INTERVIEW

ネガティブが生んだポジティブなマインド – ゆ~すほすてるが語る僕らの音楽

MUSIC 2020.05.03 Written By マーガレット 安井

朝井リョウの小説に『何者』というのがある。就活生たちがそれぞれの目標を達成し、何者になろうと奮闘する話だ。「カッコ悪くても今の自分の姿でもがくことでしか、何者にはなれない」そんなことを教えてくれる作品だが、とあるバンドのインタビュー中にこの『何者』のことを思い出した。京都のインディーズバンド、ゆ〜すほすてるだ。

 

ゆ~すほすてるは、egw(Vo/Gt)の宅録ユニットとして発足。2017年秋ごろにノザキショウタ(Dr)が加入し、近年はバンド形態となり活動をしている。楽曲は90年代オルタナティブロックが持っていたファズのきいたギターと、フリッパーズギターなどの渋谷系のメロディーメイカーたちを彷彿とさせるような、グッドミュージック。それに自身の怠惰やネガティブな部分をさらけ出すような歌詞を特徴とする。また音源は外部エンジニアを一切入れず、録音からマスタリングまで自主で完結させている。

 

このインタビューの中で2人は音楽をやっていなかったら何者でもなかったといい、まともな大人にはなれない感覚を持ちながら歌っていると語る。しかし2人がネガティブであるかと言えばそうではない。彼らの行動や音楽を発信していく姿勢はポジティブそのものだ。彼らは知っている。カッコ悪くても、今の自分を音楽でむき出しでもがくことこそ、理想の自分に近づける一歩であることを。このインタビューはゆ〜すほすてるというバンドのインタビューだが、自分をさらけ出しながら「ずっと音楽を作り続けたい」という理想に向かい突き進む男たちのドキュメントである。

このインタビューは3月12日に収録したものです。

「音楽をやっていなかったら何者でもない」という意識はすごくあります

──

まずegwさんが音楽を始めた経緯を教えてください。

egw

音楽を聴きだしたのは中学の頃です。インターネットが好きで、『おもしろフラッシュ倉庫』というサイトをずっと見ていて。その中でBUMP OF CHICKENの曲を使ったフラッシュ動画が大量に作られて、それで音楽に興味をもちました。

egw(Vo/Gt)
──

そこからギターをやり始めたのですか?

egw

そうですね。自分に取りえがなかったので、音楽が好きになったことだし「とりあえずギターでも始めてみよう」と思ったんです。そしたら演奏することが面白く、家でずっとギターを弾いてました。高校生になってからはまつきあゆむという宅録系のシンガーソングライターの存在を知ったことがきっかけで、宅録を始めました。「一人でこんなバンドみたいな音楽ができるのか」と衝撃を受けて。バイトしてMTRを買い、遊びで曲を作っていました。

──

ニソクノワラジのインタビューに載っていたのですが、高校を卒業されてから大学に進学して、バンドを組まれたんですよね。

egw

はい。ただメンバーとはあまり関係がうまくいかず、周りから全然評価されなくてバンドは解散し、ゆ~すほすてるとしてソロで活動を始めました。最初は楽しかったんですが、だんだん1人で歌うことに対して、モチベーションが下がっていったんです。

──

モチベーションが下がった。それは何故ですか?

egw

そもそも僕は京都のインディー・バンドのシーンでやりたい気持ちがあったのですが、シンガーソングライターのシーンで括られることが多かったんです。それで自分が思い描いていたプランとは違う方向性に向かっている気がしていて。

 

そんな時誘われてフライデイフライデーというバンドのサポートベーシストになったんです。フライデイフライデーはステージの内外でちゃんと評価されていた。バンドをやっていて初めて「音楽をやると、こんなに人に認めてもらえるんだ」と感じたんです。フライデイフライデーでの活動が、自分がもう一度バンドを始める転機になりました。

──

それでノザキさんと出会い、バンドを結成すると。

egw

そうです。本格的にバンドメンバーを集めようと思って、Twitterでメンバー募集をしました。そしたらそのツイートを見て、ノザキが連絡をくれたんです。

──

ノザキさんはゆ~すほすてるのことは知っていたんですか?

ノザキ

それが、知らなかったですんですよ(笑)。僕は名古屋でsukida dramasというバンドをやっていましたが、当時は活動休止をしていて、バンドをやる予定もなかった。だから「このままだとバンドができずに、自分の人生が終わる」という悩みを持っていたんです。愛知県でも必死に探しましたが、やりたいと思えるバンドがなくて……。そんな時に、egwのツイートを見て、音源を聴いたら良かったんです。それで「京都なら、バンドとしてやれるかも」と思い、連絡しました。

──

「京都なら」といっても、名古屋からは結構な距離がありますよね。

ノザキ

それだけ焦っていたのかもしれません。もう20代後半で、自分たちのバンドもいつから動けるかわからない。働きながら好きな音楽をやること自分が好きだったんですけど、バンドを止めたら何者でもなくなる感じがありました。実際、活動休止中に友達のバンドを見にライブへ行くと、音楽として楽しんでいる反面、「何でおれ、バンドをやっていないんだろ」という悔しさもあって。あの時は毎日仕事をしているだけで、何もやれていない自分がすごく嫌でした。

egw

僕も「音楽をやっていなかったら何者でもない」という意識はすごくあります。他に何も秀でているものはなかったし、「仕事をバリバリこなして、家庭をもつ」という生活には現実感が持てなかった。今は「ずっと好きなことができたらいいな」と思って、バンド活動をやっています。

自分の頭から出てきたのをそのままバンドでやっても意味はない

──

結成当初はどのような音楽を作ろうとしていましたか?

egw

宅録ユニットをスタートした時点だと、東京インディーにあこがれを感じていました。例えばミツメ、シャムキャッツ、スカートとか。特に影響を受けたのがスカートで。それまでのロキノン系の音楽とは一線を画している感じや、サブカルチャーにも自分から接近する姿勢には、感銘を受けました。あと海外のオルタナティブ・ロックだと Pavement や Dinosaur Jr.など は好きでした。

──

フライデイフライデーのサポートに入られた話を先程されていましたが、その時の学びが音楽の制作にいかされていることはありますか?

egw

一番勉強になったのはベースラインからでも曲が作れることですね。今までギターでしか曲を作ってこなかったから、ベース・パートを土台にしてリズムセクションを作り、メロディーを加えるというやり方でも、楽曲ができることは学びました。

──

宅録の楽曲を作る時と、バンドの楽曲を作る時とでは変化はありますか?

egw

ありますね。宅録とバンドの練習を完全に別物ととらえています。なんというか、バンドの方が肉体的というか、スポーツに近いと感じます。

──

曲はegwさんがデモを作るのですか?

egw

そうですね。ドラムパターンまで作ります。

──

ノザキさんは、egwさんが作られたドラムパターンを、それ通りに叩く感じですか?

ノザキ

いや、そこまでコピーをしているわけでありません。曲だけ覚えて、その場で思いつたドラム・パターンを試していく、という感じです。

──

そうなるとegwさんの頭の中で描いた感じと、違う物になると思います。

egw

バンドに関してはその方がいいと思っています。宅録だと、全部が自分の頭から出てきたものになるので、それをそのままバンドでやってもあんまり意味はない。だからバンドでは、自分がやってほしい部分だけを伝えて、後はみんなに任せています。それで違う曲になっても別にいいし、ライブをやるんだったら、そっちの方がいいと思います。

──

それは創作が自分の手から離れても構わないということですか?

egw

そうです。バンドは「楽曲が変わっていくことも面白さ」だと思うので。だから個人的に難しいのは楽曲を作るときよりも、バンドでの録音の後だったりします。録音が終わってから、そのままリリースするわけではなく「手間を加えたい」と思う自分もいて。例えば「勝手にコーラスを増やしてもいいのか?」とか。自分の解釈をさらに入れたほうがいいものが出来るのか。それともバンドから出てきた音楽をそのまんま出した方がいいのか。そこはすごく悩みます。

まともな大人にはなれない感覚がゆ~すほすてるの原動力

──

ゆ~すほすてるは1曲の時間が2~3分程度で、ポップソングとしては短いように感じます。

egw

それはパンク・バンドの影響があって。例えば岡山にロンリーというバンドがいて、ライブを観た時に30分で15曲くらいやっていたんです。それを見て「1曲の分数が短かったら、ライブで曲がたくさんやれる」と思って短い曲を作るようになりました。楽曲を作ると、曲の1番で伝えたいことが終わるから、最近は2番を書くことすら考えていません。

同じ歌詞を繰り返して使ってもいいのですが、そのためにアレンジを考えるなら、そのアイデアは別の曲に使った方がいいと思って。そんなことをしたらどんどん曲が短くなった、とうこともあります。

──

--:歌詞はどの様に作られていますか?

egw

自分が歌詞を作るのは、フレーズの断片をメモします。曲ができあがったら音楽にあう歌詞をメモのなかから探して、メロディーに合うように調整します。

──

歌詞とサウンドを完全に分けて作られている感じなのですね。でも曲を聴くとフレーズの断片をつなげ合わせた感覚はなく、一貫性があるように思います。

egw

僕は怠惰とか、喪失感とか、諦め、みたいなものをテーマにしてて。いや「テーマになってしまっている」といった方が正しいのかもしれません。基本的にそういうネガティブなことを、僕は言葉を変えながら、ずっと考えています。だから一貫性が生まれると思うんです。そもそも僕は自分の人生がこれから良くならず、どんどん悪くなると感じていて。

──

それは何でですか?

egw

何となくそんな予感がしてて。たぶん社会は良くなっていくとは思うんですよ。いろいろ、人の価値観は変わるし、生活も豊かになっていく。でもそこに自分はいないし、社会からはどんどん置いていかれると思うんです。なんだろう「まともな大人にはなれない感覚」といった方がいいのかな……。

──

自分が理想としている未来像になれてない、という感覚ですか?

egw

そうですね。子供の頃は「もうちょっとまともに暮らしている」と思っていたんですけどね……。ただ、その気持ちが今の原動力になっています。

ノザキ

取り残されている感覚は僕もすごく感じますね。バンドを辞められないというか、バンドを手放すのが怖いみたいな。

egw

すごくわかる……。

ノザキ

ただegwの歌を聴くと「こいつ、諦めているな」と感じますが、行動は全然諦めてないんです。悲しいのかもしれないけれど、最終的にその悲しさを音楽という形でアウトプットして、ポジティブな形で完結させている。それがegwの良さだと僕は思っていて。

 

それに僕ら真面目なんですよ、多分。だから“どっかいっちゃいたい”みたいな怠惰な歌詞でも、「毎日ぐうたらしたいのに、ちゃんと仕事に行ってできていない。困っている」ということを歌っているとのかなと。

egw

自分が思っていることは歌にしています。多分、僕の曲を聴いて共感してくれる人は友達になれる(笑)。

──

企画されているイベントについてもお話を伺いたいのですが、ゆ~すほすてるは『初心者のためのパーティー』という企画を定期的にされていますね。

egw

同じ京都のバンドのIKIMONOと去年の夏から始めたイベントで、ライブハウスでDJとライブが楽しめる企画をやっています。「初心者の」と名前がついているのは、今まで僕たちはDJをやったことがなかったし、場所を作るということが初めてだったので。それに僕の中でDJイベントとかはある程度、遊び方を知らないとできないというイメージがあって。ならば初心者である自分たちが気軽に参加できるDJイベントを開催してもいいと考えて、自分たちが呼びたいバンドとか、DJをリストアップして声を掛けて企画をやっています。

──

その話を聞くとすごく活動は前向きですね。

egw

歌と人格が乖離しているところはありますね(笑)。

ノザキ

切り取り方の問題でもあるのかな……。遊んでいるときは楽しいけど、夜とか一人でいる時は「俺はダメかもしれない」とか悩んだりする、みたいな感じだと思います。

──

今後、ゆ~すほすてるはどういうことをやっていきたいですか?

ノザキ

アルバムを作りたいですね。あと私個人としてはライブが好きだし、ツアーの対バンも僕が声を掛けているので、イベントをもっとやりたいですね。

egw

僕もアルバムを作りたいです。宅録で作った曲をバンドでやるようになり、今は曲がたまっている状態で。宅録の曲をバンド用に再解釈して、音源にした段階で、どこまで自分の好きに持っていけるのか、ということを考えています。

作品情報

 

 

アーティスト:ゆ~すほすてる
タイトル:DUSK
レーベル::Mabase Records
価格:1,000円(税別)
現在、mallにて発売中。

 

収録曲

 

1. どっかいっちゃいたい

2. いかないで~

3. まっていて(自宅録音)*

4. 九月(自宅録音)*

*CD版のみ収録

WRITER

Recent Posts

INTERVIEW
批評誌『痙攣』が伝える「ないものを探す」という批評の在り方
REVIEW
Nagakumo – PLAN e.p.
SPOT
HOOK UP RECORDS
COLUMN
『永遠のなつやすみ』からの卒業 - バレーボウイズ解散によせて
REVIEW
EGO-WRAPPIN’ – 満ち汐のロマンス
REVIEW
ローザ・ルクセンブルグ – ぷりぷり
REVIEW
(夜と)SAMPO – 夜と散歩
REVIEW
羅針盤 – らご
REVIEW
竹村延和 – こどもと魔法
COLUMN
Dig!Dug!Asia! Vol.4 イ・ラン
SPOT
ライブバー ファンダンゴ
SPOT
扇町para-dice
SPOT
寺田町Fireloop
REVIEW
MASS OF THE FERMENTING DREGS – You / うたを歌えば
REVIEW
FALL ASLEEP – Various Artists
REVIEW
ニーハオ!!!! – FOUR!!!!
REVIEW
大槻美奈 – BIRD
REVIEW
YMB-ラララ
REPORT
京音 -KYOTO- vol.13 ライブレポート
SPOT
鑪ら場
INTERVIEW
感情という名の歌。鈴木実貴子ズが歌う、あなたに向けられていない音楽
SPOT
□□□ん家(ダレカンチ)
INTERVIEW
こだわりと他者性を遊泳するバンド - ペペッターズ『KUCD』リリースインタビュー
REPORT
ネクスト・ステージに向かうための集大成 Easycome初のワンマンライブでみせた圧倒的なホーム感
INTERVIEW
更なる深みを目指してーザ・リラクシンズ『morning call from THE RELAXINʼ…
INTERVIEW
忖度されたハッピーエンドより変わらぬ絶望。葉山久瑠実が出す空白の結論
REPORT
マーガレット安井が見たボロフェスタ2019 3日目
REPORT
マーガレット安井が見たボロフェスタ2019 2日目
REVIEW
ベルマインツ – 透明の花ep
REPORT
集大成という名のスタートライン-ナードマグネット主催フェス『ULTRA SOULMATE 2019』…
INTERVIEW
僕のEasycomeから、僕らのEasycomeへ – 無理をせず、楽しみ作った最新アル…
INTERVIEW
永遠の夏休みの終わりと始まり – バレーボウイズが語る自身の成長と自主企画『ブルーハワイ…
INTERVIEW
時代の変革が生んだ「愛」と「憂い」の音楽、ナードマグネット須田亮太が語る『透明になったあなたへ』
INTERVIEW
your choiceコーナー仕掛け人に聴く、今だからこそ出来る面白いこと~タワーレコード梅田大阪マ…
REPORT
マーガレット安井が見た第2回うたのゆくえ
INTERVIEW
やるなら、より面白い方へ。おとぼけビ~バ~が語る、いままでの私たちと、そこから始まるシーズン2。
REVIEW
花柄ランタン『まっくらくらね、とってもきれいね。』
REVIEW
ペペッターズ『materia=material』
INTERVIEW
捻くれたポップネスと気の抜けたマッドネスが生み出した珠玉のポップソング。YMBが語る、僕らの音楽。
INTERVIEW
挫折と葛藤の中で生まれた、愛と開き直りの音楽 - Superfriends塩原×ナードマグネット須田…
REVIEW
Homecomings – WHALE LIVING
REPORT
【マーガレット安井の見たボロフェスタ2018 / Day1】ナードマグネット / King gnu …
INTERVIEW
私たちがバンドを続ける理由。シゼンカイノオキテが語る、15年間と今について。
REVIEW
Easycome – お天気でした
REVIEW
相米慎二 – 台風クラブ
COLUMN
脚本の妙から先へと向かう傑作 今こそ『カメラを止めるな!』を観なければならない理由
REVIEW
CAMERA TALK – FLIPPER’S GUITAR
REVIEW
Guppy – Charly Bliss
REVIEW
Down To Earth Soundtrack (SNOOP DOGG「Gin and juice…

LATEST POSTS

REVIEW
CIFIKA – HANA

動き続けて、自分の在りかを射止めた第1章 動き続…

REVIEW
Homecomings – Herge

Homecomingsが5月12日にメジャーデビューアルバム『Moving Days』をリリースする…

COLUMN
書評企画『365日の書架』4月のテーマ:はなればなれになって

出会いと別れ、それぞれが人生につきものですが「はなればなれ」になるからこそ持っていたものの価値に気が…

INTERVIEW
もどかしくもシンプルを求めトガっていく。シャンモニカが語る『トゲトゲぽっぷ』

シャンモニカのライブを初めて観たのは2019年6月。吉祥寺シルバーエレファントで行われた、ANTEN…

INTERVIEW
シンガーソングライターという自覚の芽生え – ぎがもえかインタビュー

1997年生まれのシンガーソングライター、ぎがもえか。東京を中心にライブ活動を行い、筆者も下北沢のm…