REVIEW
Wave Biograph
50 pears
MUSIC 2022.08.02 Written By 柴田 真希

バンドは、小さな波が集合して生み出す大きな波

「波」と聞くと、始めに思い浮かぶのは海で砂浜に打ち付ける波だ。時に津波ともなり、人が及ばない程大きな力を持つこともある。他にも音波、電波、感情の波、など身の回りは「波」で溢れていることに気づく。2022年7月にリリースされた​​50 pearsの1stフルアルバム『Wave Biograph』は、そんな「波の一生」をテーマにしたコンセプトアルバムだという。

50 pearsは2017年に結成した、東京で活動する3人組インディーロックバンド。これまでにEP2枚、シングル2枚を順調に発表してきた。シューゲイザー、ノイズサウンドが際立っていた1st EP『floating』(2017年)、その要素を引き継ぎながらも歌詞がはっきり聴き取れるボーカルが印象的な2nd EP『recurring』(2018年)を経て、本作ではその混沌がより調和されており、聴き手の感情と摩擦を生まないプレーンな音が鳴っている。しかしただ聴きやすいだけではない。Naoto Kato(Vo / Gt)が本作の制作にあたり参考にした楽曲を公開しているプレイリスト「WB References」からも分かるように、そこにはフィッシュマンズや現代のUSインディー、アルゼンチンのモダン・フォルクローレまで幅広い音楽から影響を受けつつも、それらを一貫したテーマ「波の一生」の上に昇華するサウンド面の奥深さがある。

 

「繰り返す日々の中で ゆらゆら揺れるだけ」(“Ripple Mark”)
「行ったり来たりを繰り返して 寄せてはかえす波のように」(“Absent-Minded”)

波は、自然という人の力が及ばないものと、人が生み出すものという二つの性格を併せ持つ。

Shunsuke Gotoの気怠いギター、さりげないピアノがドリームポップ調で心地よい一曲M1.“Wave”では、自然の波の音をサンプリングしたものと、自分たちの制御下にある楽器の音色との相互作用も生み出そうとした。これはインプロヴィゼーションではないものの、その不確実性では近いものがある。環境音をベースにしたものとしてはM6.“Plantae”も風鈴のような音や波などを取り入れた、アンビエントなサウンドだ。初期のシューゲイザーに振り切った50 pearsを知っていたリスナーが驚くほどに安らかな、幅広い人に染み渡る心地のよい夢うつつな世界観だ。

 

波は、時に抗えない力を持っている。
その側面を音色で表現したのが、過去作に通じるダイナミズムを発揮したM4.“Ripple Mark”だ。地球が鼓動するようなドラムと太いベースに、サイケデリックに歪んだギターが何層にも重なり、「流れを受け入れろ」の繰り返しは、時代の波に逆らうことができない無力感を吐き出している。その無力感は透明なガラスやプラスチックが光の作用で褐色・緑色などに変色する現象をタイトルにしたM5“Solarization”でも受け継がれている。

 

そして「波」をそのまま曲名に冠したM7“Wave(Roll Back)”は示唆的なタイトルで、付随した「Roll Back」には「波が押し寄せる」に加え、「過ぎ去りし日を思い出させる」という意味がある。これを体現して、2nd EP『recurring』にも収録されていた“映画”の再録を、続くM8に持ってきているのは粋な流れだ。ここではGalileo Galileiのような青春を感じさせる瑞々しい音像と、ノスタルジーを味方につけている歌詞に詩人の手腕が垣間見える。その懐かしさに、音楽はある時期の記憶を連れてくることがあるということを思い知らされる。

ここまで、自然が生み出したものと人から放たれたものを組み合わせて表現した本作の「波性」に注目してきた。しかし一つ忘れないでおきたいのは、「自然と人工」という単純な二項対立では語れないということだ。人が生み出す音は自然の波ほどでなくとも完璧に制御することは難しく、不確実性を持っている。自分の波であっても環境の影響を受けるし、ましてや他者が作る波に干渉はできても操ることはできない。

 

そんな小さな波がいくつも集まると、途端に大きな波となる。波の性質を持つ各々が互いに干渉し合って一つの大きなサウンドの波を生み出す、バンドという形。そう思ってジャケットを見ると、動いているように錯覚する3つの幾何学模様の反復は、メンバーそれぞれを抽象化したようにも取れる。機械で確実な音を作り出せる時代に、あえてバンドという形を取ることを選ぶ。50 pearsは決まった形で無機質に存在することとは距離を置き、バンドが関係性の中で変化しながら存在することに意識的なのだ。人は地球の一部として存在して、常に周囲に波動を起こしている。『Wave Biograph』で掲げた「波の一生」というテーマは、地球上で音楽を生み出す意味に自覚的な、50 pearsというバンドの在り方そのものを体現していると言えるだろう。

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Wave Biograph

 

 

発売:2022年6月29日
フォーマット:CD / デジタル 

 

収録曲

1. Wave
2. Anonymous
3. Intersection
4. Ripple Mark
5. Solarization
6. Plantae
7. Wave (Roll Back)
8. 映画
9. Absent-Minded

 

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50 pears(フィフティペアーズ)

 

Naoto Kato(Vo / Gt)Shunsuke Goto(Gt / Cho)Shun Miura(Dr)

 

東京で活動する3人組インディーロックバンド。
2017年3月に大学のサークルにて結成後、同年5月にsound cloudにて公開した楽曲『白いフレア』がTsuruta氏(17歳とベルリンの壁)や夏bot氏(For Tracy Hyde)の目に留まり注目を浴びる。また同年シューゲイザーの楽曲を中心とした1st EP『floating』を発売し好評を博す。
さらに2018年にはサイケデリックロックやインディーロックに接近した2nd EP『recurring』を発売し、リードトラックの“映画”はJ-WAVEのSONAR MUSICにて紹介される。
2020年には深層心理をテーマにしたシングル『Absent-Minded』をリリース。また2021年12月に2ndシングル『Intersection』をリリースし、2022年6月に1st Album『Wave Biograph』を発売する。
Deerhunter、Stereolab、Crumb等に影響を受けた「低体温でストレンジな空気感」をテーマに、新たな音の世界を開拓している。

 

Twitter:https://twitter.com/50_pears
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