INTERVIEW

Alffo Records

MUSIC MOVIE FOOD 2020.02.24 Written By 阿部 仁知

南船場の喧騒を抜け四ツ橋筋の一本手前、少し人通りの落ちついたところに佇むAlffo Records。2019年に新装開店したこのレコードショップは、店主でありDJとしても活動するナカシマセイジさんのこだわりが光るレコードのセレクトはもちろんのこと、フードやお酒などもありバーとして立ち寄ることができる。そして、DJ卓とサウンドシステムも常設されており、週末にかけてはDJイベントで人が賑わう。単にレコードを買いに行くだけではなく、クラブやバーのような楽しみ方もできる、それがAlffo Recordsだ。

 

さながらホームパーティーのように、どんな過ごし方も受け入れてくれるのがこのレコードショップの魅力だろう。それは初めから音楽を聴くことを前提に足を運ぶライブハウスやクラブとは違う、レコードショップだからこその魅力だともいえるかもしれない。ある時はDJイベントに、またある時はレコードを買いに、そして単に飲みに行くこともしばしば。僕は何の気なしに通っていたが、面白いレコードや音楽、人との出会いが待っているこの空間で過ごすうちに、ここは関西のカルチャーの交流地点だという思いが強くなった。今回は新装開店一周年を迎えたAlffo Recordsのこれまでの歩みや、レコード、そして人々が集える居場所への思いを伺った。

Alffo Records

住所

〒550-0013

大阪府大阪市西区新町1丁目2−6 3F

営業時間

月~金 15:00~24:00 (水曜定休)

土 13:00~24:00 

日・祝 13:00~21:00

お問い合わせ

06-6539-0460

info@alfforecords.net

Webサイト

http://www.alfforecords.net

Twitter

https://twitter.com/AlffoRecords

Instagram

https://www.instagram.com/alfforecords/

レコード×バー×DJイベント 多種多様なあり方

──

まずレコードに興味を持ったきっかけを教えてください。

ナカシマセイジ(以下ナカシマ)

俺が高3の時に兄貴がDJをやってるのを見て「これはかっこいいな」と思って、再生機器も持ってなかったけどまずレコードを買ったのが始まりです。大学に入ってすぐに機材を買って、それからやってることはずっと一緒。レコードを買ってDJして。

──

生業って感じがしますね。セイジさんの音楽の趣味は幅広いけど結構特徴的だなと感じているんですが、そういった音楽的素養や感性はどのようにして磨かれてきたのでしょうか?音楽的なルーツについて聞かせてください。

ナカシマ

中学生~高校生の時にジャンルを問わず映画を沢山観ていたことは、取捨選択する音楽に大きく影響をもたらしていると思います。並行して当時実家にMTVを入れてもらって、好きなMVや番組が流れるまでじっとTVとにらめっこしながら、録画を繰り返してマイベストビデオをVHSに保存していたこと。よく考えるとつくづく暇なヤツだし今やっていることとあまり変わってなくて愕然としますが、その様な経験がルーツになっているのかもしれません。あと18歳でDJをはじめてダンスミュージックに傾倒した事も大きな要素だと思います。

──

映画も含めて映像的な方面から興味を持たれていたんですね。DJで踊っててもすごくドラスティックだなと感じることが多いのがわかる気がします。では以前の店舗からここに移転する経緯を教えてください。立地的にもすごくいいところですよね。

ナカシマ

以前の店舗は単にレコードを売っているだけだったんですが、イベントができてお酒も飲めてご飯も食べられるレコードショップをやりたいなと考えていて。そんな時にとある不動産屋に入って「そういえば店舗を拡張したいんですけど」って何気なく聞いてみたところから始まりました。その不動産の人もDJをやってたから、こちらの要望もするすると把握してくれて。この場所は実は何年か前までパブやイベントスペースとして機能していて、何回かDJをやったこともあって音を出せるのは知ってたんです。さらにその後に入った人が綺麗にリノベーションしてくれたんで、ここを見学に来た時は即決でした。

──

最初からイベントスペースやバーを併設したかったとのことなんですが、それは何かきっかけがあるんですか?

ナカシマ

DJっていうもの自体が斜陽になってきて、みんなアナログを買わなくなっちゃったしストリーミング・サービスで音楽を聴くのに満足してしまう人もいっぱいいる。だけど、僕らは年代的にクラブで生で体感しながらいろんな音楽に出会ってきたので、そういう場所をもっと作りたいなってのが一番ですね。だからDJができて人が集まれる場所ってのは大前提としてありました。

──

いわゆるクラブとも違った雰囲気があると思います。踊るだけでなく何をしていても気楽に楽しめるというか。ご自身ではどういったところが大きな違いだと感じていますか?

ナカシマ

ちゃんとご飯を出せるってのはやっぱり違うと思っています。あとロケーションの面白さ。3Fのガラス張りなので見晴らしがいいし、いい意味で開放感がある。ただ、さじ加減がすごく難しくて試行錯誤してます。例えば、イベントの時だと羞恥心を和らげるためになるべく照明を暗くしたり。いろんな人に意見を聞いて、今は結構理想的になってきた感じがします。暗いと俺が眠くなってきちゃうので、そこもさじ加減なんですけど(笑)。

──

多種多様なイベントがここで開催されていますが、特に印象に残ったことはありますか?

ナカシマ

CLUB METROでよくやってるGIFTっていうイベントをこの間ここでやったんだけど、主催のヨッツは本当にオーガナイザーの鏡みたいな人で。お客さんが帰らないし、あの人自体陽性のバイブスが漂っててもてなし上手。オーガナイズが上手い人はやっぱ人付き合いも上手いので、そういう姿勢がすごく勉強になってます。あと先日はニートビーツのMondoさんと50回転ズのドリーさんがDJやってくれて。そういう風にどんどんアーティストさんが使ってくれるのが嬉しいですね。

──

いろんな人が使ってるんですね。イベントをしたりバーが併設されていることで、レコード屋さんとしての影響はありますか。

ナカシマ

イベントに来た人が買って飲んで、バーに来た人が飲んで買ってってのもあるので、それなりにうまく機能してるなとは思います。特に先日やったCURRENTSみたいな新譜中心のパーティーだと、彼らがかける新譜がうちにあったりして、DJで盛り上がった後にそのままレコードを買ってくれるなんていう相乗効果もあったり。それはDJもやっている身としても嬉しいことで、ナチュラルにレコードを買ってくれる流れになるのはすごくいい効果だなと感じますね。

──

ディグったりみんなでわーってやったりテキトーにだべったり、気楽にユルく遊べる感じが楽しいですよね。いい意味で間口が広いというか。

ナカシマ

多様な使い方してもらえればと思います。年配の方が来られた時に曲をリクエストしてくれたり、プレイヤーを持ってないけどレコードを買うって人も最近は沢山いるので、ここで聴いてってもらってもいいし。

──

それも面白そうですね。家だと遠慮して大きな音が出せないし、そういう人は結構いると思います。

ナカシマ

持ってるレコードを普段流せない音量とサウンドシステムで聴きに来るってのも面白いと思うんで、そういう人も気軽にレコードを持ち寄ってもらえたら。歓迎してます。

「わざわざ聴く」今の時代だからこそのレコードの良さ

──

レコード屋さんとしてセレクトのこだわりはありますか?

ナカシマ

今は市場調査に優れたスタッフが仕入れを手伝ってくれてるので、そのアンテナを頼りにしてます。それプラス、自分が強力に押せるものは自分で見て感じないとってのは強く思っていて。市場で反応があるからってだけでは店としてのカラーが出ないので、仕入先のリストを見て片っ端から聴くという作業をして引っかかったものと、自分から探りに行くこともある。これがいいと思ったらそのレーベルのアーティストを調べてみて、流通してないものなら直で交渉してみたり。

 

あと、うちのカラーをわかってくれてるお客さんが、「これ聴いてみて」って情報をくれたりもするので、ピンときたら仕入れるようにはしてます。ポップスもロックもパンクもダンスミュージックも入れるし、普段ポップスしか聴かない人に「こんなんどうですか」って勧めて、気味の悪いニューウェーヴを好きになってくれたり、そういう風に広がると面白いですね。

──

実際に新しい音楽を聴いてよかったってお客さんは多いんですか?

ナカシマ

いっぱいいます。ジャケットで興味を持つお客さんもいて、例えばパンクが好きな人がすごく暗いアンビエントを持ってきたら「それはちょっと違うかな」って言ったりもするんですけど、最短でフィットできるものに辿り着けるように、なるべく接客は丁寧にしてるつもりです。来てくれたからにはテンション上がって帰って欲しいですからね。

──

これからの時代フィジカルなものって減ってくと思うんです。ご自身で考えられるフィジカルの良さみたいなものはありますか?

ナカシマ

ずっと考えていていろんな理由がある中でひとつあげるとすれば、フィジカルは終わりがあること。レコードやCDって一枚を聴き終わる瞬間がある。その終わって無音になった瞬間が結構心地よくて、ケースに戻すタイミングに「何がよかったんだろうな」って考える隙間があるのがいいなって思います。ストリーミングサービスやYoutubeだとどうしても垂れ流しになっちゃうし、終わらないことってよく考えたら苦痛なんじゃないかなって。うまく使ってる人もいっぱいいるとは思うんですけどね。

──

終わらないようにデザインされてますからね。一枚を聴こうって意識は希薄になっているからこそ、「わざわざ聴く」って行為が大事なのかもしれないですね。

ナカシマ

わざわざ作ってるんだしって話じゃないですか。パッケージとか曲順とかもよく考えて。アーティストはライブに来て欲しくて作ってて、アルバムとして聴いて欲しいからアルバムを出してるんだろうし。

──

僕らは、その大量に出てくる音楽にどう向き合えばいいんでしょうか。あれも聴いてこれも聴いてって疲れちゃう時も確かにあって。

ナカシマ

情報の許容量は人それぞれあると思う。トゥーマッチだなと思ったら一回離れて、運動するなりサウナに行くなり、それで、お店とかに行く時って気分が乗ってる時だから、そういう時にうちに足運んでもらえるといいかなと。俺や他のお客さんと話したり実際にレコードを手にとって出会った音楽って数多あるストリーミングの音源と違って少し特別感があると思うんですよ。一方的にYouTubeとかから与えられるものとかは、一旦無視したほうがいいかもしれないですね。

──

以前のインタビューで「聴き過ぎると不感症みたいになっちゃう」って書いてましたね。

ナカシマ

それは本当にそう思うし、俺は多分手遅れなんですよ。仕事として聴いちゃってると同じようなのばっかだなって感じてしまうこともある。だからこそスタッフの意見を聞いたり、イベントでいろんな人がいろんな曲かけてくれるから、その反応を見るのは結構勉強になってますね。

──

いろんなことが刺激になってるんですね。レコード屋さんでDJもやっているというのは周りにいるリスナーに新しい出会いを提供したいという思いがあるんですか。

ナカシマ

そうですね。知らない曲でも大きな音でみんなと共有した時に、その人の中で広がりが生まれればいいなって思ってます。普段は国内のアーティストしか聴かないけど、イベントに来たらなんかいい曲が流れてて、シャザムしたら○○って人の曲らしいとか。そういう意味でイベントの人たちには助けられてる。

──

楽しみ方そのものをもう少し広げたいってニュアンスですね。音楽ってもっとこういう楽しみ方もあるぜ、っていうのがこの場所で広がっていく。

ナカシマ

それはすごく大事。これが正解っていうものはないけど、知らなかった音楽に触れて「自分にもこういう感度があるんだ」ってことを実感すれば、音楽ライフがより豊かになると思うんで。

駆けぬけた一年 カルチャーの交流点

──

そろそろ移転してから1年になりますね。どんなところが大変でしたか?

ナカシマ

新たにイベントをするようになって、どうやったら喜んでくれるか、音響や照明、雰囲気づくりは何が正解なのかってのは常に探り探りでやってきました。まだ発展途上だし、一生答えはないだろうなと思ってます。「こういうことをやりたい」って人たちが自然と集まれる空間を保っていきたいという思いはあるので、イベントだけじゃなくてトークショーとか、レセプションとか空いてたらなんでも貸したいですね。この場所を使いたいって人はみんな音楽が好きなので、若い子がいろんな発想とかアイデアとか持ち込んでくれるのがすごく刺激になっています。

──

関西のシーンやカルチャーがいい具合に混ざり合う場所だなと、通っていて感じています。

ナカシマ

俺自身あまりシーンってものに与したことがないし、そんなものはないとすら思ってるので、俺がここから盛り上げるって意識はあまりないです。シーンって言葉で括ると狭くなっちゃう気がするし。でも精力的に活動しているDJやアーティストに多大に助けられてるし、そういう人たちのことは応援していきたいですね。

──

着火というよりより交流点って感じですかね。

ナカシマ

そんな感じですね。フリマもやったし、トークショー、クラフトビールの酒屋さんとコラボしたイベントもあるし、小さな企画としては今日はウイスキーしか出さないとか、そういうのもやってみたい。そういう楽しいことから新たな出会いや発見が生まれればいいなと思っています。でも人のアイディアに頼るところがすごく大事だと思ってて。自分一人の頭では限界があるので、まだまだいろんな人に知ってもらいたいです。

──

一年間を振り返ってみてどうですか。ずっと模索しながら続けてきた感じがありますよね。

ナカシマ

一生その繰り返しですよ。また変わると思います。でも考えることもやることも多かったから、あんまり覚えてないってのが正直なところですかね。とりあえず身体を壊さずにできたのはよかった。いろんな人に助けられてきたので、もっといい空間にしながら色々お返しできたらと思っています。だいぶ店を回していく塩梅はわかってきたから、もっと使い勝手が良くなっていくと思ってもらえるとありがたいですね。

──

最後に、今後の展望はありますか。

ナカシマ

やりたいことは色々あるけど、まず第一に驕らず謙虚に、いつまでも足繁く通ってくれるような店を作っていきたいですね。中古レコードを押しやってるDJブース裏を見やすくしたいんで、まずあそこを整理したいです。変えなきゃいけないとこは終わりがないので、なるべくいろんなお店に行って、いいところは取り入れようと思っています。イベントに来るだけじゃなくて、ふらっと飲みに来て喋ったりご飯食べたりしながら、たまたまいい音楽に出会えるような。そんな場所であり続けたいです。

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