉の夜の部。マスク着用の徹底や地下の(おそらく3年前よりはるかに人数が少ない段階での)入場制限などもあったが、ほとんどかつての姿を取り戻した『ボロフェスタ 2022』。訪れた多くの人々も懐かしさや郷愁のようなものを昨年以上に感じていたのではないかと思う。

 

だが懐かしさを存分に感じさせつつもそれだけに終始しない新たな刺激が沢山あり、「いつも通り楽しかったね」で終わらせないのがボロフェスタだろう。そんな2日目、夕方の〈KBSホール〉と深夜の〈CLUB METRO〉の様子をお届けしたい。次の10年を歩もうとする21年目のボロフェスタで、一体僕はどんな体験をするのだろうか。

Photo:岡安 いつ美

今この瞬間に挑むスリリングなバンドサウンド

冒頭から気概を感じたのが、2023年春に解散することを発表しているbonobosのボロフェスタ最後のステージ。そんな事情もあり湿っぽくしようと思えばいくらでもできたはずだが、前のめりな攻めのグルーヴを刻む5人の姿がそこにはあった。代表曲の“THANK YOU FOR THE MUSIC”や“Cruisin’ Cruisin’”もこの夏『ONE MUSIC CAMP 2022』の大トリで見た時の幸福感ともまた違い、身体に火を灯すような熱いものを感じている僕がいる。

 

黎明期の2003年に西部講堂で演奏して以来のボロフェスタで「京都魂見せていこうぜ!西部講堂魂見せていこうぜ!」と叫ぶ蔡忠浩(Vo / Gt)。その言葉は僕らへ向けたものであると同時に、ボロフェスタへの檄のようにも感じられる。そんなMCから間髪入れず演奏するラストアルバム『.jp』収録の“永久彗星短歌水”を演奏する姿も、まるでこれから羽ばたいていく現行のバンドのようなフレッシュな熱量が溢れている。ああ、これをわかっていたからbonobosをこの日のオープニングに据えたのだろう。何も語らずともわかる。これはしめやかな引退行脚などではなく、bonobosは最後の最後まで今をまっとうしきるのだろうと。

Photo:岡安 いつ美

そして同様に、今この瞬間にかける想いを感じさせてくれたのがHakubiの3人だ。2020年にメジャーデビューし、数々のタイアップを手がけていることを思うとボロフェスタ出演も凱旋のように感じられるが、「京都のスリーピースバンドHakubiです。焼き付いて離れないくらいのライブを絶対に覚えさせます」と語る姿は、まるで〈livehouse nano〉に初めて出演する新人バンドのような、奢りのない挑戦心を感じさせる。

 

ハイトーンで訴えかける歌声や、だらっと構えたエレキギターを感情のままかき鳴らす姿を見ていると、ロリータ風の片桐(Vo / Gt)のファッションも次第に武道の道着のようにも見えてくる。それほどに迫真の演奏だからこそ、最後の“君が言うようにこの世界は”でオーディエンスがスマートフォンのライトを振る近年フェスティバルで見かけるようなってきた光景も有り体のお約束ではなく、バンドサウンドが描くしんみりとした情感に心から浸ることができる。あのロマンチックな白い光が胸に焼き付いているのは、単に綺麗だからではないのだ。

Photo:岡安 いつ美

ホールだけでは完結しきれないボロフェスタの様々な魅力

ホールの2ステージで気概溢れるバンドサウンドを堪能した後、訪れたのは地下の〈街の底ステージ〉。パーティーナビゲーターのMC土龍は導入MCで「ホールだけでは完結しきれない」と紹介していたが、シンガーソングライターのmekakusheのパフォーマンスには確かにここにしかない情感があった。柔らかく確かめるようなピアノに乗せてかわいらしく歌ったかと思えば、ミュージカルのように力強く繊細に抑揚を表現したりと、歌唱の幅広さを見せる彼女の歌声。片思いの心境を描いたという新曲“グレープフルーツ”でも、ほんわかとした歌唱の中に甘酸っぱい気持ちが滲み、フロアに染み渡っていくようだ。

 

ホールの非日常感ともまた違い、天井の蛍光灯などから普段の様子が垣間見られるこのステージだからこそ、あるいはどこか話し言葉のような癖を残す彼女の歌唱だからこそ、僕らの日常のシーンもほんのりとフラッシュするような情感が溢れる街の底ステージ。決してぶち上がるようなサウンドではないmekakusheのライブも、かつてのこの場所を思い起こさせるしっとりとした熱を持っていた。

Photo:岡安 いつ美

ホールのエントランス部分のロビーにある〈どすこいステージ〉では、グデイの二人が登場。残念ながらキャンセルとなったDYGLの代打として出演するキセルが扉の向こうで演奏しているのだからよっぽど悩ましく思ったものだが、目の前の二人が奔放に歌い踊る姿からなんとも目が離せない。歌謡的なトラックからギターがつんざくハードコア、ラップも飛び出す変幻自在なスタイルながら、そのすべてを二人の色で染め上げるグデイの存在感。寝そべってガラス張りの向こうの屋外フードエリアに手を振ったり、フロアに飛び込んで観客を混ぜ返したりと、笑顔満点の自由なパフォーマンスはどこまでもキラキラと輝いている。

 

“BE ALRIGHT”で「ねえ、聞いて?君は大丈夫!」と歌う不思議な説得力はなんなのだろうか。縦長のどすこいステージでは後ろの方からは演者がよく見えなかったりもするが、前方の気合いの入ったファンから伝播していくように、少しずつ振り付けを真似する人が増えていくのもこのステージならではで、ホールを出入りする人も知らず知らず巻き込まれていくこの感じがたまらない。気持ちのいい高揚感に包まれたどすこいステージ。誰もがグッときたその中心には二人の主人公、グデイがいたのだ。

Photo:岡安 いつ美

汗をかくほどにのめり込む躍動と、ここで見せる新たな歩み

再びホールに入って登場したBiSは僕にとってはじめてのステージだったが、研究員(BiSのファン)との絆、そしてボロフェスタの物語の一端を存分に感じさせてくれた。なにせみんなの期待感がものすごい。冒頭“STUPiD”から研究員たちの溢れんばかりの気持ちが弾け、呼応するようにステージ狭しと躍動するBiSの4人。チバユウスケが歌っても様になりそうな“赤いタンバリン”や、青春パンクさながらの熱情がほとばしる“BASKET BOX”を歌う中でも、さらに熱気を増して跳ね回る研究員たちの姿を見ていると、僕も傍観者ではいられない。

 

大好きなメンバーへの想いを今この瞬間に凝縮するBiSと研究員たちの躍動が、どんどん周りを巻き込んでホール全体が渦巻くようなこの熱気。必ずしも全員がファンなわけではないフェスティバルの現場だからこそ立ち現れる混沌とした空気の中、まるでロックバンドのライブを見ているようなスリルで「アイドル」の枠をぶち壊すBiSだからこそ勃発する狂乱に、僕も当事者として熱狂できたことを誇りに感じたものだ。

Photo:渡部 翼

そしてMC土龍が「もはやボロフェスタにとっては絶対に欠かせないマスターピース」と語るこの日のトリのHomecomings。幾度となく見ている4人のステージだが、僕は1年前ここで見た時よりはるかに厚みを増し進化しているバンドサウンドに驚嘆してしまった。弾けるようなフレッシュさが光る“I Want You Back”や福田穂那美(Ba / Cho)のコーラスが入る瞬間ゾクっとするような感覚を覚えた“HURTS”など、慣れ親しんだはずの曲も全く違って聴こえる。最新楽曲“Shadow Boxer”で畳野彩加(Vo / Gt)のSGが醸し出す情感はBig Thiefなども想起したもので、堂々たるインディーロックバンドの姿は、福富優樹(Gt)のMCの変わらないトーンに妙な安心感を覚えたほどだった。

 

「ちゃんと活動を前に進めていかなきゃいけないし、毎年ここに帰ってこれることを誇りに思う」と語る福富の姿に、僕はボロフェスタとHomecomingsの信頼関係を見た気がした。これまで多くの物語を紡いできたこの場所に安住せず、強くなった姿を見せるHomecomingsと、そんな4人を熱く迎え入れるボロフェスタ。MC土龍が不意に口にした「ありがとう!」という言葉にもさまざまな情感がこもっていたことだろう。アンコールの“Songbirds”であらわになったステンドグラスは、また明日から歩んでいく4人へのボロフェスタからのエールのようにも思えた。

Photo:渡部 翼

アンダーグラウンドの矜持とボロフェスタの包容力

舞台は〈KBSホール〉から〈CLUB METRO〉へ。3年ぶりとなる夜の部で僕が感じたのは、〈CLUB METRO〉が30年受け継いできたアンダーグラウンドの精神と、そのすべてを讃えながら受け入れるボロフェスタの包容力だ。

 

例えば日の変わらないうちからまるで深夜の一番深い時間のような情感を醸し出していた、Pee.J AndersonからSHUN145の流れに感じた攻めの姿勢。あるいは圧倒的に速いBPMのガバサウンドとかなり濃いスモークで何をやっているのかまったくわからないが、ともかくフロアを熱狂の渦に巻き込んだBBBBBBBのパフォーマンス。親しみを覚えるハニカミ笑顔でディープなテクノをぶち込んでくる犬オブダークネスや、ブラックミュージックの色気にふつふつと熱くなった朝方のShunpuriも、わかりやすく盛り上がる有名曲などほとんど誰もプレイしない。だからこそBBBBBBBが登場SEで流していた“Born Slippy”に異様に沸いたりといいコントラストになっていたが、“マツケンサンバⅡ”などをジングルのように印象的に挟み込み、変幻自在なのにまったく淀みなくシームレスに展開していくDJプレイに感嘆したCeeeSTeeなど、千差万別なさまざまな切り口を楽しむことができた。フェスティバルだからといって大衆受けに寄せなどしない、アンダーグラウンドの矜持に胸が熱くなる。

 

だが、かといって門外漢を排除するような内輪ノリともまったく違う、ボロフェスタの懐の深さを僕は強く感じていた。おそらく知っている曲なんてほとんどないだろうに、どこまでも楽しそうな表情のオーディエンスたち。ちらほら見かけるスタッフも、ほとんど寝られないだろうにそんなことは関係ないとばかりに楽しんでいる様子だ。鳴っている音楽に身体を揺らし、知らなかったサウンドに出会うよろこび。あるいはそんな自分に出会うよろこび。ボロフェスタに期待しワクワクする僕らと、だからこそ遠慮なく最高のパフォーマンスを披露する出演者たち。その両者の信頼関係がかっちり噛み合い、一瞬一瞬を楽しむ〈CLUB METRO〉のフロア。素晴らしいパーティーとはそこにいる全員のコミュニケーションでつくるものなのだと、改めて感じたものだ。

 

そんなパーティーの最終盤、深夜の最奥地に満を辞して登場したのがthe McFaddin。ここにいる誰よりも楽しんでいるような笑顔で、しきりにステージから乗り出しに僕らの手を掴もうとするRyosei Yamada(Vo / Gt)だが、その表情は同時に今この瞬間を失ってしまうことへの恐れのようなものも滲ませている。そんな彼に応えるように、あと少しで終わってしまうこの夜を全身全霊で楽しむオーディエンスの姿がどこまでも美しい。こんな時間に出演するのは初めてと後で話した時に語ってくれたRyosei。だがこの時間の彼らだからこそ、そして〈CLUB METRO〉の矜持とボロフェスタの包容力が交錯しあったこの夜の果てだからこそ、まさに「魔法がかかった」としか言い表せない、この夜のハイライトがそこにはあった。ああ、この夜を待っていたんだ。

なぜボロフェスタはボロフェスタ足り得るのか

Photo:渡部翼

 

同窓会のように安心して帰ってこれる場所として、京都に定着してきたボロフェスタ。だがそう感じられるのは、ボロフェスタがその場に安住せず、常にベストを更新し続けようとしているからに他ならないのではないか。例えば初日から最終日にかけてクレッシェンドするように新風が吹き抜けていくように感じたタイムテーブルの組み方もそうで、お馴染みのボギーやスギム(クリトリック・リス)もいれば、春ねむりやROTH BART BARONは新たなボロフェスタの色彩を描き、知らなかった感覚を呼び覚ましてくれた。それはまるで「俺たちは今が最高だ。あなたは?」と問いかけられているかのようで、おそらく出演者もスタッフもみんな似たようなことを感じているだろう。そんなボロフェスタの気持ちを感じているからこそ、全員が全力で誰一人半端なことをしない。ボロフェスタには安心感と同時にそういった緊張感がある。

 

思い返すとラインナップ発表ではやや意外に思えた初出演アーティストも、いざライブを観ると「なんてボロフェスタによく似合うんだろう」と少し不思議に感じたりもした。それはフェスティバルの意気込みをアーティストが受け取り、気概で応える姿がまざまざと見て取れるからだろう。ああ、僕がボロフェスタでずっと感じていて長らく言語化しきれずにいた特有の懐かしさや情感は、「全力が似合うフェスティバル」ということなのかもしれない。馴れ合いでもなければ、単に業務をこなすということでもない。だからこそ僕らは立場も関係なくせめぎ合い、共に心から今を泣き笑うのだろう。

 

昨年のレポートで僕は「今年こそがベスト」と書いた。もうこれ以上はないんじゃないかとさえ思った。だが今年はもっと面白かった。そして来年はもっと面白いだろう。なぜならボロフェスタはボロフェスタでいてくれるからだ。だからこそ僕も強く歩みを進め、来年もこの場所に帰ってきたい。そう強く思えるのだ。

 

(Day3 – 2022.11.5に続く)

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