REVIEW
rebound
くだらない1日
MUSIC 2022.12.23 Written By 阿部 仁知

くだらない日々を迷い翔けるヒーローの肖像

高値ダイスケ(Vo / Gt)、太陽(Gt)、河合崇晶(Ba)、中川航(Dr)による、東京を拠点に活動するインディーロックバンドのくだらない1日の、これまでの集大成となる2ndアルバム『rebound』。まず印象的なのは、高値のソングライティングとボーカルであろう。歌とポエトリーリーディングの中間をいくような彼の独特な歌唱は、どこか朴訥で必ずしも“上手”と表現されるものではないのだが、テクニックだレトリックだと語ることになんの意味があるのかとさえ思えてくる生々しい熱情がこもっている。見栄も体裁もかなぐり捨てた言葉の数々は単にエモと呼ぶにはあまりにも性急だが、かといってパンクと呼ぶには感傷に訴え過ぎる。だが日々を生きる苦悩や葛藤を赤裸々に打ち明けた、作為的な白々しさがまったくないむき出しの感情は、そのどちらもこの上なく正確に捉えているように感じてならない。

濁流のようなボーカルからギターが合流しジャスト1分でブレイク感のあるサビになだれ込む“やるせない”から、間髪入れずに前のめりにバンドが駆動する“レッドアイズオルタナティブブラックドラゴン”ではヘヴィなバンドサウンドに撃ち抜かれ、勢いを持続したまま抒情性も持ち込む“原宿五階秘密基地”に浸る。冒頭3曲の流れだけでも激情の中にさまざまな表情が見える『rebound』だが、高値と太陽が交錯する必殺ギターリフがぶっ刺さるキラーチューン“力水”ときたらもう。あえてハードルを上げてNirvana(ニルヴァーナ)の『Nevermind』やOasis(オアシス)の『Definitely Maybe』なんかを引き合いに出しても、まったく霞まないくらいのゾクゾクする無敵感がたまらない。

 

11曲中7曲が既発楽曲のリアレンジで、2016年に結成されてからこれまでの歩みを2022年の空気感でキャプチャーした『rebound』。中盤以降は熱量はそのままにしっとりとした情感を描くことに軸足が移るが、このダウナーでやりきれない感情の表出こそがこのバンドの真価だろう。唯一のフィーチャー楽曲“やすらか (feat. iida Reo)”ではどこか懐かしさのあるiida Rioのラップのフロウと話し言葉のような質感を残す高値の歌唱の対比が鮮やかで、“帰宅部”の「母さんごめんね」のくだりは高値の実直さと優しさが感じられる本作のハイライトだ。

かなり攻撃的なバンドサウンドが前面に出ていながら、くだらない1日には大いなる包容力がある。「これはなんなんだろう?」と考えた時、学生時代の日々が思い当たった。勉学もそこそこに軽音サークルの活動に明け暮れるなかで、仲間のライブに数多く足を運んだ日々。憧れの先輩や気のいい後輩、あるいはかっこいい同級生に嫉妬したりもしたが、みんなが僕のヒーローだった。そう、くだらない1日は、悩んだり迷ったり時には大きな失敗をしながらも全身全霊で謳歌した、あのすべてが許された“くだらない1日”なのだ。ヒリヒリした緊迫感に息を呑むラストナンバー“こわれはじめてゆく今”が描いているのも、そんな脆く儚い彼らの“今”への渇望なのかもしれない。

 

だから何も憚らずに言いたい。あの日々は二度と帰ってこないが、くだらない1日は今の僕にとって仲間と感じさせてくれる存在であり、憧れのヒーローなのだと。10年以上経った今になってそんな青臭く純粋な気持ちにさせてくれる『rebound』に、今日も僕は揺られている。

rebound

 

アーティスト:くだらない1日
仕様:デジタル / CD / LP
発売:2022年4月29日
レーベル:ungulates / Dog Knights Productions
配信リンク:https://linkco.re/MPmdPXaG

 

 

収録曲

1.やるせない

2.レッドアイズオルタナティブブラックドラゴン

3.原宿五階秘密基地

4.力水

5.アメフト部

6.すてないで

7.やすらか (feat. iida Reo)

8.帰宅部

9.激情部

10.状態C

11.こわれはじめてゆく今

くだらない1日

 

くだらない1日は、高値ダイスケ(Vo / Gt)、太陽(Gt)、河合崇晶(Ba)、中川航(Dr)による東京拠点のインディーロックバンド。2016年に福岡で結成され、3枚のEPと1枚のアルバムを自主制作でリリースしたあと、東京のレーベル〈ungulates〉とサインし東京のANORAK!との『Split』と、シンガポールのCues、 インドネシアのHulicaとの『3​-​Way Split』をリリースした。コロナ禍にもかかわらず果敢にツアーを繰り返し楽曲とライブの強度を高め続け、バンド史上最も脂の乗ったタイミングで制作された待望のニューアルバム『rebound』を2022年春にリリース。欧米のミッドウェストエモ〜激情ハードコアにインスパイアされた楽曲に、ポエトリーリーディングを取り入れた歌唱スタイルの融合が実現しており、Tiny Moving PartsやHotel Booksといったバンドを彷彿とさせるサウンドはeastern youthやLOSTAGEといった国内エモ/オルタナシーンのファンをも魅了するだろう。

 

Twitter:https://twitter.com/kudaranai1nichi
Instagram:https://www.instagram.com/kudaranai_1nichi
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCLN5mwbDuBQEua_rnxATR7Q

WRITER

RECENT POST

REVIEW
くだらない1日『どいつもこいつも』 – 新章を告げる、高値ダイスケの詩情とバンドの確かな…
REVIEW
downt『Underlight & Aftertime』- 紆余の中、やりきれない閉塞か…
REPORT
駆け抜けた一年の果てにとがると見た光 – 12カ月連続企画『GUITAR』Vol.12 ライブレポー…
REVIEW
とがる『この愛が終わったら、さようなら。』 -別れと向き合いながら、それでも共に生きていこうとする
REPORT
【もっと身近なクラブカルチャー】vol.7 BRITISH PAVILION OSAKA
REPORT
余暇の別府を満喫する、ユニバーサル観光×クリエイティブ -『おんせん都市型音楽祭 いい湯だな!』イベ…
INTERVIEW
建物を設計・デザインするように曲を作れたら – aldo van eyckインタビュー
INTERVIEW
この苦難の先にGREENJAMがたどり着いた「表現のプラットフォーム」10年目の現在地
INTERVIEW
新フェスティバル『ARIFUJI WEEKENDERS』が描く、自然に囲まれた気軽な週末体験
INTERVIEW
お互いをリスペクトし合いながら切磋琢磨する〈ungulates〉の在り方とは?オーナーKou Nak…
COLUMN
〈ungulates〉作品ガイド
REPORT
ボロフェスタ2022 Day2(11/4 KBS+METRO)- 変わらず全力が似合う21年目の第一…
REVIEW
downt『SAKANA e.p.』 – 今しかできないことを凝縮した鋭利なバンドサウン…
INTERVIEW
【もっと身近なクラブカルチャー】vol.6 Gift
REVIEW
G’ndL『Crocodiles』 – 憂いも迷いも喜びもみんな夢の中
INTERVIEW
今のドイツを国外や他の世代に。『RISIKO』が描くカルチャーの肌触り
INTERVIEW
デモ音源にみる隠せないこだわり アーティストの原点に迫る試聴座談会 with HOLIDAY! RE…
REPORT
阿部仁知が見たボロフェスタ2021 Day6 – 2021.11.7
REPORT
阿部仁知が見たボロフェスタ2021 Day1 – 2021.10.29
INTERVIEW
Radioheadのファミリーに憧れて。OAS / Radiohead Nightが描くファンベース…
REPORT
Radiohead Night @ESAKA MUSE イベントレポート
REPORT
【もっと身近なクラブカルチャー】vol.5 SUNNY SUNDAY SMILE
REVIEW
NEHANN – New Metropolis
REVIEW
Deep Sea Diving Club – SUNSET CHEEKS feat. M…
INTERVIEW
【もっと身近なクラブカルチャー】vol.4:SCHOOL IN LONDON
REVIEW
black midi – Cavalcade
REVIEW
nape’s – embrace foolish love
COLUMN
歌い継がれるエヴァーグリーン|テーマで読み解く現代の歌詞
REPORT
阿部仁知が見たナノボロフェスタ 2020
REVIEW
VANILLA.6 – VANILLA.6
SPOT
Irish pub Shamrock ‘N’ Roll Star
REPORT
【もっと身近なクラブカルチャー】vol.3:Potluck Lab.
INTERVIEW
FLAKE RECORDS
COLUMN
【Dig!Dug!Asia!】Vol.3 空中泥棒
INTERVIEW
メールインタビュー〜世界は今どうなっているんだろう?〜
INTERVIEW
【もっと身近なクラブカルチャー】vol.2:mogran’BAR
INTERVIEW
Alffo Records
INTERVIEW
もっと広がりたい 再び歩み始めたSSWの現在地 ASAYAKE 01インタビュー
INTERVIEW
【もっと身近なクラブカルチャー】vol.1:GROOVER
COLUMN
お歳暮企画 | アンテナとつくる2019年の5曲 Part.2
COLUMN
お歳暮企画 | アンテナとつくる2019年の5曲 Part.1
REPORT
阿部仁知が見たボロフェスタ2019 3日目
REPORT
阿部仁知が見たボロフェスタ2019 2日目
REPORT
阿部仁知が見たボロフェスタ2019 1日目
REPORT
black midi live in japan @CLUB METRO ライブレポート
REPORT
【阿部仁知の見たボロフェスタ2018 / Day3】河内REDS / トクマルシューゴ / 本日休演…
REPORT
【阿部仁知の見たボロフェスタ2018 / vol.夜露死苦】And Summer Club / キイ…
REPORT
【阿部仁知の見たボロフェスタ2018 / Day2】ギャーギャーズ / 2 / 踊ってばかりの国 /…
REPORT
【阿部仁知の見たボロフェスタ2018 / Day1】眉村ちあき / fox capture plan…

LATEST POSTS

REVIEW
くだらない1日『どいつもこいつも』 – 新章を告げる、高値ダイスケの詩情とバンドの確かな足取り

衝撃を持って受け止められた《WACK》への移籍や、初の海外公演となる『SXSW(サウス・バイ・サウス…

REVIEW
downt『Underlight & Aftertime』- 紆余の中、やりきれない閉塞から燃え立つ焦燥へ

2021年の結成以降、数えきれないほどのライブを精力的に行なってきたdownt。シングル『III』(…

INTERVIEW
孤独な青年の思春期が終わった、 LAIKA DAY DREAMなりのグランジ作品『Shun Ka Shu Tou』

Kazutoshi Lee(Vo / Gt)のライブを初めて観たのは昨年の〈荻窪velvet sun…

REVIEW
寒空の下、まっすぐに前を向く音が鳴る

2019年結成、東京を拠点に活動する3人組Sugar Houseが2024年1月17日(水)、1st…

INTERVIEW
全員が「ヤバい」と思える音楽に向かって – 愛はズボーンが語る、理想とパーソナルがにじみ出た『MIRACLE MILK』

13年間続けてきた末に出た、現時点での「ヤバいもの」。 それが自分なりに『MIRACLE MILK』…