轟音の波の中でも感じる確かな繋がり、眩しいひかり
滋賀県のバンド・揺らぎのツイッター上で、「2021年は新しいアルバム発表の予定がある」との投稿があった。あまりロクなことが無かった2020年が何とか終わり、新年を迎えたところで嬉しいニュースだ。ニューアルバム発売を待つ間、改めて2018年にリリースされた前作『Still Dreaming, Still Deafening』を聴きなおしてみたいと思う。
このアルバム全体を通して、全て繋がっている=循環というのはひとつのテーマなんじゃないかと感じる。各楽曲にフレーズ的なつながりや、まさしくダイレクトに繋がっている曲があり、ある意味ではGreen Day(グリーン・デイ)が『Amercan Idiot』(2004年)発売時に言っていたような「ロック・オペラ」的な、作品を通して全体が繋がっているようなイメージのシューゲイズサウンドバージョンだ。
ディレイがかかったベースの音から始まる1曲目“B/C”から2曲目“Horizon”にかけて、まさに文字通りHorizon、水平線に朝日が昇るような厳かな音像でアルバムが始まる。続く3曲目“Utopia”と“Bedside”は、音像としては前の2曲のアンビエント・ホワイトノイズ感とは打って変わって軽やかかつリズムのはっきりしたソリッドな演奏だ。本作の中でもひときわポップな印象が強いこの2曲だが、mirai akita(Vo)の、ソリッドなサウンドアプローチの時はどこか霞がかかった、しかしシューゲイズ寄りのサウンドアプローチの時はどこか芯の通った、良い意味でまさに「揺らぎ」のある歌唱表現が確実にこの曲を「揺らぎ」というバンドのものにしているように感じる。
5曲目“Unreachable”から最後の“Path of the Moonlit Night”まで、またアンビエンス感の強いサウンドに回帰していく。5曲目“Unreachable”に登場する「青が遠くなる」というフレーズがどこか前作『nightlife EP』(2016年)収録の楽曲“AO.”の事を想起させる。
『Still Dreaming, Still Deafening』という循環とはまた別の大きな、揺らぎというバンドの大きな流れの中でこれまでの全て繋がりを感じずにはいられない。そして6曲目“Path of the Moonlit Night”は10分を超える大作だが、MOGWAI(モグワイ)の“Mogwai fear satan”を思い起こさせる静寂からの轟音バーストがすこぶる魅力的なアルバムの締めにふさわしい1曲と言えるだろう。
本作発売当初、各種媒体のインタビュー記事でメンバーは「どこにも属したくない」「シューゲイザーをやってるとは思ってない」等の発言をしていたが、このアルバム自体は(揺らぎのメンバーが望んだかどうかはさておき)ギターのバースト感や声の処理、バンドのアンサンブルの構築などのシューゲイザー的にオイシイ要素の充実度や完成度が高く、なおかつ楽曲の構成はシューゲイザーというジャンルに親しみのない人にもフレンドリーで聴きやすい、非常に取っつきやすい好盤だと言えるのではないだろうか。
本作からシューゲイザーの沼にハマっていくリスナーもきっといることだろう。この記事を読んで揺らぎに出会い、この「ふとした出会い」によって新しい音楽ジャンルにハマるリスナーが一人でも増えてくれると私としては非常に嬉しい。轟音にまみれたときに、眼前に眩しい光が広がるような恍惚感、目の前の景色が音で描き変わる感覚を感じることができると思う。そして改めて、揺らぎの次回作が本当に楽しみである。シューゲイザーへの門戸の広さはこのままに、深みへといざなってくれるような底の知れない作品をいちリスナーとして期待している。
Still Dreaming, Still Deafening
アーティスト名:揺らぎ
フォーマット:CD
発売: 2018年08月08日
価格:¥2,037(税込)
レーベル:Flake Sounds
収録曲
1. B/C
2. Horizon
3. Utopia
4. Bedside(album ver.)
5. Unreachable
6. Path of the Moonlit Night
▼本作品は下記からも購入可能です▼
https://kyotoantenna.theshop.jp/items/34164185
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アンテナの遊撃ライターと特大マスコット(自称)を担当してます。寿司が好きですが甲殻類は食べられません。
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