INTERVIEW

お互いをリスペクトし合いながら切磋琢磨する〈ungulates〉の在り方とは?オーナーKou Nakagawaインタビュー

『FUJI ROCK FESTIVAL’22』への出演で大いに話題となった音速ばばあやdowntを筆頭に、くだらない1日やとがる、Ayumi Nakamuraやsoccer.など、各所で話題が勃発し、まさに2022年のインディーシーンを席巻するような勢いを見せたインディーレーベル〈ungulates〉の躍進。かねてから筆者と親交のあったレーベルオーナーのKou Nakagawaさんにお話を伺った。

MUSIC 2022.12.23 Written By 阿部 仁知

彼と初めて会ったのは『FUJI ROCK FESTIVAL’22』の前夜祭。〈ungulates〉のレーベルメイトが集まると聞いて、僕が毎年取材チームとして参加しているFUJIROCK EXPRESSで取材したのがきっかけだった。その時の取材でも分け隔てのない〈ungulates〉の空気に気持ちのいい風通しを感じていたが、レーベルオーナーとしてさまざまなリリースやブッキングに関わり、ドラマーとしてsans visageやくだらない1日などのバンドに加わる彼の姿にも、ただただ純粋に「ファンや仲間とともにつくり遊ぶのが楽しい」というものを感じていた。

 

今回の取材で改めて話を伺う中でもKouさんの気持ちのいい人柄が言葉の端々から感じられたが、中でも印象的だったのは、影響を受けてきたアーティストやレーベルと同列に〈ungulates〉のアーティストを挙げ、自らも一人のファンだと語っていたことだ。お互いをリスペクトし合いながら切磋琢磨する〈ungulates〉の在り方に、僕もさまざまな組織やコミュニティに属する身として、とても刺激を受けた瞬間だった。

 

決して大それたことをしているわけでもなく、さまざまな巡り合いや縁の中で一歩一歩地に足をつけながら前進してきた〈ungulates〉。レーベルのこれまでとこれからを語るKou Nakagawaの姿をぜひご覧いただきたい。

ungulates

 

リリースやブッキング、ディストロなど多岐に渡り活動する東京のインディーレーベル。これまでにくだらない1日、とがる、音速ばばあ、 downt、soccer.、Curve、Lacrima、Ayumi Nakamura、Injury Tape、Shapeshifter、as a sketch pad、ANORAK!、Det Är Därför Vi Bygger Städer(スウェーデン)やBennu is a Heron(中国)のリリースや、来日公演のブッキングも多数行い、国内外を問わず存在感を示している。

 

Bandcamp:https://ungulatestokyo.bandcamp.com

Facebook:https://www.facebook.com/ungulatestokyo
Instagram:https://www.instagram.com/ungulatestokyo/
Twitter:https://twitter.com/ungulatestokyo
YoutTube:https://www.youtube.com/@ungulates6779

Kou Nakagawa

 

〈ungulates〉レーベルオーナー。現在はsans visage、 AGATHA、 Shapeshifter、 POINT HOPE、くだらない1日、Injury Tape、as a sketch pad、とがる、 HOLLOW SUNS、Curve、Ayumi Nakamuraのドラマーで、メンバー/サポート問わずこれまでも多くのバンドに関わり、ブッキングや制作なども多数手がけている。

 

Instagram:https://www.instagram.com/kounakagawa/
Twitter:https://twitter.com/KouNakagawa

写真:おみそ(fujirockers.org)
撮影協力:sound studio PACKS 北千住店

〈ungulates〉はバンドがやりたいことを手伝うプラットフォーム

──

〈ungulates〉はリリースやライブのブッキング、グッズ制作など多角的に活動されていますが、設立当初「こういうレーベルになっていきたいな」っていうレーベル像みたいなものはありましたか?

Kou Nakagawa(以下、Kou)

最初はあまりレーベルをやっていこうって意識はなくて、2013年に僕がやっていたクレイマン・クレイマンってバンドでアルバムを出したいと考えたのがスタートでした。それでボーカルのいきる(加藤生、クレイマン・クレイマン / POINT HOPE)と「せっかくつくるならタワレコとかに置きたいよね」ってことで、調べたらレーベルというかたちにしたら自主制作の音源でも置けることを知って、じゃあ「名前だけでもつけてやっていこうか」っていうのがそもそもだったので。

 

クレイマン・クレイマンもやらなくなっちゃって名前もしばらく使ってなかったんですけど、Endzweckっていうハードコアのバンドでドラムをやってる宇宙さんが〈cosmicnote〉名義でレーベルと海外のバンドの招聘もやっていて、2017年に「アメリカのGraf Orlock(グラフ・オーロック)ってバンドのツアーを1公演ブッキングしないか」と言ってくれたんです。それでライブを組むときに、「Kou Nakagawa企画じゃなくて名前をつけたいな」と思って、〈ungulates〉を使うことにしたんですよ。

──

その時、〈ungulates〉のことを思い出した。

Kou

そうなんですよ。その年の年末に、オーストラリアの友達のSam Haven(サム・ヘイヴン)というアーティストから「日本ツアーをしたい」って話があって、〈ungulates〉プレゼンツってかたちで6公演を組んだんです。そこからコンスタントに海外のバンドのツアーを組むようになって、その時に〈ungulates〉の名前を使っていました。2020年にもツアーをいくつか組んでたんですがコロナでなくなっちゃって、その前後で友達になったWorst Party Ever(ワースト・パーティー・エヴァー)のアンディやくだらない1日の高値くん(高値ダイスケ)と一緒にas a sketch padってバンドを組んで、4曲つくってデジタルでリリースする時に、「じゃあ〈ungulates〉でリリースってかたちにしていい?」ってメンバーと話しまして。

──

その辺りからレーベルとして本格化していく感じですよね。〈ungulates〉として最初から大きな野望や目的が固まってたというより、その時々にやりたいことを実現するためのプラットフォームみたいな印象もありますね。

Kou

確かにそうかもしれないですね。2021年に結成したばかりのdowntが音源の出し方に悩んでいた時に、「じゃあうちでやりましょうよ」みたいな感じでリリースの話が進んだり。例えば、バンド単位で動き方がわからない時に「遠征でブッキングの仕方がわからないとかだったら、僕ができるとこ組みますよ」とか。DIYシーンというか、助け合っていい動きになったらいいよなって思います。

──

できるところは助けるよっていう、なんか適材適所じゃないですけど。

Kou

それでいえば、2016年に僕がやってるsans visageって激情ハードコア(以下、激情)のバンドで、スウェーデンのCareless(ケアレス)というバンドの来日公演を主催したんですよ。その時に「Carelessのメンバーが半分ぐらい所属しているDet Är Därför Vi Bygger Städer(デット・アル・ダルフォル・ヴィ・ビガー・スターダー)ってバンドが、ヨーロッパのレーベルを中心に6レーベルくらい共同で出すんだけど、日本リリースとして〈ungulates〉も協力できない?」って相談されて、それで出資して〈ungulates〉でも彼らの作品をリリースしました。

──

それはとても面白い縁ですね。

Kou

レコードをつくるのってお金もすごくかかるので、激情やエモの小さなシーンでまだレーベルがついていないバンドが、世界中の僕みたいな小さなレーベルをやっている人から30枚ずつ、50枚ずつと予算を出し合って、例えば300枚分集まればリリースできるみたいな共同リリースのかたちがあるんですよ。それも今やってることの元になってるかもしれないですね。

──

〈ungulates〉が全部やるというより、今までの縁とか巡り合ってきた人と一緒にできることを模索している感じがありますね。

Kou

そうですね。中国のBennu is a Heron(ベンヌ・イズ・ア・ヘロン)っていう激情のバンドの作品も〈ungulates〉で出したんですが、これもこのバンドのメンバーのレーベル〈Qiii Snacks Records〉と台湾のUS:WE(アス・ウィー)っていうバンドのメンバーのレーベル〈22RECORDS〉とで、〈ungulates〉と中国・台湾・日本の3レーベルでリリースしたんです。

 

その頃、僕はくだらない1日にサポートドラマーとして参加していたんですけど、ともほくん(Tomoho Maeda、ANORAK!)と高値くんがすごく意気投合して、くだらない1日とANORAK!の2バンド合同で『split』(2021年)をつくりました。その時はどちらもそれまでの音源を自主制作で出してた時期だったので、「一応レーベルがつくと一つステップアップになるんじゃない?」みたいな話をして、〈ungulates〉からリリースすることになりました。

──

このスプリットあたりから今の〈ungulates〉って感じがありますよね。ちなみに〈ungulates〉って有蹄動物って意味だと思うんですけど、この名前は何か意味や想いがあるんですか?

Kou

これはクレイマン・クレイマンのボーカルのいきるが名付けた名前で、最初に出した『Good News』(2013年)のジャケットがオカピっていう動物なんですよ。

──

オカピっていうんですか。なかなか奇妙な見た目の動物ですね。

Kou

馬のような体型をしていて足だけシマウマみたいな動物なんですよ。いきるは動物がすごく好きで「蹄がある動物のように一歩一歩歩んでいきたい」と言ってた気がします。

──

そうだったんですね。今の〈ungulates〉の活動を踏まえて、Kouさんとして一歩一歩歩んでいる実感はありますか?

Kou

あると思います。クレイマン・クレイマンは僕が16歳の時に始めたバンドで、そこから知り合った人とsans visageを始めたのが20歳の時で、その仲間とのつながりで今もずっと続けられているなとすごく思うので。突然大きくなるというわけではなく細々とですけどね。

──

大それたことをいきなりしてるわけじゃないけど、いろんなつながりの中で一歩一歩着実に歩んできたことが今ちゃんと広がりになっている印象がありますね。お話を聞いてとてもしっくりきました!

Bandcamp愛と尊敬するレーベルから影響を受けたDIY精神

──

先ほどもお話に挙がった〈cosmicnote〉や、マレーシアの〈Terr Records〉など、HOLIDAY! RECORDSのインタビューでいろんな影響を受けたレーベルを挙げてたと思うんですけど、特に影響を受けたレーベルはありますか?

Kou

やっぱり〈cosmicnote〉の影響は大きいですね。〈cosmicnote〉は僕がやっていること・やろうとしてることの基盤で、このレーベルを運営している宇宙さんは、僕がバンドを始めたりする前の、インターネットも今ほど普及してない2000年代初頭から海外のバンドの来日ツアーをブッキングしたりしてる方で、とてもリスペクトしています。宇宙さんは海外のバンドが日本でツアーをする方法をつくってきた人の一人で、bachoやakutagawaとか僕が音楽的にも好きなバンドのリリースもいっぱいしていて、ブッキングでもリリースでもいろいろ影響を受けています。

──

Kouさんの姿勢の話にもつながってそうですね。自らつくって切り開いていくみたいな部分。

Kou

そうですね、宇宙さんは前例がないところからやってる人なので。彼の昔のブログやインタビューをずっと読んでた時期があって、家庭用のTシャツプリントキットで自分のバンドEndzweckの物販Tシャツをつくってたら、友達のバンドから「うちのもやってよ」って感じで仕事になっていったという話がとても好きで。

 

あと、デュプリケーターというマスター音源を入れたらCD-Rを10枚ぐらい一気にコピーしてくれる機械があって、僕の世代だと高校生の時にすでに練習スタジオに置いてあったので、自分のデモCDをつくったらそれで焼き増ししてたんですよ。宇宙さんはその機械を、まだ誰も持ってない時代に見つけて導入して、自分のCDをコピーしていたら友達から「うちのもやってよ」って言われてやってったのが、ちょっとずつ仕事になって大きくなって会社になっていったという。

 

〈cosmicnote〉はレーベルもブッキングもやるんですけど、COZMEDIAっていう名前でプリントの事業もやっているんですよ。自分がやりたくて始めたことが求められて大きくなって仕事になっていくみたいな、そういうストーリーにもとても影響を受けていて。

──

とても面白い話ですね。誰もやっていないことを自らやって、それがKouさんの高校生の時みたいに次のスタンダードになっていくというか。いろんなレーベルを見てると思うんですけど、何か〈ungulates〉として意識している部分はありますか?

Kou

まだ探りながらやっているところなんですけど、僕が中高生の時はもちろんバンドが好きになってCDを買うこともありつつ、レーベルを好きになってそのレーベルのYouTubeチャンネルで新しい音楽を探してみたりもしていました。僕が高校の終わりくらいからBandcampが欧米では結構使われていて、20歳前後はよくそこで音楽を探してたんですよ。というのはレーベルのBandcampのページがカタログみたいになってるのがすごく好きで。

──

確かに〈ungulates〉のページもそういう感じはありますよね!

Kou

それはちょっと意識してますね。この前downtとくだらない1日のLPをリリースした〈Dog Knights Productions〉っていうイギリスのレーベルをリスペクト、というか真似してやってるって感じで(笑)。型番とバンド名とタイトルの並びとか。

Bandcampの〈ungulates〉のページ
──

言われてみると(笑)。このスタイルかっこいいですよね。

Kou

あとtoeとかLITEとか、最近だとシンガポールのSobs(ソブス)とか台湾のElephant Gym(エレファント・ジム)の作品をアメリカでリリースしてる〈Topshelf Records〉とかのBandcampもこんなスタイルですね。好きなレーベルを挙げたらキリがなくなってくるんですけど(笑)。ジャケットを一覧で見れるし、気になったらすぐに聴けたり、プラットフォームとしてBandcampが大好きで。僕もそうなんですけど小さなレーベルが好きな音楽ファンは世界中にいるので、「日本のちっちゃいレーベルからいろんな作品を出してるんだな」みたいなことが、捉えやすかったらいいなってことは〈ungulates〉でも意識してますね。

──

単一の作品だけじゃなく、一覧になることで見えるつながりや広がりってことですよね。

Kou

僕もバンドを好きになったら、そのバンドの友達が何をやってるのかとか、そのバンドがツアーをする時に誰とやってるのかとか、リリースしてるレーベルってどういうところだろうとか、それがすごく気になって新しい音楽やレーベルを知ったりするので、そういう意味で一つまとまっていたいなって部分はありますね。一人でやってるので基本的には自分が好きな音楽だってことが一番なんですけど、例えばLacrimaとdowntとか、Ayumi Nakamuraとsoccer.とか、パッて聴いたら全然違う音楽でも、レーベルのフィルターがあることでつながりになるというか。そういうことは考えていますね。

──

また別の文脈が生まれるところがありますよね。

Kou

例えば、くだらない1日のライブに来てくれる人が「〈ungulates〉の他のバンドも好きで、とがるもCurveもかっこいいですよね。downtのライブもこの前行ったんです」みたいなことを言ってくれることがすごくうれしいし、レーベルをやっていてよかったなと思いますね。

 

あと、Ayumiくんもアウトプットはインディーフォークだけど、彼もAmerican Football(アメリカン・フットボール)とか、オルタナティブロックとかポストロックも好きだし、インプットは僕や他の所属バンドとも共通する部分があって。僕はBon Iver(ボン・イヴェール)が大好きで、Ayumiくんと一緒にやっているPOINT HOPEというバンドではBon IverとかThe National(ザ・ナショナル)みたいなことをやりたいなってところもあって、でもボーカルのいきるはずっとbloodthirsty butchersが好きだし。

──

いろんな趣味趣向が混ざり合う中で新たな表現が生まれるわけで、それをいろんなバンドでやってるからさらに広がりになってる感じなんですね。

インディーレーベルの規模感だからこそ描けるさまざまな方向性

──

これまでの話や、音楽性や活動の方向性を見ていても、〈ungulates〉は結構海外志向みたいなのもあるのかなと思ったのですがどうですか?

Kou

海外とのつながりはすごく意識してますね。コロナ禍で本格的に始まったこともあってあまり最近やれてないんですけど、元々僕が組んでた来日ツアーって、50人のスタジオライブとかが多かったんですよ。SMASHとかCreativemanみたいな大きい会社でやれない規模感の来日公演を、日本でもっとやれるようにしたい気持ちがあります。

 

あと「アジアの中での日本のバンド・レーベルのありかた」みたいなことを最近結構考えてて。シンガポール、インドネシア、マレーシア、フィリピンとかのバンドって、それぞれ東南アジアの中でツアーしあったり交流したりしてるんですけど、日本のバンドやアーティストもその輪に入っていけたらもっとシーンが活性化して面白くなるんじゃないかなと思っています。最近は日本から台湾にライブしに行くバンドも増えてきているし、僕もアジア圏はいろいろなバンドでツアーに行ったり東南アジアのバンドやレーベル・プロモーターとのつながりもあるので、そういうアジア圏との交流は〈ungulates〉として今後もっと挑戦していきたいことの一つです。

──

僕も「アジアシーンみたいなものがもっと活性化するといいな」ってここ数年ずっと思っていまして。近頃、交流も目に見えて盛んになってきてますよね。あと大阪だったら〈ICE GRILL$〉とか〈fastcut records〉が主催してる〈CONPASS〉とか〈SOCORE FACTORY〉でやる規模感の来日公演がすごく好きで、そういうところも多分一つ共鳴するところですよね。

Kou

いいですね。僕もそういうライブによく行ってます。あとmalegoatやThe Firewood Projectのはじめさん(岸野一=The Lost Boys)が組む欧米のエモ・インディーアーティスト来日公演とか。そういう意味では「海外との」とか「アジアの中での」っていう部分は今後も意識してやっていけたらと思いますね。

──

以前のくだらない1日のインタビューでは、コロナ禍でライブがあまりやれなかったから〈ungulates〉で音源をリリースしていたと話してましたが、実際ライブもやれるようになってきて、そこで得ている手応えみたいなものってありますか?

Kou

んー、僕がやっているsans visageとかAGATHAってバンドはコロナ禍はかなりライブが減ったんですけど、くだらない1日は「制限でも無観客でもなんでもいいからもっとやりたいんです」ってことで、常にその時やれることを考えながらライブを続けていたんですよね。だから「やっとライブができる」みたいな感覚はあまりなくて。ブッキングしたイベントがキャンセルになったりしたことはとてもきつかったので、それが減ってきたのはいいことですけど、それよりも早く海外バンドの来日公演とか海外遠征をしたい(笑)。そういう欲求の方が今は大きいかなって思いますね。

──

Bandcampのこだわりの話がとても面白かったんですけど、リリースもカセットだったりLPだったりいろいろと出してて、グッズも香水出すとか言ってました?

Kou

くだらない1日でやってますね(笑)

──

めっちゃいいなって思ってました!音楽媒体にせよグッズにせよバリエーションがいっぱいあって、フォーマットに縛られていないというか。何か考えがあるのかなっていうのは気になります。

Kou

CDだと最低ロットが何百枚何千枚って話になっちゃうけど、カセットテープなんかだと小ロットから低リスクでやりやすいって部分もあって。

──

やりたいことをやるには適してるサイズ感というか。

Kou

そうですね。あと僕自身もレコードが好きなので、何百枚の限定プレスのうちの一枚を自分が持ってる喜びみたいなのってあるじゃないですか。コレクター精神をくすぐる部分もいいですよね。それとカセットはフォーマットとしてかわいいからってのも大きい(笑)。実は最初as a sketch padとか、くだらない1日 / ANORAK!のスプリットを作った時は「CDの時代はもう終わっちゃうかな?」と思ってたんですよ。なのでカセットだけでやっていこうかなって時もあって。でもそんなこともなくて。

──

意外と根強い人気がありますよね。

Kou

そうそう、僕自身はCDを買う量も減っちゃったけど、やっぱりCDで欲しいって人もいるので、downtの1st以降のリリースはCDも基本的に出してるかな。LacrimaはセルフでCD-Rを出してたので、「じゃあうちからはカセットのみのリリースってかたちにしようか」って感じでしたけど。

──

やっぱり求める人もいますもんね。僕も近頃はCDを買う量もかなり減ってるし、カセットやレコードはまだわかりやすいですが「CDってどういう魅力があるんだろう?」みたいなことをよく考えるんですよ。Kouさんはどう思いますか?

Kou

つくるようになってから思ったんですけど、逆にCDのジュエルケースがかわいいなって思ったりしてますよ(笑)。一周回って系の話ですけど、高校生の時はタワレコはもちろんブックオフやディスクユニオンとかでCDを買いまくってて、あの時のケースを開いてコンポでかけたりパソコンに取り込んだりとか、そういうことばかりしてた時の感触を改めて思い出して。あとCDってカセットやレコードよりもデザインできる場所が多かったり、ブックレットもこだわることができるのもあって、作るのは大変だけど完成した時かっこいいなってのもありますね。

ファンの一人としてお互いをリスペクトする〈ungulates〉ファミリーの在り方

──

〈ungulates〉の活動の中で大切にしていることだったり、「こういうことはしないようにしよう」みたいに思ってることってありますか?

Kou

一番大切にしているのは、あくまでもアーティストがやりたいことをサポートするってことですね。多分大きいレーベルとかマネジメントだと「必ずこのペースでリリースして、ツアーをやって、次はこうで」っていうスケジュールや決まりがあると思うんですけど、そういうことはまったく考えてなくて。「バンドの意向が最優先」ってことを大切にしています。逆に「もっと大きいところに行きたいんですよね」ってなった時に「いやいや、うちでやっていこうよ」とかもまったく考えてなくて。僕にはできない範疇のこともたくさんあるので、それだったらどんどんステップアップしていってもらえたらいいなって思うし。

──

やっぱりKouさんができることの中で、バンドのやりたいこととうまく合致するなら手伝うよみたいな考え方がベースにあるんですね。できないことはできないことと理解した上で、できることをしているんだなって聞いてて思いました。

Kou

バンドも僕もお互い「こういう関わり方だったらプラスになるかな」っていうことが大事ですよね。例えばsans visageもAGATHAも僕以外のメンバーは普段は働いてて、土日中心でライブをして、長期休みを使える時に海外ツアーに行けたらいいねみたいな感じで活動しているんですけど、一方でくだらない1日やとがるはどんどんと規模を大きくしていきたい願望を持っていて、チャンスがあればどんどん食らいついていきたいっていう活動スタンスの違いもあったりする。その違いも面白くて。僕がたくさんのバンドでドラムを叩いてることもレーベルでブッキングをすることと感覚は変わらないですね。僕が関わってヘルプになるんだったら可能な限り手伝うよって感じ。

──

Kouさんの参加バンドの数にも驚かされるし、単純にバイタリティがすごいなと思ってたんです。大変なことも当然あると思うんですけど、Kouさん自身それを苦とも感じてないというか、楽しんでやってるような印象があるから、すごくいいなって思ってます。

Kou

それはやっぱり好きな音楽をやってるからってところはあるかな。基本的には「好きなものがもっと広まったらいいのにな」っていうところからスタートしてるので、忙しくても楽しんでやってるなって思います。めちゃくちゃリリースにつまる時もあったり、ライブで忙しいこともあるけど、常に気にしてくれる人がいて、「今度音源を出したいんだけど相談できないかな」って言ってくれたりして、僕自身も「ツアーやりたいな」とか「こういうのリリースしていきたいな」とか、次にこういうのがしたいなって気持ちがあればやっていける、みたいな感じですね。

──

あと〈ungulates〉の連帯感というか、独特の関係性を感じていて。かといって馴れ合いでもなくて、友達でもバンドメンバーでもレーベルメイトでもライバルでもあると思うけど、どれとも少し違うというか。フジロックの時にKouさんが「ungulatesファミリー」って表現をしてたのが印象的だったんですが、ungulatesファミリーってKouさんにとってどういう存在なんでしょうか?

Kou

なんだろう。とがるのナカニシくん(ナカニシイモウ)と「あくまでもフォーマットとしてはJ-ROCKでありたいけど、グランジやオルタナ、エモといった音楽の要素も取り入れたい。かといって中途半端だとどっちのファンからも聴いてもらえないから、どちらにもアプローチできる魅力がないといけないよね」みたいな話をよくするんですよ。そういう悩みとか考えとかを共有しやすい関係性。なのかなあ。難しいな(笑)。でもみんなお互いの音楽をリスペクトしてるってのは大きい部分かもしれないです。「あれはあんま好きじゃないんだよね」みたいなことは誰も言ってないと思うんですよ。みんなそれぞれの音楽が好きで、それがとてもいいなって思います。

──

例えば「あいつらは売れてるのに俺らは」みたいな焦燥感だったり、「あいつらより俺の方がいいぜ」みたいな気概もそれぞれあると思うんですけど、でもそれはそれとしてリスペクトし合ってるというか。

Kou

自分より人気があるなって感じてるんだとしたら、「どこでそうなってるんだろう?」って分析する人が多いかな。「これよりこれの方が良い悪い」みたいな話にはならない気がします。ある意味ライバルだし、でもリスペクトし合う仲間だし、僕としては今後は他のところでリリースすることがあっても構わないどころか、それがステップアップになるならめっちゃいいじゃんって思うけど、それでも一回関わったってのもあってお互い気にし合っていきたいし。

──

多分そういう感じが僕もすごくいいなって思ったんですよね。気持ちのいい切磋琢磨というか。それって自然とそうなってるんですかね?だって組織とかコミュニティの難しさって絶対あるじゃないですか。

Kou

確かに言われてみれば。僕があんまり組織組織してないところも大きいのかな。

──

確かにいい意味で「遊び仲間」って感じがします。ライブに行った時もその連帯感みたいなところにファンも気持ちよく巻き込まれて、ここも僕の居場所だなと自然と思えたというか。

Kou

多分僕も〈ungulates〉からリリースしているアーティスト達のいちファンなのが大きいですね。くだらない1日とか、ShapeshifterやInjury Tapeはメンバーなのでそこまで客観視できてないかもしれないけど、downtもLacrimaもすごく好きだし、Curveだって僕がずっとファンだっただけなんで(笑)。とがるも「ドラムサポートしてくれませんか?」ってなった時に音源を送ってもらって、かっこいいなって思ったところから関わってるので、基本的にはやっぱりファンっていう部分は僕もリスナーと一緒で。

──

ファンっていいですね。すごくしっくりきました。僕が「downtやべえ!」って言ってるのと同じ目線で見てるってことですよね。

Kou

レーベルをすることって、僕がファンとして好きなものを集めてるみたいなところもあるわけですよ。それで「私もこれ好きなんです」って、他のリリースを聴いてくれたりレーベルメイトのライブに行ってくれるのがすごくうれしくて。ちょっと言い過ぎかもしれないですけど、〈ICE GRILL$〉やThe Lost Boysの来日招聘とか、もちろんSMASHとかの大型フェスもなんでもそうなんですけど、そういう場所に足を運んで、「これがあるから頑張れる」みたいな存在に〈ungulates〉もなっていけたらいいなって思っています。

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