black midi live in japan @CLUB METRO ライブレポート
終演後の雰囲気がすべてを物語っていた。いつまでも鳴り止まない拍手と歓声、これで終わりだと薄々気付きながらもその場を動かないオーディエンス。スタッフの合図がなければこの時間はいつまで続いたことだろう。サウスロンドンの超新星black midi(ブラック・ミディ)のパフォーマンスは、想像を遥かに凌駕する満足感と「まだまだどこまでもいけるぞ」という清々しい渇望感を僕らにもたらした。
衝撃のデビュー作『Schlagenheim』を下敷きとして、恐ろしいほどにストイックに音源を踏襲する彼らのライブパフォーマンス。思っていたより音圧は抑えめだが、むしろ音の分離がはっきりとしていて1×4の構築美がはっきりと感じられる。それでいて「出てきた音に従うまでだ!」といった、既存の譜面を破り捨てるような潔さも感じられて、ライブだからこその鋭く勢いのあるパフォーマンスに僕らは初っ端から釘付けになる。
音源という型があるからこそ、型破りの即興が痛快に決まるのだろう。はじめこそ手探りな感じがあったものの、ライブが展開するにつれじわじわと逸脱していく4人のプレイ。例えば、マット・ケルヴィン(Vo / Gt)が曲中何度もスタッフを呼んでセッティングをするような場面でもバンドはまったく止まることなく、むしろこれを好機とばかりに曲を拡張していき、マットの帰還でカチッと合った瞬間はゾワっとする衝撃が身体を突き抜ける。“953” の最終盤では、減速するにつれ盛り上がりを増すフロアの異様な熱気。音で意思疎通する彼らのインプロヴィゼーションに刺激されるように、パンクのようにガンガン縦ノリする人やシューゲイズのようにゆらゆら揺れる人など、様々なノリが混在するフロア。なんと懐の深いバンドサウンドだろうか。
そしてその懐の深さは、ここにいる人の数だけ浮かんできそうな様々な形容が頭を舞う変幻自在のサウンドにもあらわれている。例えば、ジョーディ・グリープ(Vo / Gt)のヴォーカルワークひとつとっても、平沢進のような高らかさとMorrisseyのような叙情的な歌心を持った“Western”、と思ったらLittle Simzのラップのような高速スキャットを叩き込む“Bmbmbm”など枚挙にいとまがない。バンド全体に話を広げるなら指数関数的にその数は増える。これほど「◯◯のようだ」が浮かんでは沈み、混ざり合っていく音楽体験があるだろうか。しかし、彼らはそのどれでもあって、どれでもなく、「THIS IS black midi」とでもいうべきサウンドにフロアは思い思いの熱狂を身体で表現していた。
ノンMCで1時間弱、アンコールもない駆け抜けるような衝撃。終始ひりつくような緊張感の中でも、冒頭の意外すぎるSE(Green Dayの “Basket Case”)や時折コミカルな仕草も織り交ぜて柔軟に進める試合巧者ぶりは、本当に20歳前後なのかと疑うほど老獪だ。インスピレーションあふれる表現で自身の楽曲をリアルタイムで再構築し、CLUB METROを創造的な喜びで満たしたblack midiは、次にどこへ向かうのか。想像もつかないような新境地を携えて帰ってくる日が楽しみで仕方がない。
photo by 古溪一道(Kazumichi Kokei)
※写真は東京UNIT公演の様子。
black midi
ジョーディ・グリープ(Vo / Gt)、キャメロン・ピクトン(Ba / Vo)、マット・ケルヴィン(Vo / Gt)とモーガン・シンプソン(Dr)の4人で構成され、メンバー全員が19歳か20歳で、アデルやエイミー・ワインハウス、キング・クルールらを輩出した英名門校ブリット・スクールで出会ったという。ゲリラライブを敢行するなど精力的にライブ活動を行い、常に変化するセットリストやその演奏力とオリジナリティー溢れる楽曲から、噂が噂を呼び早くも完売ライブを連発。結成されてからわずか約1年であることから未だに謎が多いが、今最もアツい新生バンドという評判を早々に確立した。最近では、米SXSWや北米各地でライブを行い、SXSWでは最も目立ったアクトとしてその名が挙がったほか、初のNYでの2公演も完売させた。米音楽メディアPitchforkは“不気味なほど正確でストイック”と評し絶賛している。
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はろーべいべーあべです。フェスティバルとクラブカルチャーとウイスキーで日々をやり過ごしてます。fujirockers.orgでも活動中。興味本位でふらふらしてるんでどっかで乾杯しましょ。hitoshiabe329@gmail.com
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