INTERVIEW

【実は知らないお仕事図鑑 P3:猟師・アクセサリー作家】deer bone hai / 岡本梨奈

DESIGN OTHER 2019.02.19 Written By キャシー

初めて岡本梨奈さんのことを知った時、その特異な肩書にとても驚いた。彼女の仕事は“猟師”兼“アクセサリー作家”であるという。一体どんな人物なのか、“猟師”の勝手なイメージから「屈強な熊のような人が現れたらどうしよう」と身構えていたが、実際に会った彼女はとても華奢でおだやかな雰囲気を醸し出す女性であった。ホッと一安心。だがいざ話を聞いてみると、彼女の本質はとても芯の強い毅然とした人物であることがわかる。

 

便利な街を出て山の中に暮らし、鹿を狩って骨でアクセサリーを作る……。まるでおとぎ話のようだが現実はそう甘くはない。そんな彼女の仕事や生き方への真摯な態度から、きっと街では得られない大事な何かを見いだせるはずだ。

「その辺にいる生き物も食べていいんだ」と思ったのが、狩猟に興味を持ったきっかけ

──

まず、岡本さんが猟を始めたきっかけを教えてください。

岡本梨奈(以下:岡本)

狩猟に興味を持ったきっかけは、大学の学園祭の時の悪ノリでした。先輩が「田んぼでカエル捕まえに行こうや」って言うから着いて行って、アマガエルとトノサマガエルをバケツ一杯捕まえてきたんです。

──

想像するだけでもパンチのある絵ですね(笑)。それを食べたんですか?

岡本

食べました。皮を剥いでお腹を切って内臓を出して素揚げにして。その時にハッと「そこらへんにいる生き物って食べていいんや」ってことに気付いてしまいまして(笑)

──

言われてみれば確かにそうなんですが、自分が同じ状況で同じことを思えるか自信ないです (笑) 。カエルと鹿では随分と勝手が違うと思うんですが、そこからどうやって鹿を狩猟するに至ったんでしょうか?

岡本

アマガエルやトノサマガエルは正直食べごたえがなくて(笑)。ウシガエルが宝が池公園あたりにたくさんいたので「あれを捕まえたら美味しいのでは?」って思ったんです。でもウシガエルは大きいし、網じゃなくて罠で捕まえた方が良さそうだけど何か許可が要るのかなって思って調べた時に、狩猟免許の存在を知り、そこから徐々にです。

──

資格取得から、鹿に至るまでの流れも教えていただけますでしょうか。

岡本

大学4回生の時に免許を取りました。狩猟免許って猟具ごとに何種類かあって、狩猟時は免許に定められた罠や銃や網を使って獲らなくてはいけないんです。私は当初“箱罠”っていう檻の罠を使っていたんですけど、罠を作ったり仕掛ける場所を見定めるのにも技術がいるので難しくて。

──

その罠でどれくらいのサイズの動物が獲れるんですか?

岡本

イタチくらいですね。

──

小さいサイズでも猟は猟だと思うんですが、命をいただくことに恐怖はなかったですか。

岡本

最初はものすごく躊躇しました。今は大分慣れましたが、初めはしばらく独学でやっていたので、とどめの刺し方が分からなくて大変でしたね。上手に出来なくて何回も刺してしまって本当に申し訳ないことをしたなって思っています。

──

独学って、どうやって学ぶんでしょうか?

岡本

最初は本とかネットで。滋賀県の猟友会に入ってからは長年やってる方の猟場に連れて行ってもらって直接教えてもらったり、「あ、こういうところを見てるのか」「罠をかけるポイントの雰囲気を覚えておこう」とよく見てみたり、若い人も増えていたのでみんなでお肉食べながら情報交換したりしてました。

 

最近は動画とかブログとかで情報発信してる猟師さんも増えたし、狩猟の本や雑誌も色々でてるし独学でも調べやすそうって思います。いろんなところで体験や講座もあって楽しそうです。ちなみにtwitterをやっている猟師さんもけっこういます。

──

昔よりも狩猟文化が広がっているということですか?

岡本

はい。動物による問題が切実になってきているのかもしれませんね。森林整備が追い付かなくなって、山と街の境界線が荒れてくると動物が街に出てきやすくなるので、何とか対策しなくてはいけませんから。

──

だから自治体としても狩猟をする人は歓迎なんでしょうね。“ジビエ”が話題に上るようになったのもここ最近ですし。

岡本

そうだと思います。若い人にも狩猟に興味が持つ方が増えていますので。他には震災がきっかけで、街に住む人も自給自足でライフラインを確保したい、という理由から興味を持つ人も増えてきているみたいです。

山に入ると世界の解像度があがる

──

猟師さんって、それだけで生計を立てられるんでしょうか?

岡本

いえ、専業の人はほとんどいません。対象の害獣を獲ったら自治体から補助金が出たりもしますがそれもいつまで続くか保証はありませんし、自前の解体所を持って肉屋でやっていくのもめちゃくちゃ大変で、昔ながらの猟師さんでもなかなかいませんね。それで生計を立てるというよりは、好きだから猟師をしているのだと思います。

──

「猟が好き」という言葉について、お聞きかせください。岡本さんも猫を飼っていらっしゃいますし動物がお好きだと思うのですが、狩猟を行うという意味では、そういった気持ちに相反する部分はありませんか?

岡本

私は、そういったことはないと思っています。もちろん動物を“好きだから可愛がる”ということはわかるし、殺さずに生きていくことも出来るんですが、それって結局問題の解決や手を汚すことを他人に任せることになるんですよね。実際に山際で動物による被害に困っている人がいたり、肉を食べるためには動物を殺さなきゃいけないっていう現実があるのに、自分はそれを他人任せにして「動物が好きです、愛してます。だから殺しません」とは言えないなと。

──

もう少し詳しくお話いただけますか?

岡本

「好きだから殺さない」「好きじゃないから殺せる」っていう単純なものじゃなくて、縁があって飼うことになった猫とどう関わるかとか、野生の動物とどう関わるか、好きだからどう関わっていくのか自分で考えないといけないと思っています。

 

元々滋賀県の田舎の出身なので、食用で鶏を飼ってる家があったり、畑が猿に荒らされたり威嚇されたり、下校中にでかい猪が突進してきたり……。可愛いけど、可愛いだけじゃない動物がわりと身近だったから、スムースにそういう考えができたのかもしれないです。

──

確かに私が生まれ育った街ではあまり考えられない出来事かもしれません。

岡本

「猟が好き=生き物を殺すのが好き」、と考えられる人も多いんですが、そういう人は自分の周りにはいませんね。農家の方が獣害対策でやむをえず、というケースもありますし。獣医さんで狩猟免許を取る方もいます。それについても私は「真逆だ」とは思わないですし、動物の命に関わっていくというところで一貫してると思います。

 

生き物の命をいただくことは狩猟をする中の一部分で、山に入って足跡を探すことも、獲物の動物について勉強することも、かからない罠の場所を移動させたり、獲ってから捌いて友人と食べたり、皮や骨を加工したり、最初から最後までひっくるめて狩猟なので、そういう意味で猟が好きです。調べたり人と話す中で、環境や動物について知らないことが増えて、そこから世の中の見方がちょっと変わったり、そういうことも楽しい。

──

確かに「狩猟」という言葉を聞くとまず、私なんかは猟銃などのイメージがでてきます。岡本さんが一匹の動物との生命のやり取りだけを見ているんじゃなくて、動物を取り巻く環境や背景にある世界にまで向き合っているんですね。

岡本

そうですね。ただ、いざ槍を向ける時は目の前の命ときちんと一対一で向き合っているつもりです。くくり罠にかかるのは一頭で、自分も一人で、反撃をくらう可能性もある。ひとつの命のやりとりですから。

 

獣道は複数の動物が使っているし、罠をかける時や足跡を見ている時も痕跡しか見えません。それが一頭罠にかかると「この個体がいたのか」とすごくはっきりする。対峙してる間ずっとこっちの目を見てきて、こっちも見返して、槍をさせる位置取りができるまでずっと目を合わせてます。

 

「かかった獲物を見て、ためらったり、やっぱり可哀想になったりしないのか」聞かれることがあるんですけど、いざ向かい合ったらそんな余裕はないし、可哀想と思えるほど安全で優位なところには自分はいないなと思います。狩猟の勉強や、情報を集めていたら環境や生態系とかの背景も知ることになるし、実際時自分で猟に出れば獲物一匹一匹と向き合うことになるし、そのなかで自分はどんな関わり方をしていったらいいか、いつも考えています。

──

猟をする時は、どんなことを考えながら山に入ることが多いんでしょうか?

岡本

割とシンプルです。「足跡のついている場所は変わってるかなぁ」とか「今年はこの柿の木がよく実ってるから、きっとここにはたくさん集まってくるぞ」とか。動物たちの痕跡を見て彼らが何を考えどういうふうに動いているかを考えます。

 

ベテランの猟師さんは痕跡から何歳くらいのオスかメスか、何頭のグループか細かく予想できる方もいらっしゃいますが、そこまでは全然分からないです……。分かったらもっと楽しいだろうなと思います。

──

純粋に山に入るのが楽しいんですね。

岡本

そう、楽しいですね。世界の解像度が上がるんですよ。

──

世界の解像度?

岡本

例えば、パッと外の風景を見て「あぁ、緑だなぁ」って感じるだけじゃなくて、「あの木とあの木があるな、あの木はもうすぐ実がなるから食べれるぞ」っていう感じ。猟をすることで山のことが詳細に見えるようになりますね。猟歴何十年やってる人でも「毎日山に入ると、見えるものは毎回違う。それが楽しい」っておっしゃいます。

──

自身の感度を高める、ということでしょうか。情報に溢れている街にいると、鈍ってしまうのかもしれませんね。

岡本

興味を持つと草とか木とか動物の知識が増えて、その知識を持って山に入ると分かることが増える。分かることが増えると見えるものから得られる情報が増える。見えるものが増える。解像度が上がる。という感じかなと。博識なわけじゃないんですけど。間違えて毒草食べて全部吐いたこともあります。ノビルかと思ったらタマスダレで。どっちもネギみたいなやつなんですけど。

 

街にいると賑やかだけれど、向こうからこちらににやって来るものが多くて疲れます。自分が何もしなくても情報が入ってきて、それで自分が何かをやった気になってしまうのがすごく嫌だなと思っていて。逆に、山の中には何もないと思っていたけれど、暮らしてみたらとてもたくさんのものがあることに気付きました。街では鈍ってしまうというか、鈍らせないと目とか頭とかが疲れるのかもしれないです。

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アクセサリーを通して、世の中に狩猟に携わる方法がひとつ増えたらいい

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