INTERVIEW

Live House nano店長:土龍 × Fireloop店長:足立 対談- ライブハウスの店長ってミュージシャンとどんな話したいん? –

MUSIC 2018.10.05 Written By キャシー

ある夜、Live House nano店長の土龍さんからアンテナ編集長・堤宛に連絡が来た。「今、Fireloopの足立さんからメール来てんけど」。それまでPA(ライブハウスの音響・機材担当者)だった足立さんはこの4月から晴れてFireloopの店長になったが、仕事の幅が広がっていく中でいろいろと思うところがあるらしい。そこで、「せっかくならその話を記事にしてみないか」という話であった。

 

PAとして日頃感じることや、運営面での課題、ミュージシャンたちとの関わり方など、ライブハウスの店長も多くのことに悩んでいる。今回の対談は多くのことに失敗し、体当たりで乗り越えてきた2人だからこその赤裸々な話がたくさん飛び出すことになった。この記事を通じて多くのミュージシャンやお客さんに、ちょっぴり怖い(?)ライブハウスの店長がどのようなことを考えているのか伝われば幸いだ。

インタビュアー:堤大樹

第一講:PA論 - バンドとライブハウスの架け橋として -

──

そもそも、つい最近までお二人はさほど交流がなかったそうですが、どこで知り合ったんでしょうか?

足立

元々Twitterではやり取りがあったんです。土龍さんってTwitterでもすごく真っ直ぐに言葉を発していますよね。

土龍

俺はTwitter上でも、ライブハウスをやってる上で感じたマインドの話をよくしていて、でも足立さんは対照的にこういう音を出したいならこういうやり方があるよっていう具体的な音響の話を書いてるよね。内容もすごく頷けることばかりで、バンドの演奏と音響にまつわる本も出していて、信頼出来る人なんだろうなって前々から思っていました。バンドマンからもよく足立さんの話を聞いてたし。いつから店長になったんだっけ?

足立

今年の4月からですね。

──

今回、足立さんはどうして土龍さんに連絡をしたんですか?

足立

土龍さんはPAもしているし、店長としてブッキングやバンドの相談を聞いたり、ボロフェスタを企画していて、対外的な視点もある。音響とライブハウスの運営は密接に繋がっていると思うし、両方をやっている土龍さんなら僕が悩んでいることもわかってくれるんじゃないかと。

──

ブッキングとPAを分業するライブハウスが多い中で、土龍さんは両方にフルコミットしてますもんね。

土龍

人が足りなかったからなあ(笑)

足立

僕もFireloopを始めた当時は「あ、スピーカーってパワーアンプがないと鳴らないんだ!?」ってくらいのレベルでした。最初は何もわからないけど、そうは言ってもやるしかないから全部インターネットで調べて……。独学ですね。

左:土龍(Livehouse nano店長) / 右:足立(寺田町Fireloop店長)
土龍

そもそも足立さんが思う良いPAってどんなPAなんだろう?

足立

PAってバンドの音楽を勝手な解釈で作り替えるんじゃなくて、その人たちの考えているかっこいい音楽の延長線上の音を作るべきだと思うんです。バンドの音楽を委託されてお客さんに伝える立場だから、恥をかかせることは絶対にしてはいけない。そのためには音楽に対する理解度も高くないと駄目だし音響の技術もいる。出音に対してどんな小技を使うべきなのかを見極める判断力も必要です。

土龍

うん、何の異論もない!足立さんリハーサルの時ってバンドと喋る?

足立

めちゃくちゃ喋りますよ。良い時は良いって言いますし、微妙そうなら「どこで悩んでる?」って聞いたり。あと、例えばバンド側から「出音、耳痛くないですか?」って聞かれても「耳が痛かったら嫌なの?」という話から始めることもあります。

土龍

わかる!「え、君らの音楽は耳痛いタイプの音楽やろ?」みたいな。

足立

耳が痛くてもかっこいいバンドもたくさんいるでしょう、と。じゃあどうしたいのか、耳は痛くないけど迫力のある音が出したいって言うんなら相談に乗る。だからリハの時にもよく「自分で外音聴きなよ」って言います。リハで音鳴らして速攻「最高っす!」って言われると「……本当に?」って思う(笑)

土龍

いるよね、リハの残り時間ばかり気にする人。「中音大丈夫なんで、これでお願いします!」って言うんだけど、明らかにボーカルがめちゃくちゃ歌いにくそうで、「ほんまか?初めて出るんやし時間使っていいよ」って言ったら恐る恐る「じゃあもう1曲だけやっていいですか……?」って。じゃあなんでさっき「お願いします」って言ったんや!っていうね(笑)

──

バンドとコミュニケーションを取るスタイルにはどのようにたどり着いたんでしょうか?

土龍

2人ともゼロから始めた人間だし、「こういうとき、どうする?」っていうのをステージ上のミュージシャンに相談してきたからじゃないかな。分からないことは恥ずかしげもなく分からないって言えるタイプなんだよね。その流れでリハーサルの時も「これってこうしたら?」みたいなこともバンドと相談するようになって、次第に俺がアドバイス出来る立場に変わってきただけ。何よりうちの場合は、こんなに小さいライブハウスに出たいって言ってくれる人たちのことが愛おしくて仕方なくて、彼らに満足いく演奏をして貰うためには俺も精一杯ぶつかるしかないなって思って100%で向き合ってきた。それが行き過ぎて最初の頃はアカン演奏した奴にキレ倒してたんだけど、今考えると間違ってたなぁと思う(笑)

──

ゼロから始めた経験が活きているんですね。

土龍

俺とか足立さんって、ライブハウスにおいてPAは一体何をすべきかを現場で必死に考えてきたことが強みなんだと思うな。知識だけじゃないんだよ。例えば音響の専門学校で勉強してきた子たちって、知識や技術は確かにすごいかもしれない。でもいざ現場に立った時に、果たしてPAが何をすべきかを知ってるんだろうかって思うのね。PAって、限られたリハーサルの時間の中でバンドのやりたいことと、こちらの出来ることの最大公約数をいかに見つけるかって作業なので、やっぱりいっぱい喋らなきゃ。ライブハウスに来るミュージシャンたちはコミュニケーションが苦手な人も多いから、リハーサルでそいつらをどう紐解いて向こうの希望を引き出してやるかっていうのが大事だと思う。

足立

自らの頭でよく考えた結果導き出されるものって真理に近いんじゃないかと僕は思っていて。確かに知識や技術をきちんと教わることは素晴らしいことですが、誰かに教えられるのってノイズになってしまう可能性もある。例えば「バスドラムの8k帯域の音量を上げたら低音が良く聴こえるよ」みたいな理論書を読んだら、どうしても8kを上げたくなってしまうんですよ。気持ちはわかるし、理論を知ることももちろん大事だとは思うんですけど、それに振り回されちゃいけない。ちゃんと自分の耳で聴いて、自分の頭で考えなくちゃ。

──

自分が理解して納得していないものを受け売りで使っちゃいけないってことですね。

足立

僕たちは自分で聴いて考えて学んできたから、きっと本質に近い音が出てると思うんですね。僕とか土龍さんは恵まれてるのかもしれませんね。ゼロから自分で考えてやる経験ってなかなか貰えないでしょう?普通、本番のPAを初心者には任せられないじゃないですか。だから否が応にも知識から入らざるを得ないんです。

土龍

でも、知識を専門的な場所で学べるのもそれはそれで羨ましいと思うけどな。そういう人が柔軟であればいいなと思います。

第二講:ブッキング論  - その日1日をイメージする -

土龍

そんな足立さんが4月から店長になって、音響以外のことにも考えも巡らそうとしたってこと?

足立

はい。例えばブッキングの何たるかを知らなかったら、ブッカーの子たちが困ってたり悩んでる時に「いやお前に任せるから好きにしろよ」としか言えないじゃないですか。それって頼りないなぁと思って。どういう流れで仕事をするのか、何に困るのかを身をもって感じないと気持ちもわからないだろうなと思ったんです。

土龍

これから足立さんがブッキングもして、PAもしてっていう日が増えていく訳でしょ?足立さんが思う良いブッキングってどんなものなの?

足立

正直、今はそれがないんです(笑)

土龍

今までブッキングマネージャーが組んだイベントで足立さんがPAをした時に「今日のブッキングすごく良かったな!」っていうことはなかった?

足立

今までは、それは“良い音の出る良いバンドがたくさん見れた日”だったんです。

土龍

なるほど、すごくプリミティブ!

足立

僕は正直な話“対バン”の意味もまだよく分かっていないんです。バンドが「あの好きなバンドと一緒にやりたい」っていう気持ちをまだ理解出来ていないんですよ。例えば憧れのミュージシャンと同じステージでセッションが出来る、みたいな“同時にステージに立つ”意味なら分かるんです。でも対バンって言っても同時にやる訳じゃないじゃないですか、転換があって次のバンドが出るっていうところに僕は同時性を感じられていないんですね。「このバンドの後にこのバンドが出るの最高やな!」っていう発言にも今一つしっくりきていない。恥ずかしい話なのかもしれないけど、こんな分かっていない状態で「こんなイベントを組みたい」なんて言えないことも承知しているので、もっと理解したいんです。

土龍

正直だね。俺は、ブッキングするバンドはそれぞれの音楽のアウトプットの形が様々であればあるほどいいと思う。ただ、バックボーンは全員一緒っていうのが俺の中での良いブッキング。

足立

バックボーンっていうのはどういう意味?

土龍

彼らがこれまで何を聴いてきたか。出演するバンド全てに、おそらくこれを聴いてきたからこういう音楽をやってるんだろうなっていう共通点があった場合、ちゃんとミュージシャン同士はそれを嗅ぎ分けられるし反応し合えるんだよね。あいつらがああいうライブをしたから俺らはこうやろう、みたいな。

足立

繋がっているんですね。

土龍

あとタイムテーブルの話にしても、ワーッと盛り上がるパフォーマンスをやったあとにシュッとめちゃめちゃクールな演奏を持ってきたりして、お客さんを手の上で転がしたい、みたいな気持ちもあるね。

足立

イベント全体のイメージがちゃんとあるってことだね。

土龍

そう。ブッキングする時には、このバンドを揃えてオープンしてスタートしてライブが終わって最後に俺がかけるSEの曲まで全てが見えてるかどうかっていうのがすごく大事かも。ちなみに俺、過剰にロマンチストなところがあるからブッキングを組むことを「夜を紡ぐ」とか「パーティメイキング」って言ったりするんだけど(笑)

足立

そういう心の底から出てくる言葉、最高です!

第三講:人生論 - かっこいいバンド・売れるバンド -

──

お話を伺っているとお二人は“かっこいいバンド”に対するこだわりが人一倍強いと思うんですが、どのようなバンドがかっこいいと感じますか?

足立

僕は、ビジョンがハッキリ見えているからかっこいいっていうよりは、自分たちが視覚的にどう見えていてどういう音が出てるかっていうのがきちんと把握出来ていることがかっこいいバンドの最低条件だと思っています。ライブが終わった後に「今日どうでしたか?」って聞くんじゃなくてね。

土龍

なるほどね。

足立

相談に来るにしても、例えば「ギターのファズの音めっちゃかっこいいんですけど、ファズにしたらスッカスカになっちゃうんですよ」って聞いてくれたら「じゃあアレンジを見直して見たら?」とか「オクターブファズを試してみたらどう?」ってことが提案出来るんですど「今日どうでしたか?何かアドバイスください」っていう段階では、まだまだかっこいいバンドとは言えないよね。自分がどんなライブをしたいのかを考えて、それをしっかり体現すること。「どうでしたか」じゃなくて、「最高だったでしょ?」って言えるところまで持って行くことがまずは大事なんじゃないかと思います。そのためにPAとして力になれることがあれば、もちろん一緒に考えていきたい。

──

“かっこいいバンド”と“売れるバンド”は完全にイコールではないと思うのですが、現場で見ていて売れるバンドって肌で違いを感じたりしますか?

足立

昔から「どうしたら売れますかね?」っていう相談に対しては「ライブを見た後でお客さんが君らの音楽をどんなふうに噂するかを考えてみたら、自分たちの音楽がどうやって広がっていくかをイメージ出来るんじゃない?」って答えていました。今何をすべきか、何が足りないのかを探す良いきっかけになるんじゃないかって。

土龍

バンドにもいろんな形があるよね。働きながらバンドをしつつも「当然売れたいに決まってるし、音楽やる以上は知名度やセールスを伸ばしてもっと多くの人に届けないと」ってしっかりがっついてるやつら。メンバー全員がとにかく売れたいって足並み揃えて考えてるやつら。「え?売れるでしょ」ってひょうひょうと言ってのけて本当にひょんなことから売れていくやつら。形は違えどみんなちゃんと売れることをイメージ出来てるんだよね。

足立

確かに、過去に売れたバンドはそういう立ち振る舞いでしたね。頼もしさすら感じるほどでした。

土龍

まぁ「別に売れたいとは思ってないっすよ。だけどバンドは音楽はずっと続けていたいし、ひょんなところから火がついたらラッキーくらいの感じですね」でもいいと思うけどさ。

足立

そういうバンドにもかっこいい奴らはたくさんいるからね。ただ「売れたいとは思わない」って言う理由はちゃんと聞いておきたいな。仕事になると楽しくなくなるからとか、やりたい音楽をやれなくなるからとか、ちゃんと理由や考えがあるなら僕は納得がいくし。

土龍

何も知らずに「売れたら好きなこと出来なくなるんでしょ?」とか言うんじゃなくてね。

足立

大きな話をすれば、みんな良い人生を送りたいだけだと思うんですよ。自分にとっての良い人生を考えた時、バンドが売れていて知名度や人気があって、っていうイメージがあるなら、そうなるための方向に自然と向かうと思うし普段からの立ち振る舞いも変わってくると思うんですね。

土龍

どんな人生を送りたいのかだよね。

足立

みんなひとえに良い人生を送って欲しいですね。それがバンドだけじゃなくても。

土龍

そうそう。バンドを辞めてライブに出なくなった奴が、ふと立ち寄った店で一生懸命働いてるところなんかを見るとマジで泣けたりする(笑)。良い人生を歩んで欲しい。ライブハウスの人間は自分のハコに出てくれる人たちのことが大好きなので、みんなとツレになりたいと思ってるし、未来もちゃんと応援したい。その上で、とりあえず今ミュージシャンとしての道を選んでるんだったら、「俺たちはいくらでも話聞くで?」っていつも思ってるよ。

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