COLUMN

ちゃんと怒る|魔法の言葉と呪いの言葉

言葉。それは、心の中で生まれるイメージを自分や他人に伝えるために生まれた“道具”だと言われている。人が使う道具は、誰がどのように使うかでその様相を変えてしまうもの。例えばヒガンバナのような薬用植物が薬にも毒にもなるように、だ。言葉も使い方次第で、魔法のように自分自身のチカラを引き出してくれることもあれば、呪いのように作用して身動きがとれなくなってしまうこともある。思い返せば、誰しもがそんなチカラのある言葉に翻弄された経験があるのではないだろうか。あなたにとって、「魔法の言葉」「呪いの言葉」ってなんですか?

OTHER 2021.05.20 Written By 松原 芽未

実は結構怒りっぽい。「仕事を手伝ったのに一言もお礼がなかった」とか「ほとんど飲んでないのに割り勘だった」とか、そんな些細なことで一人で怒ってしまう私は、短気なタイプだと思う。まあ、ひとしきり怒ったあとはすっかり忘れちゃうことも多いのだけど。

 

昔からそんな自分があまり好きではなかった。「確かにひどいけど、そんなに気にすることかな?」「相手も悪気はなかったんだし」と、もう一人の自分がいつも私に問いかける。でもそう言われてもなかなか怒りが収まらないのが現実だ。見た目や雰囲気もあってか周りからは穏やかな人と思われることが多いのに、実は短気だなんて悪いギャップで嫌だなあだと思っていた。でも、ある日オセロみたいにパチンとその認識がひっくり返った。

 

きっかけは職場の先輩に言われた一言だった。「松原さんって、ちゃんと怒るから健康的だよね」。「ちゃんと怒る」のが「健康的」?先輩曰く、怒りを嫉妬や誰かを貶めるための手段として使うのではなく、間違っていたり嫌だと感じたことに対して真っ直ぐ怒るのは、とても健全なことらしい。怒らないように自分自身をコントロールするのがベストで、それができるのが大人だと思っていたけど、そうではないらしい。

 

あとから知ったのだが、私が怒りにふたをするために心の中で唱えていた「確かにひどいけど、そんなに気にすることかな?」や「相手も悪気はなかったんだし」は、『10代から知っておきたい あなたを閉じこめる「ずるい言葉」』(森山至貴、WAVE出版)によると、怒りの原因を矮小化する言葉なんだそう。確かにそれを内面化した結果、必要以上に自分を責めたり、負の感情にふたをしてしまって、自分が本当に嫌なことがわからなくなってしまうこともあった。でも、先輩にこれまで短所だと思っていた部分を肯定してもらったら、「なんだ、このままでもいいんだ」と気持ちがすっと楽になった。

 

この一件があってから、「すぐ怒る私って嫌じゃない?」と親しい友人に聞いてみたことがある。すると「いや別に。素直だなって思うよ」と笑われた。呪いのように自分を縛る言葉で、知らないうちに自分を追いつめてしまうこともある。でも、他人から見ればそれは意外と大したことではなかったりするのだ。呪いを解いてくれるのは、魔法の呪文でも偉人の名言でもなくて、周りの誰かの何気ない一言なのかもしれない。

WRITER

RECENT POST

COLUMN
食とことばをめぐる冒険  誰もが無関係ではいられない3作品を読む
INTERVIEW
旅人と編集者。2つの視点を行き来しながら見つける自分の現在地 『LOCKET』編集長 内田洋介インタ…
COLUMN
俺の人生、三種の神器 -松原芽未 ③服を買う編-
SPOT
井尻珈琲焙煎所
COLUMN
俺の人生、三種の神器 -松原芽未 ②BRUTUS編-
COLUMN
俺の人生、三種の神器 -松原芽未 ①嶋田先生編-
REVIEW
ラッキーオールドサン – 旅するギター

LATEST POSTS

COLUMN
【カルト映画研究会:第9回】華氏451(Fahrenheit 451)

SF映画でしばしば使われるサブジャンルの「ディストピア」。理想郷を意味する「ユートピア」の対義語であ…

REVIEW
くるり – 天才の愛

〈愛って何?歌にして判るの?〉と“ラブソング”をメジャーデビューシングルのカップリングで歌っていたこ…

COLUMN
【2021年6月】今、京都のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「現在の京都のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」「今」の京都の音楽シー…

COLUMN
YMB 作品ガイド 2014~2020

3rdアルバム『トンネルの向こう』をリリースしたYMB。宅録、アコースティック・ユニット、バンドと紆…

REVIEW
YMB – トンネルの向こう

ここには〈人生はトントン拍子〉(“人生は”)といく達観した能天気さもなければ、“君が一番”や“若いふ…