INTERVIEW

【実は知らないお仕事図鑑 P3:猟師・アクセサリー作家】deer bone hai / 岡本梨奈

DESIGN OTHER 2019.02.19 Written By キャシー

調べたら誰もやっていなかったので、「これはチャンスだぞ」と

──

次にアクセサリー作家としてのお話を聞かせてください。そもそも骨でアクセサリーを作っている人って、岡本さんの他にもいらっしゃるんですか?

岡本

いえ、どうやら他に誰もいなかったみたいです。そこで、試しに何点か掘ってみるところからスタートして。Facebookにアップしたところ、すごく反応が良かったので「これならいけるかも」って思いました。

──

では、鹿の骨で作品を作るという発想はどこからきているんでしょうか?

岡本

動物からは肉と毛皮と骨が採れます。肉は食べて毛皮は自分でなめして使えるんですが骨がどうしようもなくって、何とかして使えないかなってずっと思っていたんです。京都から地元の滋賀にUターンしてきて、ご縁があって鹿肉の解体場で1年くらい働いてたんですが、そこでもやっぱり骨が山ほど出て、解体場の方に「これどうしてるんですか」って聞いたら「山に埋めてる」って言うんです。

──

骨はなににも使われていなかったんですね。

岡本

たまにダシを取るのに何本か使われることはあったらしいんですけど、それ以外はどうしても廃棄するしかなくて。だったら試しにと何本かもらって帰って煮込んで洗ってみたら、割と良い素材だってことがわかったんです。骨って丈夫ですけど実は中身がぎっしり詰まっているわけではなく、中は空洞の円筒形になっていて厚みもそれほどないので、案外掘りやすいんですよ。

──

最初にアクセサリーを見た時に、陶器のようでとても綺麗なことに驚きました。鹿の骨だってことも言われないとわからないと思います。誰もやっていないってことはアクセサリー作りに関しても独学でやり方を模索しなければならない訳ですよね。

岡本

そうですね。どの部位の骨がアクセサリー作りに向いているのかを考えるところから始まりました。過去に前例がないので経年変化の予測がつかないっていう問題もあって、始めた当初は品質がどう変化していくかわからない分、価格を安くしていました。最近はじわじわ上げています(笑)

──

骨ってどのように経年変化するんですか?

岡本

アクセサリー作りを始めてから4年間経ちましたが、あまり変化はないですね。当初はどこぞの猟師さんに「鹿の骨なんてそのうちボロボロになるぞ」なんて言われてビビっていたんですけど「確実に4年は持ちます」って自信を持って言えるようになりましたね。

 

ただたくさん手で触れるようなものだと革製品みたいに表面が生成りの色になっていきます。よく言えばアンティーク調で、そういう変化が好きな方もいらっしゃいますね。

──

自身が初めて世に生み出すものだから、値段の付け方もですし、どう評価すればよいか難しいですよね。元々設定した価格は制作の手間暇と釣り合っていたんでしょうか。

岡本

最初は釣り合っていませんでしたよ。制作を続けるにつれて作るのにかかる時間がだんだん短くなってきて、かつ耐久年数も結構持つぞっていうのがわかってきたので、今は釣り合っています。

──

ちなみに、アクセサリーを一つ作るのにどれくらい時間がかかるものですか?

岡本

モチーフとかデザインの複雑さでだいぶ変わってくるんですけど、例えば小さいブローチを作るのに2時間半か、3時間くらいですね。

──

制作時間以外に骨の仕込の作業もあるし、純粋に作っている時間だけじゃないのが大変そうですね。

岡本

それは一気に大量にやっちゃいます。大きな鍋で骨を一度に10本前後煮込んで、半日くらいかな。骨1本からはピアスなら10セットほど作れます。

アクセサリーを通じて、世の中に狩猟に携わる方法が一つ増えたらいい

──

今、猟師の生活とアクセサリー作家としての生活、使っている時間はどちらが長いのですか?

岡本

アクセサリー作りの方が今は圧倒的に長いです。おかげさまで制作が手一杯で。

──

猫とふたり暮らしだと、一日の長い時間を黙々と制作をされることになりますね。

岡本

たまに催事に出店することもありますが、普段は気付いたら1週間誰とも喋ってないようなこともありますね。メールのやり取りはあるので人と関わってはいるんですけど。そんな時は猫に話し掛けています(笑)

──

街にいるとわからない感覚かもしれません。毎日誰かと会って話して、SNSで絡んで……。少し羨ましくもありますね。作品を作ってそれを街に向かって発信することで街から反応が返ってくることはモチベーション繋がっているのでしょうか?

岡本

はい、正直それはとても嬉しいです。それがなければ作品作りはなかなか出来ません。

──

ありがとうございました。最後に今後どのような作品を作りたいか教えていただいてもよろしいでしょうか。

岡本

作りたいものだけ作るのなら、頭骨の大掛かりな彫刻とかを作ってみたいです。ただ私は一般的に馴染みのない素材や制作過程で作っているし、生活もかかっているので、まず手に取ってもらえるような商品であることも意識しています。バランスを取ってやっていきたいですね。

 

あと例えば、鹿の角のビーズでブレスレットを作るような簡単な制作は出来る人に方法ごと譲ってしまいたい。それが参考になって、世の中に狩猟に携わる方法が一つ増えたらいいなって思うんです。

──

そう思うようになったきっかけはありますか?

岡本

真鍮や陶器、ガラスを使う作家さんはたくさんいるし、ひとつのジャンルになっている。そんな中で、鹿の角という素材を使うことのもの珍しさだけを軸に置いたままで何十年も勝負できないなと。また今若い猟師の方で「角や革などを使ってものづくりをしたい」「仕事を作りたい」という人が増えているのに、そういう人たちの妨げになりかねないと思ったんです。同時に自分がここまでアクセサリーの仕事をやってきて「仕事を作っていくの大変!」としみじみ噛みしめています。

──

他にない仕事をいちから生み出したわけですもんね。

岡本

そうですね。対面販売やクラフトのイベントなんかで直接お客さんと話していると、作品自体を気に入ってくれる人もいれば、鹿の角とか骨とか、狩猟自体に興味がある人も多いなと感じてます。ありがたいことにWebショップをチェックしてくれている人も増えてきていています。

 

作りたい人と興味がある人が増えてきているなら、自分は何をするのがよいか。角や骨のパーツを作る仕事を頼むか、作り方を教えていくか、自分以外の作家さんの作品を紹介・販売するのか。何かしらそういう人の役に立てたらな、とあれこれ考えてます。

──

狩猟を軸としたマーケットを広げていくということですね。その中で狩猟に興味を持っていたける方を増やしていくと。

岡本

そうですね。何よりまずはデザインや彫刻の技術を気に入って手にとって欲しいとも思っていて、彫刻の技術が上がれば作れるものが増えるけど、手の込んだものは時間がかかる。作ることに時間を割きたいなら人に頼まないといけない。頼むなら同じように狩猟をしてものづくりをしたいという人に頼みたい。もちろん自分のためというのもあります。

──

次の人に受け渡していきたい、ということですよね。

岡本

今ちょこちょことやり取りをしている人がいて、和歌山の同い年の猟師さんで、障がい者支援の事業をされてる方で。「ちゃんと単価の高い仕事振りたい!」って思いながら話を進めています。渡せるものは使いこなせる人に渡したいです。最低限、アクセサリー作りはノコギリとバイスときりがあったら出来ますから。

──

最初は岡本さんも初めはそこからスタートしたんですもんね。

岡本

最初は3000円のルーターを使っていました。今はもう少しいい工具を使っていますが、それくらいのコストからスタート出来るんですよ。ゆくゆくは骨のアクセサリーの作り方をまとめたZINEなんかを作れたらいいなとも思っています。

──

それ、面白そうですね!出来上がるのが楽しみです。

deer bone hai:公式サイト・SHOP
http://hai-shika.com/

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