大自然の中で音楽とコミュニケーションを! 14回目の開催・みんなであそぶフェス 『ONE MUSIC CAMP』初日レポート
音楽を自然の中で聴く。スマホが通じない山奥で、人と人の直接の交流だけを頼りに。それが兵庫県三田(さんだ)市で毎年開催され、今年14回目を迎えた関西随一のキャンプフェス『ONE MUSIC CAMP』だ。
main photo by Hiroshi Maeda
photo by Emii(1,2,3) / Sho Takamoto(4)
Rosalyn(タイ)からEmerald(東京)、京都の浪漫革命に幽体コミュニケーションズ。各地から音楽が三田の山奥に!
兵庫県三田市は、週末に家族で自然を楽しみに行くようなエリアだ。会場となっている〈三田アスレチック〉は、キャンプだけではなく、プールやハイキングも楽しめる場所で、元から場所自体に遊びがあるので、フェス装飾のようなものは決して派手ではなくとも、子どもも大人も楽しめる仕掛けが盛りだくさんの会場だ。このような会場で開催されるこのような会場で開催される開催されるプレミアムな野外フェスに、2023年8月26日(土)と8月27日(日)の2日間、初参加してきた。これは全力で遊びまくった26歳が見た、このフェスの一面の記録だ。
筆者が関東圏を飛び越えて三田のフェスに参加したのには訳がある。プールや卓球、モルックなどアクティビティが魅力的なこと、周りの評判はもちろん、決め手は地域を超えて集合した今年の出演者だ。初日はタイからRosalynが来日、京都で結成され今やフェス引っ張りだこの浪漫革命や幽体コミュニケーションズなど関西のバンドも揃い、トリはROTH BART BARON。二日目もYeYeやゆうらん船、台湾から我是汽車少女 I’mdifficult、jizueに踊ってばかりの国と、自然の中で聴きたいアーティストが揃っていた。
さて、JR三田駅から会場までのシャトルバスに乗ること30分、ここでライブが開催されるなんてまるで想像がつかない山奥に会場はあった。ライブステージは二つ。最初に見えてくるのが小さい方の「WONDER HIVE」ステージ。そして坂を登った先に見えるのが大きい方の「STAR FIELD」ステージ。
『ONE MUSIC CAMP』はなんとステージ間の移動は1〜2分でできる。タイムテーブルの被りもないので、全てのアーティストを無理なく見ることができるのも嬉しい。ただ、この日の最高気温は33度を超えており、例外なく暑い気温に無理は禁物。途中はステージを見ずにワークショップの参加などでクールダウンしながら楽しもう、と計画を立てる。
photo by Sho Takamoto(1) / Hiroshi Maeda(2,3)
最初のステージはタイ・バンコク発のサイケデリック・ネオソウルバンド・Rosalyn(ロザリン)が全員サングラスで登場!今回が初来日で、東京・名古屋・京都の三都市をツアーで回ってきた最終日だった。ゆったりとしたリズムが涼しさを生み出し、都会的なサウンドでありながら、サイケデリックな高音のコーラスが効いたギターは灼熱の三田の山とも相性が良い。“Yellow Line”のリフに身を任せると夜の中にいるみたいだ。最後の曲“Solitude Is Love”で浮遊するボーカルと勢いよく熱量を上げるセッションに身を任せると、涼しい風を感じた。こんな山奥で、タイのバンドを見ることができる。このフェスは音楽に本気だ!「こんなに暑いのに最後までここにいてくれてありがとう」という言葉の通り、集まる観客の期待値の高さも伺えた。
photo by Sho Takamoto
その期待、ここから2日間裏切られることはなかった。「STAR FIELD」ステージの1組目は、中野陽介を中心にソウル・ジャズもルーツに持つ東京のバンド・Emeraldがサポートメンバーも加えた総勢10人の大所帯で登場。アルバム『Pavlov City』(2017年)から“Holiday”で一気に盛り上げ、“ムーンライト”で小池隼人(Tp.)とADD(Sax)のホーン隊も加わり、天井のない野外にソウルフルな演奏が響き渡った。周囲に民家がほとんどない会場だからこそ、気持ちの良い音量が出せるのだろう。「過去と今をつなぐ思い出の街」を「思い出のフェス」と歌詞をアレンジしたのは、彼らが2019年にも出演しており、並ならぬ思い入れの中での再出演だったことが伺える。新旧織り交ぜながらEmeraldを贅沢に味わえるセットリストをたっぷり45分。「夜とか夏の終わりの曲が多いから、次はこのステージの夜に出れるように頑張ります!」一度や二度では終わらない、それがONE MUSIC CAMPだ。
photo by Shiho Aketagawa
さて、忘れてはいけないのが、フェスグルメ。カレーの匂いに誘われて歩くと、ステージ間の坂にキッチンカーを発見!大阪スパイスカレー界では周知の人気店〈Columbia8〉のカレーを堪能した。長い時間並ぶこともなく、食べたいタイミングでご飯が手に入るのはこの規模感のフェスだからこそで、嬉しいポイントと明記しておきたい。
photo by Michiru Ishibashi(1)/ Sho Takamoto(2,3)
photo by Michiru Ishibashi
少し涼しくなった「WONDER HIVE」には、京都の注目3人組バンド・幽体コミュニケーションズが山と空、そして人に囲まれて特別な空気を作り出していた。2022年のリリース以来大切に演奏し続けてきたシングル曲“ぱれいど”を1曲目に披露しながら、この日の気候とバンドをチューニングしているようだ。そのまま止まることなく、自然の空気と音、赤ちゃんが泣く声までを自身の演奏に取り込むように“幽体よ”をゆったりと奏でる。ステージからは三田の山が見える。音の隙間に音が自然の音が入り込み、溶け合っているのがとても自然。幽体コミュニケーションズの本領が発揮されるのは、山の中ではないのかと思わせた。続いて登場した、スモーキーな歌声で人気を一挙に集めている歌姫・さらさの歌声を後ろに認めながら、今日初めて訪れるエリアへ。
photo by Hiroshi Maeda
いつの間にか360度ステージに!この日のハイライトは切り株ステージのSummer Eye
ステージの間の小道から秘密基地へ向かうようにアーチを潜ると、そこにあるのが「RELAXIN’ CAMP」エリア。「キャンプ侍」を名乗るチームが、蚊取り線香ホルダーを作れるワークショップに、マシュマロを焚き火で温めて食べられる体験も展開中。筆者も蚊取り線香ホルダー作りを体験したが、30分以上かかる、予想以上の本格体験!自分の手を動かした体験は記憶に残る。楽しいワークショップを運営するスタッフは三田市に近い神戸市出身の、幼馴染同士で毎年このフェスに参加するチームだという。キャンプが趣味ということでこのエリアの担当となり、独自で考案したワークショップを提案して採用されたというエピソードは、DIYで作られているONE MUSIC CAMPならではだ。
photo by Hiroshi Maeda(1,2)/ Shiho Aketagawa(3)
後半戦の始まりは、このフェス常連のTENDOUJI!ステージを見るべく、親に肩車された子どもたちも多数、さすがは年齢関係なく愛されるバンドだ。アップテンポなキラーチューンの連続に夏休み気分を盛り上がった。
そして続いて暗くなった「WONDER HIVE」に登場したのは、夏目知幸のソロプロジェクト・Summer Eye。“求婚”“湾岸”と新しいアルバム『大吉』からの曲が続く中、「セットリストを組んだんですけど、なんかちょっと組んでたの違うなって思ってて、全然変えてもいいですか?」と夏目節が炸裂する。一人のステージならではの軽やかさだ。
ここでまさかの、アカペラで披露したのはSummer Eyeとしての1stシングル“人生”だ。自然の中で、Summer Eyeの声だけが響き渡る様子は素朴ですっと心に入ってきた。“甘橙”で変拍子の中踊るように観客を煽ったと思ったら、人気曲“失敗”と続く緩急ある選曲がチャーミング。テンションが上がってきたのか、観客の中を練り歩き、一つの細い切り株を見つけてその上に立ち上がった時には思わず「えっ」と声が上がる。Summer Eyeの手にかかれば、ステージは360度だ。
photo by Sho Takamoto
そこで披露したのは、これまで封印していたというカバー曲。しかしSummer Eyeだ、ただのカバーではない。フィッシュマンズの“BABY BLUE”をトラックインした、TWICEの“TT”。まさかの組み合わせに、Summer Eyeのそこ知れない魅力に釘付けになった。音楽の楽しみ方って自由だな。“大吉”に最後”失敗”をもう一度披露して、楽しみ尽くして去っていった。
Summer Eyeよりも楽しめているか?自分にそんな質問を課したまま、ラストスパートへ。「STAR FIELD」には大阪で結成され、今やジャンルを超えて存在感一つ飛び抜けているGEZANが登場。1曲目から全ての力を注ぎ込むように“DNA”を見せると、何かが始まったことを予感した来場者がどんどん集まってくる。三田の山からも自然の力を受け取り、お盆明けのこの時期に祭りが開催される意味に言及して最後に披露されたのは、この世を去った人にまた会えることを思って歌った“待夢”。遠くで雷が光っていたのは偶然ではないだろう。あぁ、音楽はコミュニケーションだ。
photo by Michiru Ishibashi
さて、ONE MUSIC CAMPにはプールがあることを忘れてはいけない。ABCテレビでも特集された電子工作グループ・ヅカデン(宝塚電子倶楽部)が彩り、いつの間にかナイトプールに様変わりしたPOOL AREAはまるで映画『アメリカン・スリープオーバー』のような雰囲気。夏休み最後の思い出を眺めながらステージに戻ると、「WONDER HIVE」初日のトリはDENIMSだ。さすがはミスターONE MUSIC CAMP、老若男女を一人の例外もなく笑顔にしていた。
photo by Hiroshi Maeda(1)/ Shiho Aketagawa(2)
用意されたアトラクションに乗るのではなく、それぞれの楽しみ方を自分で探す場所
この日の大トリは2015年、2019年にも出演したROTH BART BARONだった。第一弾の出演者として今年発表されてから、期待してきた人も多いだろう。そんな中で披露された1曲目はアルバム『HOWL』(2022年)から“HOWL”。出演する度にアップデートされているROTH BART BARONの今を三田の山に伝えるように叫ぶ。観客を引き込んだ後は、そのまま全員の息を合わせさせるようにアップテンポな“春の嵐”、そして“K i n g”でクラップも起こり、音楽とその場にいる全ての生き物で息を合わせていくようだった。
「復活したONEで演奏したかったんだよね。この曲一緒にやろうぜ」ということで始まったのは“極彩 | I G L (S)”。「君の物語を絶やすな 絶やすな」の繰り返しで、『ONE MUSIC CAMP』が謳っている「みんなであそぶフェス」の意味に気がついた。ここは遊園地ではない。用意されたアトラクションに乗るのではなく、散りばめられた仕掛けを見つけて、それぞれの楽しみ方を自分で探す場所だ。子どもの頃は、公園に行くだけでそこら中が遊具に思えて楽しかった。その気持ちは、大人になっても思い出すことができる。その気持ちはきっと日常を生き抜くのにも必要なことだ。今の時代に必要なのは、本気で「あそぶ」ことなのかもしれない。嘆くようなトランペットの音を聴きながら、そんな考えが巡った。
そして三船がマイクを持ってステージの下へ降り、光は見えても音は聴こえなかった雷に感謝を述べて、一緒に歌いましょう、と言うことで始まったのは“鳳と凰”。シンガロングで会場は一つになる。ホーンが鳴り響き、観客のクラップの中で三船の歌が響いた「まだ倒れてない 倒れてる暇はない 手に入らないものを手に入れたい その頂上の景色が見たいだけだ」という歌詞は、インディペンデントに始まり、今も資金上の大きな後ろ盾があるわけでもなく、ただ毎年好きで参加するお客さんや愛情を持ち寄っているアーティスト、スタッフたちによって継続している『ONE MUSIC CAMP』の現場に集まる全ての人に捧げるように聴こえた。兵庫県三田市の山奥でフェスをやるなんて、しかもこんなに豪華なアーティストを集めて開催するなんて尋常じゃない。でも挑戦した結果生まれた奇跡が目の前にある。きっと一日を通して、勇気の後ろ盾をもらったのは私だけではないだろう。
叫び声のアンコールが鳴り止まず、手拍子もしきりに早くなる。そんな期待に応えて再度登場した三船は、スタッフの赤ちゃんから借りたというトナカイのツノをつけて茶目っ気を見せる。「みんな明日もあるんだよな。じゃあ体力を残さない1曲にしよう」と悪びれて演奏したのは“電気の花嫁(Demian)”。「STAR FIELD」ステージの電気のような装飾にインスピレーションを得た選曲だろうか、全てがこのために用意されたようにモチベーションが結晶した、美しい時間だった。
photo by Hiroshi Maeda
さて、エピローグ的な時間。「RELAXIN’ CAMP」には、焚き火の前でアコースティックライブを楽しめるステージが出現し、KUSABANAが言わずとしれた名曲“カントリー・ロード”を観客とシンガロングして温かい空気を作り出していた。そしてライブステージの終わりがフェスの終わりであると言うのは間違いだ。この後、 昼間は来場者もてなし係だった大道芸人「チュゲ」によるファイヤーパフォーマンスが客席で繰り広げられた。子どもたちも、今夜だけは夜更かしを許されたのだろう、食い入るように見ている。さらに大人のモルック大会が白熱し、こちらは寝る前の良い運動になりそうだ。DJステージ「猫ディスコ」では深夜まで音が鳴り止まず、その後何時まで鳴り続けていたのかは知る由もなかった。明日の朝のヨガに備えて眠る。
photo by Michiru Ishibashi(1)/ Sho Takamoto(2,3,4)/ Itsumi Okayasu(5)
後編はこちら
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WRITER
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97年生まれ、みずがめ座。中央線・西荻窪→小田急線・成城学園前。ANTENNAのほかMusicmanなどで執筆。窓のないところによくいます。
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