COLUMN

俺の人生、三種の神器 -小倉陽子 ①家ガール-

OTHER 2016.12.12 Written By 小倉 陽子

 

▼俺の人生、三種の神器とは?

人生の転換期には、必ず何かしらきっかけとなる「人・もの・こと」があるはずです。そのきっかけって、その当時は気づけないけれども、振り返ると「あれが転機だった!」といったことはありませんか?そんな人生の転機についてアンテナ編集部で考えてみることにしました。それがこの「俺の人生、三種の神器」。

折角なのでもっとアンテナ編集部員ひとりひとりのことを知ってもらいたい!そんな気持ちも込めたコラムです。これから編集部員が毎週月曜日に当番制でコラムを更新していきます。どうぞお楽しみに!

 

 

 

私は、ライブハウスなどに遊びにいって誰かにお会いした際「家ガール」と名乗ることがあります。初めてお会いした方に、または何度目かの再会の時に、面白半分に、もしくは怪訝そうに、またあるいは慈悲深く真剣な眼差しで問われることがあります。

 

 

「家ガールって、何なんですか?」 

 

 

 

“家ガール”とは

 

2011年の話。当時私は仕事に明け暮れ、ほとんどの時間を職場で過ごしていました。家は帰ったら眠るだけの場所。仕事っていう言い訳があって、職場っていう居場所があるから、さも充実してるように見える毎日。そして仕事を言い訳に色んな大切なことを後回しにしていました。だけど休みもどんどん削られていって物理的にしんどいなぁ、私何やってるんだろうなぁ、と感じていて。もはや充実しているというペースから仕事量が逸脱し始めていたし、だんだん悪化する人間関係にも疲弊して、何より気持ちが仕事について行かない。そんな時とうとう、大きく体調を崩して入院する羽目に。思った以上に病は大事になり、それが原因で仕事も辞めてしまいました。

 

 

健康だけが取り柄っておごっていたら、その健康を失ってしまった。仕事だけが生きがいって周りに目もくれずにいたら、その仕事も失ってしまった。当たり前に自分に備わっていると思っていた取り柄も生きがいも無くなって、自分がゼロになってしまった。

 

 

働かずに病を抱えて家で過ごす日々は、情けなくて嫌気が差しました。でもふと、入院中に自分の病気について、この先の生活のことを知りたくて、同じ症状を抱えて生きている人のブログを探したことを思い出して、自分も同じ境遇の人のために、今どうやって生活しているかを発信していこうと思って始めたのがブログを書くことでした。「家ガール」っていう名前はそのブログを書くに当たってつけたハンドルネームで、ゆるふわサブカル系女子を森ガールとか、アクティブ且つオシャレに山登りをエンジョイする女子を山ガールとか言っていたので、私は誰にも会わずどこにも行かず、ジメジメとインドアに暮らして差し詰め家ガールだな、ってちょっと皮肉を込めて自分に付けたあだ名でした。

 

 

 

ゼロからの、アイデンティティ回収

 

必要最小限の家事と「ブログを書く」という何てことない日課が、自分を確認する唯一の作業でした。結局そのブログには、何でもない心情の吐露や診察日記みたいなものをダラダラと垂れ流していただけなのですが、好きな音楽に馳せる想いなんかを混ぜて書いているうちに、だんだん同じ音楽が好きな人たちとブログを通じて交流するようになりました。自分の書く文章に誰かが反応してくれる、それは家の中のパソコンの前で得られる最大の悦びだったように思います。日々のネットサーフィンのお陰で、今まであまり深められなかったようなインディー音楽にも興味を持ち、そんなバンドなどがいつどんなところでライブしたりしているのかも情報が集められるし、同じ音楽が好きな人たちともど広くネット上で知り合うようになって。

 

 

気になるイベントの予習をした時に一発で虜になったウサギバニーボーイ。アンテナに入るきっかけにもなった大切なバンドです。

 

 

そう言えば仕事に明け暮れていた時期、CDを買うお金とライブに行く時間を一番後回しにしていたなぁ、ということも思い出しました。それまでは音楽に限らずアートが色々好きで舞台を観に行ったり映画を観に行ったり、CDショップに行って新しい音楽との出会いを求めたりしてたのに、忘れていたなぁ、そんな楽しみ。

 

 

 

素性も年齢もうやむやに出来る免罪符

 

ゼロからの家ガール時代を経て、体調も少しずつ落ち着き、働くことも再開しましたが、何せ家に居る時間が長くネット上に漂っている時間が長かったので、どうやって外に飛び出せばいいのかよく分からなくなっていました。気が付いたら結構歳もとっていたし、ちょっとした浦島太郎。本当はライブにも行きたいけど、世代も違う気がするし、経験もツテも無いところにいきなり飛び込んでいくなんて、家ガールに出来るのか!!!!! 

 

 

ウジウジしつつも元来、興味を持ったら飛び込まずにはいられない性分なので、音楽で繋がった友達に会いに行ったり、新しく好きになったバンドのライブに行ってみたり、何だかんだ行動の幅を広げていきました。何ていうか、そういうところで人に会うと、一体自分がどこで生まれて何をしている人で何歳かとか、わざわざ説明しなくても「どうも、家ガールです」というだけで何となく受け入れてもらえる不思議な関係性が生まれるんですよね。いや、受け入れてもらっているのかは分からないですけど。でも四の五の言わなくても、で、この音楽良いですよね、って会話で存在出来る場所がある。家ガールという名前が音楽という共通項の中で、私の素性や歴史に目を瞑ってもらって存在出来る免罪符のような役割を果たしてくれました。

 

 

私は色々失ったからこそ家ガールになれて、新しい場所に旅立ち、新しい人たちと出会えた。家ガールが、いや、家ガールを面白半分に、もしくは怪訝そうに、またあるいは慈悲深く真剣な眼差しで受け入れてくれた人たちのお陰で今の私がある。

 

 

 

家ガールの、その先へ

 

ここ数年で出会う人の数が極端に増え、お作法が分からな過ぎて行けなかったライブハウスや何なら遠く離れた土地にもどんどん行けるようになりました。何て楽しい世界!!こうなると、もはやどこが家ガールやねん!のその先に、尽きない夢を叶えたくなってくるのが人間ってもので。今までこそこそ書いてきたライブの感想や楽曲の感想などを、もっときちんと形にしたい、同じ音楽が好きな人たちにも、好きな音楽をつくっている人たちにも、そして様々な理由で外に出られず家の中から外の世界を覗いている人たちにも、もっと読んでもらいたい、読んでもらえるような文章を書ける人になりたい。そこでこのアンテナの門を叩くに至りました。アンテナ編集部ライター小倉としての人生が、今まさに始まったばかりです。

 

 

ここまでがきっと、私の人生の「家ガールの章」。だけど、お気付きかもしれませんが、私この家ガールっていう名前、家ガールっていう存在、結構気に入っています。それは時に怪訝そうにしながらも、面白半分に愛着持ってこの名前で呼んで下さる人たちとの出会いのお陰で。 

 

 

もし「家ガール」という音楽好きでライブ好きでちょっと人付き合いと外出が苦手な人にどこかで会われたら、好きな音楽のこと、ぜひお話しして下さい。家ガールは多分、すぐ近くに潜んでいます。

 

 

 

▼他の人の転機

堤大樹

①初めてのひとり旅

https://antenna-mag.com/column/turning_point_tsutsumi_1/

山田和季

①シンパシー

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則松弘二

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山田克基

①池谷先生

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