REVIEW
最強のふたり / しんぎんおーるおぶみー
THE 抱きしめるズ
MUSIC 2023.09.06 Written By 柴田 真希

友達を想って、友達と作った、友達を歌った3曲

4ピースロックンロールバンド、THE 抱きしめるズを聴いたことがあるかい?『最強のふたり / しんぎんおーるおぶみー』の両A面シングルで、タイトル曲に加えて“友達”が収録された3曲入り。このサブスク時代に、配信では聴くことができない。*紙のジャケットの両面に、贅沢にあしらわれたイラストと写真。紙一枚の歌詞カード。そのこだわりが魅力的ではないか。音楽を手にできるって、嬉しいな。

 

*2023年11月17日よりサブスク配信開始。

〈新宿レッドクロス〉の店長を務め、バンドからの信頼も厚い篠崎大河(Vo / Gt)がフロントマンのTHE 抱きしめるズ。結成は2007年、タワーレコードのインディーズチャートで2位を記録したこともあり、活動歴は決して短くはない。しかしメンバーの脱退や加入を繰り返し、さらに活動休止も経て現体制での1stアルバム『せかんどふぁーすと』をリリースしたのは2022年だ。結成当初はギターでソングライターだった篠崎大河がマイクを取った、1枚目のアルバムでもあった。

Apple Musicはこちら

筆者が先月初めてTHE 抱きしめるズのライブを見たとき、自信が漲るライブに一瞬で心が掴まれた。だからこそMCでバンドがこれまで順風満帆ではなく苦労していた経緯を聞いて、とても驚いた。だって演奏とパフォーマンス、どこを取っても魅力に溢れていたのだから。

 

観客の視線を一点に集める篠崎大河のスウィートな声とキャラクター。井上大輔(Gt / Cho)のメロディアスなロックンロールギター、そしてシャープでエモーショナルなキモツ(Dr / Cho)のドラムに、サポートメンバーでありながら存在感のある唸るベースはえらめぐみ。そのステージの完成度の高さは完全無敵と言わずしてなんと言えばいいのだろう。きっと、長いバンド旅の中で出会った最高の仲間とだから作ることができる所業なのだと納得した。そうと分かれば、ここに収録された3曲が、仲間や友達について歌っていることは必然だ。

 

タイトル曲“最強のふたり”は篠崎大河が愛して止まないTHE HIGH-LOWSが歌詞に出てくるが、連想するのはそこばかりではない。少し切ない歌い方は志村正彦(フジファブリック)と通じるところがあり、間奏のギターフレーズからはどうしたってASIAN KUNG-FU GENERATIONの“ソラニン”を想起する。そこからメンバーが次々とバンドを離れていった中でTHE 抱きしめるズを継続させることを選んだ、篠崎の悲しみが垣間見えた。しかし後半にかけて徐々に加速するドラムが自暴自棄を通り越したパワーを帯びている。ヒロトとマーシーのような関係に憧れた。でもそんな関係性を作れる相方は見つからなかった。今まで数多く経験してきた別れもこれからの未来に向けて自分をエンパワーすることに繋げ、吹っ切れたような全能感で1曲を終える。

 

続いてもう一つのタイトル曲“しんぎんおーるおぶみー”は「自分のことを歌う」という意味ではあるが、歌詞を見ると「君」のために歌っている。君のために歌うことが、自分を歌うことを意味する理由は、3曲目に収録された“友達”を聴いて初めて腑に落ちる。「もしも君がくじけたら / そばにいるのだ」という歌詞は、どこかで聞き覚えがあると思ったら、小学校の頃、合唱曲“Believe”で何度も歌ったフレーズに近しい。

 

きっとこの3曲を書いた時の篠崎は、これまで以上に友達への愛情を感じる機会が多かったのだろう。友達への想いイコール、自分のことであるし、もはや篠崎は友達への想いだけでできていると言ってもいい。だから篠崎は友達に感謝し続け、友達に愛され、友達と音楽を鳴らし続けていることをただ一つ選んでいるのだろう。

 

8月13日に〈新宿レッドクロス〉で行われた『最強のふたり / しんぎんおーるおぶみー』のレコ発ライブには、本作のレコーディングとミックス、マスタリングを担当した夏目創太のバンド・リハビリたちが出演し、ジャケットのイラストを描いたサバシスターのなち(Vo)も遊びに来て、ジャケットの写真も撮った田村優子がライブを撮影。観客にはこれまで対バンしてきたバンドマンや、レッドクロス店長としての篠崎を慕う人、長年のファンだろう人までたくさんの人たちが愛を持ち寄っていた。

 

そんな人たちの存在によって生まれたとも言える『最強のふたり / しんぎんおーるおぶみー』に収録された3曲は、初期衝動で感動を生み出す力技では決してない。きっと熱量や勢いを人に確実に届ける丁寧さを、長いキャリアの中で培ってきたのだろう。例えて言うなら、それまで水を火で熱していたところから、今では水にお湯を混ぜて徐々に温めて、観客と同じ温度を共有してから伝えようとする繊細さ。相手に合わせて伝える優しさと熱量を持ち合わせたステージを見れば、誰もが絆されてしまうのも無理はない。友達と本気で向き合ってきた篠崎が自身で導き出した、紛れもない篠崎自身にとっての友達論。それを体現しているのが、現在のTHE 抱きしめるズなのだ。

最強のふたり / しんぎんおーるおぶみー

 

アーティスト:THE 抱きしめるズ

仕様:CD

価格:¥1,000

発売:2023年8月13日

販売:ライブ会場 / 通販

 

収録曲

1.最強のふたり

2.しんぎんおーるおぶみー

3.友達

 

配信リンク

最強のふたり:https://linkco.re/6QQrTqAM

しんぎんおーるおぶみー:https://linkco.re/MSgnRTpU

WRITER

RECENT POST

REPORT
10年経って辿り着いた“パラダイス” – 黒沼英之ワンマンライブ『YEARS』レポート
COLUMN
【2024年3月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
REVIEW
黒沼英之「Selfish」- 息苦しい時は、ただ環境が変わるのを待つだけでいいんだよ
COLUMN
【2024年3月】今、東京のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2024年2月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2024年2月】今、東京のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
INTERVIEW
ただ笑顔でいてほしい。黒沼英之が休止中の10年間で再認識した、作った曲を発表することの意味
COLUMN
【2024年1月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2024年1月】今、東京のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2023年12月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
REVIEW
omeme tenten『Now & Then / ブラックホールなう』 – …
COLUMN
【2023年12月】今、東京のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2023年11月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2023年11月】今、東京のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
INTERVIEW
和製ストロークスから前人未到の新機軸「シティロック」へ進化した、Kamisadoインタビュー
REPORT
あそびは学び! 14回目の開催・みんなであそぶフェス 『ONE MUSIC CAMP』2日目レポート
REPORT
大自然の中で音楽とコミュニケーションを! 14回目の開催・みんなであそぶフェス 『ONE MUSIC…
INTERVIEW
【前編】わんぱくカルチャー・コレクティブ集団・少年キッズボウイとは?1stアルバムリリース記念で全員…
INTERVIEW
【後編】わんぱくカルチャー・コレクティブ集団・少年キッズボウイとは?1stアルバムリリース記念で全員…
COLUMN
【2023年10月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2023年10月】今、東京のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2023年9月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2023年9月】今、東京のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
REVIEW
既踏峰『ぼくら / 青い影』- 天使に連れて行かれた先のサイケデリア
REVIEW
ハナカタマサキ『時計のひとりごと』 – ホームビデオのように思い出を刻む、ハナカタ流・愛…
COLUMN
【2023年8月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2023年8月】今、東京のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
INTERVIEW
映画が「作る人」をもう一踏ん張りさせてくれる -〈日田リベルテ〉原さんが映画館をやる理由
COLUMN
【2023年7月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
これはもはやバンドではない! 新時代のわんぱくカルチャー・コレクティブ集団 少年キッズボウイの元へ全…
COLUMN
【2023年6月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2023年5月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
REPORT
10年間変化し続けてきた、場所と音の特別な関係 – 街なか音楽祭『結いのおと-TEN-』…
REPORT
フェスでの出会いが、日常を豊かにする – 街なか音楽祭『結いのおと-TEN-』Day1-
REVIEW
元気がないときは、お腹いっぱい食べるしかない – かりんちょ落書き『レストラン』
COLUMN
【2023年4月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
INTERVIEW
街なか音楽祭『結いのおと』の継続で生まれた、地域と人の結節点 – 「結いプロジェクト」野…
COLUMN
【2023年3月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
REVIEW
少年キッズボウイ“最終兵器ディスコ” - 感情の昂りは、戦争ではなく踊るエネルギーに
REVIEW
周辺住民『祝福を見上げて』 – 自分の心模様を映してくれる、弾き語り作品集
COLUMN
【2023年2月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
REVIEW
井上杜和『日々浪漫(DAILY ROMANCE)』 – 古典手法を味方に現代の風俗を織り込んだ、自由…
REVIEW
鈴木青『始まりはいつもこんなポップス』 – 灰ではなく、炭になる燃え方を
COLUMN
【2023年1月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2022年12月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2022年11月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
INTERVIEW
一人きりでの宅録を突き詰めた先で開いた、オーケストラの彩り – 高知在住SSW・ハナカタマサキ『Sm…
COLUMN
【2022年10月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2022年9月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
INTERVIEW
照らされるんじゃない、輝くんだ – 加速する「BRIGHT PUNK」バンド MINAM…
COLUMN
【2022年8月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
REVIEW
50 pears『Wave Biograph』 – バンドは、小さな波が集合して生み出す大きな波
COLUMN
【2022年7月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
REVIEW
くぐり『形』 – 解放を志向し、現世を超越した存在となる
COLUMN
【2022年6月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
REVIEW
雨が降って虹が出るまで、ミュージカル映画のような23分間 – ソウルベイベーズ『Soulbabies…
COLUMN
【2022年5月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
INTERVIEW
肩書きを外した“人と人”の交流 ーー『逆光』須藤蓮監督が見つけた、地に足ついた宣伝の原理
REVIEW
かりんちょ落書き“海が満ちる” – 灯台の光のように、目的地を照らす歌
COLUMN
【2022年4月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
REVIEW
qoomol “You are so Claire” -『ミッド・サマー』に通じるアンビバレンスな芸…
COLUMN
【2022年3月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
REPORT
みらんとLIGHTERSーー“猫”映画の公開記念イベント・ライブレポート
INTERVIEW
【第一回】音楽のラッピングーーグラフィックデザイナー・TYD™️(豊田由生)
INTERVIEW
京都の〈外〉から来て5年、確信とエラーで進む空間現代の現在地
INTERVIEW
アーティストが集まる理由ーー代表・番下さんに聞いた、bud musicが描くフラットな関係性
INTERVIEW
鈴木青が放つ、目の前の影を柔らげる光の歌
REVIEW
crap clap – ノスタルジー
COLUMN
今、どんな風が吹いている?|テーマで読み解く現代の歌詞
COLUMN
「あなたはブサイクだから」の呪い|魔法の言葉と呪いの言葉

LATEST POSTS

REPORT
地域のライブハウス、フェスはどうやって生き残る?アジア各国での取り組みーTRENDY TAIPEIパネルディスカッション

2024年9月9日(日)、台北ミュージックセンターで開催された東・東南アジアのイノベーション×音楽の…

REPORT
台北都市型フェス“Jam Jam Asia”はアジア音楽の“今”を見るショーケース―TRENDY TAIPEI 2024前編

2024年9月8日(土)、9日(日)に都市型音楽イベント『JAM JAM ASIA』が台北ミュージッ…

REVIEW
今度のコンセプトは教祖!?音楽だけに収まりきらないロックンロール・クリエイティビティーゆうやけしはす『ロックンロール教団』

ロックンロールに依存し、ロックンロールに魂を売り、ロックンロールに開眼する。彼の活動を追っていると、…

COLUMN
【2024年9月】今、京都のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「現在の京都のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」「今」の京都の音楽シー…

COLUMN
【2024年9月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「大阪のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」「今」の京都の音楽シーンを追…