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ナノボロ2024 Day2(9/1)― オルタナティブな一日で感じた、「カッコいい」に忠実だからこそ生み出されるカオス

『ナノボロ2024』2日目はディープで、一筋縄ではいかないオルタナティブ・バンドが会場を沸かした。同時に本祭である『ボロフェスタ』と同様に、ジャンルの壁を叩き壊して会場を坩堝にすることで「観客に良い音楽を体験してもらおう」という思いを感じた。

MUSIC 2024.09.10 Written By マーガレット 安井

ボロの目玉であるオルタナティブが集結した2日目

「台風はどこに行ったのだろうか」と思うくらいに、曇り空ながらも雨風のない天候でスタートした『ナノボロ2024』2日目。1日目では「京都出身で、今が旬のインディーズバンド」がラインアップされたが、この日はメシアと人々、MOFO、天国注射、aldo van eyck、Nikoんなどアンダーグラウンドなシーンでも活動する、オルタナティブなバンドたちが次々と出演した。

『ナノボロ2024』の運営を行うスタッフのチームリーダーを務める村尾ひかりさんに話を聞いたところ、ジャンルを固定したわけではなく、それぞれの日に違和感のないバンドをそろえた結果このようになったと話をしてくれた。しかしながら、こういう面子を1日で体感できるフェスも『ナノボロ』と『ボロフェスタ』ぐらいのものだと感じる。思えば、2023年のインタビューで〈livehouse nano〉(以下nano)の店長であり、『ボロフェスタ』ではパーティーナビゲーターとして場を取り仕切る土龍さんがこのようなことを語っていた。

『ナノボロ2022』では地元のアンダーグラウンドなバンドにも出演してもらいました。それを観たときに「やっぱり『ボロフェスタ』は地下やロビーのライブがないといけない」と思った。それがないとブッキングのレンジが狭くなり、『ボロフェスタ』の両翼がもがれていると感じましたね。

自発性とカオスが育む祭 – 22年続く音楽フェス『ボロフェスタ』の独自性とは?

『ボロフェスタ』のキックオフイベントでもあるこのフェスのラインアップは、今すぐにでも地下やロビーのライブに出演しそうなバンドが集まる場所でもある。そういう意味ではまさに両翼を成す存在は『ナノボロ』に集結すると言ってもいい。現にどのバンドも予測のできない展開と一筋縄ではいかない個性がぶつかり合い、観客を沸かせていた。そしてフロアの熱量も1日目を凌駕し、スタッフが口々に「サウナだ……」と言っていたのをよく覚えている。そんなオルタナティブなバンドが集結した、2日目をレポートする。

降之鳥・メシアと人人が体現する衝動という名の音楽

2日目のトップバッターを飾ったのが、2021年結成の京都のバンド・降之鳥だ。今にして思えば『ナノボロ2024』2日目がどういう1日だったか象徴していたのがこのアクトであった気もする。“鳩”からスタートした途端、ハードロックやポストロックをミクスチャーさせた轟音が〈nano〉に投下される。その音にも驚かされたのだが、初期のエレファントカシマシ・宮本浩次を彷彿とさせる河野圭吾(Vo)の何をしでかすかわからない狂気と衝動をそのまま歌にするかのような歌唱には舌を巻く。特に“11月/November”では楽曲が進むにつれ推進力が増していき、おびただしい程の音の洪水がフロアへ流れ込む。圧倒的なライブに彼らの演奏後には大きな拍手が鳴りやまなかった。

圧倒的という意味ではメシアと人人も忘れられない。“待って”、“ククル”、といったナンバーを立て続けに披露。このバンドのライブを観るたびに「なぜこの音が出るのか」と驚嘆する。強烈なギターのうねりに、ドラムの力強いビート。自分たちの抑えきれない衝動をそのまま音楽にしたかのような演奏が観客を飲み込んでいく。その姿はまさに生粋のオルタナティブバンドの生き様を見せつけているかのようだ。そんな側面もありながら、北山敬将(Vo / Gt)が“like”で見せた優しさのにじみ出る歌は、このバンドが衝動だけがすべてではないことを物語っている。

予測不能!何をしでかすかわからないバンドたち(MOFO、天国注射、aldo van eyck)

「電気消しちゃいましょうか」 とリハーサルで言ったのは京都を拠点とするネオ・オルタナティブ・ハードコアバンドMOFOであった。暗闇の中でスタートした彼らのライブは緊張と緩和を音で表現したようなものだ。徐々に音圧とノイズがフロアへ充満していく。ぺーこん(Vo)のスクリーム、ムカイショウゴ(Dr)のビートもならされ、会場は徐々にその姿をダンスフロアへと変えていく。「自由にやってくれ。真っ暗なんで何やってもいいですよ。痴漢以外はね」と言い、繰り出したのは“Preverbal Poet”。ここからはまさに狂乱のダンスタイムへと突入。もはや温度、湿度ともに蒸し風呂のような中で最後は“ALL WEST”を披露。叫びとビートが充満した〈nano〉はまさにカオスという言葉がふさわしい空間であった。

MOFOに続いて登場したのは今年の『FUJI ROCK FESTIVAL2024』にも出演した大阪を拠点に活動するバンド天国注射だ。リハーサルの段階から池澤健(Vo)がフロアに降りてアジテートし、会場を盛り上げていく。ライブがスタートしてからもステージ上で動き回り、“徘徊”、“人生100年問題”などを披露し、観客の熱量をあげていく。その俊敏な動きと鋼のようなフィジカルから生み出される池澤の歌は攻撃性をはらみながらも、なんとも魅力的である。ただボーカル以上に魅力なのは彼らの持つグルーヴだ。

 

池澤の動きに注目が行くが、身動き一つせずにそのわきを固めるバンドの演奏技術は本当に高い。一切のズレがなく、テンポをキープしながら演奏する姿はトリプルファイヤーを想起させる。また池澤が何度も同じ言葉を繰り返しながら、リズムを作るスタイルはフレデリック的である。バンドと池澤の両方がグルーヴを生み出すからこそ、会場からはモッシュにも似たダンスの渦が巻き起こるのだ。終盤には「バラードやります」と言い披露されたのは“芋虫”。それまでとは一味違った、純粋な池澤の歌を聞きながら「このバンドはやはり、予測できない面白さがある」と実感した。

同じく「予測できない」と感じたのは福岡のaldo van eyckであった。“Black Box”から、ドープな空気感とじっとりとしたグルーヴが〈nano〉に渦巻く。ポストロック、ハードコア、ジャズ、プログレッシブなどさまざまなジャンルを咀嚼し、一度作ったグルーヴを崩壊させ、また別の音楽を作りあげるスクラップ&ビルドなサウンドはまさに予測不能。その感じはブライアン・イーノがプロデュースしたコンピレーションアルバム『No New York』でその名を広く知られるようになったジャンルのNo wave的でもある。ラストナンバーの“Nada”でも、瓦解と再生を繰り返しながら圧倒的な存在感をまざまざと見せつけていたのが印象的であった。

「やることでしか、前に進めない」Nikoんが見せたアーティスト魂

『ナノボロ』もいよいよ終盤戦。登場したのは東京を拠点に活動するバンド・Nikoん。その魅力はマナミオーガキ(Ba / Cho)の図太くボトムを利かせたベースと、オオスカ(Gt / Vo)の一瞬で観客を引き込むギターサウンド。1曲目の“ghost”から渦巻くグルーヴと、会場を切り裂くようなヘビーなギターサウンドがフロアに巻き起こる。

 

この調子で観客を飲み込むライブを続けるのでは、と感じた矢先にトラブルが発生。次に演奏した“step by step”ではギターのトラブルにより、思ったように音が出ず楽曲が中断。もう一度演奏するも、やはり思ったような音が出ずそのまま進行する。

 

“さまpake”、“smile”を演奏していき、ライブも終盤。ここでオオスカはPAを担当していた土龍さんに「時間おしているんですが、さっきの(“step by step”)チューニングが狂ったりして納得いっていないんで、もう一回演奏していいですか」と直訴。このお願いに「もちろん!」と応え、2回目となる“step by step”を演奏する。ところがここでもギタートラブルでまたもや楽曲が中断。しかし「もうやろう。やることでしか前に進めん」と言い再び“step by step”を演奏。渾身のライブに観客も歓声を上げて盛り上がっていた。その場の流れよりも、自らが納得していないままライブを終わらせたくない。Nikoんのアーティスト魂を体感するライブであった。

「カッコいい」に忠実だからこそごった煮となるボロらしさ

このようなオルタナティブな面々がライブをすることこそ、このフェスの魅力である。だが1日目のレポートで記したように、旬の京都のバンドを見せてくれるのも『ナノボロ』の役割。特に土龍さんが「オルタナティブが続いたけど、みんなロックンロールバンドも観たいでしょ!」と紹介し、トリに登場した171(いないち)はその勢い、熱量ともに今後の京都のシーンを代表するに違いない素晴らしいステージを見せてくれた。

 

加えて、オルタナティブが続いてきた2日目に171がライブするのは、すごく『ナノボロ』ないしは『ボロフェスタ』らしい。この2つのフェスが持つ「ボロらしさ」はごった煮感だと思っている。だからこそ1日目に「京都の旬なバンド」、2日目に「オルタナティブ」とテーマが違うようであっても『ナノボロ』らしいといえるのだ。そして、その「ごった煮感」の先にあるのは「カッコよさ」である。

 

2日間通して、いやこの数年『ナノボロ』『ボロフェスタ』に通ってわかるのは、出演者はすべて「カッコいい」。そしてその良さは普段観ないジャンルのアーティストでもわかるということだ。オルタナティブも、ロックンロールも、ポップも、関係ない。だからこそ必然的に坩堝のようなカオス感があるのに、ボロらしさは担保される。

 

「あのフェスなら、来年もすごいものを見せてくれる」そういう期待を私以外にも抱いた観客は多いだろう。果たして、来年の『ナノボロ』ではどういうメンツを仕掛けてくるのか。今はそれが楽しみで仕方がない。

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