COLUMN

Indies New Encounters Playlist 2022.01

音楽配信サービスの恩恵もあり、フィジカルな出会いにとらわれずインディー・ミュージックとも出会いやすくなった今日この頃。ライブ好き/インドア派の編集部員・小倉がここ3カ月にリリースされたインディーズ音源の新譜の中から、毎月テーマを決めて5曲をセレクトします。ショートレビューと合わせて、新しい楽曲との邂逅になればうれしいです。

MUSIC 2022.01.28 Written By 小倉 陽子

2022年01月のNew Encounters5

音に耳を澄ませ、内省の足跡を追う

音楽をより深く味わいたいと思ったとき、私は制作者たちが楽曲づくりを通じて導き出した信条を探しに行く。それは歌詞に表れる言葉だけでなく、じっと耳を澄ませて聴いていると、サウンドやリズムからも訴えかけてくるもの。あらかじめ用意したテーマというより、音楽をつくることで自分の中を探求するように見つけ出したそれぞれの言語。さらりと聴き流せるのがプレイリストの良いところかもしれないけど、つくり手が内省した軌跡をなぞるように、じっくり聴いてほしい5曲だ。

『N.E.O. / THE FIRST TAKE』CHAI

2017年リリースの作品を、”THE FIRST TAKE”にて一発録りしたものの音源化。今でこそルッキズムやボディポジティブという言葉は浸透しつつあるが、彼女たちの信念である「NEOかわいい」はいち早くこの価値観の背中を押した。マインドだけでなく、瞬く間にアーティストとして活動の場を海外にも広げ、作品もパフォーマンスも高い評価を得てきたCHAIだからこそ、今人気のコンテンツで再び録音された「自分たちの声明」に説得力が増す。素直に緊張感を滲ませる飾り気の無さと、整然としながらも迫力のある演奏に、NEOの意志をあらためて感じるのだ。

 

リリース:2021年11月16日(配信シングル)

公式web:https://chai-band.com/

『アメリカ』渚のベートーベンズ

1960年代ロックの起源を感じるサウンド、繰り返し聴きたくなるメロディ、コーラスも含め懐かしさや安心を覚える歌声。それらに加え歌詞全体に滲む、人の一生や国の歴史などを感じさせる長い長い時間軸は、じっくり楽曲と向き合う時間にも置き換えられそうだ。ここ数年レコードやカセットテープでリリースする、大量消費的でないリリースを試みるアーティストも多い。本作を始めアルバム『AFRICA』は、そんなフィジカルな手触りまですべて音に託したような、味わい深さを体験できる。

 

リリース:2021年10月20日(3rdアルバム『AFRICA』収録)

公式web:https://www.nagisanobeethovens.com/

Twitter:@Nagisa_no_Btvs

『対話』イ・ラン

伴奏も全て人の声だけを重ね構成されたこの楽曲は、肉体はなんて音楽的なんだということをあらわにする。その伴奏の中で力強く、でも優しく、ステレオの左右で歌う2人のイ・ラン。著書『悲しくてかっこいい人』の中で、イ・ランはいつ何時も自身の顔や身体を鏡でチェックすると述べている。「自分に向き合う」とはよく言うけれど、彼女が言うには思考と同じだけ身体を管理することが必要、ということらしい。肉体と精神を相互に見つめ、自分という存在を確認していく、それが自分とも他人とも関係を築いていくことの始まりのようだ。

 

リリース:2021年11月15日(3rdアルバム『オオカミが現れた(늑대가 나타났다)』収録)

レーベル:スウィート・ドリームス・プレス

『dodone』キツネの嫁入り

つい言葉に耳を惹き付けられてしまう、詩を朗読するような聴き心地の歌と、簡単にリズムに乗れない変拍子の楽曲は、キツネの嫁入りの特徴的な表現だといえる。今作ではより一層緊張感を帯びたドラムや、バイオリンやコントラバスが奏でる叙情的な音が、淡々とした歌との対比によって歌詞の批評的な部分を浮かびあがらせる。世論に巻き込まれまいと自分やその周縁の言葉を守るとき、そこに生まれる摩擦や葛藤のザラつき。それすらエネルギーに変える意志が張り詰めた音になって、ぼんやり生きる私の頭を揺さぶってくる。

 

リリース:2021年10月27日(5thアルバム『Just scratch the surface』収録)

公式web:https://madonasi.com/kitsune/

Twitter:@kitune_official

『種を蒔く(SEEDING)』LOOLOWNINGEN & THE FAR EAST IDIOTS

種を蒔くと、芽が出て花が咲いたり実が成ったりする。「種を蒔く」という行為が示しているのは、世の中の何かしらの事象は必ず因果関係の中にあるということだと思う。浮遊感のあるギターの音に相対して激しく存在感のあるドラム、強く真っ直ぐ歌われる歌は、誰のせいでもないような事象や、変えることのできない環境に対して、それでも未来に向かって行動を起こし、自らで関係を結んでいくという意志。それは信心でもあり、覚悟でもあるのだろう。自分たちの作品だけでなく日本中でオルタナティブを体現している音楽を集めた『MITOHO』のようなコンピレーションアルバムを先導していることなど、ルロウズの信念そのもののようにも感じるのだ。

 

リリース:2021年11月05日(3rdアルバム『PAREIDOLIAS』収録)

公式web:http://www.loolowningen.com/

Twitter:@LOOLOWNINGEN

WRITER

RECENT POST

COLUMN
編集部員が選ぶ2022年ベスト記事
REVIEW
Curve『till the end(10th Anniversary Edition)』 R…
INTERVIEW
流れる日々の中で生まれる、渚のベートーベンズの音楽
COLUMN
編集部員が選ぶ2021年ベスト記事
COLUMN
Indies New Encounters Playlist 2021.11
COLUMN
たなからルーツ Shelf_02 - ナルコレプシン 坂田直樹 –
REVIEW
CIFIKA – HANA
INTERVIEW
みんなの劇場が無い‼ 私たちが自分の言葉で語るための場所づくりを〈THEATRE E9 KYOTO〉…
ART
COLUMN
たなからルーツ Shelf_01 - TheStoneThatBurns アベヒロキ –…
COLUMN
【SXSW2020私ならこれを見る:小倉 陽子】CIFIKA,TENGGER:K-POPを拡張してい…
INTERVIEW
確かさの揺らぐ現代における、孤独と共存の媒介者-烏丸ストロークロック『まほろばの景2020』インタビ…
ART
REPORT
小倉陽子が見たボロフェスタ2019 2日目
REPORT
小倉陽子が見たボロフェスタ2019 1日目
INTERVIEW
ZOOZ始動インタビュー -2002年の音楽が繋ぐ、これまでのバンド活動と現在。-
INTERVIEW
諦めにも似た音楽への深い愛 – NYAI『HAO』リリースインタビュー –
REPORT
【小倉陽子の見たボロフェスタ2018 / Day3】MONO NO AWARE / 清竜人 / 在日…
REPORT
【小倉陽子の見たボロフェスタ2018 Day2】ハンブレッダーズ / Dos Monos / tri…
REVIEW
NYAI – OUT PITCH
REVIEW
HO17 – HOLIDAYS OF SEVENTEEN
INTERVIEW
1+1+1+1に成ったthe coopeezの無限大~京都ワンマンライブ直前インタビュー
INTERVIEW
Post Modern Team 3rdアルバム『COME ON OVER NOW』リリースインタビ…
REPORT
【小倉陽子の見たボロフェスタ2017 / Day3】東狂アルゴリズム / OGRE YOU ASSH…
REPORT
【小倉陽子の見たボロフェスタ2017 / Day2】接近!UFOズ / シンガロンパレード / H …
REPORT
今を生々しく鳴らす3組の、美しい物語の途中~『in-phase KYOTO』 @ 京都GROWLY …
COLUMN
俺の人生、三種の神器 -小倉陽子 ③続ける人たち-
INTERVIEW
my letter×スーパーノアリリース対談「バンドって、辞めるほどのことじゃない」- 京都で活動を…
REPORT
ジャンルという言葉を簡単に越境するWhy?という体験 WHY? Japan Tour @UrBANG…
INTERVIEW
【実は知らないお仕事図鑑】P2:謎クリエイター 吉村さおり(SCRAP)
SPOT
こころ
COLUMN
俺の人生、三種の神器 -小倉陽子 ②舞台に立つ-
COLUMN
俺の人生、三種の神器 -小倉陽子 ①家ガール-
REPORT
企画屋UTAGEが冬の京都にぶち込む「遅れてきた夏フェス」ことパニックバカンスとは?イベントメンバー…
REPORT
【小倉陽子の見たボロフェスタ2016 / Day2】Limited Express (has gon…
REPORT
【小倉陽子の見たボロフェスタ2016 / Day1】台風クラブ / あっこゴリラ / CHAI / …
REPORT
『ウサギバニーボーイさん』祝賀会 @ 京都GROWLY ライブレポート
INTERVIEW
ボロフェスタ15周年記念特集・『ボロフェスタってなんなんだ?』 – ニーハオ!編 …

LATEST POSTS

COLUMN
【2024年3月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「大阪のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」「今」の京都の音楽シーンを追…

REVIEW
黒沼英之「Selfish」- 息苦しい時は、ただ環境が変わるのを待つだけでいいんだよ

シンガーソングライター・黒沼英之が10年振りとなる活動再開後、2作目としてリリースした“Selfis…

COLUMN
【2024年3月】今、京都のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「現在の京都のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」「今」の京都の音楽シー…

REVIEW
Forbear『8songs』―歪な自己内省の衝突音が、荒々しくもメランコリックに響き渡る

「Tokyo Positive Emogaze」を標榜する4人組、Forbearが2024年3月1日…

COLUMN
【2024年3月】今、東京のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「東京のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」京都、大阪の音楽シーンを追っ…