REVIEW
最終兵器ディスコ
少年キッズボウイ
MUSIC 2023.03.28 Written By 柴田 真希

感情の昂りは、戦争ではなく踊るエネルギーに

知ってから数日、繰り返し聴いていたら全部歌えるようになってしまった。立て続けに音が重なってくるテンションの高いトランペットと、キャッチーな歌詞。東京を拠点に活動する8人組ブラスロックバンド・少年キッズボウイの新曲“最終兵器ディスコ”は、とにかく楽しく踊れる。だが、ただ楽しいだけではない。過去のアニメや映画、先人の楽曲をサンプリングしながら巧みに構築された、したたかな反戦ソングというのがその正体だ。

2020年に結成された少年キッズボウイは、こーしくん(Vo)が生み出す楽曲を今回から加入した服部(Ba)も含めた8人で演奏する。男女ボーカルの重なりとYouTubeライブやTwitterにアップされる動画からも感じられるメンバーの親しさが楽曲の高揚感に繋がっており、現代のバンドならバレーボウイズやフレンズ、少し前だとTOPSにも近しさを感じる。元ネタがプレイリストで公開されていたり、「楽曲のコミカライズ」としてオリジナルの漫画をアップしたり、TikTokで自分たちを曝け出すなど、伝えるための方法を選ばない全身表現者という点は、愛はズボーンを思い出させる。Webサイトには影響を受けたアーティストも掲載されており、こーしくんは山本精一やBlankey Jet City、「たま」などを挙げているが、楽曲を聴けば聴くほど、音楽だけではなく、映像作品に強い影響を受けているのではないかという考えが浮かぶ。

 

印象的なサビのメロディーは、アニメ『ちびまる子ちゃん』のテーマソング“おどるポンポコリン”でも引用されている、Redbone(レッドボーン)の“Come and Get Your Love”の参照だろう。この楽曲、映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(2014年)のオープニングで使用されていたことが記憶に新しく、宇宙戦争の舞台設定は映画と楽曲の共通点となっている。そして一番感情の昂りを生み出している箇所は、最後のサビ前のトランペットのフレーズに違いない。これはアニメ『カウボーイ・ビバップ』(1998年)の主題歌・シートベルツ“Tank!”からの引用である。シートベルツは、菅野よう子がプロデュースする架空のバンド。『カウボーイ・ビバップ』は菅野がサウンドトラックを手掛け、賞金稼ぎが火星を舞台に活躍するストーリーと相まって音楽が強烈に印象に残る作品だ。オープニング曲のフレーズを引用することで、これからアニメが始まる時の興奮を思い出させることに成功している。映像に関する楽曲をサンプリングし、その映像の世界観も楽曲に持ち込む手法は、こーしくんの得意とするところなのだろう。

 

“最終兵器ディスコ”のコミカライズには、宇宙 vs 地球の戦争を、愛が止めるまでのストーリーが描かれている。少年キッズボウイは、音楽で反戦を訴えたRCサクセションの忌野清志郎へ捧げるように、冒頭で「壊れかけのトランジスタラジオ」と歌う。「オール・ユー・ニード・イズ・ラブ / ウォー・イズ・オーバー」とJohn Lennon(ジョン・レノン)が歌った言葉を、今なお少年キッズボウイが自分たちの歌で叫ぶ。いつの時代になっても戦争は絶えず、その度に愛の重要さを歌う人がいる。終盤に向けてNEWSの“weeeek”さながら繰り返される転調によって徐々に上がるボルテージが、その重要さを象徴しているようだ。

 

「Disco,Disco,Last Weapon Disco..」

 

1975年、ベトナム戦争が終わり、空前のディスコブームが訪れた。人種も国境も超え、人々が音楽に熱狂できる場所。当時と今は悲しくも重なるところがある。“最終兵器ディスコ”が鳴り止まなくなった頃には、きっと愛に救われた世界が広がっている。大袈裟かもしれないが、そう思わせてくれるような、強烈なエネルギーを持った一曲と言えるだろう。

最終兵器ディスコ

 

アーティスト:少年キッズボウイ

発売:2023年3月15日
フォーマット:デジタル

配信リンク:https://shonenkidsboy.lnk.to/saishuheiki-disco_paps

少年キッズボウイ

 

Webサイト:https://shonenkidsboy.wixsite.com/website

Twitter:https://twitter.com/shonenkidsboy

WRITER

RECENT POST

COLUMN
【2024年3月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
REVIEW
黒沼英之「Selfish」- 息苦しい時は、ただ環境が変わるのを待つだけでいいんだよ
COLUMN
【2024年3月】今、東京のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2024年2月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2024年2月】今、東京のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
INTERVIEW
ただ笑顔でいてほしい。黒沼英之が休止中の10年間で再認識した、作った曲を発表することの意味
COLUMN
【2024年1月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2024年1月】今、東京のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2023年12月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
REVIEW
omeme tenten『Now & Then / ブラックホールなう』 – …
COLUMN
【2023年12月】今、東京のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2023年11月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2023年11月】今、東京のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
INTERVIEW
和製ストロークスから前人未到の新機軸「シティロック」へ進化した、Kamisadoインタビュー
REPORT
あそびは学び! 14回目の開催・みんなであそぶフェス 『ONE MUSIC CAMP』2日目レポート
REPORT
大自然の中で音楽とコミュニケーションを! 14回目の開催・みんなであそぶフェス 『ONE MUSIC…
INTERVIEW
【前編】わんぱくカルチャー・コレクティブ集団・少年キッズボウイとは?1stアルバムリリース記念で全員…
INTERVIEW
【後編】わんぱくカルチャー・コレクティブ集団・少年キッズボウイとは?1stアルバムリリース記念で全員…
COLUMN
【2023年10月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2023年10月】今、東京のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2023年9月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2023年9月】今、東京のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
REVIEW
既踏峰『ぼくら / 青い影』- 天使に連れて行かれた先のサイケデリア
REVIEW
ハナカタマサキ『時計のひとりごと』 – ホームビデオのように思い出を刻む、ハナカタ流・愛…
REVIEW
THE 抱きしめるズ『最強のふたり / しんぎんおーるおぶみー』 – 友達を想って、友達…
COLUMN
【2023年8月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2023年8月】今、東京のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
INTERVIEW
映画が「作る人」をもう一踏ん張りさせてくれる -〈日田リベルテ〉原さんが映画館をやる理由
COLUMN
【2023年7月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
これはもはやバンドではない! 新時代のわんぱくカルチャー・コレクティブ集団 少年キッズボウイの元へ全…
COLUMN
【2023年6月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2023年5月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
REPORT
10年間変化し続けてきた、場所と音の特別な関係 – 街なか音楽祭『結いのおと-TEN-』…
REPORT
フェスでの出会いが、日常を豊かにする – 街なか音楽祭『結いのおと-TEN-』Day1-
REVIEW
元気がないときは、お腹いっぱい食べるしかない – かりんちょ落書き『レストラン』
COLUMN
【2023年4月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
INTERVIEW
街なか音楽祭『結いのおと』の継続で生まれた、地域と人の結節点 – 「結いプロジェクト」野…
COLUMN
【2023年3月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
REVIEW
周辺住民『祝福を見上げて』 – 自分の心模様を映してくれる、弾き語り作品集
COLUMN
【2023年2月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
REVIEW
井上杜和『日々浪漫(DAILY ROMANCE)』 – 古典手法を味方に現代の風俗を織り込んだ、自由…
REVIEW
鈴木青『始まりはいつもこんなポップス』 – 灰ではなく、炭になる燃え方を
COLUMN
【2023年1月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2022年12月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2022年11月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
INTERVIEW
一人きりでの宅録を突き詰めた先で開いた、オーケストラの彩り – 高知在住SSW・ハナカタマサキ『Sm…
COLUMN
【2022年10月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2022年9月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
INTERVIEW
照らされるんじゃない、輝くんだ – 加速する「BRIGHT PUNK」バンド MINAM…
COLUMN
【2022年8月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
REVIEW
50 pears『Wave Biograph』 – バンドは、小さな波が集合して生み出す大きな波
COLUMN
【2022年7月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
REVIEW
くぐり『形』 – 解放を志向し、現世を超越した存在となる
COLUMN
【2022年6月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
REVIEW
雨が降って虹が出るまで、ミュージカル映画のような23分間 – ソウルベイベーズ『Soulbabies…
COLUMN
【2022年5月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
INTERVIEW
肩書きを外した“人と人”の交流 ーー『逆光』須藤蓮監督が見つけた、地に足ついた宣伝の原理
REVIEW
かりんちょ落書き“海が満ちる” – 灯台の光のように、目的地を照らす歌
COLUMN
【2022年4月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
REVIEW
qoomol “You are so Claire” -『ミッド・サマー』に通じるアンビバレンスな芸…
COLUMN
【2022年3月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
REPORT
みらんとLIGHTERSーー“猫”映画の公開記念イベント・ライブレポート
INTERVIEW
【第一回】音楽のラッピングーーグラフィックデザイナー・TYD™️(豊田由生)
INTERVIEW
京都の〈外〉から来て5年、確信とエラーで進む空間現代の現在地
INTERVIEW
アーティストが集まる理由ーー代表・番下さんに聞いた、bud musicが描くフラットな関係性
INTERVIEW
鈴木青が放つ、目の前の影を柔らげる光の歌
REVIEW
crap clap – ノスタルジー
COLUMN
今、どんな風が吹いている?|テーマで読み解く現代の歌詞
COLUMN
「あなたはブサイクだから」の呪い|魔法の言葉と呪いの言葉

LATEST POSTS

COLUMN
【2024年4月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「大阪のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」「今」の京都の音楽シーンを追…

REVIEW
aieum『sangatsu』―絶えず姿形を変え動き続ける、その音の正体は果たして

沖縄出身の4人組バンド、aieumが初となるEP『sangatsu』を2024年3月20日にリリース…

INTERVIEW
新たな名曲がベランダを繋ぎとめた。 新作『Spirit』に至る6年間の紆余曲折を辿る

京都で結成されたバンド、ベランダが3rdアルバム『Spirit』を2024年4月17日にリリースした…

COLUMN
【2024年4月】今、東京のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「東京のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」京都、大阪の音楽シーンを追っ…

COLUMN
【2024年4月】今、京都のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「現在の京都のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」「今」の京都の音楽シー…