パンクを手放し、自己をさらけ出すことで手にした 成長の証
神戸のバンド、ムノーノモーゼスの最新ミニアルバム『ハイパードライブ』。私はこの作品で「確実に一皮むけた」という印象を持った。
ムノーノは1stシングル『シーブリーズ』(2017年)をリリースした際には「シティポップ・ミーツ・青春パンク」というふれ込みで活動していた。ただこのころの楽曲はシティポップの持つ、洒落たコードやリゾート感のような文脈はなく、どちらかといえば青春パンクが持っていたポップ・パンクやオルタナティブを軸にしていた。ただ1stミニアルバム『CURRY』(2018年)以降は“ドキドキ(しちゃうね)”や“胸さわぎのシーサイド”などのように自身の音楽性に80年代のシティポップのエッセンスを徐々に強めていく。しかしながらギターの音色に関しては、当初の音楽性が持っていたポップパンクや90年代のオルタナティブロックのエッセンスを取り入れた音作りのままであり、結成からかかげていた「青春パンク」と呼ばれる部分を象徴していた。
だが『ハイパードライブ』ではそうではない。例えばMatt Biancoのようなラテン、ジャズ、ソウルのクロスオーバーを下敷きにし、軽快に走り抜ける“ランナー”。シンプルでさわやかなサウンドながら突然ヴォコーダーのような声に導かれ混沌としたセッションが繰り広げられる“ナイトシュプール”、さらにムーディーでジャジーな音が心地よい“ロマンスで逢いましょう”など、5人編成となり今までにはなかったキーボードが入ったことでアレンジが従来と大幅に変化。それまであった「青春パンク」のエッセンスを手放し、今まで発揮されていなかった側面を次々とみせていく。しかしながら同時に若槻雄佑(Vo)のメロウで力強さを感じる歌声により、今までとは違ったテイストでも「これはムノーノモーゼスの歌だ」と断言できる力強さを感じさせる。
とここまでは本作におけるサウンドの変化を語ったが、これに呼応したのか歌詞も大きく変化している。それまでのムノーノは駆け抜ける疾走感や甘酸っぱさのような青春の1ページをYou&Iの物語として描いてきた。だが本作は
もう見えなくなる
理想との距離に立つ葛藤
踏み出し続ける足がくじけそうさ
鈍る体が動かなくても
ここで退くことはできないべいべー
だからまだ “ランナー”
今ちょっとここにあらずの心
埋め尽くす懐かしい恋や
どこか恥ずかしい夢も抱えたまま
シャラララ
はじまりとか終わりなんて
もうどうでもいいことさ “シャララ”
など、メンバーの脱退や事務所からの離脱、さらにコロナ禍でバンド活動が縮小したことなど、さまざま転機が起きた自分たちのことを投影しているかのように歌う。だが同時に、どれだけネガティブなことがあっても、僕らは前へと進むという決断とリアリティーも歌詞からににじみ出ている。そういう今の自分自身をリスナーにさらけ出せるようになった、そして従来の「パンクっぽさ」を捨てて新しいスタイルに挑もうとしている。この2点において『ハイパードライブ』はムノーノモーゼスが一皮むけたと証明できる作品なのではないだろうか。
ハイパードライブ
アーティスト:ムノーノモーゼス
仕様:CD / デジタル
発売:2023年5月30日
価格:¥1,500(税込)
収録曲
1. ランナー
2. SweetDreams
3. ナイトシュプール
4. ロマンスで逢いましょう
5. シャララ
ムノーノモーゼス
2016年、神戸にて結成。 アップデートされたノスタルジー、エモーショナルで繊細なボーカル、コーラスワークと前衛的なアンサンブル。表情豊かな音楽でリスナーの心象に寄り添いながら、日常と非日常の間を目まぐるしく往来させるフィジカル剥き出しの生演奏。 ネット社会のアルゴリズムから遠く離れた場所に存在する未来のスタンダード。
Webサイト:http://munomoses.com/
Twitter:https://twitter.com/munomoses
CD & GOODS:https://munomoses.stores.jp
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関西インディーズの水先案内人。音楽ライターとして関西のインディーズバンドを中心にレビューやインタビュー、コラムを書いたりしてます。
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