INTERVIEW

CLUB METRO

MUSIC 2017.05.09 Written By キャシー

CLUB METROといえば、その名の表す通り、地下鉄からそのまま繋がった店構えが何より印象的だ。まさにアンダーグラウンド。入口を入ると、奥に長い店内はまるで掘り進められた洞窟のようで、暗い通路のその先には、ディープでちょっぴり刺激的な夜が待っているような気がする。

 

METROはDJや様々なジャンルのバンドライブだけに留まらず、ダンスショー、アートパフォーマンス、ワークショップなど多岐にわたるイベントを通じてカルチャーを発信し続けている。そうした多様な表現を可能にしているのは、京都という街のおかげだとプロデューサーの林さんは語ってくれた。常に表現の可能性を追求するMETRO、行けばきっと、面白いものが見られるに違いない。

CLUB METRO

住所

京都市左京区川端丸太町下ル下堤町82 恵美須ビルBF (京阪神宮丸太町駅2番出口)

営業時間

公演次第

TEL

075-752-4765

HP

http://www.metro.ne.jp

今回はMETROを運営されている林 薫さんにお話を聞いてきました。

地下鉄(メトロ)直結。世界でも唯一無二のクラブへようこそ。

──

METROを紹介するにあたって、まずは林さんのMETROでの立ち位置を教えていただけますか?

林 薫(以下、林)

僕はMETROプロデューサーという肩書で、店舗の運営やイベントの制作・ブッキングなどを行っています。

──

林さんはもう長くMETROで働いていらっしゃるとのことですが、METROがオープンした当初のことについて聞かせてください。

METROは1990年の4月にオープンしたので、今年で27年目になるのかな。僕はオープン2か月後に入ったので、ほぼオープンスタッフって感じですね。

──

オーナーさんは別にいらっしゃるんですか?

はい、オーナーはニック山本っていうんですが、彼はもともとRub A Dub(ラバダブ)っていう三条木屋町にあるレゲエのバーをやっていました。そちらは今年で31年になるんですけど、日本で最初に出来たレゲエバーだって言われています。METROはその少し後にオープンしましたね。

──

METROといえば、地下鉄に直結というロケーションが唯一無二の魅力だと思います。名前の『METRO』もそこから来ているのですか?

そうですよ。昔、京阪電車は鴨川沿いの上を走っていたんですけど、それが地下に潜る工事をしている時にオーナーがこの場所を見つけてきまして。地下鉄開通とほぼ同時にここがオープンしたんじゃないかな。店内もちょっと奥に細長い造りにしていて、ステージ最奥の壁はちょっと崩れかかった感じになってるんですが、実はそれは「この先まだまだ掘り進めるぞ」っていう隠れメッセージなんです。

京阪神宮丸太町駅2番出口へ向かう途中にMETROがある
──

そうなんですね、知りませんでした!日本に、他にこんな形のハコってあるんでしょうか?

いや、無いと思います。自慢みたいになりますが、オーストラリアのあるWebサイト『世界の奇妙なクラブ14選』っていうのにいつの間にかMETROが選ばれていて。他の選出店舗は、砂漠とか、プールの底だとか、湖の底だとか、軍事施設だとかにあるみたいんですけど……それと同列に並べていただいていて。そう思うと、すごいですよね(笑)

──

確かに(笑)。では、林さんがMETROで働くきっかけは何だったのですか?

僕がMETROで働くようになったのは20歳くらいの頃なんですが、大学進学で京都に出てきて、当時音楽以外にも、みなみ会館や昔の朝日シネマみたいな質のいい映画館に行ったり、清水寺でやっていたデニスホッパー写真展を見たり、そういうものに触れる中で京都って文化の奥行きがある街だなぁと思っていたんです。その折に、日本で初めてレゲエバーを作ったオーナーが今度はクラブをやるらしいって話を聞いて……いや、実は最初は「ラテンのライブハウスをやるらしいよ」って噂を聞いてたんですけどね。正直、なんじゃそら?と思ったわけです。その突飛な感じにちょっと心惹かれて覗いてみたら、実際はまぁラテンじゃなかったんですが (笑)、そこにはすごく多様性のある文化があって、クラブっていろんなことができるんだな、これは楽しめるなぁと思い、「ここで働かせてください」って言いました。

──

「多様性のある、いろんなこと」とは具体的にどのようなことだったのでしょうか?

当時って、いわゆるディスコ全盛期だったんですが、ディスコってどこか形式ばったところがあるんですね。それに比べてクラブは、ライブがあってもいいし、映像・ビジュアル・アートが入ってきてもいい。DJの存在もディスコよりずっとクリエイティブで、とても自由でオルタナティブな空間に思えて、「あぁ、ここでは何をやってもいいんだな」っていう魅力を感じましたね。

「ネオアコ三遊間」から、ブッキングマネージャーへ

──

音楽は、小さい頃からお好きだったんですか?

はい。ずっと好きでした。大学では立命館の産業社会学部で、洋楽研究会的なサークルに入っていましたね。

──

ご自身は、演奏する側になろうとは思わなかったのでしょうか?

出来なかった、というのが正しいかもしれないんですけど。僕、高校までは野球部だったんです。放課後に中古レコード屋に行く野球部員だったんですよ。ポジションはショートを守っていたんですが、隣のサードのやつと音楽の趣味が合って、丸坊主2人でネオアコの中古レコード屋に行く、っていう。「ネオアコ三遊間」って、打球がすごく抜けていきそうでしょ?(笑)

──

なんて素敵な三遊間だ(笑)

確か高校生くらいでチェリーレッドとかエブリシング・バット・ザ・ガールとかとかトレーシー・ソーンとかにハマって。この間METROにベン・ワットが来て、それこそ20何年来の念願でしたよ。元来リスナー気質なんですかね。

──

裏方として音楽に携わるということに、やりがいや喜びを感じていらっしゃるんですね。

自分が出来ないからこそ、いろんな人をブッキングするっていう面があります。ただ、このMETROで面白い人たちと出会えて舞台でいろいろなことをしていただいて、それを同じ空間で共有出来るっていうのは、自分自身で演奏することと同じか、それ以上の喜びがあります。だから本当に自分にはこれが向いているんだと思うんですよね。ブッキングを考えてライブをやったりイベントをやって、それに対してお客さんが本当に楽しんでるなっていうのを見ると、とても気持ちがいいですね。

──

そうやって27年間も一つのことを出来るのは素晴らしいと思います。今まで、辞めたいと思ったことはありませんでしたか?

うちはオーナーが非常に良い人なので、そうは思わなかったですね。例えばものすごく「金儲けに走れ」って言うような人だったら、辞めたいって思っていたかもしれませんが、うちのオーナーは本当に文化や音楽に理解が深い人なので、そういうところでストレスやプレッシャーを感じたことはないです。経営的な部分でシビアだなぁって思うことはありますけどね。面白いことをやりたいけれど、それがその時代の流行る / 流行らないと完全に一致するわけでもないですから。ただやっぱりMETROはいろんなことが出来る場所ですし「まだやれることがあるんじゃないか」って思えることで、続けられている感じですね。

METROにはこんな人たちも出演していたのか!

──

これまでMETROを続けてこられた中で、印象的だったイベントや出来事はありますか?

そうですね、入ったばかりの頃の初代店長が……MONDO GROSSOってわかります?今は大沢伸一さんのソロプロジェクトになっていますが、当時はジャズファンクバンドみたいな感じでやってたんです。初代のMETRO店長はサックス吹きで、バーでいつもサックスを抱えて吹いていたんですが、ある日METROでモンド・グロッソのイベントがあって、何と店長が勝手に飛び入り参加したんですよ。そしたら演奏にめちゃくちゃはまって、「あ、こいついいやん」ってそのままメンバーになっちゃって。一年後くらいには東京に一緒に行ってましたね(笑)

──

当時からそういう音楽的な出会いがある場所だったんですね。

当時はまだライブハウスやクラブが出来始めたばかりでしたし、一般的にはライブハウスとクラブの間には垣根があったんですけど、METROではミュージシャンがDJをしたり、DJとバンドが交わる場所として機能していたと思います。

──

その時代では、DJとバンドが交じり合うことはあまりなかったんですか?

そうですね。たとえば一般的なクラブでは、ニューヨーク仕様のサウンドシステムを入れて一晩中DJを回して、っていう感じが主流だったんですけど、うちにはたまたまステージがあったんで、クラブにしては珍しく初期からライブイベントを入れていました。ファンクバンドを呼んでブラックミュージックナイトをやってみたりとか。だから比較的バンドの出演も多くて、さっきのMONDO GROSSOとか、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTのほぼ最初期のツアーをやってもらったりしていました。

 

今でもよく覚えてるんですけど、『DJモトクロス』といういろんなジャンルのDJの合間にバンドが2つぐらい入ってライブをするイベントがあったんですが、当時京都でほぼ学生だったthe brilliant greenと、その時期ツアーを回っていたTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTが同じ日にライブしていたことがありましたね。the brilliant greenはデビュー前だったと思うんですが、うちでやっているところをソニーの人が見つけてそのまま東京に行って。今から思うと恐れ多い話ですね……!

──

驚きました、とても歴史を感じますね。今、京都にそんな歴史あるハコって少ないですよね。

そうですね、多分METROは京都のクラブの中では一番古いんじゃないかな。

──

今と昔で、イベントやお客さんの傾向に違いはありますか?

音楽を深く楽しむ人たちが高齢化してきたかなっていう印象がありますね。あとは、当然、その時代ごとに流行りの移り変わりがあるなというのも感じます。ただ、こういう場所って、音楽に対して剥き出しで楽しむというか、あらゆるものから解放されて暗い地下で大きい音を浴びて、知らない人とも音楽によって一体化してしまえるような所なので、本質的に人に響くものはいつの時代でも変わらないのかな、とも思います。

──

その「本質的なもの」についてですが、林さんはどんな音楽を聴いた時に「本質的なもの」を感じますか。

うーん……抽象的なんですけど、その人が音楽を発して、表現している意味がありありと伝わってくる時、ですかね。

──

音に出る、ということですか?

その人の人格と言うか、そういうものがびしびしと伝わってくるようなものを見た時に感動している気がします。それは音楽に限らずで、うち、METRO大學っていう映画のレクチャーやワークショップのイベントをしてるんですけど、それもこういう場所で人を惹きつけるものをどんどんやってみようっていう試みなんです。京都は芸大生が多かったり若い人たちの文化がある街ですし、彼らが面白いと思えるようなちょっと尖ったことが出来る場所にしていこうと思っています。若い人の新しい表現に「それおもしろいやん」って気づかされたりもしますしね。

──

METROのお客さんの年齢層ってどれくらいなのですか?

例えばFPMさん大沢さん卓球さん世代のような、クラブの第1世代の方が今でも現役な感じがありますね。クラブで遊ぶ人の年齢層も高くなってきているのかなと思います。それに比例して若い人も増えてきているかと言うと、むしろ減ってきている印象です。我々が旧来のやり方をしすぎていて、若い人に届いていないのかなっていう反省はありますね。

 

ちょっと愚痴を言わせていただくと、2011年くらいに風営法の問題があったじゃないですか。それまでは僕らみたいな小・中規模のハコでもいろんなことが出来ていたのに、クラブが深夜営業出来ないようになって、多様性の芽が摘まれたかなと思います。いろんな格好良い発信をしていたお店が打撃を受けて閉店していきました。ただ、時代の流れとして、そちらの方向に向かっていたことは事実なので。僕らも若い人が面白いと思えるものがあまり提供出来てなかったかもしれないな、それを見つけていかないとあかんなって思いますね。

METROは、京都に生かされてるなって思ってるんです。

──

クラブとしてのMETROのあり方について、目指しているところや思うところはありますか?

僕は今46歳なんですが、今の40代とかって20代の頃にクラブの洗礼を浴びてたような世代で、その辺の人たちって相当深く音楽に思い入れていたりするんです。でも、人って仕事や家庭を持つと音楽シーンから遠のいてしまったりするでしょう? 40代50代の人は音楽が好きでもなかなか来れなくて、じゃあ彼らはもうかっこいい音楽に触れられないのかっていうと、せっかくそこまで音楽の経験値を上げてきた人たちなので、たまには触れたいですよね。そういう人が、若い人ばっかりで恥ずかしいなと思わず楽しめるようにしていきたいんです。それが夢の一つですし、今もちょっとは出来ているんじゃないかなと。METROは何かイベントをすると、ちょっとご無沙汰な人たちが来てくれたりもするんですよ。

──

METROをやっていく上で、いろいろな思いがあるんですね。では、最近のMETROの方針や取組みについて教えていただけますか?

ここ2~3年のMETROは、京都市が開催しているPARASOPHIA(京都国際現代芸術祭)と一緒に連携して『Sound Exhibition 2015 〜音の展覧会〜』っていう様々な音楽イベントを仕掛けるプロジェクトをやったり、KYOTOGRAPHIE(京都国際写真祭)とのコラボレーションのイベントをやったり、去年は東アジア文化都市っていうイベントのオーケストラに協力したりもしましたね。音楽とアートは親和性もあるし、そうやってMETRO以外の所でもいろいろやっていけば、当然METROにもフィードバックがあるし、京都という街の魅力をより感じられると思います。

──

林さんにとって京都という街は、やはり非常に思い入れのある場所なのでしょうか?

METROは、京都に生かされてるなって思ってるんです。METROって尖ったことも結構やってるんですが、そういうのってお客さんがちゃんと評価してくれないと成り立たないじゃないですか。京都って、先鋭的なアーティストとかが来た時にちゃんと評価してくれるとか、ノリが良いだけじゃなくてちゃんと音楽を聴いてくれるとか、お客さんがしっかり音楽を聴ける土地だと思うんです。審美眼や感性の質がすごく高いんですね。だからうちみたいなことをやっても成り立つ、数少ない街だと思います。もうめちゃくちゃ京都に感謝してますね。

──

METROのお客さんって、METROのこと大好きですよね。京都の中でも「ハコのお客さん」が沢山いるように思います。METROに出ているアーティストだから信頼出来ると感じているお客さんも多いのではないでしょうか?

ありがたいですね。僕ら自身もMETROをやっていく上で「本物の音楽に触れたい、本当に魂を揺り動かすようなものを求めたい」って思っているし、お客さんからもそう思われているような気がします。だからこそ、そういう部分に対してはお客さんも時には厳しかったりして、お客さんに教えられることがとても多いなと思います。

──

METROの質を上げていくために、林さんが気を付けていることはありますか?

まず自分が面白いと思うもの、っていうのが一番ですね。METROはすごく自由度が高い所なので、いろんなものを混ぜ合わせてみて、それらが繋がって化学反応が起こるような場所にしていこうと思っています。あとは学生さんや若い人たちの、思いつき一発の爆発力と言うか、そういう面白い才能を存分に発揮できるような環境を整えていきたいですね。

──

お客さんへの提供の面では、何か考えていることはありますか?

音楽もしかり、ライブペインティングやビジュアルパフォーマンスしかり、そういう表現は人を動かす力があるし、人を救う力もあると思うんです。そうやって人を元気にできたり、面白いな、あそこにいくと刺激がもらえるな、というイベントを提供し続けられるようにしたいですね。METROって、面白い人が集まっていて、話してみるとそれぞれがいろんな表現をしている人だったりして、そうやって人と人とが繋がっていくっていう良さが以前からずっとあったと思います。これからより一層、そういう場所にしていきたいなと思いますね。

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