REVIEW
Underlight & Aftertime
downt
MUSIC 2024.03.14 Written By 阿部 仁知

紆余の中、やりきれない閉塞から燃え立つ焦燥へ

2021年の結成以降、数えきれないほどのライブを精力的に行なってきたdownt。シングル『III』(2023年)に続いて《P-VINE》からリリースする1stフルアルバム『Underlight & Aftertime』には、そんな3人のプレイヤーそれぞれの進化と自信、そして等身大の焦燥感が凝縮されている。本作を通してdowntはより強固で密なバンドになったと言ってもいいかもしれない。

 

河合崇晶(Ba)はかつて3LAのインタビューで「演奏が荒いだけなのをライブ感って言ったりするからその言葉嫌いだな」と、安易に“ライブ感”と形容することに違和感を示していた。それでもやはり相互に作用するライブとスタジオワークがdowntの心臓であって、本作には“ライブ感”が通底していると言いたくなるが、そのニュアンスはこれまでの音源と大きく違っている。それが顕著に表れているのが、『downt』(2021年)から再録された“AM4:50”、“mizu ni naru”、“111511”の3曲だろう。

 

結成から7ヶ月でリリースされた8曲入りのアルバム『downt』の制作は、はじめてバンドを組んだ富樫ユイ(Vo / Gt)の楽曲をもとに、この3人で何ができるかを探る狙いがあったという。それから数多のライブやリリースを経てできることの幅も広がり、本作では表現の解像度が大きく上がっていることが聴き比べてみるとわかるだろう。とりわけ“mizu ni naru”は旧作よりむしろ生々しさが強調されていて、おそらく今の3人ならもっと「上手く」録ることはできるはずだが、ライブで何度も体感した富樫と河合とTener Ken Robert(Dr)の3人による、弦やスティックの手触りが克明に表れている。荒々しくもスッキリと洗練された本作のプロダクションだが、これは河合が言っていた意図しない荒さではないだろう(それはそれでいい味になっていたが)。ライブから持ち込んだ進化したバンドの確信が感じられるのだ。

 

 

そして誰よりも成長を見せているのは言わずもがな富樫だろう。これまでの音源ではバンドが富樫の歌唱を立てるような側面も感じていたが、本作の3人の関係性はとても滑らかでフラットだ。相対的なボリュームだけで言えば歌より演奏の方が強調されているようにも思えるが、それができるのは歌の存在感がこれまでよりずっと大きくなっているからだろう。特徴的な息を多分に含んだ歌唱はよりストレートに歌を聞かせるかたちで楽曲と馴染み、“underdrive”や“Yda027”に見られるポエトリーや、“煉獄 ex”の擦れた歌唱、“mizu ni naru”から滲み出るどこか白けた情感など、彼女の新たな表情が幅広い表現となって表れている。これまで以上にダウナーでハードコアな面が強調された演奏とともに、ライブやスタジオワークを通して掴んできた手応えが垣間見えるようだ。またこのフラットなバランスは、歌モノなのだがJ-POP的な構成を逸脱しているdowntの特異性をより際立たせているといえるだろう。

 

もとより深夜のコンビニで一人佇むような、あるいは真っ暗な部屋でぼんやりと物思いに耽るような、やりきれない閉塞感と、その中に含まれるある種自傷的な甘美を描いてきたdownt。だがさまざまな経験を経て、そういった心象は本作においてふつふつと燃え立つ焦燥感に昇華されている。作品全体でふわふわした空間系のエフェクトよりもチリチリとした歪みが強調されているのもその一つで、“Yda027”の「止まっていく感情 許せないことばかりだ」という一節が象徴的だ。

 

だがそれは自身を蝕むようなものではなく、至って健全な渇望感のように本作に息づいている。そのことがはっきり読み取れるのが、前奏のように差し込まれた“8/31(Yda011)”に続く“紆余”で、本作でも一際バンドサウンドが前面に出ていながら色調はとてもブライトなのだ。富樫がシャウトする「なぞる わたし まざる」という最後の一節は、これまでの歩みを捨て置くことなく体得し、現在の3人へと統合するフレーズのようで、そんな楽曲に“紆余”と名付けるのもなんともdowntらしい。

 

そこからいくつものシーンを彩ってきた代表曲の“111511”へ。そして集大成とも言える8分を超える最終曲の“13月”は、『III』のリリース時に感じられた閉塞感や憂いも抱えつつ、本作を通して聴くと湧き上がる焦燥感を糧に駆動していくバンドのこれからにつながっていくようだ。そう、過去も現在もこれから待ち受けるあらゆる曲折も、すべては今のdowntとともにある。


配信リンク:https://p-vine.lnk.to/tmghLU

Underlight & Aftertime

 

アーティスト:downt
仕様:デジタル / CD

レーベル:P-VINE
発売:2024年3月6日

配信リンク:https://p-vine.lnk.to/tmghLU

 

収録曲

1. underdrive
2. Whale
3. AM4:50
4. prank
5. Yda027
6. 煉獄 ex
7. mizu ni naru
8. 8/31(Yda011)
9. 紆余
10. 111511
11. 13 月

downt

 

2021年結成。富樫ユイ(Gt / Vo)、河合崇晶(Ba)、Tener Ken Robert(Dr)の3人編成。 東京をベースに活動。緊迫感のある繊細且つ大胆な演奏に、秀逸なメロディセンスと情緒的な言葉で綴られ、優しく爽やかな風のようで時に鋭く熱を帯びた歌声にて表現される世界観は、風通しよくジャンルの境界線を越えて拡がりはじめている。

 

X(旧Twitter):@downtband
Instagram:@downt_japan

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