REPORT

阿部仁知が見たボロフェスタ2021 Day6 – 2021.11.7

20周年を迎えた、京都のフェスティバル『ボロフェスタ』。新型コロナの影響もあり、2年ぶりとなった今年は、2週連続6日間に渡って開催されました。2014年から毎年ライブレポートを掲載してきたANTENNAでは今年も編集部あげての総力取材!全6日間の模様を各日1名のライターによる独自の目線で綴っていきます。本記事では11月7日の模様をハイライト。

MUSIC 2021.11.15 Written By 阿部 仁知

ボロフェスタ2021最終日。例年であれば〈CLUB METRO〉での夜の部「vol.夜露死苦」帰りに少し休んだ後、バキバキの身体を引きずり〈KBSホール〉へ……なんてルーティンだったが、今年は開催されず、健康面では快調だ。ただなんといっても今年は6日目。平日を挟んだとはいえ、会場を駆け回るスタッフや6日通し券で来ているお客さんは悲喜こもごもだろう。「なんとかこの日までたどり着いた。でもあっという間だったな、今日で終わってしまうのか」なんて考えながら。

 

僕はというとレポートを書いた1日目のほか、3日目4日目に会場に足を運んだ。素晴らしいアクトの様子は各日のレポートに譲るが、行かなかった日もTwitterを通して会場の楽しそうな様子が見てとれた。ハッシュタグ「#ボロフェスタ20周年おめでとう」に流れてくるホールの熱狂やボロフェスタとの思い出、或いは配信を楽しむ人々の感想もそうだ。そんな想い溢れるツイートは会場でも転換中にホールのスクリーンでリアルタイムに表示されたり、会場の特設掲示板「ボロッター」に張り出される様子を眺めながら、20年という時の重みを感じたりもする。だって20年前は配信ライブやSNSを通した交流なんて想像もつかなかったのだから。時に世間の風潮に警鐘を鳴らしながらも、旺盛な好奇心でいいものは取り入れながら歩んできた20年。僕はその3年ほどにしか触れてはいないが、それでも込み上げてくるものがあった。

そんな20年の想いと、この6日間のさまざまなドラマを締め括るに相応しい面々が揃った最終日。あまりに多い見どころにライターとしても気合が入るラインナップだったが、いざ過ごしてみるとジャンルやファン層の違いをむしろ起爆剤として、あらゆる人々を混ぜ合わせていくボロフェスタの真骨頂があらわれた日だった。そんな6日目の様子をレポートしていきたい。

昼下がりのホールで一際存在感を放ったCHAI

目が覚めるようなハイテンションで開幕を飾ったDEATHROの存在は強烈だった。90年代のJ-POPを思わせるシンセを貴重としたコテコテのロックンロールサウンドに乗せて、ホールの隅々まで歌声を届けるように縦横無尽に駆け回り全身で表現する彼の姿に気持ちが昂ってくる。熱量が高過ぎていきなりステージからすっころび落ちたり衣装が壊れたり、終始チャック全開でもアクシデントごと笑い楽しむショーマンシップは、変に斜に構えがちな僕のようなオーディエンスも解きほぐしていく。

 

その熱量を引き継いだのはスカート。エレガントなピアノと小気味よくガシガシかき鳴らすギターのコントラストに、タンバリンやシェイカーが色を添えるバンドアンサンブルは、爽やかながらもグルーヴ全開だ。実直に歌声を響かせる澤部渡(Vo / Gt)の姿は先程のDEATHROと対照的にも思えるが、内包する熱情を歌に託しホールをスカート色に染め上げる様は共通したものを感じる。タイムテーブルの流れに沿って想いや熱量が伝播していくのがフェスティバルの妙であり、ホールの2ステージのみの開催となった今年はとりわけそのダイナミックな流動を感じたものだが、この後グラインドし混沌が昇華される素晴らしき流れの起点は、間違いなく開幕の2組だったと言えるだろう。

そして昼過ぎの〈KBSホール〉に早くも訪れたハイライトのひとつがCHAIのステージ。2016年の街の底ステージの出演から加速度的な成長をとげ、今や世界に名だたる4人の凱旋だ。サウンドチェックではDaft Punk“Get Lucky”を「ハーイ、ボロフェース!」と替え歌したかと思ったら、すかさず場内SEはJustice“D.A.N.C.E.”が流れ、ダンスフロアの機運が高まる中ドロップするのは“NO MORE CAKE”。先程着ていた銀ピカのポンチョ(今年のフジロックでもかなり目立っていたやつだ)をあっさり脱ぎ捨て、黒いフードを目深に被り4人がラップを刻んでいくスタイルは初っ端からインパクト抜群だ。かと思えば重いシンセベースでフロアを揺らす“クールクールビジョン”やエレクトロポップのような深い情感を醸し出す“IN PINK”や“Nobody Knows We Are Fun”、はたまた先程のドープなフロウから一転したキュートな自己紹介ラップなど、表現のレンジがものすごい。

 

中盤からはバンドサウンドが本領を発揮。“N.E.O.”でギブソンを飼い慣らすカナ(Vo / Gt)の姿に見惚れ、チップチューンのようなくすぐったいサウンドの“PING PONG!”では見様見真似でパラパラのような振り付けをしたり、“Donuts Mind If I Do”のメロウな歌に浸ったり。なんと幅広い表情を見せるのだろうか。そんな彼女たちが最後に披露した“sayonara complex”。あらわになるステンドグラスをバックに、コンプレックスさえ武器へと変え飾らない素顔で表現する姿のなんと素敵なことだろう。ヒップホップクルー、トラックメイカー、アイドル、そしてバンド。正確に形容し切れる言葉のないCHAIの「NEOかわいい」パフォーマンスに、〈KBSホール〉はボロフェスタの日々で何度目かの最高潮を迎え、ダンスフロアのような自由な解放感がホールを包んでいた。

混沌をブチ込む本日休演、詩情と哀愁が滲むDaichi Yamamotoのフロウ

ダンスフロアの高揚のままDaichi Yamamotoに雪崩れ込めばわかりやすいだろうが、そうはしないからボロフェスタは面白い。混沌をブチ込む立役者は本日休演だ。2018年、街の底ステージの身動きひとつできない中でも身体を揺らした時からホールで観るのを楽しみにしていた彼らだが、そのグルーヴはさらにソリッドに進化しているではないか。最新作『MOOD』から“全然、静かなまま”“アレルギー”と披露する中でも、シンバルをミュートする樋口拓美(Dr / Cho)の手つきや、スムーズなベースを荒々しく切り裂く岩出拓十郎(Gt / Vo)のギターなど、ジャケットとノータイのスタイルも相まって挙動一つひとつが堂に入っている。音像はクリーンなのに、ヨレたりモタったりするリズムの細微なニュアンスだけでサイケデリックなムードを醸し出す様はさながら坂本慎太郎のようでもあり、「ここまできたか……」と思わず感嘆してしまうのだ。

 

新曲“サニーガール”“信じられない”でさらに深まるその混迷はもはや笑ってしまうほどで、変則的なリズムでもトリッキーにはまったく感じない、一つひとつの音の必然性が更なるグルーヴを生み出していく。気だるそうなMCも喋り上手とは程遠いのだが、上手いとか正確とかそういったものとはまるで別の凄みを纏い帰ってきた本日休演。比較的歌メロが前面に出た“天使の沈黙”や“秘密の扉”も、グルーヴの極致で見せるまったく別の表情。岩出の上京など京都の枠を越え新しい扉を開き続ける最中の一端に触れたステージは、ボロフェスタにおいても強烈な楔となっていた。

続いて現れたHave a Nice Day!。岩出が言うところの「最悪な根暗」に相違ない僕からすると、浅見北斗(Vo / Samplar)の奔放さや自由気ままなフロアの様子は観るたびに最初「僕の居場所じゃない」と感じてしまうほどなのだが、そんな僕をも徐々に捉えてくるのだからハバナイは不思議なバンドだ。流石に従来のライブのような巨大なモッシュにはならずとも、区切られたスペースの中で飛び跳ねたりタップダンスのような複雑なステップを踏んだりと、全身で表現されるオーディエンスの高揚は縦方向にだけは無限大。僕はこの光景が眩し過ぎて嫉妬しているだけなのかもしれない。そんな僕のような奴も見捨てず最後まで楽しみ尽くしたフロアに集う人々。本日休演からハバナイのギャップは、今年のボロフェスタでも随一のものだったが、この流れだからこそより多くの人々を捉えたパーティーがここにはあった。

 

思えば前回僕がハバナイを観た2019年のボロフェスタでも、その後にKID FRESINOの醸し出すクラブナイトの情感に触れ、パーティーの多様さを感じたのだった。その時のゲスト出演に続いて満を辞してソロ初出演となったDaichi Yamamotoのステージは、まさに〈CLUB METRO〉からそのまま来たようなムードが溢れていた。“Greetings”“Love”とシームレスに移行する中で、チルなトラップビートからブレイクビーツの応酬までさまざまなサウンドの表情を見せる、盟友Phennel Koliander(DJ)とKzyboost(Talk Vox)のサウンドメイク。Daichiは時にストイックに、時にメロウにラップを刻む。キラーチューン“Let it be”ではキメのフレーズ「タイヤみたいだな」をシンセに声色を乗せるKzyboostのトークボックスに託し、「泡のように消えた記憶はボロフェスタに置いたままになる」と歌いかえフロアを沸かせる。

 

中学高校と〈KBSホール〉の近所に通い、ずっと知っていたから出演できて嬉しいと語るDaichiだが、彼の真骨頂はここからだった。低音の響きがまるで〈CLUB METRO〉のように感じられた“Cage Bird”に滲む渇望感にフロアも手を挙げ、「Let it beより聴かれてく曲を 書きたいとか思って 首絞めてるぜ」と作曲の苦悩を吐露するその様は、さながらシンガーソングライターのような詩情に満ちている。僕らは身体を揺らしながらも聴き入り情感に浸る。新進気鋭のヒップホップアクトとして登場したDaichi Yamamotoが醸し出した哀愁は、多種多様なジャンルが入り乱れるボロフェスタにも確かに馴染んでいる。そしてCHAI、本日休演、ハバナイから彼に至る混沌とした流れは、さながら今年は開催されなかった「vol.夜露死苦」をホールに現出させたようでもあった。

すべてを受け入れ力にするたくましさと、熱情を昇華するプリミティブな衝動

冒頭50歳を迎えたBOSS THE MCが「ハーフタイムは終わった ここから後半だ(AND AGAIN)」と繰り出す姿は、まさに後半を迎えたこの日のボロフェスタを再度着火するかのようだった。THA BLUE HERBの気骨あふれるパフォーマンスは、リリックをただそのまま受け止めようと手を組み聞き入る人々の姿がちらほら見られたが、それほどに心の芯を射抜いていくBOSSの言葉。もはや若いとも自認しておらず、年齢や境遇のせいにして諦めてきたことがいよいよ山のようになってきた僕やフロアの面々に向けて、「こっちはマジで言ってんだよボロフェスタ!1番良いのはまだ来てないんだ(THE BEST IS YET TO COME)」と投げかける姿のなんと精悍なことだろうか。

 

数々のフェスティバルを彩ってきた名曲“ILL-BEATNIK”が描き出す宇宙規模の感覚、BOSSが京都に感じている1200年の悠久の時の流れ。THA BLUE HERBの歩みもボロフェスタの20年も偉大なものだが、それでもまだまだ挑戦者でしかないと彼は語りかけるかのようだ。なら何者でもない僕らは?言うに及ばないだろう。熱のこもったラップが一人ひとりの胸に火を灯し、ボロフェスタは佳境を迎えていく。

 

そして僕らに飛び込んできたのがおとぼけビ〜バ〜の激情。MC土龍から贈られた「好き好き大好きおとぼけビ〜バ〜」という言葉を、「そんなくす玉ごときで泣くと思ってんのか!」と一蹴するよよよしえ(Gt)はこれぞ!と言いたくなるいつもの調子ではあったが、今日のパフォーマンスはなんだか温かみのあるものに感じられた。それは世界と戦い強度を増した彼女たちのボロフェスタへの想いでもあったのだろう。あっこりんりん(Vo)の「ネクストソングイズ……」からよしえの「センキューウィーアーおとぼけビ〜バ〜!」まで矢継ぎ早にほぼ一息で繰り出されるハードコアに、僕らも息をするのも忘れるくらい前のめりに踊り倒し、曲間で一息。なんてスリリングなんだ。

 

“ジジイ is waiting for my reaction”や“姑と同居Bダッシュ介護”など、あっこの曲紹介で笑いが巻き起こるフロアだが、一方で「それって笑える話なのか?」ともほんのり感じさせる絶妙な塩梅。フロアには「イロモノ」と捉える人も「戦う女性」と捉える人もきっといるが、どういう反応をされようがまったく動じず、すべてを激情のハードコアで塗りつぶすバンドサウンドの強度たるや。CHAIも然り、ボディポジティブやフェミニズムといったタームで語ることもできるが、彼女たちが世界を虜にするのは決してそういうことだけではないのだ。示唆を感じる人は勝手に感じればいいが、それも含めてすべてを塗り替える鮮烈なエンターテインメントの前に、僕はいろんな考えが頭をめぐりながらもただただ圧倒されるばかりだった。

そんなおとぼけビ〜バ〜のステージ中、準備をしながら「よっしゃー!よっしゃー!」と叫んでいたYUKARI(Vo)。後輩バンドのたくましい姿に感化される部分もあったのだろう。さあLimited Express(has gone?)がはじまるぞ!というところを制してまで「マジで男勝りとか紅一点とかそういう言葉はもう撲滅じゃあ!」と叫ぶ姿には鬼気迫るものを感じたが、はじまった爆音の狂乱を前に、女だから男だからなんて本当にどうでもいいのだ。彼女の「こんなんただの音楽なんやから深く考えず楽しんで帰って」という言葉に、ややこしく考えがちな僕もなんだか吹っ切れたような気分に。ステージを所狭しと動き回りながらフロアを鼓舞するYUKARIのシャウトに、これでもかという音圧で畳み掛けてくるバンドサウンド、突き上げる拳、跳ね回る身体。ライブって、生きてるってこういうことだ。

 

キレたかと思えば泣き笑うYUKARIにJUN TANIGUCHI(Ba)は「すごく良い情緒してますね」と語るが、リミエキのバンドサウンド自体がそうだろう。「あの時ああしていれば……」といった後悔を一切残さず今この瞬間をまっとうせんとする姿は、ボロフェスタの歩みを丸ごと体現しているかのようだった。ボロフェスタ代表やOTOTOY取締役といった「凄い大人」として認知していたJJ=飯田仁一郎(Vo / Gt)も、手を振りまわし身体を躍動させるただのギター野郎にしか見えない。この人だからこそ、生々しいフェスティバルの情感が紡がれてきたのだと肌で感じたものだ。

 

そしてこの日々で数々の想いを受け取った飯田自身が「ボロフェスタ〜!!」と叫び、“Live or die, make your choice”。オープニングやアーティストの登場ジングルで幾度となく聞いた「死んでたまるか!」「ネバーダイ!」に、フロアはただただこの瞬間を噛み締めながら踊っている。生きるも死ぬもお前次第。そう、誰かに左右されるものではない一人ひとりの生の躍動が弾けたこの瞬間は、間違いなく今年のボロフェスタを象徴するものだった。BiSHが乱入したりカネコアヤノが登場したりと、数々の伝説的な光景を耳にしてきたボロフェスタのLimited Express(has gone?)。今回僕ははじめてそのステージを目撃したが、5人の躍動でもって今この瞬間を燃やし尽くした今日のホールも、それらに匹敵し超えてくるものだったに違いない。自然とそんな確信を持てる激情のパフォーマンスに、ボロフェスタ 2021は完全に昇華された。

京都時代を慈しむような凱旋、バンドが描くどこまでもピュアな情景。それから先は…

リミエキがグランドフィナーレでもまったく問題はなかった。ここにいた誰もがそう感じたことだろう。それくらい完全に昇華された後を任せられるのはこの2組しかいないと、ここまできたら納得できる。Daichi YamamotoからTHA BLUE HERB、おとぼけビ〜バ〜からLimited Express(has gone?)という流れは、今まさに激動を生きる若者たちのパフォーマンスに偉大な先達が背中を見せると同時にまだまだ負けねえよと不敵に笑うようなせめぎ合いを感じたものだが、その最終幕に登場したのがHomecomingsとサニーデイ・サービスだ。

 

「お久しぶりです、Homecomingsです」という言葉にこれほどの重みがこもるのはこの場所とともに育ってきた4人だからだろう。2019年の大トリのChamber Setを京都への置き土産に上京、メジャーデビューと新たな扉を開いたHomecomingsのパフォーマンスをまるで里帰りのように暖かく迎えるオーディエンスたちの姿に、それを全部見てきたわけではない僕でも確かな物語を感じる。“Songbirds”に始まり、初めて出演した2013年に演奏したという“I WANT YOU BACK”や、当時暮らしていた左京区南部の岩倉の街が紙のように見えたという”PAPER TOWN”など、京都時代を振り返り慈しむように柔らかに演奏する4人。髪を短くした畳野彩加(Vo / Gt)の伸びやかな歌声がホールの隅々まで行き渡るようだ。

 

ごく簡素に淡々と、言葉数少なめに進行する様子が、かえって想いの深さを感じさせるような4人の演奏。後半ではメジャーデビュー作『Moving Days』から“Here”を披露。フレッシュなインディー風味を感じさせる全編英詞から日本語を聞かせる歌唱に軸足を移した大きな変化を、キャリアのさまざまなポイントを行き来しながらセットリスト全体で表現するようで、それは今まで受け取ってきたものを糧としながら新たに歩む姿を京都のみんなに見せるような、そんな暖かい時間が流れている。最後は新たな代表曲“Cakes”。Aメロに回帰して畳野のギターストロークで締める様は、まだまだ物語が続いていくことをここにいる全員で讃えるような晴れやかな余韻を残していた。

ついに最終幕。登場したMC土龍は、出演者に、スタッフに、そして自分自身に大きな拍手を送りましょうとこの日々を労い最後のアクトを迎え入れる。これまで自身の想いを交えてアクトを紹介してきた土龍だが、彼らにはなんの形容もいらない。見ればわかる。ソロ名義や曽我部恵一BAND名義も含め11回目となる盟友サニーデイ・サービスのステージは、まさにバンドサウンドだけですべてを語るような時間が流れていた。

 

「よかったね(開催)できて。みんな来てくれてありがとう」と、おおらかな表情で語る曽我部恵一(Vo / Gt)。“恋におちたら”、“さよなら!街の恋人たち”、“I’m a boy”と時代を彩ってきた名曲を奏でる姿には、バンドで音楽を奏でる喜びが溢れている。まだ数回しか披露していないという新曲“TOKYO SUNSET”では2回やり直す一幕もありつつ、曲の終わりには「やったー!今日が一番よかった!」と笑顔を見せる曽我部。彼の表情はピュアな喜びと聴衆への信頼で満ちている。つられて笑顔になる僕らも彼らのステージを、そしてボロフェスタを信頼している。そんな愛に溢れた時間があと少しで終わってしまう。曲ごとにどんどん長くなっていくアウトロのバンドセッションは、そんな気持ちの表れのようにも思える。

 

そして最新作『いいね!』から“春の風”、“コンビニのコーヒー”と立て続けに披露。ギターを初めて手にした日に戻ったような純粋さ溢れるこの作品には、まだ先行きがまったく見えなかったコロナ禍のはじまりに強く勇気づけられたものだが、ありふれた日常にこそ輝きを見出す歌は時代とともに生きてきたSSWだからこそ伝えられる説得力がある。そしていよいよ10分を超えた“セツナ”の迫真のセッションに、当時ダメ大学生だったという曽我部からボロフェスタに捧ぐ“若者たち”。何者かになれるという根拠のない確信を胸に青春を弄ぶ日々の情景は先輩から後輩へのメッセージにも感じられたが、間違いなく来年活動30周年を迎える彼ら自身にも向いていただろう。若く愚かしく、それゆえに素晴らしい青春をこれからも謳歌していこうと。

 

最後の最後、アンコールの“サマーソルジャー”であらわになるステンドグラス。天上の光景をバックに「愛し合うふたり はにかんで なんにも喋らず 見つめあう」と人間という営みの最も根源的な喜びを歌う姿。思い思いの表情でしみじみと感じ入る僕ら。なんて素晴らしい時間なんだろう。「それから先は…」にこれからの日々を過ごすささやかな決意を抱きながら、惜しみない拍手で僕らはサニーデイ・サービスを見送った。

6日間を通してさまざまな情景が描かれた『ボロフェスタ2021 〜20th anniversary〜』。エンドロールを見ながら僕はこの日遊びに来ていたANTENNA代表・堤が何気なく「みんないるからね」と言っていたのを思い出していた。さまざまな人たちと手を取り合い、時にはその手を離してしまうことがあったとしても新たな扉を開き続け、強く歩みを進めてきた20年。各日のエンディングで流れた京都のバンドたちの楽曲とクリープハイプの“イト”、そしてエンドロールの最後に流れたゆーきゃんの“風”も後ろで演奏するのは京都の盟友たち。そう、ここにはみんないるんだ。そんなことを感じていたからか、SPECIAL THANKSにクレジットされたANTENNAの文字はいつも以上に感慨深いものがあった。ジャンルも界隈も性別も思想も超えてどこにでも行ける。そしてまたここで待っていてくれる。ボロフェスタはそんなフェスティバルだ。

 

今年のボロフェスタが、そして今日この日がベストだったと僕は惜しげもなく言いたい。コロナ禍でできないことはいくらでもあったが、厳しい状況の中でどうこの日を最高のものにするか。そんな想いを持って試行錯誤する出演者やスタッフ、そしてそれを感じながら全力で楽しむ僕ら参加者の協奏がなによりも美しいのだ。だがこの先もきっとある。その日を目指し日々を戦い、来年もここで会おう。

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