REVIEW
till the end(10th Anniversary Edition)
Curve
MUSIC 2022.12.23 Written By 小倉 陽子

自分の中から呼び起こされる、終わりまで駆け抜けるためのエナジー

2012年に〈Impulse Records〉よりリリースされた3rd Album『till the end』を全曲リマスターし、〈ungulates〉からリリースしたリイシュー作品。『till the end』は2011年の東日本大震災の影響を多大に受けて制作された作品だが、純粋にCurveの10周年を記念した作品だとしても、未曾有の感染症拡大の中生きざるを得ない2022年現在の私たちにとっても、意味深いものとして響くことは間違いないだろう。

 

M1“Dawn Promised”の夜明けを待つ夜の中にいるような冷たい静けさを感じさせる美しいギターと、その中で体温を伴ったYusei Ra(Vo / Gt)の歌声。そこにドラムとベースが合流し感情がじわじわ昂っていくと、トレモロで暗く冷たい夜から何とか抜け出そうとする一筋の希望が溢れだす。高揚したままM2“Window Children”、M3“Till The End”と一続きに聴き進めていくと、自然と自分の中からも何か沸き立つものを感じるが、これだけ力強く走り抜けるエナジーは一体どこから湧いてくるのだろうともふと思う。

M4“Running Through The Dawn”の歌詞に出てくる「The sun is shining in your eyes」というフレーズから確信するのは、夜を切り開く力を一人ひとりが持っていて、その力を信じるか否かだということ。そのことは己を奮い立たせるように儚くも力強く歌うYusei Raの歌声が身をもって示しているようでもある。“Till The End”の歌詞で、愛や与えることは自分自身で学ぶものだと定義しているし、アルバム全体に共通する内省を後押しするような美しく力強いバンドサウンドが、前の見えない暗闇の中でも光を見ることを手放さない意思ある希望を始終感じさせるのだ。

そうして走り抜けた先、M11“No End”に見る「end」のひとつは「死」であるが、私たちは10年前も今もただでさえ死について考える時間が多くあった。ただそれだけでなく、このリイシュー盤で追加収録されたM12“Cellar Door”でday dream、つまり眠って見る夢ではなく自分自身で描いた夢が必要であると歌い出しで述べていることや、幾度となく「理由は要らない」と歌っていることから、各々の人生を紡いでいるプロジェクト一つひとつの結末についても重ねることができる。

 

いずれにせよ、社会の影響を受けたとしてもあくまでも終わりを描くのは自分自身に委ねられていていいと思わせてくれるし、誰しもに終わりまで走り切る力があると、思わせてくれる作品なのだ。

till the end (10th Anniversary Edition)

 

アーティスト:Curve
仕様:CD / デジタル
発売:2022年8月26日
レーベル:ungulates
配信リンク:https://linkco.re/cRUyYG3C

 

 

収録曲

1. Dawn Promised
2. Window Children
3. Till The End
4. Running Through The Dawn
5. The March
6. The Long Distance Of The Night
7. When We We’re There
8. December
9. The World You Loved
10.Over The Hill
11.No End
12.Cellar Door

Curve

 

2003年に2ピース(ギターボーカル&ドラム)編成にて結成、現在はYusei Ra(Vo / Gt)、Kenta Inoue(Ba)にKou Nakagawaを迎え3ピース編成で活動する東京拠点のバンド。
2008年までに2枚のアルバムをリリース。2012年、3ピースで初となる3rdアルバム『till the end』をimpulse recordsよりリリース。シングルリリースや自主企画イベントなどを続ける。2022年8月には完売していた『till the end』のリイシュー盤『till the end (10th Anniversary Edition)』をリリースした。

 

 

Twitter:https://twitter.com/curve_jp
Instagram:https://www.instagram.com/curveofficial_jp
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCLN5mwbDuBQEua_rnxATR7Q

WRITER

RECENT POST

COLUMN
編集部員が選ぶ2022年ベスト記事
INTERVIEW
流れる日々の中で生まれる、渚のベートーベンズの音楽
COLUMN
Indies New Encounters Playlist 2022.01
COLUMN
編集部員が選ぶ2021年ベスト記事
COLUMN
Indies New Encounters Playlist 2021.11
COLUMN
たなからルーツ Shelf_02 - ナルコレプシン 坂田直樹 –
REVIEW
CIFIKA – HANA
INTERVIEW
みんなの劇場が無い‼ 私たちが自分の言葉で語るための場所づくりを〈THEATRE E9 KYOTO〉…
ART
COLUMN
たなからルーツ Shelf_01 - TheStoneThatBurns アベヒロキ –…
COLUMN
【SXSW2020私ならこれを見る:小倉 陽子】CIFIKA,TENGGER:K-POPを拡張してい…
INTERVIEW
確かさの揺らぐ現代における、孤独と共存の媒介者-烏丸ストロークロック『まほろばの景2020』インタビ…
ART
REPORT
小倉陽子が見たボロフェスタ2019 2日目
REPORT
小倉陽子が見たボロフェスタ2019 1日目
INTERVIEW
ZOOZ始動インタビュー -2002年の音楽が繋ぐ、これまでのバンド活動と現在。-
INTERVIEW
諦めにも似た音楽への深い愛 – NYAI『HAO』リリースインタビュー –
REPORT
【小倉陽子の見たボロフェスタ2018 / Day3】MONO NO AWARE / 清竜人 / 在日…
REPORT
【小倉陽子の見たボロフェスタ2018 Day2】ハンブレッダーズ / Dos Monos / tri…
REVIEW
NYAI – OUT PITCH
REVIEW
HO17 – HOLIDAYS OF SEVENTEEN
INTERVIEW
1+1+1+1に成ったthe coopeezの無限大~京都ワンマンライブ直前インタビュー
INTERVIEW
Post Modern Team 3rdアルバム『COME ON OVER NOW』リリースインタビ…
REPORT
【小倉陽子の見たボロフェスタ2017 / Day3】東狂アルゴリズム / OGRE YOU ASSH…
REPORT
【小倉陽子の見たボロフェスタ2017 / Day2】接近!UFOズ / シンガロンパレード / H …
REPORT
今を生々しく鳴らす3組の、美しい物語の途中~『in-phase KYOTO』 @ 京都GROWLY …
COLUMN
俺の人生、三種の神器 -小倉陽子 ③続ける人たち-
INTERVIEW
my letter×スーパーノアリリース対談「バンドって、辞めるほどのことじゃない」- 京都で活動を…
REPORT
ジャンルという言葉を簡単に越境するWhy?という体験 WHY? Japan Tour @UrBANG…
INTERVIEW
【実は知らないお仕事図鑑】P2:謎クリエイター 吉村さおり(SCRAP)
SPOT
こころ
COLUMN
俺の人生、三種の神器 -小倉陽子 ②舞台に立つ-
COLUMN
俺の人生、三種の神器 -小倉陽子 ①家ガール-
REPORT
企画屋UTAGEが冬の京都にぶち込む「遅れてきた夏フェス」ことパニックバカンスとは?イベントメンバー…
REPORT
【小倉陽子の見たボロフェスタ2016 / Day2】Limited Express (has gon…
REPORT
【小倉陽子の見たボロフェスタ2016 / Day1】台風クラブ / あっこゴリラ / CHAI / …
REPORT
『ウサギバニーボーイさん』祝賀会 @ 京都GROWLY ライブレポート
INTERVIEW
ボロフェスタ15周年記念特集・『ボロフェスタってなんなんだ?』 – ニーハオ!編 …

LATEST POSTS

REPORT
地域のライブハウス、フェスはどうやって生き残る?アジア各国での取り組みーTRENDY TAIPEIパネルディスカッション

2024年9月9日(日)、台北ミュージックセンターで開催された東・東南アジアのイノベーション×音楽の…

REPORT
台北都市型フェス“Jam Jam Asia”はアジア音楽の“今”を見るショーケース―TRENDY TAIPEI 2024前編

2024年9月8日(土)、9日(日)に都市型音楽イベント『JAM JAM ASIA』が台北ミュージッ…

REVIEW
今度のコンセプトは教祖!?音楽だけに収まりきらないロックンロール・クリエイティビティーゆうやけしはす『ロックンロール教団』

ロックンロールに依存し、ロックンロールに魂を売り、ロックンロールに開眼する。彼の活動を追っていると、…

COLUMN
【2024年9月】今、京都のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「現在の京都のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」「今」の京都の音楽シー…

COLUMN
【2024年9月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「大阪のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」「今」の京都の音楽シーンを追…