くだらない日々を迷い翔けるヒーローの肖像
高値ダイスケ(Vo / Gt)、太陽(Gt)、河合崇晶(Ba)、中川航(Dr)による、東京を拠点に活動するインディーロックバンドのくだらない1日の、これまでの集大成となる2ndアルバム『rebound』。まず印象的なのは、高値のソングライティングとボーカルであろう。歌とポエトリーリーディングの中間をいくような彼の独特な歌唱は、どこか朴訥で必ずしも“上手”と表現されるものではないのだが、テクニックだレトリックだと語ることになんの意味があるのかとさえ思えてくる生々しい熱情がこもっている。見栄も体裁もかなぐり捨てた言葉の数々は単にエモと呼ぶにはあまりにも性急だが、かといってパンクと呼ぶには感傷に訴え過ぎる。だが日々を生きる苦悩や葛藤を赤裸々に打ち明けた、作為的な白々しさがまったくないむき出しの感情は、そのどちらもこの上なく正確に捉えているように感じてならない。
濁流のようなボーカルからギターが合流しジャスト1分でブレイク感のあるサビになだれ込む“やるせない”から、間髪入れずに前のめりにバンドが駆動する“レッドアイズオルタナティブブラックドラゴン”ではヘヴィなバンドサウンドに撃ち抜かれ、勢いを持続したまま抒情性も持ち込む“原宿五階秘密基地”に浸る。冒頭3曲の流れだけでも激情の中にさまざまな表情が見える『rebound』だが、高値と太陽が交錯する必殺ギターリフがぶっ刺さるキラーチューン“力水”ときたらもう。あえてハードルを上げてNirvana(ニルヴァーナ)の『Nevermind』やOasis(オアシス)の『Definitely Maybe』なんかを引き合いに出しても、まったく霞まないくらいのゾクゾクする無敵感がたまらない。
11曲中7曲が既発楽曲のリアレンジで、2016年に結成されてからこれまでの歩みを2022年の空気感でキャプチャーした『rebound』。中盤以降は熱量はそのままにしっとりとした情感を描くことに軸足が移るが、このダウナーでやりきれない感情の表出こそがこのバンドの真価だろう。唯一のフィーチャー楽曲“やすらか (feat. iida Reo)”ではどこか懐かしさのあるiida Rioのラップのフロウと話し言葉のような質感を残す高値の歌唱の対比が鮮やかで、“帰宅部”の「母さんごめんね」のくだりは高値の実直さと優しさが感じられる本作のハイライトだ。
かなり攻撃的なバンドサウンドが前面に出ていながら、くだらない1日には大いなる包容力がある。「これはなんなんだろう?」と考えた時、学生時代の日々が思い当たった。勉学もそこそこに軽音サークルの活動に明け暮れるなかで、仲間のライブに数多く足を運んだ日々。憧れの先輩や気のいい後輩、あるいはかっこいい同級生に嫉妬したりもしたが、みんなが僕のヒーローだった。そう、くだらない1日は、悩んだり迷ったり時には大きな失敗をしながらも全身全霊で謳歌した、あのすべてが許された“くだらない1日”なのだ。ヒリヒリした緊迫感に息を呑むラストナンバー“こわれはじめてゆく今”が描いているのも、そんな脆く儚い彼らの“今”への渇望なのかもしれない。
だから何も憚らずに言いたい。あの日々は二度と帰ってこないが、くだらない1日は今の僕にとって仲間と感じさせてくれる存在であり、憧れのヒーローなのだと。10年以上経った今になってそんな青臭く純粋な気持ちにさせてくれる『rebound』に、今日も僕は揺られている。
rebound
アーティスト:くだらない1日
仕様:デジタル / CD / LP
発売:2022年4月29日
レーベル:ungulates / Dog Knights Productions
配信リンク:https://linkco.re/MPmdPXaG
収録曲
1.やるせない
2.レッドアイズオルタナティブブラックドラゴン
3.原宿五階秘密基地
4.力水
5.アメフト部
6.すてないで
7.やすらか (feat. iida Reo)
8.帰宅部
9.激情部
10.状態C
11.こわれはじめてゆく今
くだらない1日
くだらない1日は、高値ダイスケ(Vo / Gt)、太陽(Gt)、河合崇晶(Ba)、中川航(Dr)による東京拠点のインディーロックバンド。2016年に福岡で結成され、3枚のEPと1枚のアルバムを自主制作でリリースしたあと、東京のレーベル〈ungulates〉とサインし東京のANORAK!との『Split』と、シンガポールのCues、 インドネシアのHulicaとの『3-Way Split』をリリースした。コロナ禍にもかかわらず果敢にツアーを繰り返し楽曲とライブの強度を高め続け、バンド史上最も脂の乗ったタイミングで制作された待望のニューアルバム『rebound』を2022年春にリリース。欧米のミッドウェストエモ〜激情ハードコアにインスパイアされた楽曲に、ポエトリーリーディングを取り入れた歌唱スタイルの融合が実現しており、Tiny Moving PartsやHotel Booksといったバンドを彷彿とさせるサウンドはeastern youthやLOSTAGEといった国内エモ/オルタナシーンのファンをも魅了するだろう。
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はろーべいべーあべです。フェスティバルとクラブカルチャーとウイスキーで日々をやり過ごしてます。fujirockers.orgでも活動中。興味本位でふらふらしてるんでどっかで乾杯しましょ。hitoshiabe329@gmail.com
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