INTERVIEW

この苦難の先にGREENJAMがたどり着いた「表現のプラットフォーム」10年目の現在地

今年も『FUJI ROCK FESTIVAL』から帰ってきた7月の終わりのこと。ヘトヘトに疲れ果てているけどなんだか活力に満ちていて、「フェスティバルって不思議だな」なんて思いを巡らせていた。ちょうどそんな頃、兵庫県伊丹市の〈昆陽池公園〉を中心に開催されるローカルフェス『ITAMI GREENJAM』共同代表の大原智さんとお話する機会を得た。大原さんはフェスティバルの在り方についてどう考えているのだろう?せっかくなので色々話を聞いてみたい。

MUSIC 2023.08.29 Written By 阿部 仁知

「表現のプラットフォーム」を掲げ、今年10年目の開催を迎える、関西最大級の無料ローカルフェス『ITAMI GREENJAM』。2019年には約25,000人を動員し順調に大きくなってきたが、コロナ禍の歩みは決して楽なものではなかった。中止となった2020年は伊丹市内の3会場を舞台に『ITAMI CITY JAM』を開催。2021年は直前で延期を決定し、急遽大阪のライブハウスで『EVERGREEN LIVE』と題したライブイベントを実施。そして2022年は伊丹市から大阪府池田市の〈猪名川運動公園〉へと会場を変更し3年ぶりに開催するも、2日目が台風で中止と、紆余曲折の道のりを歩んできた。

 

それらのイベントやGREENJAMが企画制作を行い今年初開催された新たな無料フェス『坂ノ上音楽祭』にも足を運ぶと、近隣住民や駅を利用する歩行者なども緩やかに交わる光景が見られ、いわゆる「興行」として行われるイベントにはない豊かさを感じていた。今回お話を聞く中でも、「無駄なことは何もなかった」と苦難のコロナ禍を前向きに振り返る姿に、僕もエネルギーをもらった気持ちだった。そんな大原さんと、これまで関わってきた様々な“表現者”たちが描く10年目の『ITAMI GREENJAM』に、ぜひ足を運んでもらいたい。このテキストがあなたの気持ちを少しでも刺激するものであれば幸いだ。

大原智

 

一般社団法人GREENJAM代表。2011年より音楽教室を主宰。バンド活動時代に所属していた事務所が主催するチャリティーフェス『COMING KOBE』の影響を受け、2014年に『GREENJAM』を初開催。2016年に伊丹市で、カフェ・雑貨店・アトリエからなる複合ビル〈GREENJAM BUILDING〉をオープンし、17年には一般社団法人GREENJAMを設立。国内外の多数のイベント企画・制作などを手掛けるかたわら、2022年には若手事業者への地域フックアップを目的とした遊休不動産改修及び転貸プロジェクト「sukima不動産」を開始。2023年には大阪府西成区のブルワリーDerailleur Brew Works主催の元、〈天王寺公園〉のエントランスエリア「てんしば」にて『坂ノ上音楽祭』を初開催。フェスティバルの枠にとどまらない地域創生・共創のかたちを模索している。

ITAMI GREENJAM'23 開催概要

日時

2023年9月17日(日)、18日(月・祝)
10:00〜17:00(予定)

会場

昆陽池公園
兵庫県伊丹市昆陽池3丁目
※小雨決行・荒天中止

料金

無料※
※住友総合グランドLIVEエリアに関しては¥500(Derailleur Brew WorksによるGREENJAM10周年オリジナルドリンク代込み)が必要。

出演者

9/17(日)

梅田サイファー / CROISSANT CIRCUS / 下津光史(踊ってばかりの国)/ SPI-K / スチャダラパー / ドミコ / nayuta / FIVE NEW OLD / ONEDER / ガリザベン / 実行委員長と副実行委員長 / ツキサケ / バーカーズ / VOODOO BOY JOHNSON / 宮野道場 / CHUGE / 麻倉TENPO / ハイグレードピーマンズ / RYOXSON / MOJAH / BREAKDAYS

 

9/18(月・祝)

小山田壮平 / ガガガSP / CROISSANT CIRCUS / THA BLUE HERB / 拍謝少年(from台湾)/ TENDOUJI / 七尾旅人 / betcover!! / MOROHA / ワンダフルボーイズ / かしもとゆかバンド / 松濱正樹 / てら(band set)/ CHUGE / 伊丹市立瑞穂小学校 / 伊丹市立南中学校 / 伊丹市立荒牧中学校 / 伊丹市立笹原中学校 / 伊丹市立西中学校 / Little K / 砂利BOYS / 808 / THE SAME TOWNS

Webサイト

https://itamigreenjam.com

Twitter

https://twitter.com/itamigreenjam

Instagram

https://www.instagram.com/itami_greenjam/

YouTube

https://www.youtube.com/channel/UCAydpp8yOYeKfqLcpGf-fxQ

LIVEエリアチケットオフィシャル先行抽選受付はこちら
締め切りは9月4日23:59まで!

l-tike.com/greenjam

 

写真:久米凜太郎
取材協力:サン専門店2F「POT」

伊丹市での10年目の開催と、池田市の人々への想い

──

今年は4年ぶりに〈昆陽池公園〉での開催ということで、まずはその経緯について伺えればと思います。昨年のMARZALのインタビューでは「単に伊丹に戻るだけというのは嫌」と話していましたね。そこについてもう少し詳しく聞かせていただけると。

大原智(以下、大原)

昨年の『GREENJAM』の実現に向けてご尽力くださった池田の方々には、やっぱり愛着が湧いて感謝の気持ちしかないんですよ。ただ、池田で開催した際に関われなくなってしまった伊丹の企業さんや団体さんが少なからずいまして。例えば伊丹の企業さんが「伊丹を盛り上げる」ための財布から協賛金を出して下さっている場合とか、隣町とはいえ兵庫県と大阪府で県が変わるので、自分たちの営業エリア外になってしまうとか。だから場所を決めることで大きく違ってくるんです。

 

じゃあ10年目の文脈を色濃く出すにはどの場所が一番適してるのかってことを、僕個人としてではなく代表という立場で考えた時に、「それは伊丹だよな」となったのが経緯です。とはいえ、その10年の文脈の中に当然池田も入っているので、池田の方々も今年の『ITAMI GREENJAM’23』に関わっていただくのも忘れてはならない。

──

〈猪名川運動公園〉の広々とした感じもすごく気持ちよかったので、その話を聞くと僕も嬉しいです。

大原

さっきも池田の方と電話した時に、「10年目は仕方ないけど、来年は戻ってきてもらえるように頑張らないとあかんな」と行政の方が話していたって聞きまして。嬉しいですよね。そういう話をしていただける関係性を、続けられていることがすごくありがたいです。

──

昨年は〈昆陽池公園〉で開催できなくなったから池田市でという経緯でした。それがまわりまわって次の選択肢にもつながっているのがすごくいいですよね。大原さんも実感として思うところはありますか?

大原

無駄なことはないんだなって思います。コロナ禍で学んだのは、僕たちがやる理由や掲げているものからすると「表現のかたち」の優先順位は3番か4番で、意外と高くはないんだなってことですね。「かたち」はどうあれ僕らは祭りがしたいだけなんだと、改めて気づきました。

──

『2025年大阪・関西万博』との関わり(※1)も含めて、近年は行政の方ともますます連携を持たれてますよね。

※1 『ITAMI GREENJAM'23』は、『2025年大阪・関西万博』に向け兵庫県内の機運上昇を図る取組みとして、兵庫県及び伊丹市と連携した形で開催される初めての地域フェスとなることが発表された。

大原

行政との関わりという意味では、関西でもトップクラスに連携ができているフェスだと思ってます。僕の中で「連携できている」の定義は、「コミュニケーションがとれているか」ってことなんですよね。出店の人やアーティストと話したりするのと同じくらい、行政ともめちゃくちゃフラットに話します。伊丹市の担当の方とよく飲みにも行ってるし、「嫌やったらやめてくださいよ、やるんやったらちゃんとやってくださいよ」くらいの会話が普通にできる。

──

変なメンツにとらわれない風通しのよさがあるんですね。そういう関係性が今年の〈昆陽池公園〉の開催にもつながっているのだろうなと感じます。

大原

だから「行政とこういうことを話した結果できませんでした」となったとしても、全然いいんです。むかつきもしますけど、向こうには向こうの立場があるしなって。去年も〈昆陽池公園〉が使えないって時にめちゃくちゃ揉めましたけど後腐れはなくて、わざわざ実行委員の会議に相当上の役職の方が来て下さって、謝罪と感謝の言葉を話してくれたりもして。何かすれ違いがあった時に「むかつくねん、だから行政嫌やねん」で大体の人は終わっちゃうんですよ。

──

大原さんはそれでも取り繕わずコミュニケーションを取ろうとすると。

大原

良くも悪くもですけどね。多分行政内では、「悪いやつではないけどめんどくさいやつ」ってキャラクターです。「そうっすよねー」で終わろうとしないので。

阪急伊丹駅からすぐの商店街にある、2016年にオープンしたカフェ・雑貨店・アトリエからなる複合ビル〈GREENJAM BUILDING〉。今回取材で伺った〈POT〉もこの近く。

コロナ禍を通して体感した「表現のプラットフォーム」をつくる自覚

──

コロナ禍の活動についてもう少し掘り下げて聞きたいのですが、いろんなことをやってきて得た教訓や今年の開催に活かされていることって何か思い当たりますか?

大原

GREENJAM実行委員会のみんなの意識が変わったことですね。僕は『GREENJAM』立ち上げ当初から「表現のプラットフォームをつくる」と常々言ってきたんですけど、そうはいっても、抽象的過ぎて半分わかって半分わからないんですよ。でもコロナ禍って、表現のプラットフォーム不足になったじゃないですか。表現者が渇望している状態で、2020年の『ITAMI CITY JAM』では一度も発表の場がなかった地域の吹奏楽部が演奏したり、他にもさまざまなアマチュアの表現者がいろんな表現をしていて。

──

スケートボードやストリートダンス、ライブペインティングをしてる方もいてすごく華やかでしたね。

大原

そこで多分わかりやすく「表現のプラットフォームをつくるということ」を実行委員のみんなが体感したと思うんです。「こういうことか!」みたいな。そこから結構意識が変わったんですよ。それはすごくありがたかったですね。

──

それこそ例年通りの「かたち」のことはできなくて、未知の状況だからこそ体感するってことですよね。

大原

体感を通して「表現のプラットフォーム」というものが概念から感覚になった。それで組織として一気に力がついた感じがしています。2018年くらいまでは実行委員会のほぼ全員が『GREENJAM』を「自分のもの」とは思えていなかった気がしますし、僕という人間に対して不満が続出することもありました。それで2018年の開催後に揉めたことがあって。

 

うちは実行委員が毎年解散形式で、それも2018年からから変えたんですよ。僕も漫然と「今年もやろう!」みたいな感じに進めちゃってたから、あくまで自分で決めて貰わなきゃいけないと思ってやり方を変えました。そういった変革がコロナ禍を通して身になってきた気がします。『GREENJAM』を僕が先導するコミュニティのようにはしたくないなと思っていまして。

──

難しいですよね。それが決して悪いこととも思わないし、かといってそういうところにまつわる違和感も分かります。何が理想なんだろう。

大原

真ん中で誰かが思想的な旗を持つイベントにならないことをかなり意識しているんですが、それってめちゃくちゃ難しいんですよ。コミュニティって、大体象徴的な“神”が一人いるじゃないですか。その“神”の思想が良いか悪いか、そこに共感するかって話になって、これが一番分かりやすくて簡単。でも僕が目指したいのはそういった事ではなくて、多分「異なるコミュニティの点在促進」なんです。

──

「一つになってやろうぜ!」って感じとは違うんですよね。

大原

例えば「子ども実行委員」(※2)や「子ども取材チーム」(※3)も、たまたま元保育士の教育に熱心な方が提案してくれた経緯がありまして。一番嬉しかったのが、神戸の〈太陽と虎〉で今年開催されたガガガSPとソウル・フラワー・モノノケ・サミットの1.17のツーマンに行った時に、最前が子ども記者の男の子だったんですよ。「めっちゃハマってるやん」って(笑)。そういうのもとても嬉しいですね。

※2 予算の検討から企画運営まで、子ども主体で考え会場にブースを出店する企画。
※3 会場スナップやアーティストインタビューを子どもが担当する企画。まとめたものが後日Web新聞として発表される。

──

それはとてもいい話ですね。いろんな人の思いがかたちになっているってことなんですね。

大原

共同代表の大塚(克司)や僕のイメージがそのまま反映されているエリアやブースって、それほどないと思うんです。車椅子の方が楽しんでいただけるエリアも、たまたま介護士の方が「何かできることはありませんか」って提案してくれて。GREENJAMで重要なのは「主体的に自分のやりたいことを実現しようとしているか」っていうことで、「GREENJAMが年一回の発表会」って言ってくださる実行委員もいるし、そういう場になってるのがただただ嬉しいですね。それが最強じゃないかと思ってるので。

写真提供:ITAMI GREENJAM
写真提供:ITAMI GREENJAM
写真提供:ITAMI GREENJAM
──

それがその保育士さんの表現であり、介護士さんの表現ってことなんですよね。僕も組織にいると思うところがあるんですけど、例えば「大原がこう言ってるからこうやる」みたいなこととまったく違うんだなと。

大原

そうなっている部分もなくはないと思うんですよ。でも僕の基準で必要不必要だとかは言わないようにしていて、そういうコミュニケーションの部分はめっちゃ注意してますね。だからこそ自分の表現を主体的にやってる作り手たちからすると、「GREENJAMとはなんですか?」と答えを求められると、関わり方があまりにそれぞれなので答えられない人が殆どです。みんな「自分がやりたいことが表現できる場」というだけなので。それがGREENJAMとしては理想だと思っています。

──

それが「表現のプラットフォーム」ということなのですね。

取材で伺った〈GREENJAM BUILDING〉ほど近くの〈POT〉は、飲食店や写真館、映像制作チームなどが入居する複合テナント施設。一般社団法人GREENJAMが手がける廃スペースを活用した創業支援プロジェクト「suki-ma不動産」により2022年にオープン。

有料LIVEエリア導入の苦悩と、先を見据えたヴィジョン

──

以前「来場者をお客さんとは思っていない」と話していたのがとても印象的でした。それは入場無料にこだわり続けている『GREENJAM』だからこその考え方だなって思いまして。

大原

興行でも商品でもないと同時に、お客さんでもないという部分にはこだわっています。来場者の方をお客さんと認めてしまうと、このイベントのバランスが崩壊するような気がしていて。だから「お客さんと思っていない」という言葉を通じて、来場者にお願いしている部分もある。でも「実際そうだしな」とも思いますけどね。

──

お金を払ってサービスを受けるという関係性ではなくて、来場者自身も主体的に楽しむ表現者ってことですよね。そこで今年はじめて導入される「有料LIVEエリア」の話も聞かせてください。経緯としては発表にもあったように大きくは予算の問題だと思うのですけど、この新たな試みによって目指していることがあればお聞きしたくて。

有料エリア導入発表のコメント
大原

8割はシンプルに予算の問題なんですけど、残り2割は次年度以降を見据えて少し違うやり方を模索してるんですよ。年々規模が大きくなってアーティストが豪華になって、無料で参加できる『GREENJAM』に対して、ちょっと危険性を感じているところがあって。例えば花火大会に「無料でやってくれてありがたいわ」とあまり思わないじゃないですか。だって当たり前だから。

──

コロナ禍はちょっと特殊だけど、毎年やっていて当然みたいな感覚はありますね。

大原

『GREENJAM』もそうなってきている気がして、すごく危険だなって思うんです。少しきつい言葉で表現すると、この先15年目を目指してどんどん大きくなっていくことが、人や地域の感覚や想像力を鈍らせる毒でもあるなって思っちゃったんですよ。『COMING KOBE』の松原(裕)さんの苦悩みたいなものも、ちょっとわかるんですよね。どんどん規模が大きくなっていくと「ラッキー人員」も増えていったはずなんですよ。

──

ラッキー人員?

大原

『COMING KOBE』はチャリティーイベントなので、もちろん一般的なイベントよりは来場者の方々の中に慈善に対する意識はあると思うんです。でも「無料で好きなアーティストが観られるフェス」として、ラッキーなイベントと捉える来場者が増えたんじゃないかと思うんですよ。巨大化すると当然そのリスクは高まるじゃないですか。

──

無料であることの本来の意味が伝わらない来場者も増えるということですね。

大原

でもね、批判するつもりはまったくないんですよ。だって人間の生態ってそういうものだし、ラッキーって思うのも当たり前じゃないですか。とはいえその行く先には危険性を孕んでるってことは理解してるので、じゃあどうしようかという話で。

──

お金を払ってもらうことで、これまでの『GREENJAM』と来場者との関係性が違うものになってしまわないかという危惧はなかったですか?発表を読んでいても、おそらくこの部分でかなり葛藤があるんだろうなと感じていました。

大原

かなりあります。だから500円でも有料にするのがめちゃくちゃ嫌だったんですよ。今年の『GREENJAM』は「お客さん」が発生する。これは自分の中で未だに半分へこむポイントです。「500円くらい別に」って思ってる人もいるだろうけど、コンセプトを持ってずっとやってる人間からすると、それが500円であろうと100円であろうと、やっぱり大違いなわけで。

──

一度あの場所を体験するとむしろ「もっとお金を落とさせてほしい」って思うし、SNSでもそんな声があがっています。でもそういう話ともまた違うところなんですよね。

大原

本当にありがたいですけどね。それくらい価値を感じてくださってるということなので。

──

ただドリンク付きであることで、すごくいい落とし所に持っていってるなとも感じてますけどね。

大原

どうにか「実質無料と思ってください」と言える方法はないかなって模索した結果、『坂ノ上音楽祭』でも一緒にやらせてもらったDerailleur Brew Worksさんが、オリジナルドリンク付きを提案してくださって。感謝してもしきれないです。

商店街を歩いていると次から次へと道行く人に声をかけられる大原さん。どこにでもある気のおけないご近所付き合いの空気で、地元伊丹に根ざすGREENJAMの営みが感じられた。

GREENJAMを通して芽生える、うっすらとした帰属意識

──

ちょっと飛躍する話かもしれないんですけど、世間で叫ばれる多様性とかSDGsについてそのお題目だけが一人歩きしているような感覚があります。その中で『GREENJAM』が実現していることは、地に足がついていてリアリティがあるなと感じまして。だからこそ大原さんは多様性というものをどう捉えてるのかなってことが気になります。

大原

多くの人がわかってるけど言わないだけだろうなと思っている話でいくと、今目にする多様性やSDGsのフレーズって、その殆どがビジネストークだったりポジショニングトークのキーワードじゃないですか。でも僕が『GREENJAM』を通して肌で実感しているのは、「多様性の実現とかめちゃくちゃ難しいからな」ってことです。だから結局のところ行政とフラットに話をするのと一緒で、先入観を持たずにコミュニケーションを取れるかどうかだと思っています。

 

単純に街は多様性じゃないですか。おしゃれな店をやってる人もいれば、立ち飲み屋で昼からベロベロになってるおっちゃんもいます。だから街を作るってことが僕の中で多様性の実現なんですよ。なので一般社団法人GREENJAMで不動産事業を始めたんです。思想や考え方が違っても、『GREENJAM』の会場のように異なる人たちがただ一つの場にいれば、そこで生まれる風景がある。

──

すごく腑に落ちますね。

大原

「多様性やSDGsが素晴らしい」というのもある意味では一つの思想なので、それを大袈裟なキーワードとして打ち出してしまうと、その思想に共感しない人が生まれるという、ある種の多様性とは真逆の現象がおきます。そう考えた時に、お金と土地には思想がないぞと思って。活用する人がどういう思想を持って使うかだけであって、だからお金の供給と土地の提供をしています。伊丹とか『GREENJAM』とか、そこにいる全員がうっすら帰属意識を持てたらいいなと思うんですよ。その実現を目指している感じですね。

──

うっすらってことが重要ですね。がっつり「伊丹愛!」って感じではなくて。だからこそ池田市でも開催するし、場所にもとらわれていない感じもします。

大原

その世界観を『GREENJAM』から日常で実現しようとしているのが一般社団法人GREENJAMってことですね。Derailleur Brew Worksの山崎(昌宣)さんも、こういう話をしてるとすごくお互い言葉が通じる感じがしていて。あの方も福祉の分野をやってる人だけど(※4)、「福祉」や「ボーダレス」ってキーワードを使う危険性もすごくわかっている方です。例えでよく「化学調味料」って言ってるんですけど、化学調味料を使ったら分かりやすく旨いじゃないですか。でも身体に悪いじゃないですか。それに結構近い。

※4 山崎さんは障がい者の就労支援や介護支援活動を行う株式会社シクロの代表でもある。

──

言われてみると確かにそうかもしれない。わかりやすくすることで失ってしまうニュアンスもあるし、さっきの「ラッキー人員」の話にもつながりますよね。

大原

『GREENJAM』が年々大きくなっていく過程の中で、少なからず自分自身に「とはいえ化学調味料を自分で使ってしまってるな」って時がわかるんですよ。でもこのままいったら化学調味料がもっと必要になったり、それをもっと振り撒いた『GREENJAM』に対して単純に「すごい!うまい!」っていう人も出てきたりしてしまう気がしてて。だから次年度以降どうしようかなという段階にきている感じはしますね。

──

このまま顧みずにいくと、徐々にずれていく危機感というか。それは10年目のタイミングだから尚更思う部分もあるのでは?

大原

めちゃくちゃ大きいです。9年目だったら「とりあえずやってから来年考えよう」ってなってたと思うし、10年目っていう区切りは大きいですね。

写真提供:ITAMI GREENJAM
写真提供:ITAMI GREENJAM

これまで関わってきた人それぞれと描く「10年目のかたち」

──

ラインナップについても少し聞きたいのですが、今年はお馴染みのガガガSPや台風で中止になってしまった昨年の『GREENJAM』2日目の面々に加えて、台湾の拍謝少年が出演することもすごく気になっていて。

大原

どのフェスもそうですけど、東アジアや東南アジアを意識し始めたっていうのもあるし、実はコロナで開催できなかった2020年に、北欧のアーティストが来る予定だったんですよ。そこでいろいろ協力してくださった方がいて、その方と10年目にひとつかたちにしたかったというのがあります。この10年間で関わってきてくださった方々それぞれと「10年目のかたち」をたくさんやりたい。それが今年開催する大きな目的ですね。

──

いろんな方との関わりの結集なんですね。

大原

あとラインナップで言うと、さっき言った化学調味料とか、そういう表現ではないアーティストを選びがちなんですよね。来場者の層や会場の雰囲気からしたら少しアンダーグラウンドで濃いラインナップになりがちで、もう少しわかりやすい歌を奏でるアーティストがいてもいいんですけどね。自分自身の表現の思想として、生活と地続きの表現をしてるアーティストが好きなので。

──

確かにTHA BLUE HARBや七尾旅人さんなんてまさにですし、毎年地元愛を話してる下津光史さん(踊ってばかりの国)もそうですよね。あと、小山田壮平さんは大原さんと同い年です。

大原

年齢はたまたまですけど、ずっと好きで4〜5年前からオファーをし続けたんですよ。コロナ前は秋にずっと小山田さんがツアーをしていたので難しかったんですけど、コロナで年間のスケジュール感が変わった。でも去年のタイミングはちょうどお子さんが産まれたこともあり、今年やっと、たまたま10年目に出演していただけることになりました。

──

巡り合わせを感じる話ですね。生活と地続きというところでも象徴的な方だと思います。

大原

ちなみに『GREENJAM』をおすすめする相手ってどんな相手だったりします?「それやったらGREENJAMがいいんちゃう?」みたいなことをあなたが言いましたと。「なぜすすめたでしょう?」というお題(笑)

──

いきなり大喜利みたいに(笑)。でも誘いやすいのは明らかにありますよね。それは無料だからってことももちろんあるんですけど、参加している人と近隣住民っていう垣根が溶け合ってるのが魅力的だなと思っています。

大原

あんまり音楽とかカルチャーとか、そういう匂いがしない人に『GREENJAM』をおすすめするんだろうなって思うんですよね。お出かけ感覚というか。

──

確かにその通りですね。「今日近所でお祭りやってるみたいだから行こうよ」みたいな。他のフェスにはあまり誘わない人も『GREENJAM』は誘えると思います。あえて「フェスに来た」って意識じゃなくてもみんなそのままでいられる、安心感のようなものがあるんですよね。今年もとても楽しみにしています!

写真提供:ITAMI GREENJAM
写真提供:ITAMI GREENJAM

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