REPORT

みらんとLIGHTERSーー“猫”映画の公開記念イベント・ライブレポート

MUSIC 2022.03.03 Written By 柴田 真希

映画『愛なのに』『猫は逃げた』(2022年)の公開記念イベントが2022年2月17日に〈新代田FEVER〉で開催された。この2作は『街の上で』(2019年)『愛がなんだ』(2018年)などを監督し、青年期の男女の言葉にならない関係性を描くのに卓越した今泉力哉と、Vシネマ、ピンク映画を中心に活躍、『性の劇薬』(2020年)『アルプススタンドのはしの方』(2020年)など近年は劇場用映画も手掛ける城定秀夫が、お互いの脚本でR15映画を撮る新企画「L/R15(えるあーるじゅうご)」の1作目と2作目。第一弾の『愛なのに』は今泉脚本・城定監督の編成、反対に第二弾の『猫は逃げた』では城定脚本・今泉監督の編成で、イベントのメインビジュアルなっている猫・オセロは両作ともに登場する。

公開記念イベントということで監督のトークショーや映画の先行上映会かと思いきや、それぞれの主題歌を手掛けたアーティスト・みらんとLIGHTERSのツーマンライブという何とも思い切ったイベントだった。みらんは日常と地続きの楽曲を歌うシンガーソングライター、一方でLIGHTERSは英詞でメロディアスなロックを鳴らすバンドと音楽のスタイルは異なるが、赤いセーターのみらんと、ブロンドの2人組・LIGHTERSはどこかアメリカのハイスクールのクラスメイトのようで、同じ企画の作品に携わったアーティスト同士ということで特別な一体感のある日となった。

「どうやら朝まであなたといたいの」映画『愛なのに』が引き出したみらんの粋な一面

イベントは先日デビューアルバム『Ducky』のリリースを発表したばかりのみらんが、前作『モモイロペリカンと遊んだ日』収録の“瞬間”を披露して始まった。「完璧な興味の持ち方で惹かれ合う2人が今 / 誰の目も気に留めないままで手を繋ぎ街を歩けば」と物語のように始まる歌詞は映画の公開記念イベントにぴったりで、会場は暗くなった映画館さながらこれから過ごす数時間への期待に包まれる。

この日のライブが初披露の新曲“手紙の言葉”は、映画の脚本を読んで作られたもう一曲の主題歌候補だったという。「見惚れた月影そこに立ってみて/ どうやら朝まであなたといたいの」という率直な恋心が歌われた曲で、映画の色っぽさがみらんの詩に新たな風を吹かせたようだ。詞の情緒とみらんの軽やかに伸びる爽やかな歌声がちょうどいいバランスを取っていた。

みらんが主題歌を書き下ろしたのは2月25日(金)から〈新宿武蔵野館〉〈出町座〉他で上映される映画『愛なのに』。監督・城定秀夫 × 脚本・今泉⼒哉の組み合わせで、女子高生が憧れる古本屋の店主、店主の憧れの⼥性とその夫など、恋心が交差するラブコメディだという。観客が待ち構える空気を茶目っ気混じりに焦らし、主題歌“低い飛行機”は映画のエンドロールのようにライブの最後で披露された。直接伝えられない恋心を風に乗せて届けようとするように笑顔で伸び伸びと歌う姿は、この楽曲をプロデュースした曽我部恵一の歌う姿にも重なる。「名前も付けられないまま 撫でられる猫には」と猫が出てくる映画の内容を想像させる描写もあり、まだ公開されていない映画に興味を持つきっかけとして充分すぎた。

 

日常を撮って映画にする今泉監督×日常を映画にするLIGHTERS

2組目は3月18日(金)に公開の映画『猫は逃げた』主題歌を担当したLIGHTERSがサポートドラムを迎えた3ピース編成で登場。ライブはお馴染みの“Little me”“could be”と架空の映画のサントラをイメージして作られたアルバム『swim in the milk』の楽曲から始まる。

映画のイベントだから尚更意識したのかもしれないが、こうして聴くと、LIGHTERSの曲にはどれもストーリーがある。“Holiday”は好きな人との朝をイメージさせられる詞だし、“ Date at IKEA”からは映画『(500)日のサマー』(2009年)を想起する。それぞれの曲がワンシーンとして展開することで、ライブ全体で一本の映画を観ているよう。

 

詞にストーリー性があるだけではない。隙間のあるサウンドはきっと映画で流れても、物語に干渉しすぎずちょうどよい距離感で馴染むだろう。映画『猫は逃げた』は監督・今泉力哉 × 脚本・城定秀夫の編成で、飼い猫のカンタをどちらが引き取るかで揉める離婚直前の夫婦と、それぞれの恋人の物語だという。現時点では映画の予告編のみで聴くことができる主題歌“don’t cry”は、LIGHTERSらしい切ないメロディーと跳ねるリズムが共存する、心が波打つ毎日に軽やかに寄り添ってくれそうな楽曲で、その楽曲の二面性に通じて演奏している3人は楽しくも慎重に見えた。無意識に、聴いている自分も映画の中にいるような気分になっていた。

 

ナガサワルミ(Vo / Gt)にとって「映画は音楽を作る上でも生活の一部としても大きな存在」で、今泉監督の映画は「派手な結末ではなくても、ふと思い出すようなシーンがあるところが好き」とMCで語っていた。“don’t cry”は今泉監督が映画で大事にしていることと、LIGHTERSの音楽が大切にしている世界が交差するように書き下ろされた楽曲だという。

日常を撮って映画にする監督がLIGHTERSを抜擢したのは、きっと日常を映画にするような音楽を作っているLIGHTERSの感覚に共感したからではないだろうか。

映画との関係の測り方により再確認できた、アーティストの個性

映画は時々「スタンディング上映」なるものが開催されていて『アメリカン・ユートピア』は立って観たら最高だったとの噂も聞く。その反対で、この日は映画のイベントらしく全員着席。普段立って観るライブを座ってじっくり観ることができた。それぞれのストーリー性も相まって名画座で二本立ての映画を観たような特別な体験である。

映画と音楽双方にとって出会いを広げる映画の企画は、城定監督『アルプススタンドのはしの方』(2020年)× 主題歌・the peggies、井上康平監督『ドンテンタウン』(2019年)×音楽・菅原慎一(シャムキャッツ)なども手掛ける配給会社、株式会社スポッテッドプロダクションズが仕掛けている。

 

みらん・LIGHTERS両者ともこれまで物語のように曲を作っていたとはいえ、観たことのない映画の脚本を読んで作曲するのは初めてだろう。みらんは「完璧な興味の持ち方で惹かれ合う」(“瞬間”)など、これまでも恋を表現する言葉の幅の広さが魅力だったが、新たな制作方法を前に“手紙の言葉”では映画でストーリが展開する鍵となる「手紙」、“低い飛行機”では劇中に登場する猫の鳴き声と重なる「雷」など、これまでと異なるモチーフ選びの方法をものにして表現の幅広さに拍車をかけたようだ。LIGHTERSは前作『swim in the milk』では各曲が1シーン、アルバム全体で1本の映画のサウンドトラックをイメージしたような表現だったが、今回の主題歌“don’t cry”は1曲だけで激しさと落ち着きを併せ持って展開するようで、ラブコメ映画1本の空気感をそのままこの曲だけで表現したように思える。それぞれの映画との関係の測り方はアーティストの個性を伸長し、再確認させてくれた。

 

みらんはこれを機にデビューアルバムを作り、LIGHTERSは映画の主題歌を手掛けるという夢を叶え、一歩ずつ新たな道に進んだよう。下北沢の隣、何かが始まる期待に満ちた街・新代田。街の空気も相まって、アンコールもなく終了したこの日は派手ではなくともある時ふと思い出しそうな、今泉監督の映画を観た後と通じる心地よい余韻があった。

写真:一色華

Information

映画『愛なのに』

2022年2月25日(金)公開

監督 城定秀夫/脚本 今泉⼒哉・城定秀夫

出演 瀬⼾康史 さとうほなみ 河合優実 他

公式サイト
予告編

映画『猫は逃げた』


2022年3⽉18⽇(⾦)公開
監督 今泉⼒哉
脚本 城定秀夫、今泉⼒哉

出演 ⼭本奈⾐瑠 毎熊克哉 ⼿島実優 井之脇海
公式サイト
予告編

みらん

 

 

『Ducky』

発売日:2022年3月16日(水)

フォーマット:CD / 配信

レーベル:felicity / P-VINE

先行配信:あたたかい光

 

“Ducky” Release Tour きみがあたらしいキスをしたから

 

東京公演

会場:〈新代田FEVER〉

日時:2022年4月8日(金) OPEN:18:30 / START:19:00

出演:みらん(band set) / ゆうらん船

 

大阪公演

会場:〈CONPASS〉

日時:2022年4月15日(金) OPEN:18:30 / START:19:00

出演:みらん(band set) / Guest Artist(TBA)

 

HP/Twitter

LIGHTERS

IMAIKE GO NOW 2022
2022年3月26日(土)、 3月27日(日)
会場:〈名古屋 今池エリア〉

 

SYNCHRONICITY’22
2022年4月2日(土)、4月3日(日) ※4月3日(日)に出演
会場:Spotify O-EAST, Spotify O-WEST Spotify O-nest, duo MUSIC EXCHANGE, clubasia

 

InstagramTwitter

WRITER

RECENT POST

COLUMN
【2022年11月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
INTERVIEW
一人きりでの宅録を突き詰めた先で開いた、オーケストラの彩り – 高知在住SSW・ハナカタマサキ『Sm…
COLUMN
【2022年10月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2022年9月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
INTERVIEW
照らされるんじゃない、輝くんだ – 加速する「BRIGHT PUNK」バンド MINAM…
COLUMN
【2022年8月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
REVIEW
50 pears『Wave Biograph』 – バンドは、小さな波が集合して生み出す大きな波
COLUMN
【2022年7月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
REVIEW
くぐり『形』 – 解放を志向し、現世を超越した存在となる
COLUMN
【2022年6月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
REVIEW
雨が降って虹が出るまで、ミュージカル映画のような23分間 – ソウルベイベーズ『Soulbabies…
COLUMN
【2022年5月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
INTERVIEW
肩書きを外した“人と人”の交流 ーー『逆光』須藤蓮監督が見つけた、地に足ついた宣伝の原理
REVIEW
かりんちょ落書き“海が満ちる” – 灯台の光のように、目的地を照らす歌
COLUMN
【2022年4月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
REVIEW
qoomol “You are so Claire” -『ミッド・サマー』に通じるアンビバレンスな芸…
COLUMN
【2022年3月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
INTERVIEW
【第一回】音楽のラッピングーーグラフィックデザイナー・TYD™️(豊田由生)
INTERVIEW
京都の〈外〉から来て5年、確信とエラーで進む空間現代の現在地
INTERVIEW
アーティストが集まる理由ーー代表・番下さんに聞いた、bud musicが描くフラットな関係性
INTERVIEW
鈴木青が放つ、目の前の影を柔らげる光の歌
REVIEW
crap clap – ノスタルジー
COLUMN
今、どんな風が吹いている?|テーマで読み解く現代の歌詞
COLUMN
「あなたはブサイクだから」の呪い|魔法の言葉と呪いの言葉

LATEST POSTS

COLUMN
【2022年11月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「大阪のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」「今」の京都の音楽シーンを追…

COLUMN
【2022年11月】今、京都のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「現在の京都のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」「今」の京都の音楽シー…

REPORT
ボロフェスタ2022 Day4(11/6)- クリープハイプ、リベンジ。過去2年を取り戻す気概の最終日

〈KBSホール〉を訪れるのは昨年の本イベント以来ちょうど1年ぶり。観客として、もはや秋の恒例行事とな…

REPORT
ボロフェスタ2022 Day3(11/5)-積み重ねが具現化した、“生き様”という名のライブ

今年開催された『ナノボロ2022』から、『ボロフェスタ』では、ウクライナへの支援を積極的に行っている…

REPORT
ボロフェスタ2022 Day2(11/4 KBS+METRO)- 変わらず全力が似合う21年目の第一歩

今年のボロフェスタは3年ぶりに実現できたことがたくさんあった。〈KBSホール〉の動線ど真ん中のロビー…