INTERVIEW

【もっと身近なクラブカルチャー】vol.4:SCHOOL IN LONDON

現場で活躍するDJの声を通してクラブカルチャーをもう少しだけ身近に感じてもらいたい。それが連載『もっと身近なクラブカルチャー』です!クラブのフロアは、人種も性別も思想も超えた自由が交錯する場所です。そして、自由が故にフロアに集う人々それぞれの主体性が試される場でもあります。現場で活躍するDJやクラブカルチャーの当事者たちの姿を通して、単なる遊び場にとどまらないクラブカルチャーの魅力を伝えられればと思います。

MUSIC 2021.06.30 Written By 阿部 仁知

今回インタビューしたのは、東京を拠点に活動するインディー・ミュージック・コレクティブ SCHOOL IN LONDONを主宰し、DJを軸にライターの活動やライブの招聘など多岐にわたり活躍している村田タケルさん。コロナ禍でもひたむきに大好きなインディー・ミュージックを盛り上げようとする彼の姿に今僕らが失いかけている精神を感じていた僕は、さまざまな仮説を立て質問を投げかけるのですが、彼は意外なほど「特に意識はしてないけどね」と語ります。

 

一方で印象的だったのは「ローカルで活動するDJのタフなマインドに強く影響を受けている」というお話。そこにはタケルさんが今夢中になっているサウス・ロンドンのシーンとも共通した、「既存のやり方にとらわれず、自分がいいと思ったものを自分のやり方でつくっていく」インディペンデントなマインドがあったのです。そしてそれぞれの役割は違ってもそんなマインドを持った人たちが集まり作り上げていくコレクティブという緩やかな連帯のあり方は、苦境の今だからこそ大きな意味のあることに思えます。そんなSCHOOL IN LONDONのマインドを紐解いていきましょう。

SCHOOL IN LONDON

 

DIY. Current indie music collective and formation of community through DJ party & playlist. (Twitterプロフィールより)

 

東京を拠点に活動するインディー・ミュージック・コレクティブ。現行の海外インディーを中心に、たとえその音楽がまだ日本であまり広く知られていないとしても、今一番良いと思った音楽を主役に据えるよう展開するDJが特徴的。ゲストライブにも小さいシーンから登場し今まさに全国に羽ばたくバンド達が出演し(これまでにもNEHANN、Bearwear、the McFaddin、I Saw You Yesterday、Mississippi Khaki Hair、Brother Sun Sister Moon、No Buses、Jan Flu、Ms.Machine、Barbican Estate、Sisters In The Velvet、American Dream Express、The Planet We Can See、VANILLA.6などが出演)、to’morrow recordsの出張販売や、ピクセルアートデザイナーのtakekiyoによるフライヤーデザインなど、インディーシーンの繋がりの中で緩やかに広がるコレクティブの在り方が垣間見られるパーティーだ。

 

出演:村田タケル、タイラダイスケ、遠藤孝行 + Guest DJ , Live, Shop
Webサイト:https://school-in-london.tumblr.com
Twitter:https://twitter.com/SIL6666999
Instagram:https://www.instagram.com/sil_tokyo/
※現在は不定期開催。開催日程や詳細についてはSNSなどでチェック。

配信とプレイリストで緩やかに広がる「現場」

──

早速なんですけどコロナ禍のこの一年、SCHOOL IN LONDON(以下:SIL)をやってみてどうでしたか?2020年2月のイベント中止からすぐ配信に向けて動き出して、〈Alffo Records〉と東西から配信したりこの前はタケルさんの家からやったり、いろんな方法で「今できること」を模索してるなって感じてます。

村田タケル(以下:村田)

人が呼べなかったりして考えなきゃいけないことはたくさんあったけど、むしろ新しいやり方を取り入れるチャンスと捉えている部分もありました。自分がやりたいことの一つは「パーティーの現場に限らずその時代の海外のインディー音楽の面白さを伝えたい」ってのもあるから、配信にチャレンジしてみたいって気持ちはあって。最初は珍しさもあったと思うんですけど、配信することで、現場にはまだ来れていないけど海外インディーは好きでSILを気になっていた人たちとか、普段リーチできないところまでリーチできたなって感じています。

──

今の状況だとなおさら現場に行くのはハードルに感じるところはあるけど、配信を流しておくことはできるというか。この前の配信なんかキッチンで料理しながら流してたんですけど、こういうのもいいなって感じましたね。

村田

それもいいですね(笑)。配信だといつもやってる都内だけではなく日本全国、海外の方にも届けられるので、これはこれで一ついいやり方だよなって感じてます。

無観客配信の様子(DJ:村田タケル)
──

気軽さって大きいですよね。ただ一方で難しさもあると思うんですよ。普段通ってる中で、DJパーティーってオーディエンスとのコミュニケーションで成り立っている部分があるよなって感じてるんですけど、DJ側からしたらそれってどうなのかなっていう。

村田

リアクションが見えにくい難しさはたしかにあります。あとこの前自宅でやった時はさすがに近所のことを考えて爆音ではできないので、現場では部屋のボリュームでやったりとか。ただ配信はYouTubeに残ってるんですけど、アーカイブで見てくれる人も多いってことが判明しまして。

──

あー、そういうこともあるのか!それは嬉しいですね!

村田

だからどうしてもクラブの現場とは違う配信の難しさもあるけど、アーカイブも含めていろんな人に届けられる利点を強く感じているのでそこは割り切って考えています。その分より純粋にプレイだけに焦点を当てて、自分が推したいものをしっかり示すことを重視してんのかなって思いますね。

──

難しさもありつつ、ポジティブに考えていくというか。

村田

高校の友達が在宅で仕事中聴いてるって言ってて(笑)。そういう広がりは自分でも気付かされたところです。

家からの配信の様子(DJ:タイラダイスケ)
──

なんか「現場」って概念がもうちょっと広がるような感じもしますね。そういう意味ではプレイリストのお話も聞きたいです。Twitterのプロフィール欄で「DJ Party & Playlist」って並列で書いてるのが気になってて、「あくまで現場が主役で副次的なものとしてプレイリスト」って方は多いと思うんですけど、SILは多分そうじゃない書き方だなと思っていて。

村田

自分がDJのプレイヤーであるということの前に、音楽リスナーであり音楽ディガーであるという意識はありますね。SILを通じで新しいインディー音楽へのワクワクを共有できる場所をつくれたらいいなと思っていて、実際にまだあまり知られていないような海外のインディーをかけることが多いので、お客さんもスッと入れるようになったり、「SILでかかるんじゃないか」とワクワクしてもらえたりしたらいいなと思っています。

──

一度でも聴いたことがあるかどうかで、現場での体験として違うものがありますからね。特にインディーロックなんかだと。また後でも話したいんですけど、タケルさんのライター活動も含めてSILの周りにはDJだけじゃなくてさまざまな活動をしてる人が集まっているからこそ、ファン層以外にも緩やかに広がってるんじゃないかと思います。

村田

それはあるかもしれませんね。はじめて来るお客さんにとっては「現場で何が起こってるか」って来ないとわからないと思うし、その怖さはできるだけ取っ払った方がいいと思ってるので、「こういう場所なんだ」ってのは伝えたいなって思ってます。

 

育まれてきたインディペンデントなマインド

──

タケルさんってクラブやDJには昔から馴染みがあったんですか?SILを始めるきっかけも聞きたいんですけど、どういうところが入り口だったのかなって。

村田

大阪の大学に通ってたんですけど、そこで友達に連れられて梅田の〈NOON+CAFE〉に行ったのがはじめてでしたね。ライブとは違うクラブの環境で大音量を浴びる楽しさをそこで知りました。それからもクラブではたびたび遊んでいてDJにも興味はあったんですけど、どう始めていいかもわからない状況が続いて、それから就職して千葉に引っ越して。

──

それで一度関東に行くんですね。

村田

それを機にDJ機材を買いました。でもやり方もわからないし友達もいないから、当時住んでた会社寮でひたすら練習する期間が1年ぐらいあって。そこでDJのやり方は自己流ながらも経験していましたね。

──

そうなんですね。1年も寮でひとりで続けるってすでにかなりタフな感じがします。

村田

どうだろ(笑)。千葉でも1時間半くらいかけて下北沢や新宿に遊びに行ってたんですけど、本当に友達がいなくて(笑)。相変わらず興味はあるけどやれない状況が続いて、「これだったら自分で始めたほうがいいんじゃないか」って思ったのがSILの始まるきっかけです。なかなか当時行動力があって(笑)。

──

一念発起というか。

左からMao(Staff)、村田タケル、タイラダイスケ、たかざわ(Staff)
村田

SILは千葉の〈HUB〉で始まったんですけど、ブリティッシュ・パブとして展開されてて店内もUKロックがよく流れるイメージだったので、海外の音楽が好きな人がよく来る場所なのかなって思ったんですよ。だから〈HUB〉でやらせてもらおうと思って、「こういうことをしたい」って企画書を書いてメールをしたっていう(笑)。

──

企画書を!すごいな(笑)。

村田

そしたら当時の千葉のエリアマネージャーみたいな人がその企画書を見て「おもしろそう」って感じてくれたらしくて、それで面談することになって。

──

面談!DJってそうやってはじめるものでしたっけ?(笑)。

村田

多分かなり独特な始め方ですね(笑)。

──

だいぶユニークですね。タケルさんは今でこそインディーへの想いを持って活動してると思うんですけど、当時からそういう意識ってあったんですか?

村田

一番の初期は今ほどは「新しい海外のインディー」という感じではなかったです。お客さんも音楽に興味がある方が多いっていう感じでもなかったんですが、OasisとかBlurとかThe Killersとか、いわゆるUKロックアンセムなら反応してくれたりする確率も高くなるので、そうした音楽も今よりかなり積極的にかけていたと思います。今とスタイルは全然違いますね。

──

それから今にかけてビッグネームからどんどんインディー寄りになってきたような感じですね。

村田

そうですね。あと千葉時代で一個重要なのは、今SILのフライヤーをデザインしてくださっているtakekiyoさん ※1 に出会ったことですね。

※1 takekiyo。The Charlatans、Ash、Bloc Party、Superorganismなどのマーチャンダイズのデザインでも知られるピクセルアートデザイナー。

──

そうだったんですね!かなり初期の段階で。

村田

そうそう。SILの告知を見たtakekiyoさんが遊びに来てくれて初めてお会いしたんです。当時1人で毎回3時間のDJセットは結構大変だったので、彼にも途中からはDJを半分くらいしてもらって。

takekiyoデザインのSCHOOL IN LONDONのフライヤー
──

それからいろんなDJに出会ってゲストで呼んだりしていくと思うんですけど、そこでタケルさんのSILのつくり方や自身のプレイで影響を受けた人やイベントってありましたか?

村田

当時〈下北沢CLUB QUE〉でやってたFREAK AFFAIR ※2 っていうパーティーのスタッフもやっていたんですが、FREAK AFFAIRは確か「現行のかっこいい音楽を追求する」みたいなコンセプトでやっていて、現場にいる中で「すごくソリッドでかっこいいな」って感じていて。当時のSILでやっていた少し大衆っぽい感じと比較すると、強く頭を打たれるようなショックを覚えました。そこから「自分がかっこいいと思ったものを追求したい」っていう方向に、ちょっとずつ考えが変わっていったような気がします。

※2 FREAK AFFAIR。村 圭史、遠藤孝行、小高浩一郎によるDJパーティー。1994年から2016年までの22年間、〈下北沢CLUB QUE〉にて開催された。

──

確かに感覚としてはわかります。OasisとかBlurも最高だけど、ひたすらそれだけというのも新鮮味に欠けるというか。

村田

もちろん当時あった「みんなが好きな音楽をちゃんとかける」って意識が今はまったくないかといったらそうではないけど、「自分が今かっこいいと思ったものを自分のやり方で打ち出すのが大事だ」って意識に変わっていったのはあるかもしれないです。

──

DJとしてのアイデンティティの芽生えというか。具体的にどうタケルさんのプレイに影響がありましたか?

村田

今一番推したい音楽を一番いいシチュエーションで鳴らすってことを意識するようになりましたね。いわゆるピークタイム、一番盛り上がる時間帯にみんなが好きな往年の名曲をかけるのもまあ正解なんですが、そういうアンセムも流れとして組み込みながら、あくまで自分が一番推したい曲が最高に輝けるようなDJにしたいと思っています。

──

たしかにその気概はいつも踊ってる中でも感じます。それからタケルさんは関西に来てまた関東に戻ってますが、転職や転勤をむしろ契機としてそれぞれでコミュニティをつくってるのがすごいなと思ってて。それってここで育まれた「やりたいことは自分でやる」インディーのマインドともつながる話だよなって。

村田

そんなに意識してるわけではないですけどね(笑)。関西か関東かにはいるんで、いい場所には行けてるんですよやっぱ。

──

恵まれてるというか。

村田

そうですね、恵まれてるって言い方が一番あってるかな。

恵比寿BATICA(DJ:遠藤孝行)

強く影響を受けた、ローカルで活動するDJのタフなマインド

──

SILはいろんなクラブでやってますよね。特定の場所との結びつきよりは「よく知らない場所だけどここでSILをやるようだから行くぜ」みたいな、気軽に行けるクラブを増やしていくような方向に意識が向いてるのかなって。

村田

まあ意識ってほどのことではないけど、ライブを入れたいとか今回はDJをたくさん入れたいとか、その時々でやりたいことがちょっとずつ変わっていくので、それで結果的にいろんなクラブをまわってるような感じですね。

──

なるほど。ゲストもそうだし、クラブごとにSILの雰囲気が変わるってこともあると思うんですけど、そういう部分ってありますか?

村田

例えばライブをやるようなところ、最近だと〈下北沢THREE〉や〈恵比寿BATICA〉、渋谷の〈RUBY ROOM〉だとライブ目当てで来るお客さんもそれなりにいて、それで雰囲気は毎回違う気がしますね。そこに隔たりが生まれないように、バンドのお客さんでもDJに興味を持ってもらえるようにというのは意識してます。ライブ間でDJをしてるんですけど、バンドにつなぐ流れやバンドを受ける流れだったり。

──

大阪の〈SOCORE FACTORY〉だとDJブースをあえて前に設置したってこともありましたよね。結構こだわりがあったって聞くんですけど。

SOCORE FACTORY(Guest DJ:ナカシマセイジ(Alffo Records))
村田

あれはかなりこだわりましたね。〈SOCORE FACTORY〉ってステージが結構高いじゃないですか。それだったらステージの前にDJブースを設置したらいいんじゃないかなって。ライブでもDJでもお客さんの目線が一定方向になるので、双方のお客さんがお目当以外の時間帯でも自然とステージに関心を持っていけるっていうアイデアでああいう感じになりましたね。

──

たしかに目線が一緒なのは重要なのかも。ステージの方をずっと向いてDJは横や後ろっていう状況はいろんなところであると思うけど、音だけじゃなくてDJを「見てる」のは意外と大きな部分なんだろうなって思いますね。

村田

そうですね。ライブが終わるとライブ目当てのお客さんがバーカンに行って戻って来ないみたいなこともあったりするので、DJの面白さも伝わって欲しいと意識しているところはありますね。

──

〈SOCORE FACTORY〉はバンドとDJがうまく馴染んでいるライブハウスだと思うけど、その中でもDJも強く打ち出したいタケルさんの気概を感じます。あと高知とか松本とかのクラブにも行ってますよね。そこで培ったものもあるんだろうなって想像します。

村田

高知はThe Party Line、松本はNeverhoods Neighborhoodsというパーティーに呼んでいただきました。東京からわざわざ呼んでくれるのはありがたいし、なにより東京や大阪のような都市圏以外にも同じようなマインドを持った仲間たちがいるって実感できたのは大きかったですね。

──

それもSILの糧となってるような。

村田

そうですね。京都に住んでた時期に関西のイベンターと出会う中で、特にNEIGHBORHOODを主催するnishikawaさんや自分も所属させてもらったMAPを主催するwaddyさんといった方々に特にお世話になっていたんですが、「ローカルで活動するイベンターってすごくタフだな」ってのをめちゃくちゃ感じて。金銭的にも楽ではないはずなのに、東京のバンドも積極的に呼んでギャランティーも渡して。それでも純粋に「自分が住んでいるこの土地でも自分がやりたいイベントを実現していくんだ」って姿勢が伝わってきて、すごく美しい姿だなとよく思っていました。それを考えた時に、高知や松本で多分状況的にはもっと難しい中でやってるのは本当にすごいことだなって。

Alffo Records(DJ:村田タケル)
──

本当にそうだと思います。僕は「大阪に来日が来ねえ」とか嘆いてるけど、それでも日本で2番目に恵まれているはずだし。でも聞いてて思ったんですけど、タケルさんも間違いなくそのマインドはありますよね。大阪にMOURN ※3 を呼んでたじゃないですか。それもマインド的な影響があるんですかね。

※3 MOURN(モーン)。スペインのバルセロナを拠点に活動するインディー・ロック・バンド。2019年3月の東京公演開催時「なんとか大阪でも!」と奮起した村田タケルにより、Alffo Recordsとともに〈Circus Osaka〉にて大阪公演が開催された。

村田

間違いなくあります。その時は「自分がやらなくちゃいけない」っていう謎の使命感があって(笑)。やっぱり大阪の人にはすごく影響を受けましたね。さっきのDJの影響の話だと、自分の好きなものをちゃんと打ち出すDJをするのってCURRENTS ※4 の影響もあるし。彼らの活動を見て自分も「もっとがんばらなきゃ」って思ったり。

※4 CURRENTS。YASU、TKO、PSHANDYによるDJパーティー。〈Alffo Records〉で不定期開催。

──

自分のマインドにも改めて気付かされるというか。意識さえしてないと思うんですけど、関西のDJの方々は「俺が関西のクラブカルチャーを!」みたいな感覚があるんだろうなってのは僕もなんとなく感じますね。多分僕の「大阪に来日が来ねえ」もそう違う話じゃなくて、「ほっといたら衰退していってしまうんじゃないか」っていう危機感が共通してあるんじゃないかなってのは聞いてて感じました。

村田

たしかに自分がMOURNをどうしても呼びたかったのもそういう気持ちかもしれません。肩肘張らないけど、めちゃくちゃ好きな音楽やカルチャーをもっと色んな人に伝えたいから頑張ってる。いや頑張ってるとすら思ってない。

──

そうそう!みんなそうなんですよね。それがすごいなって。

小さいもの同士が手を取り合うコレクティブという在り方

──

今までの話を包括するような感じになるんですけど、SILがDJパーティーではなくコレクティブと名乗っていることが気になっていて。そこに何か意識はあるのかなって考えたときに、場所や方法にとらわれない緩やかさだったり、流動的なあり方にその意味を感じてたりするんですけど、タケルさん自身はどのように感じますか?

村田

たしかに今言ってもらったことは合ってると思います。実はこれは自分で名乗り始めたわけじゃなくて。

──

じゃないの!?

村田

OTOTOYがSILを紹介してくれた時に、インディー・コレクティブみたいな言い方をしてくれて、それでなんか自分も気に入っちゃって(笑)。

──

そうだったんですね(笑)。かなりしっくりくるし、てっきりタケルさん発案だと思ってました。タケルさんが自分のやりたいことを貫き続けているからこそ、共鳴して集まってるようにも感じますよね。例えば今注目を集めているNEHANNやBearwearとかなり初期の段階から共演してるのもそういう部分だと思うし。

村田

まあたまたま出会えたって部分はあるかもしれないけど、共鳴してる部分なんだろなってのは感じますね。それぞれやり方や役割は違っても自分のやりたいことを貫くスタンスは共通していて、そこにお互い惹かれてるんだと思います。コレクティブって集合体とか共同体とかそういう意味だと思うんですけど、自分がSILをやっていく中でそんな風に共感できるDJやバンドだったり、パーティー外でもクリエイティブなことをやってる人たちが、自然と集まってくる感覚が近頃はあって。その一環で今ライター活動もできてるし、高知や松本のパーティーにゲストDJで呼んでもらえたり、このインタビューもそのひとつですよね。そんな感じでマインドとして共感できる人たちが集まって盛り上がってる雰囲気をちょっとずつ感じるようになって、それでコレクティブって言い方が凄くいいなって思ったんです。目指すところとしていいなって。

──

すごくジャストで合ってますよね。例えばSILでもさっき話したtakekiyoさんのフライヤーだったり、タイラさんもFRIENDSHIP. ※5 のキュレーターをやっていたり。DJともまた違う強みを持ち込んで、よりおもしろくしていこうって姿勢を感じますね。

※5 FRIENDSHIP.。2019年に〈HIP LAND MUSIC〉が立ち上げたデジタル・ディストリビューション&プロモーション・サービス。キュレーターには他に片山翔太(下北沢BASEMENTBAR / BYE CHOOSE)、Yuto Uchino(The fin.)、MONJOE(DATS)など気鋭の面々が揃う。

村田

最近だと日程が合えばto’morrow records ※6 に出店してもらったり。お客さん側でもこの前嬉しかったのはOuter Rim Music ※7 の人たちが遊びに来てくれたりとか、海外アーティストの日本国内での展開などをされているレコード会社の方がふらっと来てくれたりとか、マインドとして共感できる人たちが自然と集まってきてるのは素直に嬉しいです。

※6 to’morrow records。東京を拠点とするセレクトショップ型レコードショップ。取り扱いは海外インディー中心。Webショップの他、イベントでの出張販売やイベントの主催なども行う。

※7 Outer Rim Music。都内の現役大学生により運営される音楽サイト。『So Young Magazine』やThe Haunted Youth、Hazel Englishなどへのインタビューのほか、ポッドキャストも展開。

──

そういう感じは伝わってきます。例えばDJだけじゃなくて、僕もライターとして関わってるんですけど、いろんな人がそれぞれの役割の中で「音楽が好き」っていう一番根っこの気持ちでつながっていくというか。そう考えた時にSILの自分を貫きながら緩やかに連帯していくスタンスってすごく広がりがあるなと感じます。Indie倶楽部 ※8 でサウス・ロンドンの話をしてたじゃないですか。〈The Windmill〉周りとか『So Young Magazine』とか、そういうつながりに惹かれてるって話をしてましたけど、お話を聞いてると結構共通するんじゃないかなって思います。

※8 。Indie倶楽部。DJパーティー Badlands の真如 究、瀬下 譲、村 圭史によるYouTubeチャンネル。海外のインディミュージックをより楽しむためのさまざまなトピックを配信している。

村田

そうですね、サウス・ロンドンのシーンやコミュニティの在り方は目指すところだなって思ってます。僕ら一人一人は決して大きな存在ではないけど、それぞれの役割で小さいもの同士が手を繋ぎ合って、ひとつ大きな、大きいかはわかんないけど、誰もが居心地のいいコミュニティをつくっている。それってすごく理想だなって。

──

アメリカンドリームとかそういう話じゃなくて、もっと普段の生活の中で持続性を持ちながらってことですよね。

村田

そうですそうです。音楽ってリスナーからしたら日常にあるもので、リスナー視点で日常にある音楽の延長線上にSILみたいなパーティーがあって、ふらっと遊びに来れるような感じになってくれたら嬉しいなって。

──

そう考えた時に社会の中でポップカルチャーってすごく大きな意義があるよなって改めて感じますよね。今はなんだか少し脇に追いやられているような感じもしますが……。

村田

コロナ禍で特に厳しさも感じるけど、社会の状況を受けてどうするかってのはカルチャーやアートの醍醐味でもあるし、今の社会に対するリアクションって今のアーティストのアウトプットにあらわれると思うんですよね。それは自分が新しい音楽が好きな理由の一つでもあるけど、だからこそ今のアーティストの発信の一助になりたいって気持ちはあります。

──

それを受け取って、タケルさんなりに解釈して活動で示すと。最後に一つだけ聞きたいんですけど、SILをしている中で一番嬉しいことってなんですか?

村田

やっぱ自分たちとゲストライブ、ゲストDJ、お客さんのバイブスがすべて絡み合った時かな。

──

それめっちゃわかります!お客さんとしてもわかります!

村田

2月のSILはまさにそれが実現できた回だったかな。バンド目当てのお客さんもDJを楽しんでくれて、SILのお客さんもバンドの演奏をすごく楽しんでくれてる空気があって、その垣根がまったくなかったなって。

SCHOOL IN LONDON レジデントDJ(左からタイラダイスケ、遠藤孝行、村田タケル)
──

それ最高ですね。クラブっていろんな人が集まるからこそ、そういう瞬間がすごくかけがえのないものだと思うんですよ。完全に調和することってなかなかないしそれもまた良さでもあるけど、やっぱりそういう瞬間って嬉しいですよね。

村田

うんうん。SILでかかってる音楽って必ずしもハッピーな音楽ではなかったりもするけど。

──

うん、それは違う(笑)。日常の気だるさとかやるせなさとか、そういうのも含めてインディーですもんね。

村田

そうそう(笑)。でもやっぱお客さんのそういう姿が見られるとやっててよかったなって思うし、みんな集まってくれて嬉しいなって。これからもそういう場所をつくっていきたいですね。

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