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阿部仁知が見たボロフェスタ2019 2日目

“ちょうどこのタイミングでリリースされたカニエ・ウエストの新作を聴きながら向かう京都で同じシカゴ出身のセン・モリモトが観られるなんて運命的だ、今頃彼も聴いてるのかな。”なんてSNS映えしそうなことをつぶやいてもあまり意味はない。あるいは清掃員(BiSHのファンの総称)とともにたまたま丸太町通を通った時代祭の行列に出くわしたことは少し感慨深かったし、いつもの僕なら嬉々としてtwitterに書いたのかもしれないが、やはりそれほど重要なことではない。ここ数日ダウナーでSNSから離れていたことに加え、ボロフェスタ 2019のテーマ「SNSには気をつけよう」のことを考えていたこともあって僕は少し立ち止まっていた。

 

「書くために見てやしないか?」こう書き物をしていると少し考えてしまうことがある。今年のボロフェスタのテーマは半分SNSネイティブの僕でもこんな風にモヤモヤ感じるところがあり、(誰がこのテーマを考えたのかは知らないが)主催者の面々はもっと思うところがあるだろう。あるいは僕よりもっと若いSNSネイティブの人達にはどう映っているのだろうか?「事件は現場で起きている」ではないが、ツイートしたりする前に現場で感じることが大前提だ。そんな風に気持ちを新たにしたところで2日目のボロフェスタに向かう。

滲み出るSSWの矜持 河内宙夢 、ASAYAKE 01

KBSホールに入ると、エントランスエリアの“どすこいステージ”で弾き語る河内宙夢の姿に思わず足を止めてしまう。さながらストリートミュージシャンと出会うような遭遇が仕組まれているのもボロフェスタの醍醐味といったところだが、それにしても河内の歌はなんとも哀愁がこもっている。情けないといってもいいほどだ。

 

ニール・ヤングやボブ・ディランを夢見たのであろう青年はアコギをポロポロ弾きながらヨレた歌声でフォークソングを紡いでいく。「だからどうした」とでも言いたくなりそうな日常風景は、ふと人生の真理のようなものに触れ、少し考えさせられる。と思ったらまたなんて事のない日常に立ち返る。そこには明快な解決など存在しないが、それが人生であり、それが歌なのだろう。ハレの場のような盛り上がりもなければ、ライブショーの感涙とも違う。しかし、朴訥にありのままを紡ぐ河内の歌にこそボロフェスタを単なる非日常で終わらせない日常とのタッチポイントがあったのだ。

Photo:岡安いつ美

シンガーソングライターといわれる生態の業について河内同様に自覚的だったのがASAYAKE 01だろう。中村佳穂とのコラボレーションでも知られる大阪のシンガーソングライターの7年ぶりのライブ活動。ボロフェスタは’08以来、11年ぶりの出演だ。待ち望んでいた人も多いのだろうか。彼が登場しただけで気の知れた友人のような歓声が湧き上がる。

 

「君の言い分は間違っていない、が……。」という逆説で満たされた“seiron!”。正論で殴り合うような事態が毎日のようにSNS上で起こっている今だからこそ彼の叫びはリアリティを持っているのだろう。そして文字通りシンガーソングライターの悲哀を歌った“SSW”では、“おい そこの誰も知らない 無名の SSWごっこ”と吐き捨てるように歌う。名乗りさえすれば誰でもなれるが、何者かになるのはどれほど遠いことなのか。音楽に限らず何かを作りながら生きている僕らの営みの中で、彼の自嘲的な叫びはこの上なく痛切に響く。そして彼は中村佳穂ライクな、語りがそのまま歌になるスタイルで、この場にしかないエモーションをつかまえていく。最後はtwitterで公開したトラックにフレーズを募集し繋ぎ合わせたという“Don’t Look Back In 夕暮れ”。散文詩のような言葉の羅列が折り重なってストーリーとなっていく様子はさながらタイムラインを見ているようで、またひとつここに生々しいリアルが紡がれていた。

Photo:Sho Takamoto

スタイルこそまるで違うが、深い内省の中で自分の輪郭を掘り起こしていくようなシンガーソングライターとしての矜持が刻まれた両者のパフォーマンス。自分らしくあることにも少し難しさを感じてしまう昨今だが、飾らない彼らの力強さに勇気をもらったのは僕だけではないはずだ。

言葉以上に雄弁に語る toconoma、 NABOWA

昨年のボロフェスタでもfox capture planやtoeを観たことを思い出すが、インストゥルメンタルバンドが大きな存在感を示すのもボロフェスタの特徴といえるだろう。2日目も午後になり、ホール内のサブステージ“麒麟ステージ”に現れたのはtoconoma。東京の都市型サーキットフェス『SYNCHRONICITY』や兵庫県三田市の野外フェス『ONE Music Camp』では常連となっている彼らが、満を辞してボロフェスタ初登場だ。

 

しっとりしたピアノから徐々に構成していく“Anaheim”に、西川隆太郎(key)のエスニックなリフレインが癖になる“orbit”、そして矢向怜(Ba)を中心に水槽の中にいるような内省的な情感を音に託した“Yellow Surf”など、実に幅広い表情を見せる楽曲たち。視覚的にそれぞれ違うリズムの刻み方をしているのが気持ちよく、オーディエンスも縦ノリしたりグラインドしたりと自由気ままに振舞う、懐の深いダンスミュージックだ。中でも石橋光太郎(Gt)のカッティングギターから西川のキーボードリフ、矢向のゴリゴリのベースと矢継ぎ早に畳み掛けるキラーチューン“Relieve”ではまるでダンスフロアのような盛り上がり。toconomaはここ京都でも確かな存在感を示していた。

Photo:岡安いつ美

パーティーのような解放的な空間を演出したtoconomaとは対照的に、ここ京都で15周年を迎えボロフェスタも常連のNABOWAは、内面からふつふつと熱が湧き上がってくるような息の長いグルーヴを刻みつける。緩やかに移りゆくサウンドスケープは、スリリングなセッションのようでもあり、統制されたオーケストレーションのようでもある。僕らも音に身を委ねて身体を揺らす。

 

伴奏していたと思ったら、ハードロックのような必殺リフを叩き込んでくる景山奏(Gt)はまさに「顔で弾く」という表現が相応しいような情感がこもり、山本啓(Vn)のヴァイオリンもシネマティックな神々しさをまとった主旋律から音像の中に消えていく。目まぐるしく主役が移り変わっていく彼らのパフォーマンスは例えるなら円環のよう。そして、その中心にいるのは踊っている僕らなのではないか、なんてことを感じる。圧巻は“pulse / aurelia”。ゲストのKoichi(Key)のフレーズがひたすらループするのを中心に黙々とセッションする中で徐々に徐々に育っていくグルーヴ。なんとゾクゾクする展開だろうか。思わずニヤッとしてしまう。まさにボロフェスタが生み出したグルーヴが熟成した瞬間だったといえるだろう。

Photo:堤大樹

NABOWAが終わると「日本タピオカ文化保存委員会」なる集団が移動式の櫓に乗ってタピオカ(を模したカプセル)をフロアにばらまく。これはいわゆるインスタ映えへのアンチテーゼ? しかしすぐさま「混ざれ〜!」とばかりに巻き起されたサークルモッシュがホール全体をかき回す様子に、僕はジャンルを超えてかき回してやるのだというボロフェスタの趣向を感じた。思えばtoconomaでもNABOWAでも、他の出演者が目当てであろう様々な人たちが踊っていた。目当てではないバンドとハプニング的に出会うクロスオーバー。これこそがフェスの醍醐味だろう。ボロフェスタ、混ざってきたぞ。

セン・モリモトが誘うグルーヴの極致

時間は少し前後するが、午後3時前、ちょうど今年のボロフェスタのど真ん中に据えられたのが、卓越したジャズのエッセンスとヒップホップ / R&Bを融合するマルチプレイヤー、セン・モリモト(Key / Vo / Sax)のバンドセットだ。京都出身シカゴ在住、ここ京都では初の凱旋ライブとなるこの機会にボロフェスタを選んでくれたのはなんだか感慨深いものがある。京都での友人や恩人だろうか。前方に駆けつけたオーディエンスと楽しそうに声を交わすモリモトはとてもリラックスしている。しかし、いかにもプロフェッショナルといった風貌の外国人メンバーがどっしり構えていることもあってなのか、いつものボロフェスタとは何か違った期待感に包まれている。

 

早速、昨年リリースしたアルバムの表題曲“Cannonball”。アンビエントな音色を奏でるキーボードに乗せて軽快なラップとソウルフルな歌声を織り交ぜるモリモト、そこに客演のシンガーソングライターKAINA(Key / Cho)の甘美な歌声が重なり、なんとも上質な音像を作り上げる。息を飲む構築美とはこのこと。彼の音源はよく聴いていたつもりなのだが、立体的に表現される姿はまさしくライブ表現と言っていいだろう。贅沢なまでに空間を満たす芳醇な音色にうっとりしながらも身体は動く。

 

いかつい6弦ベースの息遣いを感じるプレイとタイトで生々しいドラムに貫かれたバンドサウンドはとても複雑で、変拍子がそこかしこから飛び出してくるのだが、不思議ととっつきにくい印象はない。あえて合わせようとせずとも身体を委ねていると自分にとってしっくりくるリズムが自然と生まれ楽しくなってくるこの感じ。形式的なリズムに当て込むのとは違った音楽の自由な表象に、フロアは解放感に包まれていた。

 

緊張と弛緩が絶え間なく寄せては返す中、“Picture of a Painting”でモリモトは息の長いサックスのソロパートを披露。やはりジャズ育ちというべきだろうか、古き良きジャジーなフィーリングに僕らは酔いしれる。“People Watching”ではあまり得意ではないのか片言の日本語でシンガロングを求めるモリモト。“私はあなたそのものを愛している”という意味のフレーズを歌うゴスペルのような共同作業に、僕はなんだか神聖な気持ちを抱く。そしてこの後にライブを控えるTempalayのメンバーでもあるAAAMYYYが登場。彼女の芯のある歌声が加わることによってTempalyともセン・モリモトとも違う表現が生まれ、フロアは最高潮を迎えた。

 

混沌としている中に調和があり、調和がまた混沌を生み出す。様々な音楽要素が不可分に混ざり合ったセン・モリモトが作り出したグルーヴは、様々な客層が入り組むボロフェスタを見事に混ぜ込み、この日の、いや今年のボロフェスタのハイライトともいえる素晴らしい時間となった。

Photo:堤大樹

止むに止まれぬ衝動の美しさ 突然少年、DJ後藤まりこ

ここからはステージごとの様子を描写していこうと思う。まずは地下の“街の底ステージ”に登場した突然少年。今年の『FUJI ROCK FESTIVAL』ではルーキーステージからメインステージに駆け上がり今最も勢いに乗る彼らは、昨年のナノボロフェスタに続いての出演だ。サウンドチェックからもう全員が上半身裸になり、大武茜一郎(Gt / Vo)は下まで脱ぎ出す破天荒な様子(一応隠れてはいる)に、どんなに暑苦しいライブをするのかと身構えていたが、意外と勢い一発という感じとは違った爽やかな抜け感がある。ここで音を鳴らすということを丁寧に噛み締めているかのようだ。

 

もちろん繰り広げられている光景は「ここで死んでもいい」とでもいうべき激情そのもの。とだげんいちろう(Ba)は睨み殺そうかというような鬼気迫る形相でフロアを凝視し続け、痙攣するような挙動でギターをかき鳴らすカニユウヤ(Gt)は金色の長い髪をまるで歌舞伎役者のように振り回す。お互いの背中を預けるような熱い信頼感、“火ヲ灯ス”では声の限り熱狂するフロア。それでもここで流れている汗はとても爽やかに感じるのだ。それは彼らのサウンドやメッセージがどこまでもピュアだからだろう。「俺らはこれなんだ」なんの作為もない感情表現に僕はただただ清々しさを感じていた。

Photo:Sho Takamoto

一旦外へ出てから戻ってもまだまだ熱気は冷めやらない。再びの地下はDJ後藤まりこ。開口一番、僕はこう呟いてしまった。「DJってなんだっけ?」はじめに後藤は音源をスタートさせるくらいであとは延々とシャウトしながらフロアを煽り続ける。ステージの照明を支える木の柵を掴みながら「誰一人逃さないぞ」とばかりに最後部まで熱情をブチ込む後藤。柵を支えるスタッフの表情は厳戒態勢という感じだ。「どうにかなりたいだけ」と叫ぶ後藤に引っ張られるように前方からどんどんモッシュしていき、後藤の立てた中指に中指で返すオーディエンス。もうこれは臨戦態勢としか言いようがない。

 

かなり速いBPMで電子音バキバキに決めてくるサウンドも相まって、僕らもどうにかなってきている。ホールでのライブを終えたクリトリック・リスを捕まえては「ひよってんじゃねーぞ!」と罵声を浴びせたり、フロアにダイブしてクラウドサーフしながら歌う中で天井のミラーボールを破壊するなど、暴挙のようなパフォーマンスはとどまることを知らない。そして着ていたパーカーを脱ぎ上半身下着姿になった彼女は、クラウドサーフのまま外に出て行ってしまった。なんだったんだこれは。こんなライブありなのか!?と正論じみたことを言うこともできるかもしれないが、後藤まりこは誰よりも後藤まりこだった。そんな当たり前のことを言ってしまいたくなるほどに、あらゆる束縛から解放された彼女の姿が、そこにはあったのだ。

Photo:岡安いつ美

全身全霊で衝動を叩きつけていった突然少年と後藤まりこ。実にアヴァンギャルドなパフォーマンスではあったが、これは奇をてらっただとか、表現の限界に挑むだとかそんなものではない。自身の内から生じた止むに止まれぬ衝動なのだと僕は素直に感じた。そこには「ありのままでいていいんだ」と言う心からの清々しさがあり、それは多分河内宙夢やASAYAKE 01にもらった勇気と同じだ。表現の仕方は違えどみんな本質の部分は同じなんだろう、そんなことを感じていた。

ボロフェスタの良心たるフォークロア ゆーきゃん 、 ボギー

少し時間を巻き戻そう。突然少年の熱いパフォーマンスの後に“どすこいステージ”に登場したのはボロフェスタ主催メンバーの一人ゆーきゃん。昨年は夜の部のCLUB METROの雑踏にかき消されそうな彼の演奏が不思議と空間にマッチした温かい時間だったが、今年も「横から聞こえるZAZEN BOYSとともにお楽しみください」と彼が言うように、扉を閉めたホールからの音漏れにも負けてしまいそうなか細い歌声と爪弾かれるギターに僕らは耳をすませる。

 

多くのアーティストがカバーしている西岡恭蔵の“プカプカ”や、長野のシンガーソングライターThe Endこと桜井智丸の“引き潮”など、伝承歌のように歌い継がれてきたのであろう曲たちをカバーするゆーきゃん。特に“自民党に殺されるぐらいならば……”と歌う“引き潮”はあまりにクリティカルで、僕は思わず顔をしかめてしまう。形式的にはごく平凡なカバーなのだが、歌の説得力がものすごい。それは彼が生きてきた歴史からくるものなのだろう。まるで生命が宿ったように生き生きとした歌に、僕らはただただ耳をすませていた。

Photo:ヤマモトタイスケ

その後、後藤まりこの狂乱のライブで身体はクッタクタ。外に出てたこ焼きを食べたり煙草をふかしたりしながら、だらっと小休止。「今日も終わりだな、あとはBiSHだけだらっと観るかな」なんて思っていると、何やら中の“どすこいステージ”は大盛り上がり。正直言うと観るつもりはまったくなかったのだが、こういうつまみ食いをしてみるのもボロフェスタの楽しみ方だろうと中に入ると、ボギーのステージが繰り広げられている。

 

原曲完全無視のラップ調の“ERIMO岬”、岡村靖幸のモノマネ、突如奇妙な踊りを始めてみたり、心底バカバカしいが腹の底から笑っていられる。ただただ、この時間が楽しい。「ああ、バカでいいんだ」「ここにいていいんだ」という感覚に、日頃、同調圧力のようなものをどことなく感じている僕は、涙が出そうなほど嬉しくなった。北島三郎の“まつり”をボサノバ調にカバーした“カーニバル”、そしてみんなで肩を組んだ“贈る言葉”。彼も僕らも一緒になって、全力でバカになった。最後に力一杯、彼を胴上げしたことを僕は忘れない。僕にとっては初めての体験だったが、集ったみんながが口々に「ボロフェスタの象徴」と言うのもよくわかる、圧倒的な肯定感と愛に溢れた時間がそこには流れていた。

Photo:堤大樹

そして、ここには今年のボロフェスタのステートメントである「We Believe In The Power Of Us」の言葉通り、僕らへの大いなる信頼があったように思う。僕はオープニングで流れていたRADWIMPSの“愛にできることはまだあるかい”を思い出していた。愛にできることはきっとまだある。僕らはありのままの自分を肯定していいんだ。ボロくてもいいんだ。うまく言葉に書き記せているかはわからないが、ボロフェスタ2日目のこの日を通して感じたそんな気持ちは、この原稿を書いている今も確かに僕の中に残っている。

 

阿部仁知が見たボロフェスタ2019 3日目に続く

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