INTERVIEW

【実は知らないお仕事図鑑】P2:謎クリエイター 吉村さおり(SCRAP)

OTHER 2017.05.16 Written By 小倉 陽子

クリエイティブなお仕事って、ちょっと特殊で縁遠いように感じませんか? 京都のモノづくりを取り扱うアンテナでは「実は知らないお仕事図鑑」と題して、実際カルチャーに纏わることを生業としている人にお話を伺います。実はクリエイティブなお仕事って沢山種類があって、可能性があって、チャンスがあるっていうことを知って欲しい!そして、これから初めて社会に出る学生さんはもちろん、今の仕事このままでいいのかなって悩んでいる現役社会人の皆さんのヒントになればと思っています。

 

2人目のゲストは、株式会社SCRAPで『リアル脱出ゲーム』などを作る吉村さおりさん。大人たちが本気で熱狂する”謎”を作るお仕事をしている人って、どんな人生を歩んでいて、今どんなことを考えて仕事しているのでしょうか?それは、ただ”謎”を作るということだけではなく、吉村さんの「目一杯感じる力」が、謎解きをするユーザーの感情に訴えかけているのだと分かってきました。

転校と田舎暮らしが育んだもの

──

吉村さんの「謎を作る仕事」ってかなり特殊だと思うんですが、まずはそこに辿り着くまでの生い立ちから紐解いて伺いたいと思います。吉村さんは元々京都の学生さんだったんですよね?

吉村

そうです。大学に行くために京都に来て、就職で東京に行きました。

──

京都に来られる前は、どちらにおられたんですか?

吉村

遺跡があって蛍が飛んでいるような、福井県の超ど田舎に住んでいました。最寄りのコンビニまで車じゃないと行けなくて、テレビもあまり映らないような所です。それまで転校が多くて大阪、名古屋、千葉と繁華街を転々としていたんですが、小学校2年生のときの転校で何故かそこに落ち着いてしまって……。

──

子どもの頃は田舎暮らしの方が、外で遊べて楽しそうですよね。

吉村

そうですか?でも熊が出るようなところだったので、どちらかというと家で絵を描いたり漫画を読んだりしていましたね。近所に本屋がなくてジャンプを発売日に買いに行けなかったので、続きを妄想したりしていました。あと結構インターネットをしていましたね。昔から自宅にMacがあったので、それでホームページを作ったりして。

──

小学生でホームページですか?

吉村

ポストペットが流行ったときで、何故これはペットが動くんだろう?って興味を持ち始めたんですよ。調べていくと、どうやらJavaScriptとかHTMLで動かせるらしい……っていうのが分かってきて。コピペしたら動かせたので、楽しくなって遊んでいましたね。

──

中学生や高校生では、どんな部活をされていましたか?

吉村

中学のときが剣道部で、高校のときは美術部でした。

──

すごい振れ幅ですね (笑)

吉村

そうですよね (笑) 。中学のときは『るろうに剣心』が流行っていて、私も強くなりたいなと思いまして。高校のときには『はちみつとクローバー』が流行っていたんで、どっちも当時一番好きでなりたいものだったんですね。

──

なるほど!結構影響受けやすいタイプなんですね (笑)

吉村

その間に一瞬テニス部を挟んでますから。『テニスの王子様』が流行ったんで (笑)

──

(笑) 。そして大学で京都に来られると。

吉村

京都造形芸術大学に進学しました。これももちろん『はちクロ』の影響ですよね (笑) 。両親も京都の大学生だったんですけど、福井からも近いし京都の大学を薦められて。デザインの勉強をしたいなって思っていたんですけど。

──

なぜデザインだったんですか?

吉村

絵を描くことが他のことより得意だったからですかね。転校が多かったので最初の自己紹介が勝負だったんですけど、黒板に可愛く絵を描いて自分のキャッチ―さをアピールしていました。それで箔をつけておくんです。女の子の世界って、前の学校で流行っていたことが次の学校ではダサいとされてたり、学校ごとに空気があるんですよ。どんな場所でも敵をつくらないようにする術が、絵を描くことだったと思います。

──

小学生でそこまで考えているって、もうすっかり出来上がっていますよね。

吉村

どうでしょう……意志ははっきりしていたと思います。でも大学でコミュニケーションデザインを専攻して、秋元康さんのゼミで「ちゃんと企画をお金に変えられないとクリエイターとして生きていけない」ということを教えてもらったんです。デザインというよりその授業が今でも自分にとって大きくて。あと、当時京都のフリーペーパーだったSCRAPでもデザインに挑戦していたんですけど、SCRAPのデザイナーさんがすごくセンスの良い人で、私には向いてないなって思いました。先輩たちにも「私、デザイン向いてないですよね?」って聞いてみたら「企画することの方が向いているかもね」って言われてあぁやっぱりって (笑) 。そこでデザインすることはすっぱり辞めました。

──

そもそも大学時代になぜSCRAPに参加しようと思ったんですか?

吉村

元々音楽とかファッションも好きだったので、音楽イベントをやっている古着屋さんでアルバイトをしていたんです。でも実際イベントに関わるうちに、今度は何かメディアを持っていた方が情報発信が出来て面白そうだなって興味が沸いて。そのときたまたまその古着屋でSCRAP創刊号を見つけて、センスが良くて面白いなと思ったのと、創刊号だったらまだ何の実績もない大学生の私でも、企画を採用してもらいやすいかなと思って…… (笑)

──

バイタリティありますね。でもそのままSCRAPに居続けたわけではなく、京都を離れて、一度別の会社に就職もされてますよね。

 

吉村

京都はすごく肌が合ったというか、周りの人も優しくて居心地良かったんです。SCRAPでは自分が面白いと思う企画を立てて、それをフリーペーパーに載せていたんですけど、お金が無くても友達がいっぱい居て受け入れられる環境がある。多分このままじゃ楽し過ぎて、一生こういうことに傾倒してしまうって危機感があって。実際、楽しそうに生きている大人が京都にはたくさんいましたし。

──

ちゃんとお金を稼ごうという意識があったんですね。

吉村

企画をお金に変えるようなシビアな東京の世界に飛び込んで、もしダメだったら楽しかった京都の世界に戻ってきたらいいか、っていう気持ちもあって。とは言えそのとき『サプリ』とか『働きマン』を読んでいたので、東京でカルチャーに纏わる仕事をするイメージも容易に出来ていたんですけど (笑)

誰かの役に立ってお金を稼ぐ経験がしたい

──

色んな憧れが原動力になっているんですね。SCRAPの前にされていたのはどんな仕事内容だったんですか?

吉村

ベンチャー企業や老舗の中小企業のブランディングをしていました。そういう会社で新卒を採っているのが珍しくて、新卒で企業の代表とか実力ある人たちと話が出来るなら面白いなと思って。そのときは自分で何かを作るっていう発想が無かったんですよね。

──

吉村さんはどんどん自分で何かを作れる人だという印象ですけどね。

吉村

そうですかね……元々は広告代理店とかに就職しようと思ってインターンも代理店を選んで行ってたんですけど、そこでも「君は代理で何かをする仕事より、自分で生み出す仕事の方が向いている」ってはっきり言われましたね。でも当時は社会性に対する憧れが強くて、誰かの役に立ってお金を稼ぐ経験がしたいって思っていました。

──

そこから再びSCRAPに戻ろうと思ったのは何故なんですか?

吉村

その前職の仕事で『リアル脱出ゲーム』を使った企業説明会を開催したんですよ。それが成功したときに、何かの課題を解決するためにアイデアを出すクリエイティブも面白いけれど、アイデア自体に人が集まってくる形式のクリエイティブにも挑戦したいと思ったんです。あとは、自分の仕事が組織の成長に直結するような、より生まれたばかりの小さい組織で仕事をしてみたいという気持ちも生まれて、そのタイミングでSCRAPが東京オフィスを作ったことも大きかったです。まだ『リアル脱出ゲーム』も今から大きくなるぞ!っていうタイミングで人もいなくて、事務所も小さなマンションの一室だったし、泥舟感が逆にワクワクしたように覚えています。私自身も、最初は何をするために戻る、なんてことは考えていなくてどちらかというと「SCRAPをもっと面白い会社にする!」って思って入ったんだと思います。

──

SCRAPに戻ってみて、仕事の仕方とかやりがいの部分ってどんな風に変わりました?

吉村

前職はB to Bの仕事なので、自分に仕事を依頼してくれたクライアントさんのお客さんが喜んでくれて、その結果クライアントさんが喜んでくれる、という間接的な喜びの伝わりだったんですよ。今はお客さんが直接目の前で泣いたり笑ったりしてくれている様子を見られるので、それまで大変だったことがその場で嘘のように消えていくんですよね。お客さんの反応は麻薬です (笑) 。私が作るゲームって、こういう世界があったらいいなと思うものばかりなので「明日からこうやって生きようと思う」とか、ゲーム以外のところに感情を持って帰ってくれることに一番やりがいを感じますね。

──

なるほど、ゲームなのでその場で盛り上がって終わりなのかなって思ったんですけど、そうやってちゃんとお客さんは何かを持って帰るんですね。

吉村

毎回の公演に必ず隠しメッセージを込めるんですけど、そのメッセージに帰ってから気付いてくれると嬉しいですね。例えばこの『君は明日と消えていった』だと「好きな人にはすぐ好きって言おう」って思ってもらいたい、後悔のない日々を送ろうと思ってもらいたいとか。私自身が謝るタイミングとか逃して日々後悔しがちなので、そういう可哀そうな人を増やしたくないという思いを込めていますね。ゲームが終わった後に、すぐ大切な人に連絡したっていう感想を聞くと良かったなと思います。 

感情を生み出す仕事

──

「謎をつくる仕事」はご自身に向いていると思いますか?

吉村

謎をつくるというのが、向いているのかは今でも分かりません。でも、体験型のゲームを通じて、様々な感情を生み出すという仕事は向いているなと感じることがあります。それは、自分が天才でも飛び抜けた存在でもなくて、普通に楽しいと思うものを楽しんで、悲しいときは悲しんで、喜ぶときはぐっと喜ぶという感情を大事にして生きてきたからかなと思います。

 

あとは、急なトラブルや目の前が見えなくなったときほど、ワクワクするっていう癖があって、それは「先の見えない物語」を楽しむ能力であって、作る能力でもあったのかなと。日常生活の中で得た体験をゲームに落とし込む中で、プレイヤーの置かれている状況がどうだったら「一番目の前が見えなくてワクワクするか」を考えて、そこに解けたら嬉しい謎を埋め込んでいく、というのは向いてるのかなと思います。

──

今、吉村さん自身のモチベーションはどこにあるのでしょう。

吉村

あまり作りたくなくならないんですよね。元々凄くモチベーションが高いわけではないと思うんですけど、低くならないというか。新人のとき、到底120点のものが作れなくて60点だったときも、作るのを辞めようと思わなかったんですよね。ひとつダメなところがあると、じゃあ次に改善しようと思えるというか。

──

それってめちゃくちゃポジティブですよね。

吉村

そうでもないですよ!でも、ネガティブな感情をゲームに昇華しているのかもしれません。落ち込んだり悲しんだことを原動力にモノづくりしている、って言われたことがあります。なので遊びでストレス発散とかしないんですよ。よく考えたら効率の良いリサイクルですよね (笑)

──

お話聞いていると、ますます吉村さんは根っからのモノづくり気質だな、って感じます。ご自身のことをクリエイターだと思っていますか?

吉村

あまり思っていないですね。誰かから求められたり、誰かを楽しませることをしたいので、サービス業だと思っているんです。例えば今世の中に「切なさ」が足りていないなと感じたら、じゃあ「切なさ」を取り扱ったコンテンツを生み出せば誰かが喜んでくれるかな、って考えることが性に合っているんです。クリエイトの最初のほとばしりが自己表現ではないので、クリエイターではないと思っています。

──

何とも形容し難い仕事ですよね。小説家とかに近いように思うのですが。

吉村

そうですね、漫画家の方とお話ししている時に近いと感じたことがあります。ゼロからつくるっていうのもそうだし、人の評判で落ち込みやすいのも一緒で。評判が良かったら第2弾、第3弾と続くのも似ていますよね。

好きなものを好きで居続ける

──

クリエイティブな仕事を選んでいる人はそうでもないんですけど、世の中つまらなそうに仕事している人が多いなって感じていて。でもそういう人たちに、もっと仕事の選択肢はあるよねって言いたいんですけど、自分のやりたいことを仕事にするのに必要なポイントってどんなことだと思いますか?

吉村

そのやりたいことが辛くならないことじゃないでしょうか。自分の好きなキラキラしたものの周りには100個ぐらいの面倒なことがあると思うんです。でもその100個を差し置いてでも、キラキラした1個が大好きっていう状態が大切で。仕事って辛いことの方が多いじゃないですか。それでもその先にあるものを見据えて、好きなものを好きで居続けられると、乗り越えられると思います。

──

好きで居続けるって難しいですよね……吉村さんが先に見据えているものってどんなことでしょう?

吉村

お客さんですね。3日前にアイデアが出ていなくても、3日後に来るお客さんをがっかりさせたくないっていう気持ちがアイデアを絞り出させるというか。あとはやはり『リアル脱出ゲーム』を代表の加藤が思いついたからこそ、こういう場所が出来ているというのをそばで見ていたので、人間から生まれるひとつの閃きが新しいモノや環境を作れるという「企画の力」は実感しています。自分が作り続けていく中で何かを思いつけば、変わる世の中があるかもしれないという希望を持ち続けていられますね。

──

現在の世の中に呼応しながら進化していくSCRAPの企画が、今後もとても楽しみになりました。ありがとうございました!

公演情報

不思議な晩餐会へようこそ (アジトオブスクラップ京都)

君は明日と消えていった(大阪ヒミツキチ)

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