INTERVIEW

街なか音楽祭『結いのおと』の継続で生まれた、地域と人の結節点 – 「結いプロジェクト」野口純一さんインタビュー

MUSIC 2023.03.31 Written By 柴田 真希

人口5万人の小規模ながら、重要無形文化財の「結城紬」で有名な歴史ある街、茨城県結城市。古い建築や寺社仏閣、和菓子屋も多い街並みは金沢や京都にも近い情緒があり、街を歩いていると、文化の息遣いを感じる。そんな結城市のコンサートホールや寺社仏閣・ 酒蔵・ 結城紬の産地問屋などがライブステージとして使用される街なか音楽祭『結いのおと』が、今年10回目の開催を迎える。神楽殿で結城紬を着たアーティストがライブをしていたり、古民家で人気店が出店していたり、過去開催時の動画を見ると、他のどのフェスでも見たことがない独自の華やかさにすぐに引き込まれる。

 

出演者はSTUTSやSPECIAL OTHERS、水曜日のカンパネラやTHA BLUE HERB、七尾旅人などジャンルの幅も広く豪華なラインナップとなっているが、このフェスの発起人は、音楽関係者でもなく、アーティストでもない。結城商工会議所の職員で、地域を盛り上げる有志団体としてスタートした「結いプロジェクト」の、野口純一さんだ。

 

結いプロジェクトの活動は「茨城県結城市で沢山の人と人が出会い、交われるよう活動」と掲げられている。結城の伝統工芸である結城紬は、糸を取るところから機を織るまで、全部で30以上の工程を地域の人たちの分業で作っているという。その工程と同じく、「結い市」や「結いプロジェクト」にも含まれる「結」の文字は、相互扶助、つまりみんなで一つのことを成し遂げるという意味を持っている。

 

結城の街には『結いのおと』に出店したことをきっかけとして結城にオープンしたパン屋やジェラート屋、サンドウィッチ屋など魅力的なお店が集まり、東京から2時間かかっても訪れたい場所となっていた。元呉服屋をリノベーションした結いプロジェクトが運営するコワーキングスペース〈yuinowa〉に伺い、10回目の開催という節目に『結いのおと』を通して実現してきたことを振り返ってもらった。ここから、音楽フェスを通して育まれる「地域と人の繋がり」の可能性について考えたい。

野口純一

 

結城商工会議所 経営指導員・結いプロジェクト発起人・NPO法人日本ミュージック協会理事
2007年アパレル企業を退社し、結城商工会議所に入所。
2010年結いプロジェクトを立ち上げ、『結い市』や『結いのおと』などを展開している。
2021年一般社団法人MUSUBITOを建築家の飯野氏と設立し、夏には結城の街なかにゲストハウスを開業予定。

街なか音楽祭『結いのおと-TEN』

YUIPROJECT©

 

2014年からはじまり『結いのおと』は、今回で10回(年)目を迎える。
特徴は、歴史と文化が息づく街、茨城県結城市を舞台にした回遊型の音楽祭で、街なかのコンサートホールや地域固有の文化資源である寺社仏閣・酒蔵・結城紬の産地問屋などの空間をライブステージに活用するところ。より体験価値の高い印象的なライブサーキット音楽フェスとして回を重ねる毎に話題となっている。
地域の人々の生活、価値観、文化を感じる街でのライブステージは唯一無二。

 

特設サイト:https://www.yuinote.jp/

写真:加藤春日

地域の人を巻き込んで、まずは外の人を受け入れられる土壌を作る

──

商工会議所というと、街おこしに従事するイメージですが、普段はどんな活動をされているのでしょうか?

野口純一(以下、野口)

「地域の総合経済団体」ということで、街のお店の人たちの経営のサポートをしています。街が良くならないと経済も良くならないので、いわゆる街づくりをすることになりますね。以前はアパレル勤務で商品管理などロジスティックな部門にいたんです。たくさんの店舗と繋がってコミュニケーションを取っていたので、要望を聞いて応えるのが得意でした。それで今も、地域の御用聞きをしています。地方都市はどこもそうだと思うのですが、結城もシャッター街がすごく増えていて。昔の商店街は世襲制で、親御さんが自分の子どもに家業を継がせて成り立っていたじゃないですか。でも今はチェーン店に商圏を持って行かれてしまって、そうすると自分の世代で商売は終わり、子どもたちは外に勤めに出ているので、世代交代ができない。

──

それが街の課題だったんですね。

野口

そうなんです。話を聞くと、どうやら高齢となって店を閉めて、そこに住んでいるんですね。だから他人に貸すハードルが高く、シャッター街になってしまう。そんな課題を解決するために、2010年に建築家やグラフィックデザイナーなどクリエイティブな人材を集めて「結いプロジェクト」という運営グループを立ち上げ、出店者を市内外からお誘いして結城の見世蔵で行うものづくりの祭典『結い市』を始めました。まずは数日だけでも、お店や作家さんに貸してみることから始めようと。出店者さんも僕らと一緒に、イベント当日の2日間だけではなく、事前に街歩きをして家主さんとコミュニケーションを重ねました。

YUIPROJECT©
──

見世蔵とは?

野口

江戸期からの商店建築様式のひとつで、店舗・住居を兼ねた建築物です。結城は見世蔵が関東でも3番目に多いのが特徴で、せっかくなので生かしたいと思いました。他に工夫した点として、街をゾーニングして、酒蔵があるところは酒造エリア、結城紬の産地問屋があるところは問屋街エリア、神社が起点となっているエリア、街中エリアなどに分けました。そのテーマに併せて、作家さんもグループ分けをしています。例えばアパレル系は問屋街エリア、発酵食品を扱う飲食店は酒造エリア、といった風ですね。

──

面白いですね!手応えはいかがでしたか。

野口

10年ほど続けてきて徐々に「自分の店も使って欲しい」という方々が増えてきました。マルシェ当日まで、出店者や地域のスタッフなど、みんなで掃除とかをして準備した建物をお客さんが褒めてくれるわけですよ。お店として使われなくなり、活気を失っていたところに、また普段からこんな活気が生まれたらいいな、と未来が見えるんですね。

──

百聞は一見に如かずと言いますが、その光景を目撃することで、場所を貸すことに前向きになってきたんですね。

野口

そうなんです。そうやって、自分が結城で活動することによって街の許容範囲を徐々に柔らかくしたいと思っています。僕自身、実は就職するまでは結城には縁がないよそ者だったこと、またアパレルで働いていた視点も生かして、結城を盛り上げていきたいと考えていたんです。もう耕されてない畑を、自分のイベントで人を呼んで、地域の人を巻き込んで展開していくことで、耕す感覚です。そうすると、これまで縁のなかった人を受け入れられる土壌になってくるんですよね。「菌の人」と自分では言っているんですけど、環境を変えていくことで街の代謝に寄与する活動をしています。続けていたら、一緒にできる仲間も増えてきました。事業自体に魅力があると、自然と人が集まってくるんですよね。

──

お客さんも、スタッフも集まってきますね。

野口

そう。だから自分はまず「やりたいこと」だということを大前提にして、人を巻き込みながら、実現していきます。そして集まった仲間自体が実行力になって、さらに魅力が生まれ、出店したい人やお客さんが集まることで資金が生まれる。そうすると、継続的なイベントになるんです。こういった活動をしていると、役所から仕事を依頼されることもあります。でも資金ありきで魅力もやる意義も見出してないままスタートすると、仲間も増えないし、しっかりした結果も出せない事業になってしまうんです。だから『結い市』を十年続けた中で、改めて自分がやる意義や、イベント自体の魅力について考えました。そこで生まれた新しいアイデアが、街なかでのサーキットフェス『結いのおと』です。

結城のユニークベニューを生かした音楽フェスの開催へ

──

これまではマルシェイベントだったところで、音楽フェスを思いついたのはどんなきっかけがあったのでしょうか。

野口

普段からライブに行くのが好きなんですけど、『SYNCHRONICITY』などのサーキットイベントに遊びに行ったとき、これを結城に持っていったら面白いんじゃないかと思ったんです。結城ならではの象徴的な会場をステージにして、それをライブサーキット型にしたら、街も見てもらえる。それに、元々自分が余暇にお金を払って行くような価値のあるイベントを、自分で作ってみたいという憧れもありました。『結い市』では1ステージでしたが、jizuneや田我流さん、toconoma、青葉市子さんやKan Sanoさん、色んなミュージシャンが神楽殿のステージに上がってくれていたので、そういうネットワークも生かしたら、「実現できるかもしれない!」と思って。

──

普段ライブ会場ではない場所でライブをする、それも複数会場となると非常にハードルが高そうですが……。

野口

神社もお寺もそれぞれ由緒ある場所なので理解が必要ですが、『結い市』の実績から、地域の方が協力してくれる土壌がありました。資金面は大変でしたが、初回はあまり現実的に考えられてなかった(笑)。奥順という結城紬の産地問屋さんも会場として貸してくださるなど、「野口がやるなら応援するよ!」って言ってくれる地域の方も多かったのがありがたかったです。

YUIPROJECT©
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──

街中での開催となると、騒音問題は大変そうですよね。

野口

公共空間を使うので、実際にお叱りを受けたこともありました。でも情報共有をとにかく徹底して、どうにか開催させてもらっています。常に自分がどこにいて、どこに行ったら連絡が取れるか、音楽はいつ鳴って、いつ止むのか、どんな人が出るのか、ということですね。何もわからないまま音だけ鳴っていると、ストレスじゃないですか。前に苦情の電話があった人には、1年後、開催前に電話をしたんです。当然「誰?」ってびっくりされるんですけど、「去年お叱りを受けたものなんですけど、今年もやらせてもらいたいので、一度ご招待させてください。」とお話ししたら、最初は戸惑ってましたが、数日して「今度お友達と行かせてもらうから」と連絡をくれたんです。それでなんと当日来てくれて、お花まで持ってきてくれたんですよ。

──

それは嬉しいですね。

野口

去年苦情の電話をしてきた人が、次の年に応援してくれたことは、一つの自信に繋がりました。これは「街なか音楽祭」ならではの悩みなんですけど、そこから得るものも大きくて。SPECIAL OTHERSが出演した時に「俺らがこれまでやってきた音楽人生の中で、一番ステージと建物が近い」って言ってたんです。でも、それを「いい街だ」と捉えてくれたんですね。あらゆる場所に出演してきた人が、街の懐の深さに触れて「また絶対来たい」と言ってくれる、そういうことが嬉しいです。

──

会場は毎年少しずつ変わっていますが、どのように選ばれているのでしょうか。

野口

神社仏閣は多いので、2年くらいの周期で変えています。今回は昨年に引き続き〈孝顕寺〉さんです。あとは昨年会場だった酒蔵〈結城酒造〉が、実は昨年の『結いのおと』直後、火事で全焼してしまって……。だから今回は復興支援も込めた意味で、あえて会場にして大きいステージを作る予定です。また、今年は初めて〈結城市民文化センターアクロス〉も会場となっています。最近は、向こうから「使ってほしい」と言ってくれることもあります。僕たちの活動を見て、その成果も含めてシェアしたいという期待を多少なりとも持ってくれているのだと思います。

──

会場をローテーションしていくことで、地域の関係者も増えていきますよね。実際に開催してみて、お客さんの反応はいかがでしたか。

野口

初回はあまりチケットは売れませんでした。でも2回目からは、初回実施時の素材をプロモーションに活用できたからか、完売しました。初回に来てくれた、情報に敏感な方々が発信してくれた影響も大きいです。

──

参加した方が発信したくなるような要素は、どういった点だったのでしょうか?

野口

お寺や結城紬の産地問屋、酒蔵など、普段とは違う場所でライブを体感できる経験は魅力だったと思います。結城の地域資源を活用したユニークベニューなので、『結いのおと』ならではの体験で貴重です。普段デパートの人が来て商談するようなお座席が舞台で、お庭が客席なんてこと、珍しいじゃないですか。また、何組かのアーティストには結城紬を着てもらうのも特徴です。

YUIPROJECT©
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──

結城紬を着てライブをするなんて、アーティストにとっても貴重な機会ですよね。

野口

そうなんです。着物って、野暮ったく見えてしまうこともありますし、帯も締めなくてはいけないので、当然アーティストさんは不安だと思うんです。でも『結いのおと』はスタッフの中に、着物の産地問屋で働く人がいたり、機織りの伝統工芸に従事して地場産業を築いている方もいるので、安心して着ていただけます。それで誰が呼んだか、「着物枠」がいつの間にかできていて(笑)。

──

今年は誰が着物枠なのか、楽しみですね!

野口

前回はTENDREとサポートメンバー、詩羽さん(水曜日のカンパネラ)も着てくれました。過去にはキリンジの堀込さんが着てくれたり、鎮座DOPENESSさん、環ROYさんとU-zhaanさん、坂本美雨さんとかも着てくれました。結城の文化資源を使ってパフォーマンスをしてくれることは、街の人への新しい価値観の提案にもなります。ステージを見た街の人たちが今まで気づかなかった結城の魅力に気づくこともあるので、アーティストさんに結城の風土や文化的な要素、発信する面白さやチャレンジ精神を理解してもらって、一緒にステージを作り上げられる関係性は嬉しいです。

──

普段とは違った環境でのステージは、アーティストにとってもチャレンジですよね。

野口

整備されたホールとは違って、どうしても工夫しないといけない部分が出てくるんですよね。だからVJを入れたり、結城のルーツ的な部分に繋がる演出をしてくれたり、それぞれがどう見せるかを考えてくれている感じがします。結城に一軒、街の人に愛されている〈ピザーラ〉があるんですけど、SANABAGUN.のメンバーが、ライブ中にそこのピザを配り始めたこともありました(笑)。その時のMCが印象的で。「お前ら、街とか汚すんじゃないよ、次も俺ら呼んでもらいたいし、街ってすごく大事だから」という話をしてくれて、感動しました。

──

『結いのおと』の意志が伝わっている感じですよね。ただ楽しませるだけではなく、一緒に伝えてくれているというか。

野口

街に対してのリスペクトが生まれた結果だと思うんです。『結いのおと』はケータリングがないんですけど、だからこそアーティストが街に馴染んでくれる。STUTSさんがここで和気藹々としてたりとか、すぐそこにJJJさんがいたりとか、モエカさん(羊文学)がマーケットを楽しんでいて、お客さんがざわざわしたりしています(笑)。日常にアーティストさんが溶け込んでくれて、「結城っていい街だね」と言ってもらえると嬉しいですね。大きな資本が入っているようなイベントではないので、コンセプトや、思考的な部分に共感を持ってくれる出演者さんが非常に多いんです。

──

アーティストの行動を通して、お客さんにも結城の風土が伝わりますね。

野口

そういう人たちと結城の街の潜在的な魅力を、新しい価値観で読み替えていけたら嬉しいです。『結いのおと』のお客さんって、自分から街との関わりや結城の特徴的な部分を探す能動的な人が多いので、我々がちょっとしたエッセンスを置いておくとしっかり拾ってくれて、反応が返ってくる。結城は人口5万人の本当に小さい街ですけど、『結いのおと』の開催が「クリエイティブで面白い街だよね」という印象に繋がっていると嬉しいですね。

──

そういったお客さんが集まってくるのは、魅力的なアーティストのブッキング出店ありきですよね。錚々たるラインナップを、どうやって口説いているんだろう?と興味があります。

野口

最初から呼びたいアーティストを呼べたわけではなくて、『結い市』での繋がりから紹介してもらった方も多いです。よく高校の時に、他校の憧れの先輩を、同じ中学出身の後輩が紹介してくれたのと一緒です(笑)。「対バンしてましたよね、紹介してもらえませんか?」と。そうするとありがたいことに、その方が『結いのおと』の魅力を伝えてくれて、縁が繋がったりします。ブッキングも出店も、僕がしています。出店は全国の店舗が集まるように、公募制にはしてないです。

──

セレクトショップ時代の経験が生きている感じがしますね。候補のお店は、どのように探すんでしょうか?

野口

10年やる中での繋がりもありますが、たとえば今回出店してくれる〈押競満寿〉という台湾料理は、『New Acoustic Camp』という別のフェスに出店していた時に食べて、美味しかったのでスカウトしました。フェスには資料を持って行って、いつでもプレゼンできるようにしています。

──

フェスに資料を持って行く人、なかなかいないと思います(笑)。熱心なお客さんとしての視点が、そのままイベントの企画に生かされているんですね。

野口

自分も他のスタッフも、お客さんの視点を持っていると思います。自分がわくわくすることを大前提に設計をしているので、それで集まってくれたお客さんも、自然と同じ価値観を持っている気がします。魅力的なイベントをやっていると、関わる人が増えて、いろんな人が関わると、それだけ予想外のことが起こります。それが『結いのおと』が10年続いている、サステナブルな理由ですね。

──

変化していると飽きないですもんね。

野口

そうなんです。それにメンバーもそれぞれ、参加するメリットを感じてくれているんですよね。例えばグラフィックデザインで関わってくれているスタッフは『結いのおと』を通して話題になり、デザインの仕事が増えてきました。ライフスタイルや色んな環境の変化があっても、こうした成果や価値を共有できているから繋がっていられるのだと思います。もちろん大きなコンテンツなのでみんな大変なことも多いんですが、得られるものも非常に大きいですね。終わると何かが繋がって、また次にやりたいことや改善したいことが出てきます。やりたいことに共感してくれる色んな人を巻き込んで、続けられています。

──

街の人を巻き込む点では、「新・ゆでまんじゅうPJ」という、結城のご当地和菓子「ゆでまんじゅう」の商品開発プロジェクトが気になっていました。ゆでまんじゅう、先ほど立ち寄った和菓子屋さんでも売っていて。

野口

結城のご当地饅頭です。昔疫病が流行った時に、お殿様が民衆に振舞ったと言われていて、夏祭りの時期に家庭で作ってその年の無病息災を祈願していたらしいです。皮がしっとりしていて、美味しいんですよね。結城は神社仏閣が多い分、お仕えものの関係なのか、和菓子屋さんは廃業せずに残っているんですよ。ゆで饅頭の食べ歩きマップが作れるくらいたくさんあって、結いプロジェクトのスタッフ間でも、それぞれ推しのお店があるくらい(笑)。「新・ゆでまんじゅうPJ」に協力してくださる〈真盛堂〉さんは、僕の推しです。本当に美味しいんです!

ごちそうさまでした!

街を乗りこなせる人材の誘致へ

──

『結い市』は10年で一区切りして、『結いのおと』も今年10年を迎えますが、今後の展開はどういったことを考えられていますか?

野口

『結い市』と『結いのおと』は、結城を知ってもらう“ハレ”の機会なんです。今度は、ここ〈yuinowa〉を“ケ”の場として、日常でチャレンジする人と場所を繋げていきたいと思っています。ここも元々呉服屋さんで10年間空き家でしたが、イベントを通して大家さんと徐々に信頼関係を築いて、借りれるようになった場所なんですね。

──

外から中も見えて、開放的ですね。カフェもあって入りやすいです。

野口

商工会議所よりも気軽に来て、お茶しながら「こういうことやりたいんです」と話すことができる場所になっています。1階にはチャレンジキッチンがあって、来週には『結いのおと』にも出店するキューバサンドの〈SPECIAL BOARS〉さんが出店予定です。2階にはヨガ教室などを開けるスペースがあります。『結いのおと』で遊びに来て結城に興味を持った人が、実際にこの場所で出店のチャレンジができるわけです。ここを開いてから関係人口が圧倒的に増えました。ここ数年で結城にお店を出店している人たちは、全部『結い市』『結いのおと』に出店してくれた人たちなんですよ。

──

元々結城にいなかった方が、イベントを通して結城にお店を出すことになったんですか?

野口

そうなんです。〈ぱんや ムムス(mums)〉さんも元々は出店者で、サンドイッチ〈SANDO × SANDO〉さんも、ジェラート屋〈FARM`S GELATO&PASTERY〉さんもそうです。『結いのおと』が機会の創出の場になっていて、終わった後に「自分も何かやりたい」という人が増えてきているんです。そういう人が実際にチャレンジできる、土壌ができてきたと思います。行政も、『結いのおと』で連れてきた人たちが結城でお店を始める時に、補助金として改修費用や家賃補助を負担してくれています。

──

すごいですね!!〈ぱんや ムムス(mums)〉さんに先ほど立ち寄りましたが、どのパンも個性的で丁寧に作られた味、遠くからでも通いたくなるなと思いました。

野口

結城は都心のように人がたくさんいるわけではないので、単純なビジネスモデルでは難しいんです。だから街を乗りこなして、わざわざ結城を訪れたいと思ってもらえるようなビジネスを生み出せる、求心力のある人たちが根付いてくれると嬉しいです。今は『むすぶ・しごと・LAB.』という企画を通して、街を乗りこなす人材「事業創造人材」の誘致にも力を入れています。2022年には京都から来た20代の二組が脱サラして結城で起業し〈KURA SAUNA〉というサウナを作りました。

──

「KURA」は「蔵」でしょうか?

野口

そうです。結城の見世蔵には、必ず袖蔵という倉庫の蔵がついているんですね。ここ〈yuinowa〉も元々、呉服屋さんの蔵だったから、袖蔵がついていて、その場所にオープンしました。今2年目ですが、大盛況で予約がいっぱいです。『結いのおと』に出てくれているMASSAN×BASHIRYさんのBASHIRYさんがサウナーなので、彼の別ユニットbohemianvoodooで書き下ろしてくれた”Laid back with You”という曲をプロモーションビデオに使っています。出演しているのは『結いのおと』のお客さんです(笑)。フェスを通してネットワークができて、一つの事業ができるようになった成功例ですね。この動画は『結いのおと』で夜の部が始まる前の余興の時間に披露して、みんなに見てもらいました。

──

その場所に、一緒に面白がってくれる人がいることも、すごく大きいですよね。

野口

そうなんです。これからはこういった機会をもっと作るため、ゲストハウスを作っています。結城と関わりを深めてもらうには、滞在してもらうことが重要なんですよね。結城にはビジネスホテルしかなくて、せっかく『結いのおと』でお客さんが街の文化体験を満喫した後、泊まる場所が味気ないという意見がずっとありました。今回縁があって引き継いでもらえる場所があったので、ここからすぐの場所に作ることになりました。今年の『結いのおと』での宿泊はまだ難しいですが、お披露目したいなと思っています。

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