INTERVIEW

【もっと身近なクラブカルチャー】vol.6 Gift

現場で活躍するDJの姿を通してクラブカルチャーをもう少しだけ身近に感じてもらいたい。それが連載『もっと身近なクラブカルチャー』です!クラブのフロアは人種も性別も思想も超えた自由が交錯する場所です。そして、自由が故にフロアに集う人々それぞれの主体性が試される場でもあります。そんな姿を通して単なる遊び場にとどまらないクラブカルチャーの魅力を伝えられればと思います。

MUSIC 2022.07.25 Written By 阿部 仁知

何やらいい香りのするフロアには親子連れも多く、性別や年齢を超え、各々が居心地良さそうにパーティーを楽しむ様子に僕は驚いた。これほど分け隔てのないパーティーがあるのかと。それが『Gift』にはじめて訪れた時の印象だった。

 

〈Alffo Records〉のナカシマセイジさんが「最高のオーガナイザー」と言っていたことや、ANTENNAフリーマガジン『OUT OF SIGHT!!! vol.1』の企画「わたしの周辺相関図」に寄稿いただいた多岐にわたる人間関係がとても気になっていた主催のYOTTU(よっつ)さん。お話を聞く中で印象的だったのは、YOTTUさんは何事にもまったく線を引かないことだった。

 

DJだけでなくそこに集まった様々な「楽しい」がきっかけとなり、あらゆる人が気持ちよく過ごせる場所『Gift』。パーティーそのものをどこまでも愛するYOTTUさんのお話は、温かい思いやりに溢れていた。

Gift

京都の〈CULB METRO〉や〈veg out〉を中心に各地を渡り歩くハッピーなパーティー。主催のYOTTUや原清華をはじめ、ジャンルに捉われないバラエティに富んだゲスト出演が特徴的で、毎回フレッシュな驚きに溢れている。そして音楽以外の要素が充実しているのも大きな魅力。特別に用意したフロアの香りや一際目を引く活け花に種類も豊富なフード、お花屋さんや雑貨、似顔絵に数秘術など、季節やベニューによっても違う多種多様な出店がパーティーを彩る。

映像:kenji ushikubo

いろんな人が惹かれる要素をちょっとずつギフトする

──

『Gift』はDJだけでなく様々な出店があったりお花を飾っていたり、音楽以外にもいろんな楽しみ方ができるのが印象的です。

YOTTU

その日絶対にそのDJの感じが好きかって、多分行かないとわからないんですよね。だから「あのDJがとっても良いから遊びに来てよ」っていうだけではそのパーティーの良さを伝えるには全ての人に当てはまる説得力にならない気がしていて。

──

確かに同じDJが同じ曲をかけてても日によって感じ方が変わったりもしますよね。

YOTTU

そうそう。だから美味しい出店や気になる雑貨とか、楽しいことが多い方が行ってみようかなっていう要素になると思うんですよ。自分がパーティーに行った時そう思うからというのもあって、ずっと音楽を聴いてても手持ち無沙汰になったりすることもある。でもカレーがあったら食べてゆっくりできるとか、楽しいと思う要素がもっといっぱいあったらいいのになって思って、自分でそれを再現している感じですね。いろんな人が惹かれる要素をちょっとずつ、それこそギフトするような。

出店のasopo @CLUB METRO
──

慣れてない人にとっては行きづらかったりもしますからね。

YOTTU

例えばご飯屋さんや映画に一人で行けない人もいるけど、多分パーティーに一人で行くことはもっとハードルが高いので、誰が来ても楽しくなるように考えています。でもわざわざ「老若男女に向けて!」とか思っているわけでもなくて。コンセプトがどうというよりは、無理なく来てもらえたらいいなって気持ちが強いですね。

──

単純に『Gift』にいる人たち、お客さんはもちろんなんですが、出演者や出店の人もみんな本当に楽しそうですよね。

YOTTU

一方的な感じじゃなくて「みんなでいい日を作ろう」っていう気持ちで丁寧に準備をしているので、それがみんなに伝わってると思うんですよね。出演者もみんな丁寧に準備や告知をして底上げしてくれて、お客さんにも少しずつ伝わって、ヴェールのように浸透していっている気がします。

asuka ando & ARI @veg out

気持ちのいいコミュニケーションが循環していく

──

『Gift』はDJの方々も気さくで話しやすくて、過ごしていて気持ちいいなと思います。何かオーガナイザーとして意識していることはありますか?

YOTTU

運営の話になるんですが、まずは私自身がDJや出店や関わってくれる一人ひとりとちゃんとコミュニケーションすることですかね。連絡は一括ではなくて個別にする。SNSでの紹介はプロフィールを流用せずに、自分の言葉で全員分紹介する。当たり前だけど「私がやってる意味」みたいなことを日々のコミュニケーションから出すことが大切だって思っていますね。

──

「今回のイベントで関係してる人だから」とかそういう線を引いてないし、何事にも事務的でない感じがします。

YOTTU

パーティーって「この日にやるぞ」って口にする以前に、私の中ではもう始まってるんですよね。例えばいつにするかとかいろいろ考えたり、誰を呼ぼうかなと考えてる時から始まってるし、当日を迎えて終わってからもまだ気持ちの中ではずっと続いてるので、私の中では連絡とかもパーティーなんですよ。

──

めちゃくちゃいい話ですね。とらえてる範囲がとても広い。

YOTTU

「『Gift』で出てたカレー屋さんが美味しいから今度誰かと行こうよ」とか、お客さんに思ってもらえたらとても嬉しいですし、わたし自身も素敵なお店や出店者さんに会ったら「『Gift』に出てもらえへんかな~」とついついずっと考えています。

YOTTU @veg out
──

パーティーの外での交流一つひとつが信頼関係を築いているんだなと感じました。

YOTTU

自分がやるパーティーはいろんな人に信頼してもらえるパーティーにしたいんですよね。来て絶対損はさせたくないし、人様の時間とお金だからパーティーにきておもしろくないっていうのは絶対に嫌で。

──

ものすごく誠実ですね。

YOTTU

例えば『Gift』がおもしろくなかったら〈CULB METRO〉での思い出がおもしろくなかったことになる、ということもあり得るわけじゃないですか。自分のやってることは自分だけのことじゃなくて、出店のみんなだったり関わってるあらゆる人につながっていて、ちゃんとやらなきゃって思うんですよね。私自身ずっと大事にしてるのが、自分が人にされて嫌なことはしないし、人にされて嬉しいことをする。それが基本です。

veg outの様子
──

すごくシンプルだけど、それをずっと続けていくって言葉以上に難しいと思うし、すごいなって思います。YOTTUさんの細かい気遣いが『Gift』で過ごしてもすごく感じますね。

YOTTU

でも私だけじゃなくてDJ陣もいろんなお客さんのとこに行ってお話したり、本当に丁寧だなって思います。事前にお願いをしているわけではないしDJをするだけでもすごく忙しいのに、「あの人この前も来てくれたよね。お話してくるわ」みたいな。みんなとても気配りしてくださるんですよ。

暮らしの中にあるちょっとしたものをかき集めて

──

この前も〈veg out〉で、DJの原清華さんが気さくに話をしてくれたのが嬉しかったです。それは多分YOTTUさんの雰囲気が伝染してる感じもありますよね。YOTTUさんご自身パーティー当日で意識してることってあったりしますか?

YOTTU

DJだけに集中しないことかな。DJをちゃんとやるのは当たり前なので、まず店のドリンクが出てるかも気になるし、ドリンクが散らばってたらさっと片付けたいし。特に「出店売れてるかな」ってことはめっちゃ気になるんで、いろんな人に「帰りにお花もぜひ!」とか年が近い友達に「そういえば地元一緒じゃない?」とか紹介してさっと消える。正直当日はかなり忙しいのであとはどうぞってことで。お見合い仲人おばさんみたいですね(笑)

──

いやいや(笑)。でもかといってお節介にも感じない自然さがありますよ。YOTTUさんの振る舞いがすみずみまで行き渡っている感じがします。

原清華 @CLUB METRO
YOTTU

循環してると思うんですよ。私が「出店のみんなのものが売れてほしい」と思う。そしていろんな人に「あれ美味しいよ、これ素敵だよ」って紹介する。そうしたら出店のみんなもクオリティが高いことをしてくれる。それでお客さんが買って全部売れたりする。嬉しいじゃないですか。もちろん売り上げや次の仕事にもつながったりして、その人たちも「『Gift』での出店めっちゃおもろいわ」って言ってくれたり、私もありがとうがずっとぐるぐるしてる。

──

いい循環。

YOTTU

私が今日楽しくてそれで今日のパーティーが終わりじゃない気がする。この前だって〈veg out〉の時全然知らない人同士で奢りまくってたり、みんながお互いに楽しませ合って盛り上げてっていう、あの時は本当にそんな感じでしたね。ハートランドの瓶が120本ぐらいなくなって。

──

めちゃくちゃすごかったですね。僕もはじめて来たって人と話して、たまにLINEしたりしてるんですけど、そういうのが自然とありましたよね。さっき言ってたように出演者も全部フラットなんですけど、演者さんとお客さんの壁も全然ないよなって。それが過ごしやすさなところにも感じます。

veg outの様子
YOTTU

『Gift』のお客さんってもちろん音楽も好きだけど、それだけじゃないんですよね。いろんなことに楽しいって思ってくれてる。だから季節だったり時間だったりとにかく今のこの感じを気持ちよく過ごしたい。私はそれを大事にしたいし、みんなもすごく大事にしてくれて嬉しいですね。自分も「あの人のためならスケジュールが大変でもDJ頑張ろう」とか、そういう気持ちって絶対あるから、きっとみんなが『Gift』に対しても、気持ちを高めてやって遊びにきてくれてる気はします。

──

それが自然と無理なく連鎖していく。

YOTTU

あと、私の中で『Gift』って特別な日っていう感じじゃないんですよね。暮らしの中にあるというか。思いやりとかそういうちょっとしたものをかき集めてできたらいいなって感じがします。隣の人のことをちょっと考えるぐらいの優しさがみんなにあったら、めっちゃ優しい日々になっていくと思うので。

CLUB 80's @CLUB METRO

パーティーへの想いがこれからも巡っていくように

──

最近はコロナで色々状況も変わってきていますが、パーティーを続けていく中で何か思うことはありますか?

YOTTU

そうですね。危機的な状況もありましたが「パーティーって楽しいんだぞ」ってことを示したいし、私も20年くらい前にはじめてクラブに行って楽しいって思ったのは誰かが続けてくれたからだから、絶やしたくないですよね。

──

絶やさないように。

YOTTU

今はシンプルにパーティーに携われて嬉しいんですよね。私は別にDJがめっちゃうまいとかじゃないんですよ。雰囲気重視なので他にうまい人はめっちゃいるし、機材も疎くて勉強不足だなって思うことがめちゃくちゃ多くて。ただ私はパーティーが好きで、京都で1番パーティーが好きって言える自信はありますね。

──

かっこいい。

YOTTU

それぐらいしか自信がない(笑)。音楽が好きというかパーティーが好きなんですよ。

──

その言葉はすごくしっくりきますね。YOTTUさんはそんな感じがします。

YOTTU

とにかくパーティーが好きですね。ライブハウスやクラブに行くことは音楽を聴きに行ってるように見えがちだけど、そうじゃないんじゃないかって私は思ってて。行く前にそわそわしたり、帰り道に楽しかったなって遠回りして帰っちゃったりすることも含めてだと思ってるので、そういう日々だったらいいし、そういう気持ちで続けてきたのがちょっとずつ周りにも伝染していったら嬉しいです。

CLUB METRO
──

すごく温かいお話。最後に一つ聞きたいんですが、YOTTUさんが一番大切にしていることってなんですか?

YOTTU

相手を思いやることかな。プレゼントじゃなくてギフトだから一方的じゃないんです。この日をいい日にしたいと思ってずっと過ごしてる気持ちをみんなに贈って、向こうも「そうだよね、いい日にしたいよね」って贈り合う。相手を優しく思う気持ちを、みんなが贈り合ってるんですよね。

映像:kenji ushikubo

イラスト:橋本ゆいか
イラスト参考写真:kojohn!

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