REVIEW
始まりはいつもこんなポップス
鈴木青
MUSIC 2023.01.30 Written By 柴田 真希

灰ではなく、炭になる燃え方を 

等身大の歌詞と力強い歌で聴いた人の背中を押す、東京を拠点に活動するシンガーソングライターの鈴木青。2021年10月にEP『EVERYDAY IS A NEW DAY』をリリースしてから、ライブ活動は継続しながらもリリースとしては沈黙していたが、1年あまりを経て2022年12月25日にデジタルリリースされたEP『始まりはいつもこんなポップス』には、既にライブで定番の“はじまりのうた”“美しい名前”に加え、2019年のEP『極東最前線』に収録されている“ローリン”がバンドサウンドで再録されている。メンバーは前作から引き続きMINAMISから髙坂研多(Gt)と篠原佑太(Dr)、そしてThe 7 Inch Universeからウノコウダイ(Ba)を迎えた。

 

前作では自身が敬愛する友人でもあるMINAMISから3人をサポートに迎え、レコ発イベントの対バンには高校の時から8年間共演を夢見た爆弾ジョニーとステージを共にした。2021年にANTENNAでインタビューした時はそのレコ発イベント直前で、本人も興奮に満ちた語り口だったことが記憶に新しい。念願叶ったライブが終わり、ともすれば燃え尽きかねない余韻を乗り越えてリリースされた今作の1曲目“はじまりのうた”は、そんな状況を歌っているように聞こえる。

「夜は明けてしまって 休まった気もなくて

でも弱音は吐けない コーヒーを一口」“はじまりのうた”

どんな華やかな非日常を過ごしても、日常は戻ってくる。私自身、仕事がすごく好きだけれど、それでも年末年始の長期休暇で旅行を楽しんだ後で会社に行くのは少し億劫だった。でも働き始めてみると、目指していたことを思い出してじきにやる気が蘇生された。非日常から日常に揺り戻されるとき、前に進む軸足になるのは、核として持っている信念だけだろう。その軸足の存在を示すように、鈴木のギターが刻むリズムで楽曲が始まり、一曲を貫く。鈴木はインタビューで「ライブとか音源に触れてくれた人の目の前の世界が少しでも変わるような曲をこれからも作りたい」と語っていた通り、リリースを続けた。その行動自体が、引用の歌詞で歌われていることに思える。「燃え尽き症候群」というが、中には日々の味気ない生活に戻れなくなってしまう人も多い。そんな中で日常に戻ることは、非日常が華やかであればあるほどエネルギーが要り、強い信念を必要とする。鈴木青は「灰」にはならなかった。しかも本作のEPを聴いて感じたのは、より温度の高い「炭」となって燃焼を続けているということだ。

 

つまり、単に以前いた場所に戻ったわけではない。M2“美しい名前”は、真正面からのラブソングで、鈴木の新境地を開拓している。これまでのリリースではラブソングはなく、どこか心の底を歌で曝け出していない印象があった。しかしこの歌ではおそらく片想いの状態、つまりまだ成就していないからこその理想に近い恋心が率直に歌われている。「君と二人おかしなダンスをしよう」という歌詞はnever young beach“明るい未来”を連想させ、間奏後には「シーソーゲーム」と鈴木が影響を受けてきたというMr.Childrenの要素も垣間見える。彼自身が影響を受けてきた作品のモンタージュが、彼自身の表現となっているのだ。これまでの鈴木にはなかった表現への挑戦だ。そして誰かを思う恋心が放つ甘さと、鈴木の声質のスウィートな部分は相性が良い。挑戦が明らかにした新たな魅力は、今後の楽曲でもさらに伸長してほしいところだ。

 

アコースティック音源だった“ローリン”は、冒頭のハーモニカがギターとなり、力強いバンドサウンドで蘇った。そして、これまではどこか自分の弱さを糧にしていたような彼の歌が、今作では随所から彼の強さとしてしなやかに、そして健やかに表出しているような気がしてならない。その前向きな変化こそが、これからの鈴木青の未来を示している。鈴木青の燃焼は、聴いた私にも火を移してくれた。彼がまた進み始めることの表明となったこのEPは、前に進むことを諦めてしまいそうな厳しい社会で暮らす私たちが、また自分の足で立ち、前に進み続けるときの“杖”のような存在となりうるのだ。

Apple Musicはこちら

始まりはいつもこんなポップス

 

アーティスト:鈴木青

発売:2022年12月25日
フォーマット:デジタル

 

収録曲

1.はじまりのうた
2.美しい名前
3.ローリン

 

配信リンク:https://linkcloud.mu/ac3ff574

鈴木青

 

1996年4月22日生まれ。東京を拠点に活動する、フルスイングシンガーソングライター。

 

Webサイト:https://suzukijo.wixsite.com/mysite

Twitter:https://twitter.com/SUZUKI_JOU/

WRITER

RECENT POST

COLUMN
【2024年3月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
REVIEW
黒沼英之「Selfish」- 息苦しい時は、ただ環境が変わるのを待つだけでいいんだよ
COLUMN
【2024年3月】今、東京のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2024年2月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2024年2月】今、東京のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
INTERVIEW
ただ笑顔でいてほしい。黒沼英之が休止中の10年間で再認識した、作った曲を発表することの意味
COLUMN
【2024年1月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2024年1月】今、東京のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2023年12月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
REVIEW
omeme tenten『Now & Then / ブラックホールなう』 – …
COLUMN
【2023年12月】今、東京のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2023年11月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2023年11月】今、東京のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
INTERVIEW
和製ストロークスから前人未到の新機軸「シティロック」へ進化した、Kamisadoインタビュー
REPORT
あそびは学び! 14回目の開催・みんなであそぶフェス 『ONE MUSIC CAMP』2日目レポート
REPORT
大自然の中で音楽とコミュニケーションを! 14回目の開催・みんなであそぶフェス 『ONE MUSIC…
INTERVIEW
【前編】わんぱくカルチャー・コレクティブ集団・少年キッズボウイとは?1stアルバムリリース記念で全員…
INTERVIEW
【後編】わんぱくカルチャー・コレクティブ集団・少年キッズボウイとは?1stアルバムリリース記念で全員…
COLUMN
【2023年10月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2023年10月】今、東京のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2023年9月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2023年9月】今、東京のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
REVIEW
既踏峰『ぼくら / 青い影』- 天使に連れて行かれた先のサイケデリア
REVIEW
ハナカタマサキ『時計のひとりごと』 – ホームビデオのように思い出を刻む、ハナカタ流・愛…
REVIEW
THE 抱きしめるズ『最強のふたり / しんぎんおーるおぶみー』 – 友達を想って、友達…
COLUMN
【2023年8月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2023年8月】今、東京のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
INTERVIEW
映画が「作る人」をもう一踏ん張りさせてくれる -〈日田リベルテ〉原さんが映画館をやる理由
COLUMN
【2023年7月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
これはもはやバンドではない! 新時代のわんぱくカルチャー・コレクティブ集団 少年キッズボウイの元へ全…
COLUMN
【2023年6月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2023年5月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
REPORT
10年間変化し続けてきた、場所と音の特別な関係 – 街なか音楽祭『結いのおと-TEN-』…
REPORT
フェスでの出会いが、日常を豊かにする – 街なか音楽祭『結いのおと-TEN-』Day1-
REVIEW
元気がないときは、お腹いっぱい食べるしかない – かりんちょ落書き『レストラン』
COLUMN
【2023年4月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
INTERVIEW
街なか音楽祭『結いのおと』の継続で生まれた、地域と人の結節点 – 「結いプロジェクト」野…
COLUMN
【2023年3月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
REVIEW
少年キッズボウイ“最終兵器ディスコ” - 感情の昂りは、戦争ではなく踊るエネルギーに
REVIEW
周辺住民『祝福を見上げて』 – 自分の心模様を映してくれる、弾き語り作品集
COLUMN
【2023年2月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
REVIEW
井上杜和『日々浪漫(DAILY ROMANCE)』 – 古典手法を味方に現代の風俗を織り込んだ、自由…
COLUMN
【2023年1月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2022年12月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2022年11月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
INTERVIEW
一人きりでの宅録を突き詰めた先で開いた、オーケストラの彩り – 高知在住SSW・ハナカタマサキ『Sm…
COLUMN
【2022年10月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2022年9月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
INTERVIEW
照らされるんじゃない、輝くんだ – 加速する「BRIGHT PUNK」バンド MINAM…
COLUMN
【2022年8月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
REVIEW
50 pears『Wave Biograph』 – バンドは、小さな波が集合して生み出す大きな波
COLUMN
【2022年7月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
REVIEW
くぐり『形』 – 解放を志向し、現世を超越した存在となる
COLUMN
【2022年6月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
REVIEW
雨が降って虹が出るまで、ミュージカル映画のような23分間 – ソウルベイベーズ『Soulbabies…
COLUMN
【2022年5月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
INTERVIEW
肩書きを外した“人と人”の交流 ーー『逆光』須藤蓮監督が見つけた、地に足ついた宣伝の原理
REVIEW
かりんちょ落書き“海が満ちる” – 灯台の光のように、目的地を照らす歌
COLUMN
【2022年4月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
REVIEW
qoomol “You are so Claire” -『ミッド・サマー』に通じるアンビバレンスな芸…
COLUMN
【2022年3月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
REPORT
みらんとLIGHTERSーー“猫”映画の公開記念イベント・ライブレポート
INTERVIEW
【第一回】音楽のラッピングーーグラフィックデザイナー・TYD™️(豊田由生)
INTERVIEW
京都の〈外〉から来て5年、確信とエラーで進む空間現代の現在地
INTERVIEW
アーティストが集まる理由ーー代表・番下さんに聞いた、bud musicが描くフラットな関係性
INTERVIEW
鈴木青が放つ、目の前の影を柔らげる光の歌
REVIEW
crap clap – ノスタルジー
COLUMN
今、どんな風が吹いている?|テーマで読み解く現代の歌詞
COLUMN
「あなたはブサイクだから」の呪い|魔法の言葉と呪いの言葉

LATEST POSTS

COLUMN
【2024年4月】今、東京のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「東京のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」京都、大阪の音楽シーンを追っ…

COLUMN
【2024年4月】今、京都のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「現在の京都のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」「今」の京都の音楽シー…

REVIEW
「キテレツで王様になる」SuperBack『Pwave』のキュートなダンディズムに震撼せよ

2017年に結成、京都に現れた異形の二人組ニューウェーブ・ダンスバンドSuperBack。1st ア…

REPORT
台湾インディーバンド3組に聞く、オリジナリティの育み方『浮現祭 Emerge Fest 2024』レポート(後編)

2019年から台湾・台中市で開催され、今年5回目を迎えた『浮現祭 Emerge Fest』。本稿では…

REPORT
観音廟の真向かいで最先端のジャズを。音楽と台中の生活が肩を寄せ合う『浮現祭 Emerge Fest 2024』レポート(前編)

2019年から台湾・台中市で開催され、今年5回目を迎えた『浮現祭 Emerge Fest』。イベント…