REVIEW
SUNSET CHEEKS feat. Michael Kaneko
Deep Sea Diving Club
MUSIC 2021.07.14 Written By 阿部 仁知

一歩大人の表現がピュアな想いを鮮烈に描くサマーチューン

自らの想いと向き合い勇気を出して伝えた時、その一瞬はまるで永遠のように輝きはじめる。福岡を拠点に活動する4人組バンド Deep Sea Diving Club がシンガーソングライターの Michael Kaneko(origami PRODUCTIONS)をフィーチャーした配信シングル “SUNSET CHEEKS feat. Michael Kaneko”は、そんな一夏の鮮烈な感覚をキャプチャーしたサマーチューンだ。

 

5月にリリースされた“フラッシュバック ’82 feat. Rin音”に続いてのコラボシングルとなる本作。セルフライナーノーツによると、谷颯太(Gt / Vo)による歌詞は「自分が書いた拙い英語の歌詞をマイケルさんが美しくしてくれました」という。〈デートに行く服が決まらなくても〉(sunselco)や〈君のお化粧が崩れた笑顔の方が好きだったな〉(cinematiclove)など、微妙な心情のニュアンスを日本語詞で表現してきた谷だが、そんな彼でも頬を赤らめるような気恥ずかしい想いが、遠からず近からずな全編英詞によって情感豊かに表現されている。

 

波の音や砂浜を歩く足音に例えられそうなLo-Fiでチリチリしたイントロに、空間に溶け出すようなギターアンサンブル。どこかカッコつけて素直になれない気持ちを歌うAメロでは、マイケルのしゃがれた歌声も相まって、AOR(アダルト・オリエンテッド・ロック)のメロウなムードと、落日飛車(Sunset Rollercoaster)が評されるところのAOR(アジアン・オリエンテッド・ロック)のような風土の香りが漂う。だがサビ前のカラっとしたギターストロークで想いは加速。高鳴る胸の鼓動をリズムに乗せ、あの娘に気持ちを伝える時間が止まるような感覚を、なんともドラマチックに表現しているではないか。

 

まさにその夕暮れの告白を描いた〈Early evening I tell her she’s the one for me〉からの三節は切なくも甘酸っぱい情感が溢れているが、それは流麗な英詞と洗練されたムードを持ち込んだマイケルの手腕が大きい。従来のこぶしを効かせた谷のフロウはむしろ抑え目で、「青春一直線!」とはならないこの絶妙な匙加減によって、かえって率直な想いが爽やかに響いているように感じられるのだ。

 

一歩大人の表現へと踏み込みながら、ピュアな気持ちに立ち返る。Michael Kaneko との出会いによってバンドの枠を広げるようなこのコラボレーションもまた、彼らの頬をほんのり赤らめるような爽やかな共同作業の体温を感じさせる、なんて言ってしまうのは大袈裟だろうか。

SUNSET CHEEKS feat. Michael Kaneko

 

アーティスト:Deep Sea Diving Club

仕様:デジタル

発売:2021年7月14日

レーベル:Beacon LABEL

 

収録曲

1. SUNSET CHEEKS feat. Michael Kaneko

 

Deep Sea Diving Club

 

谷颯太(Gt / Vo)、出原昌平(Dr)、大井隆寛(Gt)、鳥飼悟志(Ba)による福岡で結成されたロック、R&B、ジャズなどジャンルレスな音楽性を感じさせるメロウでフリーキーな4人組バンド。2020年10月BBHF、NITRODAY、Warbear、TERAが所属する〈Lastrum Music Entertainment〉内の〈Beacon LABEL〉から配信シングルをリリース。5月にリリースした九州限定盤&配信シングル『フラッシュバック ’82 feat. Rin音』が九州内の県域FM6局のパワープレイに選出。その波は九州に止まらず全国的な盛り上がりを見せ始めている。現在谷がLOVE FM「フクオカコレクティブ・ラジオ」毎月第二週土曜のレギュラーパーソナリティーを担当中。

Michael Kaneko

 

湘南生まれ、南カリフォルニア育ちの日本人シンガーソングライター。デピュー前にポーカリストとして起用されたTOYOTA、PanasonicのTVCMが話題となり問い合わせが段到。ウイスパーながらも芯のあるシルキーヴォイスが早耳音楽ファンの間で評判となる。その後、デビュー前にもかかわらず『FUJI ROCK FESTIVAL』をはじめ多数のフェスに出演するほか、タワーレコード “NO MUSIC, NO LIFE?” のポスターに登場。また“AmPm feat. Michael Kaneko”でリリースした楽曲が各国Spotifyのバイラルチャートにランクイン。インドネシアのフェスでは1万人規模のオーディエンスが大合唱、その声は5,000万人に届くことに。そして2017年、『Westbound EP』でデビュー。

 

卓越したソングライティングとパフォーマンスは話題を呼び、プロデューサーとして森山直太朗、あいみょん、環人、Rude-α、majiko、s**t kingz、足立佳奈、Miyuuなどを手がける。さらに大橋トリオ、ハナレグミ、藤原さくら、さかいゆう、SKY-HI & THE SUPER FLYERS、DJ HASEBE、Kan Sanoなどのライプやレコーディングにも参加。また、CITROËN、NISSAN、ダイハツ、BACARDÍ、SHARP、IKEA、FREAK’S STORE、Amazon、J-WAVEなどのCM楽曲やジングル、ドラマ『僕たちがやりました』、映画『とんかつDJアゲ太郎』『サヨナラまでの30分』『ママレード・ボーイ』、アニメ『メガロボクス』のテーマソングや劇伴音楽も手がける。2020年、1stアルバム『ESTERO』をリリース。ラッパーDaichi Yamamotoをフィーチャリングするなど音楽性も幅を広げヒットを記録。さらに、BAYFLOW、Ray-Ban、OFFSHOREとのコラボや広告モデル、MUSIC ON! TVのMCなど、音楽活動にとどまらず活躍の場を広げている。

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