INTERVIEW

FLAKE RECORDS

MUSIC 2020.07.23 Written By 阿部 仁知

大阪南堀江、FLAKE RECORDS。Buzzfeedの「アナタが死ぬ前までに訪れるべき魅力的な世界のレコード店 27選」にも選ばれたこのレコード・ショップを切り盛りする和田貴博さん。通称「DAWAさん」として多くのアーティストに親しまれ、自身も足しげくライブの現場に顔を出しながら、レーベル運営やグッズの製作、DJにライブの招聘など様々な顔を持つ、言わずと知れた大阪のインディーズ界隈のアイコン的な存在だ。ミュージシャンとの関わりや、繋がりつつあるアジアの音楽シーンの中で「自身が担う役割」、FLAKE RECORDSの在り方を伺った。変わることを受け入れむしろ楽しんでいく、彼のそのフレキシブルな現場感に焦点を当てたい。

FLAKE RECORDS

住所

〒550-0015 大阪市西区南堀江1-11-9 SONO四ツ橋ビル201

営業時間

12:00〜21:00

(年末年始は除き年中無休)

お問い合わせ

TEL:06-6534-7411  FAX:06-6534-7412

MAIL:info@flakerecords.com

Webサイト

http://flakerecords.com

Twitter

FLAKE RECORDS:https://twitter.com/FLAKE_RECORDS

店主・和田貴博さん:https://twitter.com/DAWA_FLAKE

何回も来ると面白くなる。様々な入り口をフラットに

──

DAWAさんは日常的にかなり沢山の音楽に触れていると思うのですが、お店で取り扱うのはシビアに「きちんと売れるかどうか」を考えながら観たり聴いたりしてるんでしょうか?

和田貴博(以下DAWA)

「観ないと伝えられない」って思いがあるのでライブは行けるだけ行っています。ただライブがいいなって思うバンドはいくらでもいるんですけど、音源だとピンとこないってことも多いです。例えば声。ロックバンドは下手でもできるけど、それでも声の魅力がないとなってのは思っていて。海外でライブを観ていると、ボーカルは抜群にうまいし、当たり前のようにメンバー全員コーラスができる。そういう基本能力が違う気はします。

 

ただ仕入れに関しては「なんとなくこの感じならいけるな」くらいのニュアンスなんです。僕はそれほど好きでもなくても他の人がすごくハマる音楽もあるでしょうし、僕がいいと思う音楽だけだと売るものがなくなっちゃうので。お客さんに対しては「これだけあるから好みの音楽もちょっとはあるんじゃない?」くらいのゆったりした感覚です。でも僕としては入り口系の音楽しか置いてないとは思ってて。

──

入り口系というと?

DAWA

自分のお店をなにかに特化した専門ショップみたいには思っていなくて、取り扱っている様々なジャンルの中でもわかりやすいものをセレクトしているつもりです。特定のジャンルを深く掘ることに関してはお客さんにかなわないし、本当にハマってる人は海外から直で取り寄せたりするので、レコード屋の意味があまりないんですよ。その中で、例えば日本の売れてるバンドがうちに出入りしてくれてそのお客さんもここに来てくれる、そういう環境にうまくハマるような入り口でありたいと思っています。それでもだいぶハードルは高いらしいですけどね。

──

入り口として機能したいというのは、日本のリスナーや音楽好きに対して少しでも世界を広げて欲しいみたいな意識ですか?

DAWA

その意識はありますね。普通個人のお店でメジャー・レーベルの商品はあまり仕入れられないんですけど、縁あってうちには置けるものもあるので、そこをインディーと混ぜる役割は担ってるのかなと思ったりはします。メジャーな商品って世間的人気が出れば出るほどうちでは売れなくなるので、新人の方が売りやすいんですよ。それはレコードを買うお客さんの習性も多分あって、ニッチなものが好きとか、売れる前のみんなが知らないものが好きとか、あるはずなんですよね。

──

発見する喜びみたいな。それだと確かにメジャーなアーティストは取り扱いにくくもなりますよね。

DAWA

そうなんですよ。だからアーティストとの個人的な関係が深いからなんとか扱えてる感じはあるんです。実際1枚しか入れてないものも100枚入れてる商品も扱う熱量は一緒なので、扱ってることだけでもちゃんと言っておきたいなとは思っていますね。

──

メジャーやインディーのアーティストをフラットに混ぜるための工夫はありますか?

DAWA

うちはレコードもCDもジャンルでは分けていなくて、洋楽も邦楽も関係なくバラバラに並べているんですよ。Beckの横におかもとえみでその隣はHomecomings、みたいななんとなくのニュアンスで並べてます。一応こっちの棚はロック色が強くてこっちはクラブ系とか傾向もあるんですけど、あえてわかりにくくしてます。

──

それはなかなかオンラインではできない実店舗ならではですよね。手にとって探していく楽しさ。

DAWA

何回も来たら面白くなるお店にしたいなと思っています。「そっか、この辺の棚にこれがあるのか」ってのは何回か来るとわかるんですよ。ぼんやりとなんとなくで集まっていて全部見ないとよくわからないので、カタログ的に探しにくる人には不便だろうなとは思います。それを全部見てもらえるような人を増やしたいと思っていますね。カタログショップにしちゃうと絶対Amazonとかには勝てないので、違いをどのようにつくるのかを意識してるところはあります。

お客さんもアーティストも少しでも広がっていくように

──

大阪でやることの意味みたいな話をどこかのインタビューでちらっとされてたんですけど、そのことをもう少し詳しく聞きたいです。

DAWA

東京だと無理だなと思っていて。家賃とかそういうお金の問題もあるし、人口が多いからもっと売上が伸びるか、といったらそうでもない気がしてます。ちょっと観光地化している部分もあるから、大阪に来た時に寄る店というだけでもいいかなと。バンドマンはツアーの合間に寄ってくれるけど、これが東京だったらわざわざ来ないと思うんですよ。彼らも別に何かを買いに来るわけじゃないんですけど、Twitterにお店のことをあげてくれたりすると、それで来てくれるお客さんもいるみたいで。SNSがなかったら潰れてるなって感じますね。

──

SNSで言えばDAWAさんは発信頻度がめちゃくちゃ高いですよね。一枚一枚聴いてコメントを書くって結構な大変さだろうなと思っていつも見てます。

DAWA

コメントは絶対自分で書くようにしているんです。あまり深く考えてないんでぱぱっとやってますけどね。でも何枚目のアルバムで誰がプロデュースだとか、必要な情報は必ず入れるように意識はしています。あと海外のレコード屋に行ってもコメントなんて絶対ないんですけど、日本でそのスタイルは難しいかなと感じている部分もあります。

──

そう言われるとコメントって日本的なんですね。

DAWA

そうかもしれません。それとうちは試聴機に何曲か選んであげて聴いてもらうっていう古典的なことをやってるんです。ハイライト曲を3曲くらい選んで。それぐらい提示してあげないとお客さんも判断できない部分もあると思うんですよ。全部聴き放題ですっていっても聴ききれない。これはかなり意識してやってます。

──

理想としてはガイドラインがなくても新しいものを手に取ってもらえることですよね。

DAWA

そうですね。親切すぎてもよくないと感じています。でも押し付けるようなこともしたくない。「英語は日本語よりスピード感があるように聞こえるよ」とか「英語だとドレミって3音の中に単語がバッと詰まってリズムが面白く聞こえるよ」とか言うと、それだけでもハッとする人は結構いるのでTwitterでは言うようにしてます。あと僕はライブの転換でDJもしてるんですけど、その場で聴いてなんとなくそれを覚えててもらえたら、次出会った時に面白いんじゃないかなって思ってますね。そういう体験が音楽では重要な気がしていて。

──

思いがけない出会いってことですよね。この場所でやりたいのは、レコードを売るだけじゃなくて、訪れた人が目的じゃないものと出会うとか、少しでも広がるとか。

DAWA

ここから生み出すカルチャーって絶対あるなって思っていて。例えばtoeのメンバーが来た時に「多分これ好きやから」って渡したのがきっかけで、んoonをフィーチャリングするってことがあって。あと大石晴子さんにはものすごくピンときてFLAKEでも推してたんですけど、この前のZepp Nambaのライブで「なんで呼ばれたん?」って聞いたらいきなりオファーされたって言ってました。それからキョードー大阪のやつに聞いたら「FLAKEで聴いて良かったんで」って言ってくれて。その子の役に立てて良かったなって思います。

──

自然とFLAKEが音楽関係者のハブになっているってことですよね。知り合いのバンドの方に、DAWAさんに会って色々バンドの運営とかするようになってて、色々ハッとすることがあったとお聞きしました。そんな風にバンドマンから相談されることも多いですか?

DAWA

多いですね。僕もアイディアは出してるかもしれません。例えば梅田のShangri-Laを売り切れるくらいになったらバンドの運営でお金が回るようになるって分かってるので、「それを続けていけたらお前ら食えるで」とは思うんですよ。でも自分がマネジメントしたいわけでも抱え込みたいわけでもないので、その時僕が持ってるコネクションやアイディアの中でここまでなら応援できるよ、みたいな感じでやってます。だからって爆発的に売れるかといったらそうではないけど、少しでも広がっていくんならできることは協力したいと思いますね。

繋がっていくアジアの中で

──

今、アジアの音楽シーンが繋がりつつあると感じています。実感はありますか?

DAWA

それはあると思います。今うちに来る中で1/3くらいが外国人のお客さんで、台湾や韓国の人は日本のインディーもよく買いに来ます。そういうお店としてはアジア圏で結構知られてるみたいですね。

──

多くのお客さんやアーティストと接する中で、アジア各国のシーンとのギャップは感じますか?

DAWA

音楽的には向こうが進んでるんじゃないかなって思います。欧米の音楽との差がないというか。日本はJ-ROCKみたいな独自の音楽が生まれていてそれはそれでいいんですけど、グローバルにリンクできる音楽はそれほど多く生まれていない。向こうだと音源をリリースしてすぐに欧米に飛び火するなんてことがあって、絶対的なバンド数が少なくてライブハウスも多くない分クオリティで勝負するから面白いですよね。日本だけで売れればいいやって考えもわかるんですけど、せっかく無限に可能性は広がるんだから海外も意識した方が面白いのになって感じることは多いです。そういう意味でも今おとぼけビ〜バ〜とかCHAIを見てるのがすごく楽しくて。

──

リアルに漫画の『BECK』の世界ですよね。すごく夢がある。

DAWA

CHAIなんて海外の方がライブの本数が多いって言ってたし、僕が子どもの頃にはそういうバンドは存在しなかったので、すごく夢のようなものを見てるなって思いますね。海外の盛り上がりがリアルに伝わってくる。あとThe fin.なんて今中国で1500人のキャパの会場が10ヵ所くらい即完売するって言ってて、むしろ海外の方が盛り上がっている。そういう様子を見て若いバンドが台湾や中国、東南アジアに行き始めて徐々に広まっている感じはしますね。

──

そうなるとFLAKEの役割も一層重要になってきそうだなって思います。

DAWA

そうだといいですけどね。でもうちのような個人店が面白くなる時代が来るんじゃないかという希望は持ってます。その前に体力が尽きちゃいそうで怖いですけどね。今燃やしている気持ちがなくなる時は来ると思うし、その時はそれで終わりかなっていう感じはあります。

──

そういった原動力はどこからくるものなんですか?

DAWA

それは日々アップデートしています。僕は言ってることも趣味もコロコロ変わるし、ブレまくりなんですよ。多分日本人の美学として「ブレない」とか「折れない」とかあると思うんですけど、そういうのがすごく嫌いで。「言ったことに責任を持ってない」とか言われるけど、今好きなものが正しいわけではないし「前と今が違うのは仕方ないやん」って言いたいんですよね。だからあえて天邪鬼みたいにやってるかもしれません。

──

変わりますよね。明日は違う音楽聴きたいですし。

DAWA

そうですよ、食べ物でもそうだし。マイブームってあって当然で、例えばSuchmosも3rdで急にサイケ路線にいったら「前と違うからもういい」みたいなことを言うファンの方もいるじゃないすか。でもバンドがそれをやりたいって思ってるならそれでいいんじゃないかなと思うことが多くて。変わるのを良しとしない文化は窮屈だなって思います。だから僕の気持ちも変わっていくし、もしかしたらいつか音楽にも興味がなくなってしまうかもしれない。でも今は燃やしていける気持ちがあるので、それが続く限り突っ走っていこうと思っています。

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