REPORT

Radiohead Night @ESAKA MUSE イベントレポート

Radiohead(レディオヘッド)への愛を共有する場がここにはある。「自分ほどRadioheadに思い入れがあるやつはそうそういない」なんて思ってる僕のようなややこしいファン(だが同じように思っている人は少なくないだろう)や、「昔好きだった」みたいに人生のどこかしらで触れてきた人など、ファンの思い入れの深さはさまざまだ。でもそのすべてを認め合い讃え合うことができるあたたかい営み。それが『Radiohead Night』だ。本レポートでは〈Alffo Records〉での前夜祭に続いて10月2日(土)に〈ESAKA MUSE〉で行われたパーティーの様子を描いていこうと思う。今日この場所はRadioheadを愛してやまない僕らだけの空間だ。

Radiohead

photo by John Spinks

 

トム・ヨーク(Vo / Gt / Key)、ジョニー・グリーンウッド(Gt / Key)、エド・オブライエン(Gt)、コリン・グリーンウッド(Ba)、フィル・セルウェイ(Dr)からなる、イギリスのロックバンド。『OK Computer』(1997年)や『Kid A』(2000年)など、作品ごとに音楽シーンに多大なインパクトを与え続けてきた。『The King of Limbs』(2011年)のツアー以降Portishead(ポーティスヘッド)のクライヴ・ディーマー(Dr)をサポートに加えライブ活動を続けている。

OAS

photo by 岡安いつ美

 

Yamakawa(Vo / Gt / Key / トム・ヨーク担当)、Daiju(Gt / Key / ジョニー・グリーンウッド担当)、Yuta(Gt / エド・オブライエン担当)、Yasuko(Ba / コリン・グリーンウッド担当)、Takuro(Dr / フィル・セルウェイ担当)、Wakamatsu(Dr / クライヴ・ディーマー担当)からなる、ファンイベント『Radiohead Night』のために結成されたトリビュートバンド。バンド名のOAS(On A Saturday)はRadioheadの前身のバンド名On A Fridayから。楽器の寄贈など本家Radioheadとの交流があり、イギリスの『BBC』や『Huck Magazine』にも取り上げられる。

 

Webサイト:http://oas.jpn.org

Twitter:https://twitter.com/radiohead_night

インタビューはこちら!

保護中: Radioheadのファミリーに憧れて。OAS / Radiohead Nightが描くファンベースの表現の営み

他には何もいらない。どこまでもRadioheadで満たされたパーティー

緊急事態宣言が明けて2日目のこの日。とはいえまだ油断のできる空気ではなく、マスク着用で歓声禁止、お酒の提供なしで『Radiohead Night』はスタートした。まず出迎えてくれたのはナカシマセイジ(Alffo Records)のDJ。前夜祭ではblack midi(ブラック・ミディ)やJamie xx(ジェイミー・エックスエックス)などを交え、「Radioheadが好きならこれもいいぞ!」と言わんばかりのレコード屋店主/DJの矜持が溢れるプレイを大いに楽しんだ。多様な音楽が交わるのがクラブカルチャーの醍醐味だと言い切ることに僕はなんの躊躇いもない。それでもひとたび『Radiohead Night』のフロアに足を踏み入れるとこう感じるのだ。「ここにはRadiohead以外何もいらない」と。

 

壁面を満たす5名のアーティストによるアート展示。同じRadioheadをモチーフとしながらも、タッチや色使いなど「私は彼らのこんなところが好きなんだ!」という想いが溢れる作品の数々を眺め、ここでしか会えない友人と談笑を交わす。自作のマーチャンダイズと発売を控えた『KID A MNESIA』のポスター、そしてトリビュートバンドOASの限りなく本家に忠実な機材が並ぶステージ。フロアは実に多種多様な“Radiohead”で満たされている。ナカシマセイジもこの空気を存分に感じ取りながら、“The Eraser (Sasha Invol2ver Remix)”“The White Flash (ft.Modeselektor)”など、リミックスやソロのフィーチャリング音源で最大限に広くレンジを捉えながらRadioheadのレパートリーで応えていく。

 

そしてDJを引き継ぐのは村田タケル(SCHOOL IN LONDON)。比較的後期のシングル音源“The Butcher”やトム・ヨークのソロ最新作『ANIMA』(2019年)の“Not The News”から、気づいたらギターロックが炸裂する初期の楽曲に移行。痛快なダンスビートや心地よいメロディなどの共通項を見出しながら緻密につないでいくものだから、まさに「気づいたら」なのだ。時期によってかなり音楽性が違い当惑してしまうくらいの幅広さを持つRadioheadだが、インタビューで主催のYasukoが語っていた「すべてがここに詰まっている」という話を思い出し、Radiohead関連の楽曲しか流れずとも、むしろその大海の広さと深さに改めて気づかされていた。そして舞台はトリビュートバンドOASへと引き継がれていく。

ナカシマセイジ(Alffo Records)
村田タケル(SCHOOL IN LONDON)

その向こう側にRadioheadを見るOASのライブパフォーマンス

誤解を恐れずに言うなら、僕は誰よりもRadioheadのことを見ているつもりだ。最新のライブ映像も必ず追っているし、大学生になった2009年以降、バンド/ソロに関わらずすべての来日公演に足を運んだ。関連書籍も可能な限り目を通している。そしてこのフロアには同じような人も多いに違いない。それでもなおOASを前にすると、今まで気づかなかったRadioheadの魅力が眼前に立ち現れるのだ。

 

例えば最新作『A Moon Shaped Pool』(2016年)の“Ful Stop”や“Identikit”の音源より遥かに拡張されたバンドサウンドや、思わず「こんなにロックだったのか」と呟いてしまった“Morning Bell”、Yuta(Gt)のギターが唸る“Myxomatosis”、VJのCHIHIRÖが本家のライブ映像を投影する“Airbag”はさながら映像のRadioheadとステージのOASがシンクロするかのよう。

 

Radioheadといえば難解でハイコンテクストなバンドに思われがちで、僕も幾分かそう思っているところはある。だがあの世界最大級のステージをPCの画面や遥か遠く肉眼で見ていた時とは違い、このライブハウスでOASが繰り広げる光景は、ややこしい理屈抜きに彼らが最高のライブバンドだということをまざまざと実感させる。まさにOASを通してRadioheadを改めて知るような体験だ。

そしてライブハウスのキャパシティで観ているからこそ、僕はOASのパフォーマンスに“ここにRadioheadがいる”ギャップを強く感じていて、それはこの6人がどこまでも忠実に再現性を追求しているからに他ならない。ビジュアルからして見紛うほどのYamakawa(Vo / Gt / Key)とDaiju(Gt / Key)の、一つひとつの挙動に感じるトムとジョニー。対称的に、コリン・グリーンウッドを務めながらもYasuko(Ba)はいつものようにマーチャンダイズを身に纏いそこにいる。Takuro(Dr)とWakamatsu(Dr)はフィルとクライヴの打音の応酬をこれでもかとフロアに叩きつけていく。

 

だがトムが当時の英国政府に向けた“No Surprises”の「Bring down the government. They don’t, they don’t speak for us.」というフレーズで一瞬止めた演奏の「間」に、僕はこのコロナ禍に際したYamakawaとOAS自身の心象を見た気がして目を潤ませてしまった。ああ、この6人は間違いなくRadioheadであると同時に、この国で今日も生きているOASなのだ。

YutaとDaijuのギターが炸裂する“Paranoid Android”ではYasukoが曲間でメンバーにスマホのカメラを向け(この挙動も本家再現だというのだから恐るべき忠実さだ)、最終盤では“Creep”を披露。2016年の『SUMMER SONIC』大阪公演では演奏せず関西のファンの間で物議を醸し、あまりにも神格化されてきたこの曲をRadioheadはその後のツアーで「単なるレパートリーの一曲」として馴染ませてきた。そしてOASはそのニュアンス、本家Radioheadがセットリストに込めた哲学ごと〈ESAKA MUSE〉に再現している。

 

そして最後は“Karma Police”。前回来日した『SUMMER SONIC』大阪公演最後の曲だ。思えば前夜祭のアコースティックセットの最終曲“Street Spirit”は東京公演最後の曲。2日間を通した選曲はなんとも粋に感じられたが、僕らが眼前の6人を通してRadioheadに想いを馳せるのと同様に、OASのRadioheadへの想いもプレイの節々から感じられる。インタビューでは一瞬でも大好きな人に成り代われることがこの上ないよろこびだと語ってくれたが、驚くべき解像度で僕らの目の前に現れたOASの表現は、6人のファンの想いの結晶なのだ。

当日のOASのセットリスト。フォーマットもRadiohead準拠という徹底ぶりだ。

ライブの後はアングリーベアの着ぐるみが登場し僕らをお見送り。クロージングのDJを務めた村田タケルは、最新リリースの“If You Say the Word”をプレイするも束の間“Lift”“I Can’t”といった青臭くさえある往年のギターロックを投下。B面曲の“Lewis (Mistreated)”は、はじめて『Radiohead Night』に行った時も彼にリクエストしたことを覚えているが、各々のマニアックな偏愛もすべて認め合えるのがこのパーティーなのだと改めて感じる。僕はOASの忠実さには敵わないと書いたがそれは優劣などではなく、バンドならバンドの、DJならDJの、それぞれの得意とすることから表現できるファンの愛情がある。

 

最後に流れた“True Love Waits (Live in Oslo)”。音源から流れるトム・ヨークの「Thank you everybody, Good night!」とスピーカーの向こうにいるファンたちの割れんばかりの歓声が、この空間を包む愛を名残惜しくも清々しく讃えていた。

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